2021/11/29

分岐器を作る 第6編

 (10)線路延長工事(曲線路の敷設)

 無蓋車と電車の試運転結果が想像以上に良かったので、エンドレス側に線路を延長することにしました。フログから1mほどしかなかったので車両の留置さえもできず、このままでは分岐器を新設した意味がありません。線路がY字型になると入れ替えができるようになり、電車ごっこも俄然面白くなりそうです。5.5mの未使用レールが3本残っていて、既設線路から外した1本と合わせると10mくらいの敷設が可能です。分岐の先は半径5mの曲線で約90°曲がって直線が延びる予定です。レールベンダーでは分岐器の一部のレールを曲げましたが、定尺の全長に亘って一定の曲率に加工するのは初めての経験です。

 敷設に先だって線路用地の測量をします。分岐の先端から直角に線を引き、5m先に10mm角の杭を打ち込んで曲線路の中心にします。この杭にヒモを掛け、4.5m5.5mの位置に小さな輪っかを作り、そこに差し込んだ棒をコンパスにして尖った先で地面に1m幅の線路用地を描きます。この作業は順調に進みましたが、用地の先には白樺の大樹が立ちはだかっているではありませんか。全体計画図ではこの白樺をうまくかわしてガレージの後に到達するはずです。何度も計画図と実際の測量結果を見比べてみると、どうやら分岐器先端の直線部が1mほど長すぎたことがわかりました。計画図ではほぼフログあたりから曲線が始まることになっていました。計画段階では基本的に曲線半径を5mとしていましたが、この問題を回避するには特例として半径を4mにするしかありません。あらためて中心の杭を打ちなおして半径3.5m4.5mの用地境界線を描き直しました。

計画と実際の線路の食い違い

 幅1mというのは道床(砂利)のことで、地面を掘り込みます。傾斜地を進むにつれて路盤は地面から出てきて曲線の最後の方の道床は見慣れた台形断面になり、その先さらに地面は低くなって盛土の路盤に続きます。ここまで来て砂利のストックが底を尽きそうになったので路盤と道床の造成は一旦打ち切り、線路の敷設に取りかかることにしました。前述の通り定尺レールの曲げ作業が待っています。

定尺レール曲げ作業時のテーブル配置
 レールを地面に置いてレールベンダーで曲げ作業を行うことが、高齢者にとって大変な苦行であることが想像いただけるでしょうか?レールの斜め切り、車庫建設、土木造成作業など老体に鞭打ってかなりの無理をしてきましたが、作業意欲の醸成という観点からレールベンダーの設計と並行してDIY環境整備をしていました。適正な高さにレールベンダーを置く頑丈なメインテーブルと余分なレールを支えるサブテーブル2台を予め作ったのでした。サブテーブルは曲げる位置によって、両側に置いたり片側に2台並べたりと機動的に移動できるようにします。当初レールベンダーはメインテーブルに固定していましたが重量があるので動き回る心配はなく、ある位置の曲げが終わって次の位置にレールを送る際に固定されていない方が使いやすいことが作業中に判明して固定用ネジは抜き取りました。

 連続して一定の半径の曲線になるようにレールを曲げるにはどうすればよいか?送り量を変えて試してみました。つまり、一ヶ所の曲げ作業が終わった後レールベンダーのスパンである500mm送って次の曲げ作業をする場合と、半分の250mm送って曲げる場合で仕上がりにどのような差が出るかを比較しました。結果、500mm送った場合レールの形状は図のようにいびつな曲がりになるのに対して、250mmでは見た目滑らかな曲線になることがわかりました。これは理論的にも説明ができ、ラムで押される中央部は曲げモーメントが最大になって曲率が最大(半径が最小)になり、フックの部分はモーメントが0になるので全く曲がらない(直線のまま)ために起こる現象です。スパンの半分だけ送った場合も場所によって多少曲率の変化はあるのですが、それは厳密な測定をしないかぎりわからないということです。

レール曲げにおける送り量と仕上がりの関係

 レールベンダーのラムでどれだけ変位を与えれば最終的に半径4m(または5m)になるか、これは事前の理論式での近似計算によって、7mmの変位で半径が約5.5mになる予測をしていました。250mm送りの実測の結果では、9mmの変位を与えると半径が約4mとなりました。とはいえ大雑把な話で、曲線の内側と外側の15インチ(0.4m)の差を意図的に作り出すことは難しく、曲げ終わった2本のレールを見比べて曲率の大きい(半径の小さい)方を内側にしてゲージを計りながら修正する方法を採りました。

