2021/10/22

分岐器を作る 第1編

分岐器各部の名称
  まず、分岐器各部の名称を記した説明図を参照ください。米・英で呼び名が違ったり当然日本語になった際に変わって複数の名称が生まれたりするので絶対的なものではありません。主にWikipediaを参考にしています。

 各部ごとに製作の方針と作業経過を記していきます。並行して作業を進めたり、中断して他の作業にかかったりしたので、記述は必ずしも作業順とは一致しません。





先端部断面形状

(1)トングレール
 分岐器製作の最初に着手するのがトングレールです。鋭く尖った形を想像するだけで、これを作るのかと腰が引けます。付け根(リードレール側)はレールそのものですが、先端部の断面はL字型なので実物の場合はトングレール専用の部材があるようです。おそらく工場で鍛造か鋳造で作られるのだろうと思います。鹿部電鉄では独自のポリシーに従い、模型製作の経験を生かしてレールから削り出します。

 先端部は外側(基本レールに接する側)をまず平面に削り、内側の頭部だけを削って腹部と底部を残すことでL字型断面にします。細かいことを言うと、外側はその後基本レールの頭部に接する部分を凹ませるように削り取ります。実物の鉄道のトングレール先端は刃物のように薄く鋭く尖っています。高速で通過する時に少しでも衝撃が発生しないように研ぎ澄ましてあるのでしょう。当然熱処理をして曲がったり欠けたりしないような調質がなされているはずです。速度や重量が桁違いに小さい庭園鉄道では熱処理はおろか、先端部の一番薄い部分でも3mmの厚さを残すことで強度を保つようにします。この程度の(横方向)段差では脱線しないようにフランジ形状が工夫されているので心配は無用です(2021/5/22投稿の「鉄道用車輪の話」参照)

トングレールの加工
 直進側の加工の概略を、わかりやすくするために長さ方向を縮めて図に示しています。図からもわかるように、この通りの加工方法では頭部の内側の面が直線になりません。これを直線にするために小さな模型ではペンチでレールを曲げて修正すると前回書きましたが、6kgレールでは予め曲げておいてから真っすぐに削ることになります。ここでレールベンダーが登場というわけです。外側の面は基本レールに沿うように仕上げます。この加工は余肉を見て引いたケガキ線に沿って金鋸で切り取り、次いで電動グラインダーで余肉、段差、バリ、を削り取り、ヤスリで仕上げ、最後にサンダーで表面を整えるという段取りになります。書けば簡単ですが、鋭角の切り込みでは金鋸の弦が邪魔をして最後まで切り落とせません。反対側からも切り込んだり、グラインダーで強引に切り取ったりの力技で切り抜けざるを得ませんでした。今回この面の仕上げ角度をかなりな鋭角にしてしまったので、トングレールと基本レールが面接触しないという骨折り損をやらかしてしまいました。この動画はトングレール加工時のものではありませんが、レールを斜めに切るのがいかに根気のいる仕事か理解いただけると思います。

 片方のトングレール一本の加工に10時間近く(延べ日数では数日)を費やしてしまいました。もちろんこの中には素材の切り出しやサビ落とし、レールベンダーの調整なども含んでいるものの、もう一本の加工着手に少し戸惑ってしまいました。「分岐器を自分で作るなら2ヶ月はかかる。」と言われていたので、こんなことで気後れしていては先が続かないと自分に発破をかけて曲線側の二本目もがんばりました。おかげで能率も上がって幾分短い時間で加工は終わりましたが、金鋸やヤスリがけ作業の連続は肩からわき腹、腰に負担があるようで、しばらく張り薬のお世話になりました。それにしても削り終えたトングレールは、刀匠が研いだ日本刀のような鈍い輝きを放ち、魂が宿ったような妖しい空気を漂わせています。せっかくなのでクリアのラッカーを塗布して防錆処理をしました。

苦労の末削り上がったトングレール

 二本のレールの加工にケリがついたのはそろそろ裏の駒ケ岳が白くなる頃、里でも冬支度をしなければならなくなりました。やり始めて2ヶ月は経ったので本当ならすでに完成しているはずですが、そんなわけで分岐器作りは2年がかりの大仕事になります。

2021/10/11

レールベンダーの製作

 レールベンダーは基本的には両側のフックの部分とその中央を押すラムからなっています。機能的には市販の油圧式パイプベンダーと同じなのでレールに合うように改造する方法もあるようですが、パワーや改造の程度に不安がありました。厚鋼板を6kgレールの形状に合わせて加工してフックにすることにし、このフックとラムをどう組み合わせるかを色々検討しました。

 上図の①は原形のネジ式ラムを油圧ジャッキに変えたもので、当初近所の鉄工所に放置されていたものが入手出来たらこういう形にしようと考えていました。これは鍛造品で、専用の加工機がないと真似て作ることはできません。②はその代替案、フック部を厚鋼板として木製の底部を挟む構造ですが、100mm角材が折れることはないもののネジ部で割れが発生する可能性があります。そこで鋼板を曲げて材木を抱える案が③です。強度的には②より優れていますが、ここまでするなら鋼板をコの字型に曲げる方が部品点数も減ってコストは下がるはず、と考え、最終的には一体型にしました。同じ理由で3枚の鋼板を溶接組立にする案は除外しました。レールの剛性に負けてベンダーが変形・破損するようなことがないように要所の強度計算をし、必要な肉厚確保と補強を追加することで頑丈な構造にします。当然ながらレールを曲げるのにどれくらいの力が必要で、ジャッキの圧力を抜いたらどの程度のスプリングバックがあって、最終目標の曲率半径を得るのにどこまで変形させる必要があるのかなどを計算しました。その詳細な計算方法は材料力学と塑性学の教科書に出てくる公式や解説に書いてありますが、ここで紹介したところで面白くもなんともないので省略します。

