2022/04/22

だるま転轍機 前編

  2022年春の屋外作業は、前年に完成した分岐器の転轍機を製作することから始めました。「分岐器の転轍機」って何のこと?と思いますよね。線路が分かれる部分を「分岐器」と呼び、それを切り替える機械を「転轍機」と言うことになっているようです。しかも「器」と「機」を使い分けるのが一般的です(区別していない記述も見受けられます)。分岐器の構造が時代とともに変化していたり、文献やウェブサイトによって各部の名称やその定義(範囲)もまちまちであったり、さらに私自身がその方面の専門家ではないので何が正しいのか判断できず、とりあえず上記のように分類することにしました。

だるま転轍機
Wikipediaより
 転轍機には機能や形状によっていくつもの種類があります。駅の一隅で大きなテコを押し引きするとワイヤーと滑車で遠くの分岐器と同時に腕木式信号機が切り替わる、セピア色の懐かしい光景が瞼に浮かびます。近年は電気や空圧で遠隔操作されるものが主流です。大沼電鉄では、終端駅の機回し線の脇にだるま転轍機が鎮座している写真が残っているので、駅員が線路に降りて手動で切り替えていたのでしょう。だるま転轍機は、錘の付いたテコでL型ベルクランクの一端を上げ下げすることによってトングレールに繋がった転轍棒を水平方向に動かす仕組みになっています。この場合転轍機はトングレールの真横に設置しなければなりません。鹿部電鉄では無蓋車を推進運転することが多く、電車は分岐部の数メートル(貨車1両分)手前で停車するので、一旦車外に出て転轍機を操作する必要に迫られます。そこで電車の扉を開けて車内から操作できるようにしたいと思い、停車位置の近くに設置し、長尺のロッドとリンクを介して転轍棒と連結することにしました。転轍機の機構とリンク結合については後編で説明することにし、前編ではだるま転轍機本体の製作について記します。

 狩勝エコトロッコ鉄道さんがダルマ転轍機を鋼板からレーザー切断して溶接組立製作した、と聞いたので図面を見せてもらいました。機材や技術力で後れを取る鹿部電鉄では木材を成形して鋳物のような質感に仕上げることにしました。スケールは線路や車両に合わせて1/3です。本体部分はt12のクリ材をジグソーで切り出し、t24のスペーサーを挟んでやはりt24のベースに取り付けます。レバー類はt6の帯鋼から金鋸とヤスリで削り出して重量感を持たせることにしました。レールの斜め削りに比べると大して根気のいる作業ではありません。

だるま転轍機の基本寸法 実物とは形状・動作が異なります

簡易軸受
 本体は、材料の表面に図面から写し取ったケガキ線を描き、線に沿ってジグソーで切り出すのですが、同じ形状のはずの2枚を重ね合わせても外周が全然一致していません。雑な性格がこんなところに現れてしまいます。木ねじを使ってスペーサーをサンドイッチし、木工ヤスリと#80のサンダーで無理やり一体に仕上げます。レバーの軸が通る穴は側面に対して直角になるようにスコヤで確認しながら木工ドリルで加工します。使用頻度が低いとはいえ、木の穴の中で直接ボルトの軸を回転させるのは気になったので、金属製ブッシュを入れようかと思ったのですが、ホームセンターでいいものを見つけました。2個一組で140円、目的外使用ながら使用頻度が低いので充分な効果と耐久性が期待できます。その後得意のコッテリパテを塗り付け、一昼夜乾燥させてからサンドペーパーで表面を整え、黒ラッカースプレーを3回吹いて本体完成です。

  組立前の部品       と    組立て後パテ塗りの状態

 レバーは当初t3の帯鋼を2枚重ねにネジ止めしてしてから加工しようと思っていました。たまたま新規開店したホームセンターの鋼材売り場でt6×32を見つけたので、それを利用することで多少の省力化ができました。所定の位置にM10のタップを立て、そこに寸切りボルトをロックナットで固定して軸にしました。

ドリルレース
 レバーには円盤状で鋼製の錘が付いています。複雑な形状ではありませんが、外注旋盤加工すれば1万円近くの出費になりそうです。後編で転轍機の機構について説明しますが、チョッと工夫がしてあって錘がなくてもレバーが外力で動かないようになっています。ということでこの錘は木製のダミーです。16番模型部品の製作にドリルレースという手法があって、卓上旋盤がなくてもドリルのチャックに真鍮棒をくわえてヤスリで成形すると、ブレーキシリンダーや汽笛など円筒状のものを作ることができます。ドリルレースを応用してこの木製円盤状の錘を作ってみました。φ100と少し大型ですが、ヤスリの代わりにグラインダーを使うことでドリル側の切削負荷を減らし、少しずつ加工したところ見事にそれらしい形状になりました。この錘は白黒に塗り分けられていて、分岐器が定位側に開いている時に上側が白になる、という規則があるそうです。鹿部電鉄ではエンドレス側が定位、終端駅側を反位としています。

