2021/12/29

妄想トレイン 前編

  と言っても鉄っちゃん向けテレビバラエティ番組ではありません。独立車輪付きボギー車は急曲線の走行抵抗が小さくなるので庭園鉄道に適しているという結論を得て、それならどんな車両がいいかと考えたお話です。鹿部電鉄では翌春から本格的にエンドレス建設に力を注ぐことにしているので車両増備のためにマンパワーを割くわけにはいきません。その後と言うとまたまた年を重ねるので、元気で身体が思い通りに動く間にそんな車両を完成させることができるか甚だ疑問です。たぶん実際に製作することにはならないであろう車両なので、やりたい放題の仕様を盛り込み妄想を膨らませて楽しもうという魂胆です。屋外はすっかり冬景色になって雪かき以外の作業はお休み、スキーから帰ったら暖かい部屋でパソコン遊びに没頭します。

札幌市交通資料館に保存されているD1040
 大沼電鉄にボギー車は存在しなかったのでモデルの縛りはありませんが、やっぱり好きな車両にします。第一候補は「鹿部前史」(2020/10/8投稿)に書いた札幌市電のD10401964(昭和39)製、本邦唯一のディーゼル路面電車です。今日でも通用しそうな近代的スタイルは当時中学生だった私をその虜にしていましたが、北海道への撮影旅行の計画を裏切るかのように1971年に廃車されてしまいました。幸運にも札幌市交通資料館に保存されていて2010年に初対面を果たしました。遡って1979年の夏イギリスに長期出張した際にロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道に乗ったのですが、帰り道ロンドンの本屋で”Modern Tramway”という雑誌が棚いっぱいに並べられているのを見つけました。実はその雑誌に憧れのD1040の記事が図面と一緒に載っていることを知っていたので、片っ端から表紙の写真をチェックしてとうとうOctober/1966号を手に入れたのでした。その日は15インチゲージ鉄道の乗車体験よりD1040の図面が入手できたことで天にも舞い上がる気分を覚えました。今その図面で15インチゲージの車両の妄想をしているのは何かの因縁かもしれません。

Modern Tramwayに掲載されていた図面         

 全長13mのうち、窓2個分をカットし、中央の巨大両開きドアを片開きにして10mに短縮します。前面のパノラミックウィンドウをそのまま残せば、イメージを充分再現できます。台車の軸距は1600mmなので1/3より少しでも短く500mmにします。大きな空気バネに揺れ枕が目立ちますが、それらしくなんちゃって台車に仕上げるのは得意技です。車体は全体に丸みを帯びているのでカヌー製作技法が応用できます。車体断面の枠を台枠に固定し、外側に杉の薄板を貼り付け、最後にFRPで仕上げます。窓がはめ殺しなので窓枠を作る必要がなく、その点で手間が省けそうです。本来の扉もその幅では役立たずなのではめ殺してしまい、側板ごと開く「乗務員扉」を目立たぬように設けます。いや、両開きドアを復活した方がいいかな?

ショーティのイメージと車体の構造を妄想する

車内に乗り込めません
 一方でその魅力的な前面の造形をいかに再現するか、パノラミックウィンドウの成形、固定、方向幕と換気口の構造、屋根と裾の3D曲面成形など課題が山積みです。とはいえ、あれこれ考えることは楽しいし、いつ何時までに答えを出さないといけない仕事ではないし、失敗したからと言って誰かに責められるわけでもありません。ただ緊張感のない生活は認知症まっしぐらになりますから、頭と指(パソコン)はできるだけ使うように心がけます。そうやって1/3スケールの図面に私サイズのフィギュアを貼り付けてみると、、、、「アッチャーっ」。D1040は路面電車なのでやはり全体的に小ぶりなのでしょう、乗り込んで運転するには10~20%オーバースケールにしなければならないようです。
キハ40000 Wikipediaより

 もう一台の候補は国鉄キハ40000です。1934(昭和9年)製の11m級省型軽量ガソリン動車で、戦後キハ04~キハ06と呼ばれた兄貴分キハ41000機械式気動車の小型版です。このキハ41000も私の大好きな車両で、過去何度となく16(1/80)で模型化しています。キハ40000は貨車1両を牽引する余裕を持たせるために車体を小型化し、床下を有効に使う目的で台車の軸距も1800mmから1600mmに短縮されているので、急曲線庭園鉄道の車両選びというお題には最適のターゲットだと思います。しかも大沼電鉄と時代が合致するのでデ1と同じ線路に置いても違和感がありません。ただ残念なことにキハ40000は北海道には配属されなかったようです(キハ41000は実績あり)
             キハ40000         水島臨海鉄道キハ310
尾小屋鉄道キハ3運転台
鉄研OB富田さん提供
 機械式気動車は特殊な操作によって運転されることから、その運転方法や運転台の機器配置に深い興味を抱いていました。ガソリン機関もディーゼル機関も電動機のように停止状態からすぐに動くわけではありませんし、回転数範囲も限られているので減速機のギアを切替えなければならず、それゆえクラッチ操作が必要になります。作動原理は自動車と同じですが、機関出力に比べて車両重量が非常に大きいことや、黎明期の機器は熟練技を必要とするものが多くあったことから、乗用車の運転のように誰でもできるという簡単な話ではありません。車両の個体差(クセ)や運転技量によって振動や大きな音が発生することがあり
(いや大概はそうです)、いかに乗心地よく起動・加速するかスロットルとクラッチの操作に運転手は神経を使っていたのだと思います。スロットルはペダルを踏む車両があれば手でレバー操作する車両もあります。変速ギアレバーは運転席の右にあったり左にあったり、ブレーキ弁も機関車のように左手操作するものがあります。私が学生で全国の機械式気動車を乗り(撮り)歩いていた頃、車両ごとに操作方法を記録していたのですが、そのメモは今どこにあるのかわかりません。そんなわけで電車と同様に機械式気動車を自分の手で動かしてみたいと長年思っていました。

TR27の類似台車
元佐久鉄道キホハニ56
 その台車は帯鋼組立菱枠型という簡易軽量にして安定性(乗心地)、信頼性がともに高く、戦前戦後を通じて多くの気動車に使用されてきています。見た目からも明らかなように万力と金鋸とヤスリがあれば自作できそうな形状になっており、DIY本能が目を覚まして思わず身震いしてしまいそうです。実物の車体は半鋼製と言われ、側板と妻板は鋼板を溶接とリベットで組み立てたものです。それらしく作るには木製の骨組みにブリキかトタンを張り付けるなど、工法を検討する必要があります。こちらはスケール通りの車体の中になんとか乗り込めそうですが、多少オーバースケールにしたほうがいいかもしれません。
半鋼製車体の構造                 人体サイズ  
 
