2024/03/28

待避線(余談雑談) 学んだことを人生に役立てる

 サインコサインとピタゴラスは鉄道製作の役に立ったので本線の話にしましたが、今日の話題はまるで余談です。数学や国語以外にも学校で教えてもらって今の生活で役に立つことがあります。英語が少し話せるようになったのは中高大学で10年間も授業を受けたお陰(?)で、海外出張前の英会話研修(6週間)の効果が大きかったとはいえ、基礎を学んでいればこそだったと思います。
 年齢を重ねると足腰が弱って節々が痛くなったり動作が緩慢になったり、それに付け込むようにテレビで「軟骨成分と筋肉成分を補う」などとサプリメントの宣伝をしています。「軟骨や筋肉はコラーゲンなどのタンパク質でできている」と言うのはウソではありません。しかし理科(生物)の授業で、口から入ったたんぱく質は消化器官で各種のアミノ酸に分解された後それぞれの組織でたんぱく質に再合成される、と習いました。軟骨や筋肉が衰えるのは摂取量が不足しているからではないことはこの知識があればわかることです(髪の毛を食べてもハゲが治らないのと同じ理屈です)。また糖質とは食物繊維を除く炭水化物のことで、糖質=糖類(甘いもの)ではありません。これも教わったはずですが、「甘いものを食べると糖尿病になる」などと多くの人が話しているのを聞きます。
 社会科で習った世界史、日本史の多くが戦争の歴史です。教科書には戦争があった事実だけではなく、悲劇に至ったきっかけや過程が克明に記されています。それを知って年号を暗記することだけが歴史の勉強ではないことはだれも理解しているのに、身近に戦争の兆候やその影響が忍び寄って来ても気付かないどころか、防衛=軍備増強という短絡的な発想が歴史から学んだ崇高な理念に基づいて作られた憲法の足元を揺さぶっています。

 因数分解とはたとえば
ac+ad+bc+bd=a(c+d)+b(c+d)=(a+b)(c+d)
思い出しながら手順を追うと、まず共通項であるaとbで括り出し、次に(c+d)という共通項を見つけて括り直す、すると元々足し算であった数式が(a+b)×(c+d)という掛け算に変わります。バラバラの人達をひとまとめにする時、共通項を持つ人ごとにグループに分けると今度はグループごとの共通項が見つかって縦横のつながりが強くなるってことがあります。人の能力は単なる足し算ではなく、集団同士の掛け算で大きくすることができるのです。抽象的な例え話ですが、因数分解の手法は職場やコミュニティでの能力開発のヒントになります。

 勉強の成果があって入学試験に合格した人もいれば、学校には行ったけど友達と遊んだ記憶しかないと言う人もいるでしょう。せっかく青春の貴重な時間を費やして学校に通ったのなら、何か記憶の中に残っている授業の片鱗を見つけ出して今の生活に役立てることができないか考えてみてはどうでしょうか。

 15インチゲージブログにそぐわない話題ですみませんでした。

2024/03/18

ピタゴラス

  中学校数学のお話しの続きです。「ピタゴラスの定理」は誰でも聞いたことはあると思いますが、「説明して」と言われて答えられる大人は半数くらいではないでしょうか(根拠はありません)。じゃぁ「知っていて何の得になるか」即答できる人はいるでしょうか?私は胸を張って言います。

ここでピタゴラスさん登場
 庭園鉄道を敷設する時役に立ちます。庭に曲線路を敷くには、レールベンダーでレールを曲げ、枕木の上に置くと線路ができていきます。レールはメッタヤタラに曲げても思い通りの線路になりませんから、あらかじめ半径何mの曲線で長さを何mにするという計画通りに作業を進めなければなりません。ここで曲げたレールの半径が予定通りになっているか、ピタゴラスの定理を使ってチェックすることができるのです。もちろんサインコサインを応用しても同じことができます。

 仮に半径5mを目標にして曲げたレールがあるとします。このレールの内面に長さが500mmの物差しをあてがい、その中央でレールと物差しの隙間δが何mmあるか測ります。これを図示すると下のようになります。ピタゴラスの定理によると直角三角形OABにおいて(OA)2=(AB)2+(BO)2が成り立ちます。 