久しぶりの線路延長でした

 テーブルの導入によって、修正を含めて50ヶ所以上に及ぶ曲げと送りを繰り返す作業は想像以上に順調に進めることができました。こうやって曲げたレールを道床の上に並べた枕木の上に置き、犬釘で固定して砂利を入れる手順はこれまでと同じです。完成した線路に電車を乗り入れると世界が広がったような感覚がし、あらためて庭園鉄道を自宅に持つ喜びがこみ上げて来ました。ここまでに撮りためた写真や動画を編集し、「分岐器製作大作戦」としてYouTubeにアップロードしました。最後の方にテーブルを使ってレールを曲げる作業の様子が映っています。


 以上をもって「分岐器を作る」を完結します。

2021/11/22

分岐器を作る 第5編

 (8)試運転

 レールが繋がれば一刻も早く運転したいものです。ただ、水平確認しただけでいきなり電車を走らせて万が一脱線でもすると大変です。まずは無蓋車を手押しでゆっくり通過させます。最大の不安はフログでの脱輪です。分岐角度が小さいので動線に沿ってウィングレールとフログの間に大きなギャップがあり、乗り移る際に車輪が落ち込んでしまわないか、落ち込まないまでも衝撃や乗り心地への影響が大きくならないか心配していたのですが、結果的にはそれは杞憂でした。車輪の踏面の幅が想像以上に広いのでスムーズにウィングレールからフログへ乗り移っている、つまり一時的には両方のレールに乗っている状況を経て通過していることがわかりました。もう一つの懸念は異線進入です。この時点ではまだガードレールを取り付けていないので、フランジがフログの先端にぶつかったりそのままあらぬ方向に進んでしまったりしないかを確認しました。こちらも結果は上々で、直線側、曲線側とも普通に無蓋車を押して走らせる限り異線進入は起こりませんでした。ただこの部分を通過中に車体を横方向に押すと脱線が起こりえることを確認しました。結論としてガードレールは必要です。ただ常時ガードレールでフランジの内側を案内するのではなく、異常な外圧が加わっても車輪がフログ部で異線進入を起こさない程度の位置に設置することが望ましいと判断しました。


(9)ガードレール

 路面電車では溝付きレールでフランジを案内することによって決まった軌跡から逸脱せずに運転されていることを書きました(2021/5/22投稿「鉄道用車輪の話」)。鹿部電鉄では溝付きレールは使用せず、基本的にガードレールは異常時の脱線防止策として機能するようにします。高速鉄道と同じ考えです(エヘン!)

 そこでガードレールは、①通常の運転時には車輪と接触せず、②外部から力が加わって押されても異線進入しないようにフランジ内側を案内し、③外力が加わった状態でガードレール部に進入しても衝撃が生じない、このような形状と位置に設置することにします。具体的にどのような形状にするのがよいか、木製(枕木)のガードレールを設置して検討することにしました。ちょうど良さそうに反りが出て曲がった枕木があったので曲線側に置いて上記の①から③の条件を満足する最適な寸法を測定し、最終的にレールを曲げてガードレールを製作、設置します。ただしレールベンダーではスパンの関係でどんな形状にでも曲げられるわけではないので、実際に試行錯誤しながら設計していきます。

 通常ガードレールの両端は線路の内側へ曲げてあります。ウィングレールの先端も同じ形状になっていて、その目的は脱線復帰機能を持たせるためです。実際に後部車両が脱線したまま走行していた貨物列車が分岐通過した際に復線して何事もなかったかのように運転を続けていた事実があるようです。旅客や車掌の乗った列車ではこんなことはあり得ませんし、鹿部電鉄でも脱線復帰は期待しないものの、見た目はリアルに再現したい気持ちはあります。前述の通りウィングレールの曲げが思い通りに行かなかったのでどうしたものか悩みながら、その先端は頭部を斜めカットすることでお茶を濁しているのが現状です。実はこれと同じ形状のガードレールをJRの分岐器観察中に見つけたのですが、昭和の始めにこのようなものがあったかどうかはわかりません。

JRの先端カットガードレールと鹿部電鉄同ウィングレール  

 ところが昔の絵葉書と思われる大沼電鉄鹿部駅の写真を拡大してみると、ウィングレールもガードレールも先端はカットではなく曲げてあるようです。

鹿部駅(時期不詳)