 後編は下ネタです。

2021/12/19

待避線(余談雑談) 鉄道用車輪の話 続編

車輪のテーパーとスラックの関係(再掲)

  前回説明した車輪とレールの間で発生した差動滑りと横滑りが走行抵抗に大きな影響を与える問題について、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。車輪踏面のテーパーに関しては鉄道雑学として書籍や博物館の展示などでよく解説されていますし、近年はブログや投稿動画でも取り上げられています。ただしその理屈が成り立つのは実物の鉄道でも半径が数百m以上の曲線の場合であって、路面電車が交差点を曲がる時や列車が駅に接近する時には急カーブを通過せざるを得ない場面があり、そんな時に「チュイーンチュイーン」というカン高い音を発して車輪が滑っていることを感じ取ることができます。最新鋭の電車では自己操舵台車が導入されて速度・乗心地の向上や騒音の低減などが実用化されているようですが、実は鉄道の曲線通過のメカニズムの詳細は完全には解明されておらず、音の発生源についても諸説あるようです。

 15インチゲージの庭園鉄道を模型と考えるか実物の鉄道の一種と見なすかは場面によって異なり、大きさ以外の基本的な機構や走行原理はどちらも同じですが、こと曲線に関して言えば、庭園鉄道ではそのほとんどが急カーブで占められているのに対して、多くの実物の鉄道では駅や車庫などの構内に例外的に存在しているのが実情です。その結果、車輪のテーパーの理屈と同様に必ずしも実物の鉄道での一般的な知見や常識が通用しないことが多々あります。実物の鉄道では旧国鉄の鉄道技研(後の鉄道総合技術研究所)が各種条件(速度、車両重量、曲線半径、勾配等)の下で走行抵抗や脱線限界などを実験調査して定量化(数式化)しており、その結果を庭園鉄道にそのまま適用はできないものの、傾向を窺ったり定性的な判断基準に応用したりすることは可能です。一方で偶然見つけたのですが、林業試験場(旧農林省管轄と思われる)が「森林鉄道貨車の走行抵抗」という研究成果報告論文 (昭和30年代)を発表しています。こちらは762mm(30インチ)ゲージで軸距や車輪径、軸受構造などが庭園鉄道により近く、おおいに参考になる内容が含まれています。この研究では運材車の構造や荷重、曲線半径、勾配の他、線路が乾燥しているか濡れているかなど各種の条件で走行抵抗が測定されています。現在のように便利な計測機器のない時代に苦労と工夫を凝らして解析がされており、大変興味深い内容になっています。
林業試験場発表論文
 その中でも庭園鉄道に取り入れられないかと気になるのが「単独軸型貨車」の記述です。一般的な車軸で両輪が繋がった「2軸型貨車」に対して、前後左右の4輪がそれぞれ個別の短い車軸で支持されたもので、差動滑りが発生しないという特徴を持っています。実験の結果は期待通りで、特に曲線半径が30m以下になると走行抵抗の増加を抑える効果が顕著になると記されています。ところが別の文献で、単独軸の場合は一方の線路に偏って走行するために車輪の片減り(偏摩耗)が発生する、と書いてあります。両輪が固定されて踏面がテーパーになっている一般的な車輪の場合は直線路で長周期の蛇行が起こり、車輪が均等に摩耗する効果があるからだそうです。直線路で偏摩耗が起こるという単独軸の欠点は庭園鉄道では全然問題になりません。なぜなら、少なくとも鹿部電鉄では全線が計画通りに完成した時点で直線と曲線の延長比率は46であり、そもそも長周期蛇行が発生するほどの長い直線区間はありませんし、日常の気まぐれ運転では車輪の摩耗なんて考えたこともありません。となると6割を占める曲線で走行抵抗が小さくなるメリットの方が、はるかに大きな期待が寄せられるべきではないかと思います。
通常の軸受け(左)と単独軸受(右)
林業試験場論文より
 運材車の単独軸では、図のように両端が台枠に固定された短い軸に車輪がローラーベアリングを介して取り付けられていて、4個の車輪はそれぞれが自由に回転します。念のために、軸は固定されていて首振りをするわけではないので、仮にレールがない状態で押すと直進します。また、両端固定の長い軸に自由回転できる2個の車輪を取り付けても同じ効果が得られますし、同様の構造でボギー台車を作ることも可能です。運材車や貨車のような付随車の場合はこれで差動滑り問題が解決できますが、動力車の駆動軸の場合はチョッと厄介です。まじめに考えると自動車のデファレンシャルギアが必要になってきます。

 大型鉄道模型メーカーのモデルニクスホームページでは、詳細はわかりませんが独立回転車輪が使用されていることが記されています。パワートラック(動力台車)の説明には「急曲線用に左右独立差動駆動になっています。カーブに入ると外側車輪は増速し、内側車輪は減速して、直線と同じ速度を保ちます。」とあります。

 世の中には違う目的で同じことを考えている人がいるもので、超低床路面電車では車内の床を低くするために車軸をなくした独立車輪が実用化されています。この電車では左右の車輪が別のモーターで駆動されて機械的に独立している一方、回転数やトルクの差を個別に制御しているそうです。

 差動滑りと並んで急曲線では横滑りが大きな走行抵抗の原因となります。前にも書いた通り固定軸距が長いほど、また曲線の半径が小さいほど、レールの向きと車輪の向きのなす角度(アタック角)が大きくなり横滑りが顕著になります。ボギー車の走行抵抗が四輪単車より小さいのは固定軸距が短くなるからで、さもなければ軸数が増えた分だけ抵抗も倍増してしまいます。図に軸距とアタック角の関係、アタック角と横滑りの関係を示しています。横滑りは、車輪が本来転がろうとする方向とレールの形状に沿って進む実際の動きが異なるために、フランジがレールに押されて発生するものです。後輪側では内側のレールに沿ってフランジを押す力が働きます。