数値を入れると

500022502+(BO)2 

これより

(BO)=±√(500022502)4993.7  (BO)>0

δ=(OA)-(BO)=5000-4993.7=6.3

または三角関数を用いて

sinθ=(AB) /(OA)=250/5000=0.05

これよりθ=2.87°

δ=(OA)×(1-cosθ)=6.3 と同じ答えが得られます。

もしレールが正しく半径5mに曲げられていたなら500mmの物差しとレールの隙間は6.3mmになっているはずだということがわかります。

同様に5m以外の半径に曲げられたレールと隙間の関係を計算すると右表のようになります。

半径が大きくなるとδが小さく、測定誤差が大きくなるのであてがう物差しを長くすることで精度を上げることができます。

50cm物差しの中央でレールとの隙間を測定する



 実際には5m以上もあるレールの全長を曲げてから半径を計測するのではなく、レールベンダーのラム(油圧ジャッキの可動部)がレールに当たった時と油圧を抜いてスプリングバックした時にもう一度ラムをレールに当てて出っ張りを測定すればその差がδになります。ただし、レールベンダーのフック間の寸法が物差しと同じ500mmの場合にこれは成り立ちます。上にも書いてあるようにスプリングバック(弾性による戻り)があるので、この数値になるまでラムでレールを押せば所定の曲率半径になると言う単純な意味ではありません。だからこの方法で狙い通りに曲げられるようになるには、慣れやコツ、裏技、荒技、さらに細かいことには目を瞑る鷹揚な性格が求められます。庭園鉄道の敷設には数学(幾何学)の知識が役に立ちますが、レールの曲がり具合はあくまでもハンドルの手加減で決まります。

 下の動画では手慣れた要領で、ハンドルを引く回数やラムの高さ測定も一発で決めています。

2024/03/08

サイン・コサイン・タンジェント

 私が受験生だった頃、受験生ブルースというフォー久ソング(?)が流行りました。その歌詞の中に「サインコサイン何になる」というくだりがあり、当時目的もなく勉強させられていた若者の不満が表現されていました。確かに技術者か研究者にでもならなければ三角関数や微積分は何の役にも立ちません。逆に理系の私は古文の助動詞の活用なんか知って何の得になるのかと思いながら暗記したものですが、この歳になっても「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」と暗誦できるし、おかげで古語や和歌の意味が理解できるのは皮肉なものです。で、なんで鹿部電鉄にサイン・コサイン・タンジェントなのかと言うと、この知識(というほどのものではありませんが)がキハ40000の設計に役立ったので、まだ実際の加工にまで至っていませんが紹介しておこうと思ったからなのです。
 ここで三角関数の復習をしましょう。直角三角形の三辺の長さをa、b、cとし、直角でない一つの頂点の角度をθとすると、下図のような関係になります。半径がaの円周長は2πaですから中心角がθの扇形の弧長はそのθ/360倍になることを思い出してください。

 この三角関数を何に利用するかと言えば、妻板の窓幅や幕板、腰板の長さの計算に使うと便利で、実物のスケールダウンに有効な手段になります。
16番の模型を真鍮やぺーパーで作る時に妻板の展開図は真正面から見た寸法と異っていて、例えば正面3枚窓なら中央は図面通り、両側は1mmほど幅広にケガき、折り曲げてから様子を見ながら切り抜く、という大雑把な加工を私はしていました。何台も様々な車両を作っていると、実物を見ただけで妻板の曲率や窓の大きさをどれくらいにすればいいか見当がつくようになります。
大きな模型の場合は失敗したら作り直せばいいと気楽に考えられませんので、加工前に綿密に寸法を計算しておくことが失敗を防ぐ手立てになります。
具体的にどんな計算をするのか簡単な例で説明します。右図は一般的な車体実寸法の妻板部の横断面図(上)と正面図(下)です。仮に車体幅2800mm、正面窓は幅800mmの三枚、妻面の曲率は均一で半径3000mmとします。この図の三角形OABを上の図のOABに当てはめるとaとbが既知なのでsinθが逆算できてθ=27.8°がわかります。そして妻板の出っ張りもcosθから346mmとなります。同じように計算すると800mm幅の両脇の窓が正面から見ると762mmになることもわかります。設計寸法を黒字で、計算結果を赤字で示してあります。この計算を応用すると正面図を測った数値から展開寸法を計算することもできます。
 さてキハ40000は正面4枚窓で竣工図によると中央寄りの窓幅は580mm両側が500mm(いずれも車内側内寸)、妻面の半径は推定2700mmです。窓の比率を保持したまま1/3にスケールダウンし、車外から見た窓と桟の寸法と正面図上の寸法を計算します。つまり半径900mmの円弧上の窓の幅に対する中心角を求め、cosを掛けると正面図の寸法になります。同じように妻板の中央がどれだけ出っ張っているかを計算し、幕板や腰板を短冊状の細板から製作する際の素材寸法と併せて補強材(図中④の弓形部材)の設計に利用します。屋根に薄い杉板を貼り付けて曲面を形成する際の材料設計にも使うことができます。