塗装完了した鹿部電鉄バージョンだるま転轍機

2022/04/06

妄想その後

  今年の冬、札幌は大雪で連日列車運休のニュースが全国的に流されたこともあって知人から「大丈夫か?」と心配の電話が頻繁にかかって来ました。太平洋に面した鹿部は例年になく穏やかで雪かきに忙殺されるようなことはありませんでした。とは言え感染症が怖くてスキーには行かず、買い物のための外出も最小限に抑え、専ら家でパソコンを操りながら春の到来を待っていました。

 妄想トレインはD1040よりキハ40000に傾き、窓割りの詳細をメーカー(日本車両)図面から読み取って1/3の縮尺に落とし込む作業を楽しみました。寸法を割り出すだけではなく、材料や補強構造を考えながら、当時の超軽量設計の車体イメージを損なうことなく安全性や耐久性を確保する方法や、どうやって車内に乗り込んで運転するか(乗降トリックを考えるのは楽しい!) など、色々と思いを巡らせました。同様にTR27型帯鋼組立菱枠台車の1/3スケール設計も進めました。溶接や複雑な機械加工を必要としない構造で作れそうであることも確認できました。庭の雪がなくなったら新線の路盤工事に着手しなければならないのでいつまでも妄想に耽るわけにはいきません。とりあえずここまでのまとめをすべく、車体と台車の図面を仕上げてブログ報告させていただきます。

キハ40000鹿部電鉄バージョン
窓他の詳細寸法
 まず車体というか全体図です。急曲線の鹿部電鉄に導入するにあたって全長をスケールから窓
2個分短縮して約3.4mにします(参考までにデ1の全長は約2.5m)。実物で言うと11.6→10.3mとなり、窓配置は1D8D1です。キハ40000は兄貴分のキハ41000(全長約16.5m)から3.9m短縮されたにもかかわらず動力装置を流用したこともあって、床下面積が不足するために台車の軸距を短くするとともに車端に寄せてあり、独特の雰囲気を醸しています。2021年12月29日投稿の「妄想トレイン前編」を参照ください。オーバーハングがほとんどなくなり、運転手は足の置き場がありませんので正座するか脚を伸ばして運転せざるをえません。またせっかく車体を縮めたのに台車心皿間距離が長くなって急曲線の通過に支障が出る恐れがあります。鹿部電鉄では床下面積の制約がないので逆に台車を思いっきり中央に配置して曲線通過を優先することにします。図の左側運転台の下にある四角形は運転手の足置き場(クラッチペダル、変速レバー設置場所)です。車長が短いのにオーバーハングが大きいのは昔の地方私鉄にあったゲテモノっぽい感じがあり、それはそれでいいかなと思います(個人の感想です)。車体側板や窓枠は、デ1では10mm厚のクリ材を使用しましたが、キハ40000では5mm厚の杉または松材を使おうかと考えています。古い写真ではウィンドウシル・ヘッダーや窓の凹みが見るからに小さく、全体にのっぺりしています。16番模型で普通の車両は0.5mmのボール紙で作るところ、この種の車体は0.3mmのケント紙を使用していましたし、真鍮車体でもエッチングの凹みを0.2~0.3mmくらいにしていたように思います。図面検討では窓の凹み具合まで正確にわからないので、鉄道博物館か各地の保存車で実測することも視野に入れて最終仕様を決めたいと思っています。まだ妄想の段階ですから。

TR27鹿部電鉄バージョン

 自分で撮影した菱枠台車の写真や蔵書に掲載されていた図面はそのほとんどが今手元にないので参考になりそうなものをネットで探してみました。帯鋼の厚さや幅について大体の見当はつきましたが、これも最終的には保存車で確認が必要です。実際の構造と1/3スケールで再現するための手法(材料・組立)もほぼ確立できそうです。一つだけ迷ったのが揺れ枕で、せっかくこのサイズで作るならと意気込んだのですがこの台車の揺れ枕は外からほとんど見えず、想定される苦労の割には見た目の効用に疑問が生じたのでやめました。