アタック角と横滑りの関係

 ということで、その多くが急曲線で占められる庭園鉄道では、単独軸車輪(独立車輪)を使用して差動滑りを回避することができ、また軸距を短くして横滑りを低減すれば、走行抵抗を小さくすることが期待できます。ボギー台車では必然的に固定軸距が短くなるため、独立回転車輪と組み合わせると大きな効果を得ることができます。ただし、駆動軸の差動滑りを解決する具体的方法が検討課題として残ります。

車輪とレールの動きを
目の当たりに観察する
 鹿部電鉄を計画していた段階では、こんなことは想像もしていませんでした。実際にトロッコ遊びをしていて、S字カーブを通過する時に車輪のフランジが交互にレールに接触すると抵抗が大きくなり、速度が落ちるのを見てなるほどと感心したものです。制御器に電流計を取り付けると、カーブでモーターに負荷がかかっていることが目に見えました。半径4mの曲線では徐々に速度が低下しながらも粘り強く耐えている様子がわかります。これらは自身で鉄道を作ってこその貴重な体験だったと思いますし、机上の知識を物理現象として体感的に理解し、問題を解決したり新たな展開を導いて行く力になると信じています。

 余談の余談になりますが、2021/1/27投稿の「ラジアルトラックという2軸台車」では曲線部で車両にかかる遠心力を利用して前後輪が舵を切る機構について書きました。これもアタック角を小さくすることで急曲線の走行抵抗を低減しようとするものでした。またドイツを始めヨーロッパの路面電車では多くの3軸車が1930年頃から建造され2000年頃まで現役で稼働していました。原理的にはボギー台車に近い構造で、写真を添えておきます。どちらも見るからに複雑で修理やメンテナンスに手こずりそうです。日本に輸入されたラジアルトラックは結局ほとんどが固定軸に改造されてしまいましたが、わざわざまとまった数量を輸出したということは製造元のイギリスではそれなりの信頼性が確立されていたはずです。3軸車に至っては500両以上が製造されたとのことですが、日本には存在しません。コピー生産が得意の日本でもチョッと真似できなかったのでしょうか?

ミュンヘン市電の3軸台車   と       舵取り作動原理図 
Wikipediaより

2021/12/15

踏切(併用軌道)の落し穴

  前々回の投稿で分岐の先にエンドレスの一部となる線路を延長したことを書きました。ここは道路から母屋の玄関に至る通路を横切るので、その後レールの間に敷石を置いて踏切(併用軌道)にしました。その構造は20201225日投稿の「ご近所パワー」に図示してあります。今回は曲線であるためレールとコンクリートタイルの間のスペーサーとなる木材が直方体ではなく加工に時間を要しました。

新設踏切

 ようやく完成したこの区間に電車を乗り入れたところ、フルノッチにもかかわらず急激に速度が低下してモーターが唸り、ノッチを戻すと同時に「ガクン」と停止してしまいました。逆転レバーを回してノッチを入れると少し動いてまた止まってしまいます。敷石を入れる前は急カーブで喘ぎながらもがんばって走っていたので明らかに何らかの異常が発生しているようでした。結局手押しで脱出しましたが、何かが引っかかっているのだろうと思うほど抵抗があり、直線部分まで戻るとウソのように軽くなりました。


スペーサー上に残った2条の黒いスジ
曲線の外側が前輪、内側が後輪の跡
 その日の原因究明は日没終了。翌日スペーサーの上面に2条の黒い筋が付いているのを見つけました。クリ材やアカシア材は鉄に触れた後雨や朝露で濡れると黒く変色するのですが、これは明らかに前後輪それぞれのフランジがスペーサーに接触した痕跡です。同じ変色は直線部に敷石を置いた時にも起こっていましたが、走行抵抗が大きくなるようなことはありませんでした。路面電車が溝付きレール上をフランジ外周で走行することがありますが、それも異常なことではありません。実はこのような急曲線では差動滑りや横滑りが発生しているのですが、木製のスペーサーと鉄製車輪の間の摩擦係数は鉄同士のそれより極端に大きく、車輪が前に進むとこれらの摩擦力が発生し、異常な走行抵抗となって現れていたと想像されます。

 差動滑りと横滑りについては2021/5/22投稿「鉄道用車輪の話」に書いていますが、あらためて説明すると以下の通りです。鉄道用車輪のように一本の軸で固定されている左右の車輪が曲線を通過しようとすると外側の車輪は内側より長い距離を走行しなければならないため、踏面にテーパーを設けて外輪がレールと接する部分の直径が内輪より大きくなるように工夫されています。ところがその前提を越えるような急曲線を通過しようとすると内外輪のいずれか(あるいは両方)とレールの間に回転滑りが生じ、また直進しようとする車輪をレールに沿って曲がらせるために横滑りが発生することになります。

 今回の、木製スペーサーとフランジ外周が接触して走行抵抗が想定外に大きくなった事象は、スペーサーを削って厚さを減じることで解決しました。

 それにしても急曲線は庭園鉄道の宿命です。とはいえ実物の鉄道で国内最急は豊橋鉄道市内線の半径11mですから1/3にすると約3.7mで、半径4m5mは現実にはあり得ないと言うほどの急カーブでもなさそうですし、森林鉄道ではもっと急なカーブもあったようです。通過可能な曲率は固定軸距や軸重、軸バネの有無など台枠や台車の構造の他、レールの表面状態(水平、凹凸や潤滑)などによっても影響を受けるので一概に決められるものではありませんが、限界を超えるとフランジがレールに乗り上げて脱線してしまいます。単に走行抵抗が大きくなると言うだけの問題ではありません。

色づく秋の風景

2021/12/08

レールの保管について

  レールの運搬にはトラックチャターが必要になるためまとめて購入しないと単価が割高になることを書きました(202010月投稿「レールの調達」)2014年春に20(55m)購入してその年に10本を敷設し、残りは庭の片隅に並べて保管していました。雨ざらしですが、そもそも線路は屋外に設置されるもので錆びたからと言って使えなくなるはずはありません。と、思っていました。

 ところが5年以上保管していたレールを使って分岐器を作ることになり、あらためてレールの表面を観察してみると、ずっと使用してきたレールとは異なって凹凸が目だっていることがわかりました。これもワイヤーブラシで擦り取れば平らになると思っていました。酸化で体積が増えた錆が表面に付着しているのならその通りですが、錆が盛り上がっているのではなく、腐食で斑点状に肉がえぐれていたのでした。また安易にグラインダーで削り取ることを思いつきましたが、腐食していない表面は製造時の熱変化で硬化していて砥石が滑るので簡単には削れないことがわかりました。たった5年放置していたレールですが、山中で何十年も眠っていた森林鉄道の廃レールにも似た状態でした。ただ踏面が下に向いた状態で保管されていたレールの腐食は幾分軽症でした。

