2021/05/30

駐泊所風車庫

  話がまた前後してカレンダーが前年に逆戻りします、屋根の塗装が終わったのは11月も終わろうかという頃でした。すでに何度か薄っすらと雪が地面を覆う日がありました。これまで冬季は電車にビニールシートを被せているだけでしたが、せめて上屋だけでも設けて雪に埋もれてしまわないようにしたいと思っていました。

 ホームセンターへ行けばアルミ型材とポリカーボ板を組み合わせたカーポートが売られています。お金を出せば工事までしてくれて、スマートで楽チンですが、それでは鹿部電鉄の建設ポリシーに反することになるのでやりません。

 線路脇で空いている土地があって作業小屋兼車庫を建てようという構想はずっと持ち続けています。しかし、まずは電車の完成を見てから時間をかけて計画しようと思い留まりました。そこで簡単に設計・建設出来て昭和の鉄道に違和感のない建物を作ることにし、電車1両が収まるだけの幅と長さを持った屋根付きの小屋の図面を描いてみました。
駐泊所風車庫の計画図

 屋根の直下はSPF(ツーバイフォー材)でよいとして、雨に濡れる可能性のある柱はクリの70mm角材を使います。屋根は塩ビ波板でいいかとも考えましたが、以前から使ってみたいと思っていたポリカーボ中空板という4mm厚の透明板を通販で調達しました。届いた現品は想像していたほどしっかりしたものではなく、プラスティックでできた段ボールのようなものでした。塩ビやポリプロ製に比べると価格も高く少しがっかりでしたが結果的には強風に煽られてもビクともせず、やはりポリカーボなりの強度はあるようです。

 この建屋は既存線路のSカーブ部を覆うように建設します。このSカーブの一方に直線で延長できるように分岐器を設置する計画があり、この屋根にスノーシェッドとして分岐部を雪積や降雨から守る機能を持たせることができると考えたからです。

束石の基礎(左)  と  切株の基礎(右)
 Sカーブのレール継目を中心に幅1.4m、ピッチ1.5m6個の束石を埋め、6本の柱を立てることにしました。そのうちの一ヶ所は立木の切株の位置と偶然一致したため、束石の代わりに切株の上面高さを他の束石に合わせて切り取りました。実はこの立木、最初に線路を曲げた時にレールをかませるのに使ったものです。今後はレールベンダーを使って本格的な曲げ作業をすることにしたのと線路上への落ち葉に悩まされていたので思い切って伐採したのでした。

 6本の柱を立てると書きましたが、実際には門型に組み上げた3対の柱を立て、つっかい棒で鉛直や隣との平行を保ちながら固定していきました。誰の援護も受けずによく一人でこの作業が出来たな、と自分でも感心しました。正直なところ、これ限界です。

 もう暦は12月になっていて、かじかむ指をかばいながら雪の季節になんとか間に合わせたいと頑張りました。最後は脚立や梯子を使って件のポリカーボ板の屋根をねじ止めしていたところに白いものがチラチラと舞い降りてきました。一夜明けてその冬初めての本格的な積雪となり、測ると20cm以上ありました。「滑り込みセーフ」というわけです。

完成した車庫
 出来上がった車庫をしげしげと眺めてみると、側板はなく、屋根もそのままでは半透明で安っぽいものの、雪が積るとそれなりの存在感が出てきます。「露天風呂の四阿(あずまや)みたい」と悪口をたたく人がいますので、無蓋車にタライを積んで足湯でもやりますか。

 屋根板の継ぎ目は透明ビニルテープや台所用アルミテープで塞いでいるものの、どこからか雨漏りがあるようで、いつも電車の屋根が濡れています。

2021/05/22

待避線(余談・雑談) 鉄道用車輪の話

  木造車体製作の説明が続いたので下ネタに話題を移します、車輪と線路のトリビアです。

(1)踏面のテーパー

 鉄道用車輪の踏面がテーパー(円錐)状になっていることは、鉄道に興味のある方なら常識的にご存知でしょう。今更ですが、曲線でレールに接している部分の直径が外輪側で内輪側より大きくなるので自然に曲がって行くように工夫してあるのです。

曲線で車輪が曲がる仕組み
 と言えば簡単な話ですが、車輪の寸法に統一規格はなく、このテーパーの勾配も各国、各社でまちまちです。自然に車輪が曲がる半径はこのテーパーだけでは決まらず、曲線部で線路の幅がどれだけ広くしてある(スラック)かによっても異なります。仮にテーパー勾配(半径)1/20、スラック40mm、車輪径800mm、軌間1000mmとすると、その半径は200mになります。これは車輪だけをゆっくり遠心力がかからないように転がした場合の計算値です。実際には色々な要因が重なって理屈通りにはなりません。これよりさらに急な曲線を無理に曲がらせようとすると、内外輪の走行距離差によって左右いずれかの車輪とレールの間で滑り(差動滑り)が生じて特異な音「チュイーン・チュイーン」(カタカナで表現するには限界があります)が発生します。地下鉄の駅付近の急カーブなどでよく耳にしますね。

