2022/03/25

待避線(余談雑談) 敷居の線路を走ります

  スイスがらみ三題噺の最後です。長男が2歳になった頃、電車のおもちゃを作ったので枕元に黙って置いておきました。目覚めて布団の周りで戯れているうちにそれを見つけると目を輝かせて大喜び、それからしばらくそのおもちゃで遊ぶ日が続きました。しっかりDNAが受け継がれていると喜んだものです。頑丈であることを第1に□35mmの角材の角を落とし、敷居の溝にはまって動かせるように20mm幅の板を足回りにしてあります。1/80スケールにしたのは16番の寸法を真似られるからでした。サーフェーサーで目止めをしてからベルナーオーバーラント鉄道とウェンゲルンアルプ鉄道の色に塗装してあります。子供のおもちゃなので赤とか青にすればいいのに、親の拘りに付き合わされた哀れな息子です。

敷居電車第1号

 その息子のところに生まれた初孫は男の子でした。じいじの家に遊びに来た時に備えて置いておいた色褪せた電車を見せてやると、やっぱりとても喜んで遊んでくれました。家が京浜急行沿線なので、次の年に来る時は新車をプレゼントしてやろうと考えたのが2100型です。ベルナーオーバーラント鉄道に比べるとずいぶん進化してるでしょ。

京急2100型
 実はこの30年余りの間に甥っ子(正確には甥っ子っ子)が生まれ、その子が鉄道好きだと聞くたびに敷居を走る電車を何度も作ってきたからなのです。プラレールを買ってやると喜ぶだろとういう発想は大人の勝手な思い込みで、小さな子供にしてみれば自分で手に持って動かす方が断然楽しいのです。フックで簡単に連結・解放できるようにしてあるのは、幼い頃から鉄ごころを育む企みの一環です。
 中央線E233系       と        阪急新1000型
西武2000型

