2022/05/26

線路のメンテナンス

  メンテナンスなどと言うと日頃から点検や保守を怠らずに手入れしていると思われてしまうかもしれません。実は最初に敷設してからそれらしいことは何もしていませんでした。広葉樹の枯葉は強い風が吹くとどこかに飛んで行きますが、落葉松(カラマツ)の針葉は砂利の間に入り込み、泥土と絡んで堆積していきます。寂れた地方私鉄の雰囲気を醸し出していると思って放っていました。土があると雑草が生え、ますます寂れます。

カラマツ針葉に覆われた線路
 昨年分岐器を設置する時に砂利ごと線路を取り外して敷き直したところ見違えるようにきれいになりました。しかしとてもじゃないが数年ごとにそんなことはできません。で、思いついたのがブロワーによる吹き飛ばしです。泥土で固まった松葉は少々の風では飛ばないので、砂利と一緒に混ぜ返しながら吹き飛ばします。

 なかなかの名案で、マルタイによる道床の突き固めみたいでしょ。普段はあまり機械力に頼ることがないので、いかにも保線作業という感じです。土や小石が舞い上がって作業服や長靴の中まで入ってくるし、作業後はすぐ入浴しなければなりません。

落葉泥土除去作業後
 線路がきれいになったところで、埋まっていた枕木が露出して朽ちていたことが判明。犬釘もほとんど利いていませんでしたが、幸いなことにレールは他の枕木に助けられてしっかりしていました。本来なら腐った枕木は一本ずつ横に抜いて入れ替えることになるのですが、この部分はエンドレス化の際に曲線に付け替える予定になっており、当面そのままにしておきます。監督官庁の査察があるわけではないのでお気楽です。

腐朽した枕木
想像を超える生命力のスギナ
 砂利と絡んだ泥土にはクローバーなど根の浅い草が生え、ブロワーによる混ぜ返しで除去できます。一方昨年新たに敷いた線路の砂利から生えて来たのはスギナです。ツクシと地下茎で繋がった栄養茎
(光合成をする)で、砂利のさらに下の路盤に相当する土壌から伸びてきています。あっという間に成長し、抜いてもぬいても繁茂するのでお手上げです。専用の除草剤もあるそうですが、あまり薬剤は使いたくありません。今後敷設する線路には透水性防草シートを敷いた上に厚めに砂利を撒き、腐朽対策と併せてスギナ対策をすることにします。

2022/05/20

待避線(余談雑談) 趣味って何だろう?

  「趣味とは何ぞや?」難しい問いかけですね。「小さい頃から電車が好きなだけで、理屈なんかあるかい。」とずーっと思っていました。でもやっぱり歳取ると理屈っぽくなるわけです。最近なんで鉄道模型を作っていたかを考える機会がありました。

 人間って理性の仮面をかぶっていますが、実は本能に操られているンです。それを突き動かすのは征服欲とか独占欲です。あからさまな民族支配とか略奪ではなく、人道を遵奉しながら代替行動を取ることでそれは満たされます。昔の若者は馬を馴らして野山を駆け巡っていたのが、現代では車を意のままに動かして征服欲を満たします。鉄ッチャンは気に入った車両の模型を作ったり買ったり、それにディテールを付けたりして我が物にしますが、これらは合法的独占欲の発現に他なりません。他人と違う物を手に入れたり、違った方法を使ったりすることでより強い欲望が満たされます。撮り鉄然り、乗り鉄また然り。ある時期、私は山の中で土に埋もれた森林鉄道のレールを掘り起こして金鋸で切出し、それを自分の手で握りしめた時無上の喜びを感じました。これは「掘り鉄」と言うのでしょうか、それとも「切り鉄」?「○○鉄」と一括りにできないような千差万別のフィールドがありますが、気付かぬうちに本能に駆られて一人愉悦に浸るのが趣味ではないでしょうか。

 受け売りで恐縮ですが、仏教の解説書にこんなことが書かれていました。人間の欲には二種類あって、一つは欲求もう一つは欲望である。食欲や睡眠欲が生命を維持するために必要な欲求であるのに対して、快楽欲や金銭欲は生きていくのに必須ではない欲望である。長い人生をかけて収集した鉄道コレクションを命より大切だと言う人がいるかもしれませんが、鉄道に限らず趣味にうつつを抜かすのは生きることに余裕のある証しではないかと思います。無人島に漂着した時、砂浜に椰子の実とブレーキハンドルが転がっていたら、あなたはどちらを先に手に取るでしょう。

初夏の鹿部電鉄

2022/05/16

転轍機の試験

  転轍機と分岐器が繋がってとりあえずはうまく動作するようになりましたが、前回の投稿に挿入した動画ではなんとなくぎこちない動きをしているように見えました。トングレールがスライドするプレートの表面が汚れていたので清掃してから新しいグリスを塗布し、2本のロッドの長さを調整することで定位側と反位側で伸縮筒の動きが均等になりました。

 こうやって試行錯誤の末に新しいモノが出来上がっていきます。世の中で言えば決して新しいどころか100年以上もの昔からあった分岐器ですが、鹿部電鉄にとっては新規開発品です。真っ当な使い方をして期待通りに動作するだけでは開発したとは言えず、想定外の事態に遭遇しても損傷を被ったり危険な状態に陥ったりしないことを検証しておく必要があると思います。と言ってもこれを販売するわけではありませんので、耐久試験や取扱説明書の作成まではやりません。ついうっかりやってしまいそうな「想定外の事態」に備えて安全性の確認だけはしておこうという話です。