 両フックのスパンを500mmとしてレールが永久変形を始める時のジャッキの荷重は590kgという計算結果だったので、ホームセンターで4tの油圧ジャッキを購入しました。ジャッキの寸法に合わせて図面を描き、いつもお世話になっている函館の柴田工作所を訪ね、加工が可能か確認しました。当初板厚は12mmとして強度計算していましたが、16mmでも曲げ加工ができるとのことだったので少しでも頑丈にと思い変更しました。加工が終わったフックにジャッキと補強材を取り付け、試しに端材のレールをセットして加圧してみると見事くの字に曲がりました。もちろん曲がったのはレールの方で、ベンダーの変形は全くありませんでした。ジャッキハンドルの可動範囲が少し狭いので改良の余地がありますが、かくの如く頑丈な割に近所の鉄工所で見失ったΨ型の鉄の塊より遥かに軽量で、一人で持ち運ぶことができます。結果的にはこの方が良かったような気がします。

完成したレールベンダー



2021/10/06

分岐器の計画と準備

  電車がとりあえず完成した(内装やブレーキなど未完成です)ので次は線路を延伸しようと考えました。最終目標は母屋を一周するエンドレスです。これまでの線路は途中にS字カーブをはさんだ全長約30mの往復路で、全体計画図に示された南側(図の下部褐色)の部分です。一端は道路に面し、他端はウッドデッキ横づけなので、買い出し時の運搬やカヌーの積み出しに便利であり、運転を楽しむのにもそれなりの距離があって満足はしていました。エンドレスにするには樹木の伐採、築堤の造成、橋梁の建設などの課題があります。庭仕事で出てきた土石の捨て場に困った時に築堤予定地に盛土をしたり、花壇の中の線路が通ることになっている場所には意識的に植栽を避けていたり、ということもあって部分的にはそれらしい地形が形成されています。道行く人から「一向に線路が延びませんねぇ。」と冷やかされた時には「ほら、少しずつ準備は進んでいるンですよ。」とかわしながら、いよいよ本腰入れてエンドレスの建設に着手しようと思うようになっていました。そこに直面する最大の不安と期待が分岐器の製作です。レールを曲げ、切り、削って、繋ぐ作業が必要になります。全部自分でできるかという心配がある一方で、溶接をせずに組み立てる秘策を考えて挑戦してみたくなりました。

全体計画
下の褐色の部分が既設区間

 S字カーブの東側の線路(5.5m)と同じ長さの分岐器を作って既設線路を置き換えることにします。このS字カーブのレールは202012月の投稿「レールを曲げる」で説明した通り、2本の立木にレールの一端をかませ他端にかけたロープを引っ張って曲げたものです。曲率は計算したわけではなく結果的に半径が約5mになっていますが厳密には円弧ではありません。そこでまずこの線路の形状を実測して、同じ寸法の分岐器が製作できるように図面化することにしました。分岐角度は14°、番数でいうと#4相当ですから、非現実的な急分岐ではありません。できた分岐器の図面から必要な部材ごとに寸法を割り出して加工していきます。

S字カーブの半分をこの分岐器に置き換えます

 昔、16番のレイアウトでポイントを自作したことがあったのでトングレールを含めて各部材の形状は理解しているつもりです。模型のトングレールは真鍮製レールの先端の片面に平ヤスリを当ててゴシゴシと擦り、頭部の反対面も少しヤスってペンチで曲がりを修正すると出来上がり。失敗しても作り直せば済みます。ところが6kgレールでは真鍮レールと同じように全部を削って作れなくもないでしょうが、あまり賢明な方法でないことは誰が考えても明白です。金鋸で斜めに切り落としてグラインダーで粗削りをしてからヤスリで仕上げるという手順になります。削った後ペンチで曲げて修正というわけにいかないので、予めレールを曲げておかなければなりません。こういう修正が出来なければ最初から作り直しになってしまいます。というわけで結局ほとんどが手作業、つまり図面はあっても金鋸とヤスリが頼りの現物合わせの世界です。鉄工所に依頼してフライス盤で加工したら仕事は楽ですが結局修正に追われかねません。トングレール以外にフログやウイングレールの製作の際にもこういう作業が必要になります。

レールベンダー
上士幌鉄道資料館
 削る前に曲げておく必要があるということは、まずレールを曲げる道具を入手しなければなりません。前にも少し触れた通り近所の鉄工所のガラクタ置き場に、かつて博物館で見たことのあるレールベンダーと思しきΨ型の鉄の塊が放置してあるのを見つけました。ところが、捨てるのなら声をかけてと頼んでいたのにいつの間にかなくなってしまっていました。フックの形状から考えてどう見てもレールを曲げるために使う道具としか思えず、しかもなぜそんなものが漁業の町の鉄工所にあったのか不思議でなりません。いずれにしても大変残念ですが、こうなったら自分で作るしかありません。