 5年間雨ざらし保管したレールの発錆状況  右の写真は踏面を下に保管していたもの 

線路として使用していたレール表面
 敷設済みのレールの側面や底面こそ同様に錆びて凹凸表面が目だつ部分もありますが、毎日とは言わずも数日おきに車輪が転がって行くレール上面は腐食が進行しないのでしょうか。時々曲線部に塗布する潤滑油が広がってきて防錆効果があったのかもしれません。

 無駄とは思いながらワイヤーグラインダーで出来る限り錆落としをして分岐器に使用しました。まぁそれが原因で脱線や走行不良、騒音の異常な増大が起こるわけではないので今後気を付けることでケリとしました。対策としては、購入したらできるだけ早くクリアラッカーを吹いておく、最低でも頭部、できれば側面、底面も処理しておくことが望ましいと思われます。保管場所は雨のかからないガレージなどがよいのでしょうが、長さと重量があるので縁の下などは出し入れの方法を工夫する必要があります。初めてレールが届いた日、鉄紺色で断面に角が立ったその姿に見惚れて頬ずりしたことを思い出し、あらためてこの世の無常を悟りました。

ワイヤーグラインダーで錆落とした敷設直後のレール(左)と運行で表面が幾分平らになった後の状態(右)

2021/11/29

分岐器を作る 第6編

 (10)線路延長工事(曲線路の敷設)

 無蓋車と電車の試運転結果が想像以上に良かったので、エンドレス側に線路を延長することにしました。フログから1mほどしかなかったので車両の留置さえもできず、このままでは分岐器を新設した意味がありません。線路がY字型になると入れ替えができるようになり、電車ごっこも俄然面白くなりそうです。5.5mの未使用レールが3本残っていて、既設線路から外した1本と合わせると10mくらいの敷設が可能です。分岐の先は半径5mの曲線で約90°曲がって直線が延びる予定です。レールベンダーでは分岐器の一部のレールを曲げましたが、定尺の全長に亘って一定の曲率に加工するのは初めての経験です。

 敷設に先だって線路用地の測量をします。分岐の先端から直角に線を引き、5m先に10mm角の杭を打ち込んで曲線路の中心にします。この杭にヒモを掛け、4.5m5.5mの位置に小さな輪っかを作り、そこに差し込んだ棒をコンパスにして尖った先で地面に1m幅の線路用地を描きます。この作業は順調に進みましたが、用地の先には白樺の大樹が立ちはだかっているではありませんか。全体計画図ではこの白樺をうまくかわしてガレージの後に到達するはずです。何度も計画図と実際の測量結果を見比べてみると、どうやら分岐器先端の直線部が1mほど長すぎたことがわかりました。計画図ではほぼフログあたりから曲線が始まることになっていました。計画段階では基本的に曲線半径を5mとしていましたが、この問題を回避するには特例として半径を4mにするしかありません。あらためて中心の杭を打ちなおして半径3.5m4.5mの用地境界線を描き直しました。

計画と実際の線路の食い違い

 幅1mというのは道床(砂利)のことで、地面を掘り込みます。傾斜地を進むにつれて路盤は地面から出てきて曲線の最後の方の道床は見慣れた台形断面になり、その先さらに地面は低くなって盛土の路盤に続きます。ここまで来て砂利のストックが底を尽きそうになったので路盤と道床の造成は一旦打ち切り、線路の敷設に取りかかることにしました。前述の通り定尺レールの曲げ作業が待っています。

定尺レール曲げ作業時のテーブル配置
 レールを地面に置いてレールベンダーで曲げ作業を行うことが、高齢者にとって大変な苦行であることが想像いただけるでしょうか?レールの斜め切り、車庫建設、土木造成作業など老体に鞭打ってかなりの無理をしてきましたが、作業意欲の醸成という観点からレールベンダーの設計と並行してDIY環境整備をしていました。適正な高さにレールベンダーを置く頑丈なメインテーブルと余分なレールを支えるサブテーブル2台を予め作ったのでした。サブテーブルは曲げる位置によって、両側に置いたり片側に2台並べたりと機動的に移動できるようにします。当初レールベンダーはメインテーブルに固定していましたが重量があるので動き回る心配はなく、ある位置の曲げが終わって次の位置にレールを送る際に固定されていない方が使いやすいことが作業中に判明して固定用ネジは抜き取りました。

 連続して一定の半径の曲線になるようにレールを曲げるにはどうすればよいか?送り量を変えて試してみました。つまり、一ヶ所の曲げ作業が終わった後レールベンダーのスパンである500mm送って次の曲げ作業をする場合と、半分の250mm送って曲げる場合で仕上がりにどのような差が出るかを比較しました。結果、500mm送った場合レールの形状は図のようにいびつな曲がりになるのに対して、250mmでは見た目滑らかな曲線になることがわかりました。これは理論的にも説明ができ、ラムで押される中央部は曲げモーメントが最大になって曲率が最大(半径が最小)になり、フックの部分はモーメントが0になるので全く曲がらない(直線のまま)ために起こる現象です。スパンの半分だけ送った場合も場所によって多少曲率の変化はあるのですが、それは厳密な測定をしないかぎりわからないということです。

レール曲げにおける送り量と仕上がりの関係

 レールベンダーのラムでどれだけ変位を与えれば最終的に半径4m(または5m)になるか、これは事前の理論式での近似計算によって、7mmの変位で半径が約5.5mになる予測をしていました。250mm送りの実測の結果では、9mmの変位を与えると半径が約4mとなりました。とはいえ大雑把な話で、曲線の内側と外側の15インチ(0.4m)の差を意図的に作り出すことは難しく、曲げ終わった2本のレールを見比べて曲率の大きい(半径の小さい)方を内側にしてゲージを計りながら修正する方法を採りました。

久しぶりの線路延長でした

 テーブルの導入によって、修正を含めて50ヶ所以上に及ぶ曲げと送りを繰り返す作業は想像以上に順調に進めることができました。こうやって曲げたレールを道床の上に並べた枕木の上に置き、犬釘で固定して砂利を入れる手順はこれまでと同じです。完成した線路に電車を乗り入れると世界が広がったような感覚がし、あらためて庭園鉄道を自宅に持つ喜びがこみ上げて来ました。ここまでに撮りためた写真や動画を編集し、「分岐器製作大作戦」としてYouTubeにアップロードしました。最後の方にテーブルを使ってレールを曲げる作業の様子が映っています。