 つまり、転轍機を切り替えて閉じた側の線路から車両が逆行した場合でも絶対に破損や脱線が起こらないことを確かめます。理屈の上では伸縮筒が撓んで鎖錠状態の転轍機に無理な力が加わらないようにしてあります。

 もう一つの試験では不完全な切替え操作、つまりレバーを中間の位置で止めてトングレールが基本レールに密着していない状態で車両が進入した場合、どの程度不完全な状態なら脱線に至るのかを確かめます。完璧に密着していなくてもフランジのテーパーのおかげで簡単に脱線しないことは解っていましたが、実は中途半端な状態で進入すると間違いなく脱線するだろうと想像していました。試験結果は動画をご覧ください。

 2本のトングレールの幅と両輪のフランジ間隔がほぼ同じであることが幸いして、両側の車輪は必ず揃ってトングレールのいずれかの側へ転がり、脱線することはありませんでした。結果的に解ったことですが、こういう異常な状況下でもトングレールの幅が狭過ぎず広過ぎないことで脱線を免れる要因が備わっていました。動画の後半ではフランジがトングレール先端に乗り上げる様子が映っています。速いスピードでこういう衝突が起こるとおそらくなんらかの問題が発生することは想像に難くありません。転轍機を操作した時は確実に切り替わっていること、また日常点検で転轍機と分岐器が正常に連動していることを確認しておく重要性をあらためて感じました。

2022/05/06

だるま転轍機 後編

  後編は、実物のだるま転轍機の動作原理に少し触れてから、鹿部バージョンのメカニズムとリンク系について説明します。

 21世紀の今では、だるま転轍機を見る機会はほとんどありません。保存鉄道や使われなくなった側線とか地方私鉄の車庫・工場などで稀に目にすることがある程度でしょう。その構造はシンプルで、レバー(テコ)L型ベルクランクの一端を上げ下げすると他端が水平方向に動いて転轍棒で繋がったトングレールを連動させる、というものです。レバーの支点は2ヶ所あって、レバーの操作方向と分岐方向、設置位置の組み合わせでいずれかを選択できるようになっています。

だるま転轍機の動作原理

 そのシンプルさ故に旅客列車や重量貨物列車が通過する本線で使用するには、安全性の見地から不適と判断されるのだと思います。現在実際に使用されている分岐器では、列車の重量や衝撃で転轍機が破損したり逆動作が起ったりすることがないように、原則として動作と鎖錠の両機能を兼ね備えるようになっています。さらに電気的、電子的(コンピューターシステム)に信号系とインターロックが掛かっていて誤動作、誤進入を防止するように制御されています。一方で閉じている側の線路から分岐器に逆進入(背向または割出し)することを常時可能とする発条転轍機(スプリングポイント)も例外的に存在します。鹿部電鉄での実績で言えば、分岐器が完成してからずっと転轍機はなく、切換えはトングレールを直接手で動かすことで全然問題ありませんでしたから、そんな難しいことを考える必要は全くありません。でもせっかく転轍機を作るのだから単なるダミーではなく、またそれが原因で転轍機が壊れたり脱線事故が起こったりすることがないようには考えておきたいものです。

 前編でも触れたとおり、実物のだるま転轍機のようにトングレールの真横に設置すると操作上不便が生じるので、貨車一両分手前からロッドとリンクで遠隔操作()できるようにします。したがって転轍機側面にL型ベルクランクは取り付けず、独自の機構でレバーの操作と同じ方向にロッドが動くようにしました。機構学用語では揺動スライダークランクと言います。その仕組みは動画をご覧ください。

転轍機設置位置
 転轍機と反対側のロッドの先端は、分岐器の横で水平に置いたL型ベルクランクに係合し、方向を変えてトングレールに伝わります。動画の終わり頃に、ロッドに外力が加わってもレバーが逆動作しない仕組みになっていることを説明していますが、これがこの転轍機における鎖錠機能です。鎖錠されたままの状態で列車が逆進入すると分岐器か転轍機が損傷を受ける可能性があるのでなんらかの対策が必要になります。そこでロッドの途中に過大な外力を吸収する機能を持たせるとともに、転轍機のオーバーアクションでトングレールが確実に基本レールに押し付けられるように、伸縮筒を取り付けます。これは予め圧縮した2個のバネでロッドの一端に付けた円盤を挟み、外力に応じてロッドの全長が伸縮するような構造になっています。いわゆるショックアブソーバーとかダンパーと呼ばれるシリンダーに似ていますが、伸縮はしても減衰力は働かないので微妙に機能が異なります。オイルや高圧ガスを封入するわけではなく、市販の機械部品を組み立てることで製作できるので安価で寿命も心配不要です。 

伸縮筒の構造
ロッドはφ10のミガキ鋼棒で、防錆のために黒色塗装してあります。蹴飛ばしたり踏んづけたりすると変形するおそれがあるので、コンクリートブロックのU字溝でガードしようと考えたのですが、ちょうど良い寸法のものがありませんでした。ホームセンターを捜索して見つけたのがエアコン冷媒配管用の化粧ダクトです。中央部に自重で撓むロッドを受ける溝車(戸車)を取り付け、園芸用のプラスティックペグで地面に固定し、カバーをパチンと嵌め込めば完成です。伸縮筒と転轍棒の動作は下の動画をご覧ください。

ロッドのたわみを受けるローラー

 転轍機が完成して車内から操作する様子です。