(2)長軸距車両の走行抵抗

 貨物列車もほとんどがコンテナ化されて2軸貨車を見る機会がなくなってしまいました。2軸車の場合必然的に軸距(ホイールベース)が長くなり、なんとなくカーブが曲がり辛いのはわかりますが、なぜそうなるのでしょうか。

2軸車の曲線通過
 硬い鉄のレール上を鉄の車輪がまっすぐ進むと、いわゆる転がり摩擦と言われる非常に抵抗の少ない状態で、ほぼニュートンの慣性の法則(運動している物体は等速運動を続ける)通りになります。ところが、軸距の長い車両が曲線部にさしかかると車輪(車両)の向きと線路の向きが一致しなくなります。車輪(車両)の向きと線路の向きのなす角度をアタック角といいますが、曲線の半径が小さいほど、軸距が長いほどアタック角は大きくなります。車輪が曲線部を通過する動きを、前方に進む動きと向きを変えるために横に押す動きに分解して考えると、前方へは転がるだけなのでほとんど抵抗はありませんが、「横車を押す」という言葉通り横方向には滑り摩擦に抗して大きな力を加えなければなりません。アタック角が大きいほど横滑り運動が大きくなり、前項の差動滑りと併せて走行抵抗が増大するということになります。

(3)フランジ形状

 鉄道用車輪には脱線を防止するためにフランジが付けられています。フランジは概ね下図のAの形状になっています。なぜこの形でなければならないのか説明します。Bの場合、もしレールの継目に食い違いがあるとフランジがレールの上に乗り上げてしまって脱線を誘発するおそれがあります。それならCでいいように思われますが、この場合車輪はレールの上面と側面の2ヶ所で接することになります。上面は転がりですが、側面は滑りながら接触するので抵抗が大きく摩耗や発熱、騒音の発生原因となります。Aの場合は必ず1点でレールと接するので、前述の滑りが発生しない限り常に転がり状態となって摩擦の少ない鉄道の長所が生かされます。模型の場合はそんなことより車輪の浮き上がりによる脱線を防止するためにメルクリンに代表されるような高いフランジのCタイプ車輪が採用されています。実物の世界ではサスペンションによって浮き上がりが抑えられ、保線が行き届いていれば遠心力や揺れで横圧がかなり高くなってもフランジがレール側面と接触することは稀で、踏面からフランジにかかるR部で持ち堪えているようです。
フランジの形状
Aタイプでなかった場合の問題

(4)例外事例

フランジで走行する例
 Aの形状でもレールと想定通りに接触しない場合があります。路面電車や軽便鉄道では速度が低いので特殊な転がり方を許容したり、強引に車輪の向きを変える手段を使ったりすることがあります。右の写真は函館市電の本線から駒場車庫への分岐のクロッシング部です。レールの上面が光っておらず、逆にフランジが通過する溝の底部が光っています。つまりここでは車輪のフランジ最外周がレール溝を転がり、踏面は浮いた状態で走行しています。



路面電車の分岐器 左側は非可動
 一般的な鉄道の分岐器のトングレールは鋭く尖って主レールに密着してい
ますが、路面電車のトングレールはフランジの外面をガイドするだけでなく、内面も挟み込むような形状で所定の分岐方向へ車輪を導きます。反対側も同じようなトングレールが設けられている場合と、固定レールでどちらへでも行けるフランジウェイだけが掘られている場合があります。写真は土佐電鉄のもので、右側のトングレールによって進路が振り分けられ、しばらく進んでから左側の車輪がそれぞれの方向に進みます。直進路側(この写真の場合左側の線路)に可動トングレールが設けられることもあり、その場合はフランジの内面がトングレールの外側に沿って分岐して行きます。
溝付きレール

 フランジの内面をガイドするのは分岐部に限らず、交差点などの急カーブでガード部がレール上面よりも高い特殊溝付きレールを使用している場合があります。曲線の内側レールの溝がピカピカに光りながら表面が疲労剝離を起こしていたりします。それを見過ごしたために同じ場所で繰り返し脱線事故が発生したこともあるようです(原因については諸説あります)





(5)バックゲージとチェックゲージ

各種ゲージ
 全ての車両のフランジの内側を同じようにガイドするためには、線路と車輪のいわゆるゲージ(軌間)を制定するだけでは不十分で、フランジの内のり(内寸法)を決めて統一する必要があります。さもなければ車両によってフランジがレールに乗り上げたり、分岐部で右側の車輪と左側の行先が違ってしまったり、と言うことになりかねません。バックゲージ以外にチェックゲージ(内外フランジ寸法)を制定する場合もあります。 国内の路面軌道で外国製の最新型低床車両を導入した際に脱線事故が発生し、よく調べたら車輪の寸法基準が使用者である鉄道側と供給者であるメーカー側で異なっていることが判明した、というお粗末な事例があったそうです。

