2023/09/27

TR27台車の製作 後編

  予定では7月中に台車が完成して8月から車体構体の製作にかかることになっていましたが、部品製作に想定外の時間を費やしてしまい9月も終わろうかと言うのにまだ先の見通しが立っていません。

ネジ穴とバカ穴がずれている
 全部品の加工が終わったら片側の台車の仮組みをして寸法や構造に問題がないか確かめます。正直言って組立はスイスイとは行きませんでした。帯鋼や形鋼を重ねてネジ組立する箇所で貫通する部材の穴径はネジ径より1mm大きめにしていますが、ここが干渉してネジがスパっと入らない、雌ネジまで届いても雄ネジとの軸心が食い違っているというようなことが多く発生しました。M8くらいなら穴径を2mm大きくすればいいのでしょうが、小径ネジの場合はヤスリで長穴に修正せざるをえません。もちろん穴があわない原因が他の部材の干渉や寸法誤差にあるなど、明らかな不良による場合はそちらの修正をまず行います。すべての部品が互換性をもって組立てられれば理想的なのですが、手作りの悲しさでどうしても個々に微妙な寸法誤差が発生して修正をしなければなりません。そこで部品に番号を振って組合せを固定することにしました。

 ネジ穴に次ぐ厄介な問題がもう一つありました。軸受ユニットは自動調心型といってベアリングが球面で保持され軸の方向に自由度が与えられるようになっています。ところがこれが傾いたまま固着して動きが非常に渋く、2個の重い車輪を嵌合させた軸を両軸受けに同時に通すことが大変難しくなっていました。潤滑油を流し、仮軸を差し込んでグリグリと擦り合わせを行い、やっと動くようになりました。

 そんな苦労をしながら片側の台車が塗装前の状態で仮完成しました。ウッドデッキで組み立てた台車を線路に降ろすのにまたひと苦労です。後で体重計を使って測定したところ、軸重がちょうど35kg1台で総重量70kgでした。厚生労働省の指針では成人の人力による運搬は概ね体重の40%とされているので、片方ずつエッチラオッチラ動かすとしても限界値を越えています。違反していてもだれも注意してくれませんから老人の腰は自分で守るしかありません。ドキドキしながら線路の上を押してみると上物の荷重がないこともあってとても軽く転がりました。そのまま急カーブ迄押して行くといい感じでカーブを曲がりましたが、やはり抵抗ゼロではありません。その結果は数値を計測してあらためて報告します。台車の上に乗って体を揺すると軸バネがユサユサと撓んでとても実感的です。と、見たようなことを言っていますが、乗っている自分では見えないので三脚にスマホを据えて自撮りしたのがこちらです。ギシギシ鳴って動きがイマイチ、どうやらペデスタルガイドの平行度が悪くフルストローク動いていないようですね。最終組立て時に調整することにします。

 それにしてもよくここまで作り上げたものだと自分を褒めてやりたい気分です。線路に最初の犬釘を打った時、トロッコが初めて転がった日、デ1が完成してお披露目した文化祭、直接制御器をガチャガチャ回して味わった運転手気分、電車が分岐器を無事通過した瞬間、これまで鹿部電鉄で何度感激を味わったことでしょう。どれをとってもそれまでになかった喜びと感動に心満たされたものでした。鹿部に来た当初にはとても想像していなかった夢の世界が広がっていきますが、この後まだキハ40000の本丸である車体と動力装置の製作が控えています。加齢に伴う健康不安を覚えてもそれを越えるような楽しみが享受できたらと思っています。
仮完成したTR27 いい眺めです

2023/09/20

待避線(余談雑談) キリ(ドリル)について

  キリというと木工で使う木の柄の先に尖った針がついたものを思い浮かべますが、金属加工ではいわゆるドリルのことをキリと呼びます。DIYでは磨り減るほど使わないので古くなると買い換えるのが普通ですが、本職は切れ味が悪くなると短くなるまで研いで使い続けます。何十年も前に新入社員の現場実習でキリの研ぎ方を教わりました。今でもそれを思い出しながら研ぐことがありますが、キリの両側かららせん状の切粉が連続して湧いてくるような見事なキリにはなりません。