 以上をもって「分岐器を作る」を完結します。

2021/11/22

分岐器を作る 第5編

 (8)試運転

 レールが繋がれば一刻も早く運転したいものです。ただ、水平確認しただけでいきなり電車を走らせて万が一脱線でもすると大変です。まずは無蓋車を手押しでゆっくり通過させます。最大の不安はフログでの脱輪です。分岐角度が小さいので動線に沿ってウィングレールとフログの間に大きなギャップがあり、乗り移る際に車輪が落ち込んでしまわないか、落ち込まないまでも衝撃や乗り心地への影響が大きくならないか心配していたのですが、結果的にはそれは杞憂でした。車輪の踏面の幅が想像以上に広いのでスムーズにウィングレールからフログへ乗り移っている、つまり一時的には両方のレールに乗っている状況を経て通過していることがわかりました。もう一つの懸念は異線進入です。この時点ではまだガードレールを取り付けていないので、フランジがフログの先端にぶつかったりそのままあらぬ方向に進んでしまったりしないかを確認しました。こちらも結果は上々で、直線側、曲線側とも普通に無蓋車を押して走らせる限り異線進入は起こりませんでした。ただこの部分を通過中に車体を横方向に押すと脱線が起こりえることを確認しました。結論としてガードレールは必要です。ただ常時ガードレールでフランジの内側を案内するのではなく、異常な外圧が加わっても車輪がフログ部で異線進入を起こさない程度の位置に設置することが望ましいと判断しました。


(9)ガードレール

 路面電車では溝付きレールでフランジを案内することによって決まった軌跡から逸脱せずに運転されていることを書きました(2021/5/22投稿「鉄道用車輪の話」)。鹿部電鉄では溝付きレールは使用せず、基本的にガードレールは異常時の脱線防止策として機能するようにします。高速鉄道と同じ考えです(エヘン!)

 そこでガードレールは、①通常の運転時には車輪と接触せず、②外部から力が加わって押されても異線進入しないようにフランジ内側を案内し、③外力が加わった状態でガードレール部に進入しても衝撃が生じない、このような形状と位置に設置することにします。具体的にどのような形状にするのがよいか、木製(枕木)のガードレールを設置して検討することにしました。ちょうど良さそうに反りが出て曲がった枕木があったので曲線側に置いて上記の①から③の条件を満足する最適な寸法を測定し、最終的にレールを曲げてガードレールを製作、設置します。ただしレールベンダーではスパンの関係でどんな形状にでも曲げられるわけではないので、実際に試行錯誤しながら設計していきます。

 通常ガードレールの両端は線路の内側へ曲げてあります。ウィングレールの先端も同じ形状になっていて、その目的は脱線復帰機能を持たせるためです。実際に後部車両が脱線したまま走行していた貨物列車が分岐通過した際に復線して何事もなかったかのように運転を続けていた事実があるようです。旅客や車掌の乗った列車ではこんなことはあり得ませんし、鹿部電鉄でも脱線復帰は期待しないものの、見た目はリアルに再現したい気持ちはあります。前述の通りウィングレールの曲げが思い通りに行かなかったのでどうしたものか悩みながら、その先端は頭部を斜めカットすることでお茶を濁しているのが現状です。実はこれと同じ形状のガードレールをJRの分岐器観察中に見つけたのですが、昭和の始めにこのようなものがあったかどうかはわかりません。

JRの先端カットガードレールと鹿部電鉄同ウィングレール  

 ところが昔の絵葉書と思われる大沼電鉄鹿部駅の写真を拡大してみると、ウィングレールもガードレールも先端はカットではなく曲げてあるようです。

鹿部駅(時期不詳)

2021/11/15

分岐器を作る 第4編

 仮組みで問題のないことを確認したらいよいよ分岐器の敷設工事に取りかかりますが、その前に分岐器製作で工夫したことについてお話ししておきます。

 (6)レール穴あけ治具

 分岐器を製作する場合、レールを短く切ったり、組立後に左右の長さを調整したりという必要が出てきます。切ったら繋がなくてはならないので継ぎ目板(ペーシ)を取り付けるための穴あけをしなければなりません。レール端部の穴径と位置はJIS規格E1103で決められています。元がインチ系の寸法なので小数点付きの細かい数字になっていますが、バカ穴でいいので神経質になる必要はありません。とは言うものの手持ちの電動ドリルで大径の穴あけをしようとするとレールは表面硬化していることもあって刃先が走って狙い通りの位置に加工できません。そこで正確な穴あけ加工ができるように簡単な治具を作りました。t4.5×32の帯鋼から図のようなガイド板を作ります。このガイドは下穴をあけるためのものでφ5です。ガイドとレール端部を面一にしてクランプで固定してから小型の電動ドリルで下穴を加工します。その穴をガイドにしてφ12.7(φ12~φ13で可)のドリルで正規の径に広げ、丸ヤスリでバリ取りをすれば加工完了です。ステップドリルとかタケノコドリルと呼ばれるものを使うとバリ取りする必要もなく小型の電動ドリルで最後まで加
工できます。

レール端部の継目板用穴 JIS規格と穴あけ治具
治具をクランプし     φ5の下穴をあけ    φ12.7に拡大する
↖ステップドリルを使うと便利

(7) 分岐器敷設工事

 さて、分岐器を計画していた場所つまりS字カーブの東側の線路の位置に敷設します。一旦5.5m分の線路を取り外し、道床(砂利)を撤去して路盤(地面)を現状よりさらに掘り込みます。これは既設部分の枕木の厚さが50mmであったのに対して分岐器部分は70mmとなるためです。さらに線路を取り外してわかったことですが、枕木下の砂利厚さが薄いためか水はけが悪く一部の枕木が腐っていたことからその対策として砂利層を厚くしようと考えたことにもよります。