 路面電車以外でも橋梁や分岐部にガードレールが設けられていますが、その目的は脱線防止ではなく、仮に脱線しても線路から大きく逸脱したり、橋梁などの高所から転落したりということがないようにするためです。それどころか、高速鉄道では車輪とガードレールが接触するようなことがあったら即脱線につながりかねません。

 大沼電鉄の歴史資料を調べていると鉄道省の係官が開業前に電鉄に対して提出を命じた図面が出てきました。それは分岐部におけるレールと車輪の位置関係を示す断面図で、安全にかかわる重要な確認事項であることを物語っています。


2021/05/13

屋根の防水加工


防水加工を待つ
 次の防水補強加工もカヌー製作技法の応用です。杉の薄板は曲面貼り付けすることである程度強くはなりますが、外力が集中して加わるようなことがあると破損が広がることが考えられ、またひび割れや接着不良によってスキマから雨水が侵入する可能性があります。カヌー製作過程では、表面にグラスクロス()を敷いた上から速硬化性の樹脂を塗布することで、強度の向上と防水性の実現を図っています。いわゆるFRP(Fiber Reinforced Plastics )と呼ばれる材質というか工法です。カヌー工房から分けていただいたグラスクロスおよび主剤と硬化剤を101に混合する2液性樹脂を使用したものの、メーカーや仕様、購入ルートは聞いていません。門下生の一人が函館の船具店からまとめて仕入れてくるので誰もその詳細を知る必要がないという謎の材料、怪しいシロモノではないようです。近年は漁船もプレジャーボートもFRP製が主流なので船具店で修理用材料として扱っているそうです。塗料専門店や場合によってはプロ向けホームセンターで扱っているかもしれません。

 屋根にFRP処理をする前に車体から屋根ユニットを取り外し、低め(60~70cm)のテーブルに載せます。車体に樹脂が付着するのを防止するためと作業の視認性をよくするためです。ダブルルーフの側面はマスキングしておきます。樹脂主剤に硬化剤を混合すると約5分でドロドロのコンニャク状になって刷毛で塗り延ばすことができなくなるので、何人かで手分けして一気に塗るか、一人で塗る場合は何分割かする必要があります。私は三分割してグラスクロスの端を指で押さえながら刷毛で樹脂を塗りましたが、幅のあるローラーで素早く塗り広げるのがいいと後で教えられました。硬化は化学反応で発熱を伴うため、紙コップの中に残った樹脂から煙が出ていました。薄く塗り広げた場合は表面から熱が発散しますが、塊の場合は蓄熱するようで手で触れないくらい熱くなっていました。この工程は写真を撮る余裕がなかったので画像がありません。

 一昼夜硬化させてから電動サンダーで表面を仕上げます。グラスクロスの重なった部分、樹脂の塗り重なった部分、樹脂が不十分でグラスクロスの織り目が露出している部分などが目立たなくなるように#80#240を使い分けます。やはり後で教えられたのですが、私はここで気を付けなかったために地獄に落ちることになりました。サンダーで削り取られたグラス繊維が飛散し、袖口や襟から作業服の中、肌着の中に微細な棘が入り込んできていたのでした。その時すぐに痒みでもあれば気を付けることができたのですが、チクチクと痛むのは作業が終わってから。それがグラスクロスのせいだとわかったのは翌朝のことでした。痛みのある場所を探しても元凶を見つけることはできず、仮に見つけたとしても幾千もの棘を抜き去ることなどできません。シャワーで洗い流しても効果はなく結局数日間、悶々とチクチク痛みに耐えるしかありませんでした。この作業の際には使い捨ての紙製ツナギ作業服を着て裾、袖、衿をガムテープで密封、ゴム手袋を着け、フードを被り、花粉対策メガネと防塵マスクをお忘れなく。

 表面はある程度滑らかに仕上がっていれば及第点です。実物の車両でもキャンバス張りの屋根はデコボコしているものです。所々に織り目が残っていてもよしとしました。ただし、屋根と雨樋の間で樹脂が充分に回っていない箇所があったのであらためて樹脂を流して防水処理をしました。ダブルルーフの縁からはみ出して固まったグラスクロスは切り落としてヤスリか電動サンダーで仕上げておきます。

 さらに数日後、お天気の良い日に油性ペイントで塗装しました。白、黒に車体のチョコレートを混合してグレーに鉄錆が重なったような色調にしました。混合度合いで色目が変わるので、多めに調合してから刷毛で塗りました。雨樋の外周は、後で車体と同じチョコレートを塗ります。