鉄工用キリ
 さて金属用(鉄工用)ドリルの先端は木工用ドリルと違って尖っていません。写真を見ていただくとわかりますが、屋根の棟のような形になっていてこの部分はチゼルエッジと言って切削に直接関与しません。その両側の切れ刃が被削材を掬い取りながら進むのに乗じて無理やり食い込んでいくというイメージでしょうか。そのためいきなりキリを鉄の表面に押し付けると、先端が踊ったり走ったりということが起こり、正確な穴あけができません。ポンチを打ってしかるべき位置に凹みを作り、チゼルエッジがそこに落ち着くと穴の切削が始まります。ところがキリの径が大きいと必然的にチゼルエッジも長くなり、小さなポンチマークでは位置決めができなくなります。またキリが食い込んだとしても抵抗が大きく、加工が不安定になることがあります。そこでチゼルエッジを小さくするためにシンニングという技法(研ぎ方)が使われます。”Thin”=薄い・薄くする。というわけで切れ刃の裏側を削り込むわけです。
チゼルエッジとシンニング

 もう一つの回避術が下穴を開けておく方法です。細いキリにもチゼルエッジがない訳ではありませんが、ポンチで位置決めすれば事足ります。例えばφ2の下穴でφ10程度のキリのチゼルエッジを充分にカバーできるので、ほとんど位置ズレなく下穴と同心の穴加工をすることができます。

チゼルエッジの影響を回避する方法


2023/09/16

TR27台車の製作 前編

  台車を製作するにあたって材料や加工のための機材を購入して準備を進めてきたこと、戦前型気動車用の典型としての概要、急曲線通過の際の走行抵抗を低減する仕組み等について繰り返し書いてきました。いよいよ製作に着手したので具体的な加工、組立調整手順や作業上の工夫、気付いた点や感想について記述したいと思います。

花巻電鉄デハ3の板台枠台車 自身撮影
 この台車に限らず鉄道黎明期(昭和初期まで)には大型鋳鋼や溶接による成形は一般的ではなく、鋼板や型材、鍛鋳造部品をネジ・リベットで組み立てるのが主流でした。そもそもこれなら自分で作れると思ったのもそういう理由からでした。事実鉄工所に加工依頼したのは車輪の軸穴の仕上げとトラス部材の曲げだけで、その他に通販で購入したものがありましたが、部材の切断はチップソー、曲げは万力、穴あけは卓上ボール盤を使ってすべて自分で加工しました。作業は想像を大幅に超えて相当な時間を費やすことになりました。

TR27台車の各部名称
 さて構造部材の名称を図に示しています。正式な名称はわからないので私が勝手に名付けたものです。説明文中にこれらの名前が出て来た場合はこの図を参照ください。なお図中のボルスターは山形鋼(L形鋼)の端面のみ示してありますが、左右の台車枠を繋いでいる部材で日本語では枕梁と呼ばれます。まずは台車単体の完成を目指し、ボルスターに取り付けられる心皿や車体との結合部分の製作は別の投稿で解説します。と言うのは独立回転車輪の急曲線走行抵抗低減効果を早く確認したいためです。

 加工が終わった部品から組立を始めるのではなく、とりあえず全部の部品加工を完了させてから一気に組立てることにしました。そのために各部の寸法や仕上がりが問題ないことは仮組みをすることで確認し、必要に応じて修正しておきます。

  無蓋車の下回りは購入品の軸受けと外注加工の車輪をネジで組立てただけでした。デ1の時は2軸台車枠が外注溶接加工で、バネの部分が少し複雑になっておりチョッと苦労はしましたが、数日で組み上がりました。それに対して今回の台車製作については部品を素材から加工するという作業が延々と続きました。ボギー車なので4軸、8輪、部材によっては16個または24個の同一形状品を正確に製作する必要があり、治具や型板を使って能率の向上と均質化を図りました。機械力も同様の効果を発揮しており、投資効果は大きかったと納得しています。

ボール紙のマスターで切断線折り曲げ線をケガく       切断する          
 折り曲げる              ステム24個完成 

 切断箇所や穴中心位置は素材にケガキ針で線を描き入れるのが一般的ですが、素人の仕事ではどうしても誤差が大きくなってしまいがちです。そこで鋼材の表面にクリアまたはグレーのラッカーを吹きつけた上に油性の極細サインペンでケガキ線を描くことにしました。複数個の同一形状部品のケガキにはボール紙のマスターを使用しました。穴あけ治具は正確なケガキをした上で穴位置にφ2のキリ穴をあけ、基準となる縁を合わせてからその治具をガイドにφ2の下穴をあけて行きます。全部の下穴が開いてから所定の径のキリを通し、さらにねじ切りをすることで位置のバラツキのない部品が製作できました。下穴を開けてから大径のキリを通すとキリ先端が躍らず、切刃先も長持ちするようでサクサクと作業を進めることができます。

穴あけ治具(左)と穴加工済のフレーム   穴あけ治具を使って下穴加工中のステム  

加工が終わった組立前の全部品(ネジ類を除く片側の台車1台分)