2022/05/06

だるま転轍機 後編

  後編は、実物のだるま転轍機の動作原理に少し触れてから、鹿部バージョンのメカニズムとリンク系について説明します。

 21世紀の今では、だるま転轍機を見る機会はほとんどありません。保存鉄道や使われなくなった側線とか地方私鉄の車庫・工場などで稀に目にすることがある程度でしょう。その構造はシンプルで、レバー(テコ)L型ベルクランクの一端を上げ下げすると他端が水平方向に動いて転轍棒で繋がったトングレールを連動させる、というものです。レバーの支点は2ヶ所あって、レバーの操作方向と分岐方向、設置位置の組み合わせでいずれかを選択できるようになっています。

だるま転轍機の動作原理

 そのシンプルさ故に旅客列車や重量貨物列車が通過する本線で使用するには、安全性の見地から不適と判断されるのだと思います。現在実際に使用されている分岐器では、列車の重量や衝撃で転轍機が破損したり逆動作が起ったりすることがないように、原則として動作と鎖錠の両機能を兼ね備えるようになっています。さらに電気的、電子的(コンピューターシステム)に信号系とインターロックが掛かっていて誤動作、誤進入を防止するように制御されています。一方で閉じている側の線路から分岐器に逆進入(背向または割出し)することを常時可能とする発条転轍機(スプリングポイント)も例外的に存在します。鹿部電鉄での実績で言えば、分岐器が完成してからずっと転轍機はなく、切換えはトングレールを直接手で動かすことで全然問題ありませんでしたから、そんな難しいことを考える必要は全くありません。でもせっかく転轍機を作るのだから単なるダミーではなく、またそれが原因で転轍機が壊れたり脱線事故が起こったりすることがないようには考えておきたいものです。

 前編でも触れたとおり、実物のだるま転轍機のようにトングレールの真横に設置すると操作上不便が生じるので、貨車一両分手前からロッドとリンクで遠隔操作()できるようにします。したがって転轍機側面にL型ベルクランクは取り付けず、独自の機構でレバーの操作と同じ方向にロッドが動くようにしました。機構学用語では揺動スライダークランクと言います。その仕組みは動画をご覧ください。

転轍機設置位置
 転轍機と反対側のロッドの先端は、分岐器の横で水平に置いたL型ベルクランクに係合し、方向を変えてトングレールに伝わります。動画の終わり頃に、ロッドに外力が加わってもレバーが逆動作しない仕組みになっていることを説明していますが、これがこの転轍機における鎖錠機能です。鎖錠されたままの状態で列車が逆進入すると分岐器か転轍機が損傷を受ける可能性があるのでなんらかの対策が必要になります。そこでロッドの途中に過大な外力を吸収する機能を持たせるとともに、転轍機のオーバーアクションでトングレールが確実に基本レールに押し付けられるように、伸縮筒を取り付けます。これは予め圧縮した2個のバネでロッドの一端に付けた円盤を挟み、外力に応じてロッドの全長が伸縮するような構造になっています。いわゆるショックアブソーバーとかダンパーと呼ばれるシリンダーに似ていますが、伸縮はしても減衰力は働かないので微妙に機能が異なります。オイルや高圧ガスを封入するわけではなく、市販の機械部品を組み立てることで製作できるので安価で寿命も心配不要です。 

伸縮筒の構造
ロッドはφ10のミガキ鋼棒で、防錆のために黒色塗装してあります。蹴飛ばしたり踏んづけたりすると変形するおそれがあるので、コンクリートブロックのU字溝でガードしようと考えたのですが、ちょうど良い寸法のものがありませんでした。ホームセンターを捜索して見つけたのがエアコン冷媒配管用の化粧ダクトです。中央部に自重で撓むロッドを受ける溝車(戸車)を取り付け、園芸用のプラスティックペグで地面に固定し、カバーをパチンと嵌め込めば完成です。伸縮筒と転轍棒の動作は下の動画をご覧ください。

ロッドのたわみを受けるローラー

 転轍機が完成して車内から操作する様子です。



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