2021/11/15

分岐器を作る 第4編

 仮組みで問題のないことを確認したらいよいよ分岐器の敷設工事に取りかかりますが、その前に分岐器製作で工夫したことについてお話ししておきます。

 (6)レール穴あけ治具

 分岐器を製作する場合、レールを短く切ったり、組立後に左右の長さを調整したりという必要が出てきます。切ったら繋がなくてはならないので継ぎ目板(ペーシ)を取り付けるための穴あけをしなければなりません。レール端部の穴径と位置はJIS規格E1103で決められています。元がインチ系の寸法なので小数点付きの細かい数字になっていますが、バカ穴でいいので神経質になる必要はありません。とは言うものの手持ちの電動ドリルで大径の穴あけをしようとするとレールは表面硬化していることもあって刃先が走って狙い通りの位置に加工できません。そこで正確な穴あけ加工ができるように簡単な治具を作りました。t4.5×32の帯鋼から図のようなガイド板を作ります。このガイドは下穴をあけるためのものでφ5です。ガイドとレール端部を面一にしてクランプで固定してから小型の電動ドリルで下穴を加工します。その穴をガイドにしてφ12.7(φ12~φ13で可)のドリルで正規の径に広げ、丸ヤスリでバリ取りをすれば加工完了です。ステップドリルとかタケノコドリルと呼ばれるものを使うとバリ取りする必要もなく小型の電動ドリルで最後まで加
工できます。

レール端部の継目板用穴 JIS規格と穴あけ治具
治具をクランプし     φ5の下穴をあけ    φ12.7に拡大する
↖ステップドリルを使うと便利

(7) 分岐器敷設工事

 さて、分岐器を計画していた場所つまりS字カーブの東側の線路の位置に敷設します。一旦5.5m分の線路を取り外し、道床(砂利)を撤去して路盤(地面)を現状よりさらに掘り込みます。これは既設部分の枕木の厚さが50mmであったのに対して分岐器部分は70mmとなるためです。さらに線路を取り外してわかったことですが、枕木下の砂利厚さが薄いためか水はけが悪く一部の枕木が腐っていたことからその対策として砂利層を厚くしようと考えたことにもよります。

 線路撤去は、犬釘抜去、レール移動、枕木掘り出し、砂利除去、路盤掘り込みの順に行います。犬釘は最初に打ち込んでから7年が経っていました。ついこの間のように思っていましたが、そんな年月が流れていたのかと思いながら一抹の不安を抱えていました。202011月投稿「最初の犬釘」で書いたように「何年か経って釘が錆びた時も同じような力加減で抜くことができるかは確かめる術がない。」というものです。結論から言うと、幾分は抜き難かったけれど犬釘が錆びついてビクとも動かないということはありませんでした。硬いクリ材の中で木と鉄が密着していたため酸欠状態で錆の発生が抑えられていたのでしょう。一方で継ぎ目のボルト(モール)は雨ざらしのもと錆が進行して固着し、取り外しに苦労しました。前述のように枕木の一部は腐敗していました。敷設時に防腐剤の塗布をしていてもいつまでその効力が持続するかは疑問です。砂利の厚さを増すことに加えてなんらかの対策が今後線路延長時の検討課題となりました。

下半分が腐った枕木


 既設線路から除去した砂利には、規格外の大石小石や異質な石(火山岩)、木の枝、根、実(クリのイガ)、キノコや昆虫の残骸など色々な物が混入しているので、ふるい分けたうえで洗浄して再利用します。7年のうちに散乱して量も減っているし、道床が厚くなる分も補充しなければなりません。

路盤の掘り込み
 既設線路の撤去に続いてエンドレスに繋がる線路の路盤の掘り込みを行います。久しぶりに連通管式水準器が復活して、分岐部のすべての箇所で水平が出ていることを確認しながら掘ったり埋め戻したりします。もともと地面が傾斜しているのでエンドレス側に進むにつれて掘り込みが浅くなっていきます。錯覚しがちなので目視だけでの作業は禁物です。次に砂利を入れ枕木を並べた上にレールを置くのですが、ここで大問題発生。曲線側(既設側)の基本レールが前後の既設線路の間に入りません。叩いても捩っても収まりません。5.5mでわずか0.5mm程、全長の1万分の1ですが新線の曲率が甘かったのでしょう。無理に入れて継目のスキマがなくなったり、夏の熱膨張で線路が曲がったりという副反応も心配です。思い切って3mmほど切り落とすことにしました。レールを切るのは慣れているので30分もあれば仕事は終わる、と思っていました。実はこれが落とし穴でそれだけではなく、継ぎ目板(ペーシ)とレール端の位置がずれるために穴を広げなければならず、電動工具がないのでヤスリを使う手仕事になってしまいました。

 仮組みの際に描き入れたマークを頼りに互いの位置を確定していき、必要に応じてスクリューで仮固定しておきます。ゲージを確認しながら基本レールの端から順番に犬釘を打っていき、フログ、リードレールを固定、トングレールとその関連部品を結合します。犬釘を打ち込むと砂利の中に枕木が沈み込み、別の場所でレールが浮き上がることになるので、その都度レール上面の水平を確かめます。沈んでいる場合はL型バールで枕木をもち上げながら別の棒で砂利をザクザクと押し込む、いわゆるマルチプルタイタンパーの作業を人力でやる感じです(一人でやるのでシングルタイタンパーです)。この段階で枕木の間に砂利が入っていると浮いた枕木を沈めるのがいささか厄介になるので、全部の結合が終わってから砂利を充填します。7年前に初めて犬釘を打った時と比べると老齢化で腰椎が硬くなり、立ち屈みが大儀、根気が続かないだけでなく、トイレも近くなって頻繁に作業中断するなど能率の大幅低下が否めない状況になっています。