 線路撤去は、犬釘抜去、レール移動、枕木掘り出し、砂利除去、路盤掘り込みの順に行います。犬釘は最初に打ち込んでから7年が経っていました。ついこの間のように思っていましたが、そんな年月が流れていたのかと思いながら一抹の不安を抱えていました。202011月投稿「最初の犬釘」で書いたように「何年か経って釘が錆びた時も同じような力加減で抜くことができるかは確かめる術がない。」というものです。結論から言うと、幾分は抜き難かったけれど犬釘が錆びついてビクとも動かないということはありませんでした。硬いクリ材の中で木と鉄が密着していたため酸欠状態で錆の発生が抑えられていたのでしょう。一方で継ぎ目のボルト(モール)は雨ざらしのもと錆が進行して固着し、取り外しに苦労しました。前述のように枕木の一部は腐敗していました。敷設時に防腐剤の塗布をしていてもいつまでその効力が持続するかは疑問です。砂利の厚さを増すことに加えてなんらかの対策が今後線路延長時の検討課題となりました。

下半分が腐った枕木


 既設線路から除去した砂利には、規格外の大石小石や異質な石(火山岩)、木の枝、根、実(クリのイガ)、キノコや昆虫の残骸など色々な物が混入しているので、ふるい分けたうえで洗浄して再利用します。7年のうちに散乱して量も減っているし、道床が厚くなる分も補充しなければなりません。

路盤の掘り込み
 既設線路の撤去に続いてエンドレスに繋がる線路の路盤の掘り込みを行います。久しぶりに連通管式水準器が復活して、分岐部のすべての箇所で水平が出ていることを確認しながら掘ったり埋め戻したりします。もともと地面が傾斜しているのでエンドレス側に進むにつれて掘り込みが浅くなっていきます。錯覚しがちなので目視だけでの作業は禁物です。次に砂利を入れ枕木を並べた上にレールを置くのですが、ここで大問題発生。曲線側(既設側)の基本レールが前後の既設線路の間に入りません。叩いても捩っても収まりません。5.5mでわずか0.5mm程、全長の1万分の1ですが新線の曲率が甘かったのでしょう。無理に入れて継目のスキマがなくなったり、夏の熱膨張で線路が曲がったりという副反応も心配です。思い切って3mmほど切り落とすことにしました。レールを切るのは慣れているので30分もあれば仕事は終わる、と思っていました。実はこれが落とし穴でそれだけではなく、継ぎ目板(ペーシ)とレール端の位置がずれるために穴を広げなければならず、電動工具がないのでヤスリを使う手仕事になってしまいました。

 仮組みの際に描き入れたマークを頼りに互いの位置を確定していき、必要に応じてスクリューで仮固定しておきます。ゲージを確認しながら基本レールの端から順番に犬釘を打っていき、フログ、リードレールを固定、トングレールとその関連部品を結合します。犬釘を打ち込むと砂利の中に枕木が沈み込み、別の場所でレールが浮き上がることになるので、その都度レール上面の水平を確かめます。沈んでいる場合はL型バールで枕木をもち上げながら別の棒で砂利をザクザクと押し込む、いわゆるマルチプルタイタンパーの作業を人力でやる感じです(一人でやるのでシングルタイタンパーです)。この段階で枕木の間に砂利が入っていると浮いた枕木を沈めるのがいささか厄介になるので、全部の結合が終わってから砂利を充填します。7年前に初めて犬釘を打った時と比べると老齢化で腰椎が硬くなり、立ち屈みが大儀、根気が続かないだけでなく、トイレも近くなって頻繁に作業中断するなど能率の大幅低下が否めない状況になっています。

佳境に入った分岐器敷設工事

2021/11/06

分岐器を作る 第3編

  レールの斜め切りが終わってホッとしました。ここまで来たらもう少しと思っていましたが、どっこいすることは次々と出てきます。

(4)その他のレールと枕木

曲率を比較しながら曲げます
 分岐器が完成したら既設の線路と置き換える計画です。だから分岐の曲線側の基本レールもリードレール、トングレール同様既設線路の上において同じ曲率になるように比較しながらレールベンダーで曲げます。既設レールを外して使うと理想的ではありますが、工事が終わるまで運転ができなくなる期間が長くなって買い物やカヌーの運搬など色々と問題があります。一方左右で長さの違うレールを思い通りに同じ曲率に曲げるのは難しく、詳しくは後述しますが、完成した分岐器が前後の既設線路の間にピッタリと納まらなくなるという事態を招いてしまいました。

仮置きの状況
 枕木はクリ材の□70×2000角材から、予め設計図に書き込んでいた寸法に切り出し、防腐剤を2度塗りして乾燥します。トングレールがスライドする部分の枕木は約4mm凹ませてから6個の研磨した平鋼板を皿ネジで取り付けておきます。またウィングレールの当て板が取り付けられる部分も凹ませておきます。これらを図面にもとづいて広い場所に並べ、レールを置いて左右の曲率やゲージを確かめます。同じように作ったはずでも並べてみると微妙な差があり、またまたレールベンダーで更に曲げたり戻したりして修正します。次にトングレールが動作する部分の基本レール内側は底部を切り欠いて密着するようにしておきます。レールの継目に食い違いがないか隙間が適切かなども点検し、必要に応じて置き直したり削ったりします。問題がなくなったら枕木にレールと犬釘の位置をマジックで描き、レール側にも枕木の位置を描き入れます。一旦レールをどけて枕木に描かれたマークに犬釘の下穴をあけておきます。こうすることで敷設予定地にあらためて枕木とレールを高い再現性で置き直すことができるわけです。

(5)転轍機構

 16番模型の場合、両トングレールは付け根部と先端部で真鍮板がはんだ付けされて四角の枠形となり、それぞれの真鍮板の中央にピン(ビスまたはハトメ)を取り付け、片方は回転中心、他方は左右に動かすことで分岐器の切り替えができるようになっています。一方実物の分岐器では、左右のトングレールはいわゆるリンク結合になっていて平行四辺形が歪むように動きます。鹿部電鉄ではこれもこだわって実物に倣うことにしました。分岐器メーカーのウェブサイトを見ると、近年の高速鉄道では可動部のレールの倒れやゲージの狂い、衝撃などを防止する目的で色々と複雑な仕組みが導入されていて、両トングレールも剛結合されているようです。しかし昭和の地方私鉄や森林鉄道、軽便鉄道の分岐器を観察してきた限りにおいて、それらはこの鹿部電鉄方式と大差ない機構になっています。
鹿部電鉄のトングレール結合         木曽森林鉄道の分岐器 