 決して高等数学ではなく、中学校で習った三角関数の基本です。鉄っちゃん受験生にはきっと励みになるので「サインコサインは電車作りの役に立つ」と教えてあげましょう。
妻板の曲面をいかに再現するかが作り鉄の腕の見せ所

2024/03/01

待避線(余談雑談) 自分の趣味を存分に楽しむ

 決して好きではない仕事に追われる日々を過ごしていた頃に比べると、老後の生活は生きたままの極楽です。線路の敷設や電車の製作をしたり、釣りやスポーツに興じたり、好きなことをしているだけで一日が終わります。と言うとそれはウソで、たまには面倒なこともせねばなりません。例年この季節、確定申告で医療費やその他の証憑をかき集める作業が待っています。難しいとか知恵を絞らないといけないというわけではないのですが、普段から整理整頓が苦手な性分なのでとにかく着手前から気が重いのです。

 じゃぁ電車を作っている時はずっと楽しいばかりかと言うと、それも作業の内容によって腕や肩や腰が痛くなったり息切れしたり、身体が言うことを聞いてくれない時は嫌になることがあります。設計や組立で行き詰ったり、計画通りに進まなかったり、こんなことしていていいのだろうかと悩むこともあります。しかし、よく考えてみると誰かから給料もらってやっているわけではありませんし、予定の期日までに終わらないからと言って責任を問われたりはしません。人間は快楽だけに満たされた生活なんか絶対にできないように創られていて、かならず一定の苦しさや悩みが湧き出て来るようになっているのだと思います。そういう煩わしさを上手くあしらいながらできるだけ楽しく生きることで喜びも倍増するのだと考えればそんな人間の性にも納得できます。

 私の人生経験から得た楽しく生きるコツは「よろしくない人間関係に振り回されないこと」です。社会生活をしていると、自分が選んだわけではない人と関係を持たざるを得ないことが多々ありますが、そういう場合の付き合いは最小限に留めるように心がけてきました。一方で鉄道趣味は基本的に自分一人の世界ですから人間関係が問題になることはないはずです。ただし同志が現れて一緒に線路や電車を作ろうということになったり、サークルの世話役を引き受けることになったり、誰か(または何らかの団体)のために電車の運転を披露したりするような場合には色々と気遣いしなければならなくなります。ここで作業や運営上の意見が食い違ったりすると(まず間違いなく食い違いは起こります)、一緒に楽しくやろうという前提が崩れてしまい、再調整が必要になってきます。鉄道好きが同じ話題についておしゃべりをするのは本当に楽しいことで、時間が過ぎるのも忘れて話し込むこともあり、私は大好きです。語り合っているだけの間は互いに敬意を持ち続けることが可能なので考えに差があっても問題は起こりませんが、具体的にモノやコトを動かす上で意見が異なると簡単に解決できず、エスカレートすると信頼関係にも影響を及ぼしかねません。前にも触れましたが私はメンタルが弱いので、そういう状況に遭遇すると途端に気が滅入ってしまい、趣味を楽しむどころではなくなってしまうのではないかと懸念するわけです。

 庭の電車は私自身のため、趣味の心を満たすために作ったのだということをあらためて肝に銘じた上で、ご近所を始めとする世間とのお付き合いを続けて行こうと思っています。