 こちらは家具工房「わ」の長沢さんのお孫さんにお礼かたがた贈った電車です。

 電車を贈る時はいくらかの線路も添えます。夢が広がるでしょ。


2022/03/12

待避線(余談雑談) 新しい鉄旅の試み

  スイスの小私鉄の車庫で見た3軸車のことを思い出したことから、その写真をウェブで探していたところやっと見つけることができました。1978年に撮影されたという下の写真の左に写っていて、辛うじて車体中央下部に舵取り用の第3軸が確認できます。私が生まれて初めて3軸電車を見たのはこの写真が撮られた数年後のことで右側の一般車と同じクリームと赤の塗色でしたが、すでに事業用に格下げされていたようです。他のメディアも探してはみましたが残念ながら現存しているとの記述を見つけることはできませんでした。
                                         Wikipediaより
 その鉄道はレマン湖畔から山の手の方に路線を延ばすブベイ電気鉄道(CEV)です。ブベイは人口約2万人の地方都市で、南向きの斜面にブドウ畑が広がり、チャップリンが晩年を過ごしたとか世界的企業ネスレの本社があることでもその名を知られています。スイス国鉄(SBB)の駅裏に車庫があったので、そこが今どうなっているのか気になってGoogleマップのストリートビューを開いてみました。向こうに見える白紺赤のダブルデッカー列車がSBBで、手前の線路上で左の方に見えるのがCEVの電車です。線路はここで直角に曲がって山の方に向かいます。
 40年前ここに来た時は周りに誰もいない寂しい所だったのをいいことに、線路に沿って車庫の方に歩いて行きました。ストリートビューでは新しい住宅やらビルの建設工事現場が見えますが、その割にやっぱり人通りは全くありません。かつては左手にあるヤードのようなところに件の3軸電車がポツリと停まっていて、その手前をSBBの標準軌が横切って右手にあった工場へ線路が分岐していたと記憶しています。足元に見える埋まった線路はその名残で、奥の方に日本では見たことがないような腰高で骸骨みたいな凸型電機(貨車移動機)があって驚いたものでした。
 40年という歳月を経た景色を見て懐かしく思うと同時に、遠く離れた異国の様子がありありと窺えるインターネットの威力を改めて認識しました。今は数年前に撮影された断続的な画像を見ることしかできませんが、いずれリアルタイムで裏の裏まで観察できるようになるのもそれほど先のことではないだろうと期待しています。あの時は車庫を訪ねただけでしたが、せっかくストリートビューが利用できるのだからと線路沿いの道路を辿り、あわよくば電車の走行に巡り合うことができないかなと楽しみにしながら終点の山の上まで行くことにしました。ブベイ駅から数百m程進んだ辺りから上り勾配にさしかかって道路から離れ、少しづつ高さを稼ぎ、その先のループトンネルやジグザグルートで丘の上に出て徐々に市街地を離れて行きます。
 なだらかな丘陵地帯を上り続けますが、まだ粘着区間ですから勾配はせいぜい数十‰でしょう。所々道路と交差する辺りに駅があって踏切からその様子が窺えます。駅の近くには住宅が点在し、ヒュッテ風のホテルや集合住宅から生垣に囲まれた大邸宅まで、そこに暮らす人々の優雅でのどかな牧歌的生活が偲ばれます。芦屋か宝塚あたり閑静な住宅地にありそうな光景にも思えます。
 ブベイから約6㎞でかつての分岐駅ブロネイに到達し、ここで粘着区間が終わります。写真の奥から右手に延びる線路を5㎞ほど急登すると終点レプレイアード駅に至ります。一方このまま手前方向に直進するとモントルーオーバーベルヌア鉄道(MOB)のシャンビー駅へ向かう延長3㎞の廃止路線に繋がっています。廃止されたとは言え、ブロネイシャンビー博物館鉄道に所属するスイス内外の歴史的車両の運転に使用される、とWikipediaに書いてあります。
 レプレイアードに向かう線路に沿った道路からはストルプ式ラックレールが線路中央に敷設されているのがわかりますが、この辺りはそれほど急こう配ではありません。左手に広がる平野を見おろしながらグングン登って行くんだろうな、と想像がかき立てられます。
 なかなか走行中の電車に遭遇しないなぁと思っていたら、オンダラリア駅で踏切を通過中の電車発見、かなりの急傾斜ですね。電柱や小屋(駅舎)の柱がほぼ鉛直に写ってるので掛値なしです。この車両は1970年の製造で、京都市電700型の4枚折戸を連想させるモダンで新鮮な「昭和の香り」が漂って来ます。 ペアを組む1976年製造の制御車はパノラミックウィンドウで、これまたイチオシの古き良きスイス型電車です。
                            Wikipediaより

 さらに登り詰めると、ブベイから1000m近く標高を稼いだ1348mの終点レプレイアード駅です。周辺はだだっ広い草原で、リフト支柱があることから駅直結のスキー場のようです。夏は眼下に広がる景色を楽しみながら散策する人が見受けられます。折から停車中の電車は、近年よく見る丸っこいデザインの部分低床車、この類ヨーロッパ中で幅を利かしているようですがどうしても好きになれません。いやいや身近にも迫っています。

 画像はスクリーンショットではなく埋め込んでありますので、ズーミングや360°回転ができます。周辺の散策も可能です、お楽しみください。言うまでもありませんが、Googleマップスポット情報の他に衛星写真や3D画像を補完的に活用することでストリートビューの視野を楽しむのに役立てることができます。なお下記YouTubeに同鉄道の前面展望動画があり、先ほど辿ってきた見覚えのある景色が出てきます。また山頂駅付近の他ジェットコースターのような急こう配をラックレールで力強く登る様子が実感できます。

https://www.youtube.com/watch?v=VjD83nZVqMY

 遥かヨーロッパの町ブベイから10㎞あまりのローカル鉄道を、沿線からと車内から楽しむことができ、久しぶりに「スイス鉄」を堪能しました。このご時世でありながら感染のリスクなし、旅行代金不要、過疎地ダイヤでも瞬間移動できて、いつでも中断再開自由といいことづくめの旅でした。