トングレールの継ぎ目
 リードレールとトングレールは継ぎ目板で柔結合します。一般の継ぎ目板は長穴になっていてレールの伸縮や誤差を吸収できるようになっています。一方この継ぎ目板は長手方向には自由度を持たせず、トングレールが首を振れるように少しばかり開き気味にしてあります。リードレールのボルト・ナットは強く締め上げ、トングレールの付け根はしっかり保持されながら継ぎ目板の他端側はレールとクリアランスが保てるようにボルトが取り付けられていますがダブルナットで緩みを防ぐ対処がしてあります。

 トングレールの先端は上述の通り左右がピンで結合されてリンクを形成しています。両者を結合している棒(バー)の正式な名称を調べたのですが的確な答えを見つけることができませんでした。ここでは転轍バーと呼ぶことにします。そしてこれと繋がって外部の転轍機(テコ)の動きを伝える部材を転轍棒と呼びます。転轍バーはすべて山形鋼や平鋼から金鋸で切り出してヤスリで仕上げた部品で構成されています。点数はありますが、レールを切ったり削ったりした後だったので大した苦労とは思いませんでした。ピンの役目を果たすボルトはやはりダブルナットで緩まないように締め付けてクリアランスを保ってあります。部品同士の結合に使用するネジは六角頭のボルトにしてあります。なぜならキャップスクリューと呼ばれる六角穴付きボルトやプラスネジが普及したのは戦後のことで、大沼電鉄が建設された昭和初期には六角頭とマイナス溝のネジしかなかったからです。転轍バーの裏側中央にはリンクボールを取り付け、転轍棒と連結できるようにします。見えないところでは時代を無視した便利なものを使います。今回はまだダルマ転轍器(テコ)が設計中で間に合わないので当面はレールを直接手で動かします。

2021/11/01

分岐器を作る 第2編

  トングレールはクリアラッカーのおかげでガレージでの冬眠から覚めてもその輝きを失うことはありませんでした。続いて色々な工程が待っています。

 (2)フログ

 近年の実物の鉄道ではフログとウィングレールは一体鋳造で成形した部材が使われていますが、例によってレールを削って製作します。レールの斜めカットはトングレールに比べて角度が少し大きいのでその分楽ですが、金鋸の弦が邪魔して一気に切り落とせない状況は変わりません。分岐角度(14°)で切ったレールを少しずらして継ぐ方法と半分の角度で切って重ね合わせる方法があり、後者にしてチョッと工夫をしました。

ずらし継ぎ         合わせ継ぎ         挟み継ぎ  
                                      (独断の呼び方です)

組立済フログ(仕上げ前)
 その理由は単純に斜めカットすると先端部は腹の部分がなくなってしまうからです。トングレールと同様に予め曲げておいて頭部だけを削る方法もありますが、斜めカットしても平板を両側から挟むとなくなった腹を簡単に復元することができることを思いつきました。よく見える所ではないし、腹がなくなっていても別にレールが荷重に耐えかねて変形するおそれもありません。これも偏執モデラ―のこだわりの一つです。レールの高さ(50.8mm)と同じ幅にt4.5の平鋼を切出し、2本のフログレールに挟んでクランプで固定しておいて腹の残っている部分に2ヶ所のφ4通し穴をあけ、片方のレールにはM5のねじ加工をしたうえで残りのレールと平鋼の穴をφ6に広げます。これらの間に接着剤を塗布してボルトで締め上げ、接着剤が硬化してからヤスリで余分の角を落とすとフログが完成します。

(3)リードレールとウィングレール

 リード部とウィング部は別々に切出してから溶接でつなぐのが真っ当な方法ですが、切り込みを入れて曲げ、腹部か底部に当て板をねじ止めすれば溶接する必要がなくなると考え、切り離さずに一体で作り始めました。リードレールの曲線側は既設レールの曲率に合わせて予め曲げておきました。リードレール/ウィングレールの折れ曲がり箇所でレール底部の片側(内側)に約5mmを残して分岐角度と同じ14°のV字型の切欠きを入れ、ウィング側を万力に挟んで「エイッ」と力を入れるとすんなり曲がりました。しかし、想定とは違って切欠きの形状が適切でなかったのかレール同士が密着せず、見事に失敗。得意満面のVサインとはならず、念入りな仕上げも徒労に終わりました。

     当初の目論見はこんな感じ            実際には断面が密着せず

レールの底にあけたネジ穴
 結局両者を切り離してから当て板で接合することにしました。t4.5×70mm×100mmの平鋼板に16ヶ所の皿モミ穴をあけた当て板を、裏返しで正確に置いた4本のリード・ウィングレールに重ねて穴位置を写し、レールの底部に下穴をあけてからM5のねじを切ります。この作業は16個のネジ穴位置がすべて正確に加工されなければネジが入らなかったり、入ってもレール同士の関係が設計通りにならなかったりします。案の定一部の皿モミ穴をヤスリで広げる羽目になりました。少し厄介でした。

 ウィング部の先端のフランジガイドも同様のやり方でレールを折り曲げるのが本来ですが、手抜きをして頭部のみを45°にカットしてそれに代えてあります。後述のガードレールも手抜きします。

タイバー
 4本のレールが繋がったとはいえリードレールの長さは1.4m、端部に力が加わるとモーメントになって付け根のM5ネジに大きな負担がかかり、極端な場合は剪断されてしまう可能性もあります。そこで両リードレールをタイバーで結合して剛性を高めてあります。実は、この加工は前述の当て板を取り付ける前に済ませてあり、当て板のネジ穴の位置決めの精度を上げるための一助にもしてありました。タイバーはφ10の鋼棒の両端にM10の雄ネジ加工をしたもので、リードレールの腹にあけたφ12の穴の両側からナットで締め付けてあり、曲線側はタイバーとレールが直交しないのでテーパーワッシャを介してあります。

 結果的に当て板とタイバーの組み合わせでリードレールとウィングレールは強固に一体化することが可能になり、溶接をしないで分岐器を製作するという秘策はチョッと形を変えて実現することができました。もちろんそれは同時に不安でもあったわけで、大きな達成感を味わうことになりました。

2021/10/22

分岐器を作る 第1編

分岐器各部の名称
  まず、分岐器各部の名称を記した説明図を参照ください。米・英で呼び名が違ったり当然日本語になった際に変わって複数の名称が生まれたりするので絶対的なものではありません。主にWikipediaを参考にしています。