 電車の屋根の造作が想像以上に上手く行ったのに気をよくしていたところ、周囲からカヌーの製作を勧められ、カヌー工房の先生に相談したところ快く受け入れてくださいました。翌年まだ積雪が残り、朝夕は氷点下に冷え込む3月初めに製作に着手。カヌー作りは初めてながら、杉板張りもFRP作業も経験済みなのですべて順調に進み、通常よりかなり短い工期で完成に漕ぎつけることができました。平成最後の日となる430日、ご近所のカヌー仲間や工房の門下生が見守る中、ホームレイクの大沼で無事進水式を挙行することができました(前の投稿の最初の写真がその時の様子です)。
翌年の4月、完成間近のカヌーと並んだデ1

2021/05/02

屋根板の貼り付け


自作艇の進水式で大沼湖畔に
集まってくれたサークルの面々

 ご近所には色々な趣味を楽しむ人達が住んでいます。車で20分ほどの七飯町(ななえちょう)に国定公園の大沼があり、やはり同じくらいの距離ですが反対方向の森町(もりまち)に、カヌー工房を構えて希望者に製作指導してくれる方がいます。秋田カヌー工房の主は元高校の教師で、ご自身の趣味が高じて周辺に百人近い門下生を数えるまでになっています。私のご近所でもカヌー作りが盛んになって、後に私自身も自作カヌーオーナーになりました。

 そのカヌーは杉の薄板を型板の周りに立体的に貼り付けて流線形の船体を形成し、補強(リブ)や縁取り(ガンネル)、イス(シート)などを取り付けて製作します。まだ私が自分のカヌーを作ろうと思う前のことですが、杉板を曲げて3次元曲面を作り出すのだと聞いて秋田カヌー工房を訪ねました。実物のダブルルーフ電車の写真を見せ、製作中の電車も見てもらって、カヌーの製作技法が応用できるか聞いたところ、「それは可能です」とお墨付きを頂きました。そして数日後、杉板の束を届けに来たついでに板の曲げ方を実演手ほどきまでしてくださいました。

両縁を凹凸加工した屋根板
 曲げに適した道南産の杉板は厚さ5mm、幅45mm、長さ約2mで、板の長手方向の片側の縁が凸R、反対側が凹Rに仕上げられています。板同士は単なる突き合わせではなく、凹凸Rを嵌め合わせて木工用ボンドで接着することで段差なく組み合わさるワケです。杉は柔らかい材質ですが、そのまま曲げようとすると割れてしまいます。曲げるためには最低数時間、水に浸す必要があり、水より温水、さらに熱水のほうが効果は上がります。カヌーと違って曲げるのは端の方だけなので、夏なら水を入れた大きめのポリ袋等を利用して炎天下に放置することで柔らかくすることができます。水()から取り出した後、曲げ癖をつけますが、単に曲げるだけではなく、捻ったりしごいたりして無理なく曲面ベースに沿うようになるまで馴染ませるのがコツです。
 まず屋根骨組みの中心線に沿って前後方向に1枚だけ特殊な杉板を貼ります。この板だけ両側が凹Rに仕上げられていて、順次これを挟むように両側から凸R側の縁を接着していくことになります。
中央部に屋根板を貼り終えた状態
 杉板は屋根の骨組みおよび隣り合う杉板に接着剤を塗って木ねじで固定します。この木ねじは1昼夜を経てから抜き取り、次の工程で再利用します。中央部の2次元曲面部の貼り付けには大した技術は必要ありません。前後端の3次元曲面部は先端に行くほど隣の板と干渉しないように幅を狭くする必要があります。凹R側の縁は加工しにくいので直線のまま残し、凸R側をナイフや木工用ヤスリ、サンドペーパーで整形しながら調整します。削り方が足りなくて板同士が干渉すると浮き上がって手に負えなくなりますが、スキマが空いてしまった場合はコッテリパテで埋めることができます。時間をかけて丁寧に仕上げることが肝心です。全面に杉板を貼り終えたら一旦雨樋を取り外し、#80の電動サンダーで継ぎ目の段差や部分的な膨らみを削り取り、#240で仕上げします。表面の凹凸は掌で撫でて感じ取るのが一番解りやすいと思います。屋根が平滑になったら雨樋を復旧し、コッテリパテを駆使して継目やネジ穴を埋めていき、さらにサンダーをかけて次工程の防水加工に備えます。
画像処理して屋根が完成したようにイタズラ     ポールとライトはボール紙製
 杉板を途中まで貼った段階でとてもいいお天気の日があったので、撮影した写真をパソコンで加工してあたかも完成した屋根にポールやヘッドライトが取り付けられているように見せかける悪戯をしました。何も知らない友人に「電車が完成したよ」とメールを送ったら「おめでとう」と祝福してくれました。