 各部ごとに製作の方針と作業経過を記していきます。並行して作業を進めたり、中断して他の作業にかかったりしたので、記述は必ずしも作業順とは一致しません。





先端部断面形状

(1)トングレール
 分岐器製作の最初に着手するのがトングレールです。鋭く尖った形を想像するだけで、これを作るのかと腰が引けます。付け根(リードレール側)はレールそのものですが、先端部の断面はL字型なので実物の場合はトングレール専用の部材があるようです。おそらく工場で鍛造か鋳造で作られるのだろうと思います。鹿部電鉄では独自のポリシーに従い、模型製作の経験を生かしてレールから削り出します。

 先端部は外側(基本レールに接する側)をまず平面に削り、内側の頭部だけを削って腹部と底部を残すことでL字型断面にします。細かいことを言うと、外側はその後基本レールの頭部に接する部分を凹ませるように削り取ります。実物の鉄道のトングレール先端は刃物のように薄く鋭く尖っています。高速で通過する時に少しでも衝撃が発生しないように研ぎ澄ましてあるのでしょう。当然熱処理をして曲がったり欠けたりしないような調質がなされているはずです。速度や重量が桁違いに小さい庭園鉄道では熱処理はおろか、先端部の一番薄い部分でも3mmの厚さを残すことで強度を保つようにします。この程度の(横方向)段差では脱線しないようにフランジ形状が工夫されているので心配は無用です(2021/5/22投稿の「鉄道用車輪の話」参照)

トングレールの加工
 直進側の加工の概略を、わかりやすくするために長さ方向を縮めて図に示しています。図からもわかるように、この通りの加工方法では頭部の内側の面が直線になりません。これを直線にするために小さな模型ではペンチでレールを曲げて修正すると前回書きましたが、6kgレールでは予め曲げておいてから真っすぐに削ることになります。ここでレールベンダーが登場というわけです。外側の面は基本レールに沿うように仕上げます。この加工は余肉を見て引いたケガキ線に沿って金鋸で切り取り、次いで電動グラインダーで余肉、段差、バリ、を削り取り、ヤスリで仕上げ、最後にサンダーで表面を整えるという段取りになります。書けば簡単ですが、鋭角の切り込みでは金鋸の弦が邪魔をして最後まで切り落とせません。反対側からも切り込んだり、グラインダーで強引に切り取ったりの力技で切り抜けざるを得ませんでした。今回この面の仕上げ角度をかなりな鋭角にしてしまったので、トングレールと基本レールが面接触しないという骨折り損をやらかしてしまいました。この動画はトングレール加工時のものではありませんが、レールを斜めに切るのがいかに根気のいる仕事か理解いただけると思います。

 片方のトングレール一本の加工に10時間近く(延べ日数では数日)を費やしてしまいました。もちろんこの中には素材の切り出しやサビ落とし、レールベンダーの調整なども含んでいるものの、もう一本の加工着手に少し戸惑ってしまいました。「分岐器を自分で作るなら2ヶ月はかかる。」と言われていたので、こんなことで気後れしていては先が続かないと自分に発破をかけて曲線側の二本目もがんばりました。おかげで能率も上がって幾分短い時間で加工は終わりましたが、金鋸やヤスリがけ作業の連続は肩からわき腹、腰に負担があるようで、しばらく張り薬のお世話になりました。それにしても削り終えたトングレールは、刀匠が研いだ日本刀のような鈍い輝きを放ち、魂が宿ったような妖しい空気を漂わせています。せっかくなのでクリアのラッカーを塗布して防錆処理をしました。

苦労の末削り上がったトングレール

 二本のレールの加工にケリがついたのはそろそろ裏の駒ケ岳が白くなる頃、里でも冬支度をしなければならなくなりました。やり始めて2ヶ月は経ったので本当ならすでに完成しているはずですが、そんなわけで分岐器作りは2年がかりの大仕事になります。

2021/10/11

レールベンダーの製作

 レールベンダーは基本的には両側のフックの部分とその中央を押すラムからなっています。機能的には市販の油圧式パイプベンダーと同じなのでレールに合うように改造する方法もあるようですが、パワーや改造の程度に不安がありました。厚鋼板を6kgレールの形状に合わせて加工してフックにすることにし、このフックとラムをどう組み合わせるかを色々検討しました。

 上図の①は原形のネジ式ラムを油圧ジャッキに変えたもので、当初近所の鉄工所に放置されていたものが入手出来たらこういう形にしようと考えていました。これは鍛造品で、専用の加工機がないと真似て作ることはできません。②はその代替案、フック部を厚鋼板として木製の底部を挟む構造ですが、100mm角材が折れることはないもののネジ部で割れが発生する可能性があります。そこで鋼板を曲げて材木を抱える案が③です。強度的には②より優れていますが、ここまでするなら鋼板をコの字型に曲げる方が部品点数も減ってコストは下がるはず、と考え、最終的には一体型にしました。同じ理由で3枚の鋼板を溶接組立にする案は除外しました。レールの剛性に負けてベンダーが変形・破損するようなことがないように要所の強度計算をし、必要な肉厚確保と補強を追加することで頑丈な構造にします。当然ながらレールを曲げるのにどれくらいの力が必要で、ジャッキの圧力を抜いたらどの程度のスプリングバックがあって、最終目標の曲率半径を得るのにどこまで変形させる必要があるのかなどを計算しました。その詳細な計算方法は材料力学と塑性学の教科書に出てくる公式や解説に書いてありますが、ここで紹介したところで面白くもなんともないので省略します。

 両フックのスパンを500mmとしてレールが永久変形を始める時のジャッキの荷重は590kgという計算結果だったので、ホームセンターで4tの油圧ジャッキを購入しました。ジャッキの寸法に合わせて図面を描き、いつもお世話になっている函館の柴田工作所を訪ね、加工が可能か確認しました。当初板厚は12mmとして強度計算していましたが、16mmでも曲げ加工ができるとのことだったので少しでも頑丈にと思い変更しました。加工が終わったフックにジャッキと補強材を取り付け、試しに端材のレールをセットして加圧してみると見事くの字に曲がりました。もちろん曲がったのはレールの方で、ベンダーの変形は全くありませんでした。ジャッキハンドルの可動範囲が少し狭いので改良の余地がありますが、かくの如く頑丈な割に近所の鉄工所で見失ったΨ型の鉄の塊より遥かに軽量で、一人で持ち運ぶことができます。結果的にはこの方が良かったような気がします。

完成したレールベンダー