佳境に入った分岐器敷設工事

2021/11/06

分岐器を作る 第3編

  レールの斜め切りが終わってホッとしました。ここまで来たらもう少しと思っていましたが、どっこいすることは次々と出てきます。

(4)その他のレールと枕木

曲率を比較しながら曲げます
 分岐器が完成したら既設の線路と置き換える計画です。だから分岐の曲線側の基本レールもリードレール、トングレール同様既設線路の上において同じ曲率になるように比較しながらレールベンダーで曲げます。既設レールを外して使うと理想的ではありますが、工事が終わるまで運転ができなくなる期間が長くなって買い物やカヌーの運搬など色々と問題があります。一方左右で長さの違うレールを思い通りに同じ曲率に曲げるのは難しく、詳しくは後述しますが、完成した分岐器が前後の既設線路の間にピッタリと納まらなくなるという事態を招いてしまいました。

仮置きの状況
 枕木はクリ材の□70×2000角材から、予め設計図に書き込んでいた寸法に切り出し、防腐剤を2度塗りして乾燥します。トングレールがスライドする部分の枕木は約4mm凹ませてから6個の研磨した平鋼板を皿ネジで取り付けておきます。またウィングレールの当て板が取り付けられる部分も凹ませておきます。これらを図面にもとづいて広い場所に並べ、レールを置いて左右の曲率やゲージを確かめます。同じように作ったはずでも並べてみると微妙な差があり、またまたレールベンダーで更に曲げたり戻したりして修正します。次にトングレールが動作する部分の基本レール内側は底部を切り欠いて密着するようにしておきます。レールの継目に食い違いがないか隙間が適切かなども点検し、必要に応じて置き直したり削ったりします。問題がなくなったら枕木にレールと犬釘の位置をマジックで描き、レール側にも枕木の位置を描き入れます。一旦レールをどけて枕木に描かれたマークに犬釘の下穴をあけておきます。こうすることで敷設予定地にあらためて枕木とレールを高い再現性で置き直すことができるわけです。

(5)転轍機構

 16番模型の場合、両トングレールは付け根部と先端部で真鍮板がはんだ付けされて四角の枠形となり、それぞれの真鍮板の中央にピン(ビスまたはハトメ)を取り付け、片方は回転中心、他方は左右に動かすことで分岐器の切り替えができるようになっています。一方実物の分岐器では、左右のトングレールはいわゆるリンク結合になっていて平行四辺形が歪むように動きます。鹿部電鉄ではこれもこだわって実物に倣うことにしました。分岐器メーカーのウェブサイトを見ると、近年の高速鉄道では可動部のレールの倒れやゲージの狂い、衝撃などを防止する目的で色々と複雑な仕組みが導入されていて、両トングレールも剛結合されているようです。しかし昭和の地方私鉄や森林鉄道、軽便鉄道の分岐器を観察してきた限りにおいて、それらはこの鹿部電鉄方式と大差ない機構になっています。
鹿部電鉄のトングレール結合         木曽森林鉄道の分岐器 

トングレールの継ぎ目
 リードレールとトングレールは継ぎ目板で柔結合します。一般の継ぎ目板は長穴になっていてレールの伸縮や誤差を吸収できるようになっています。一方この継ぎ目板は長手方向には自由度を持たせず、トングレールが首を振れるように少しばかり開き気味にしてあります。リードレールのボルト・ナットは強く締め上げ、トングレールの付け根はしっかり保持されながら継ぎ目板の他端側はレールとクリアランスが保てるようにボルトが取り付けられていますがダブルナットで緩みを防ぐ対処がしてあります。

 トングレールの先端は上述の通り左右がピンで結合されてリンクを形成しています。両者を結合している棒(バー)の正式な名称を調べたのですが的確な答えを見つけることができませんでした。ここでは転轍バーと呼ぶことにします。そしてこれと繋がって外部の転轍機(テコ)の動きを伝える部材を転轍棒と呼びます。転轍バーはすべて山形鋼や平鋼から金鋸で切り出してヤスリで仕上げた部品で構成されています。点数はありますが、レールを切ったり削ったりした後だったので大した苦労とは思いませんでした。ピンの役目を果たすボルトはやはりダブルナットで緩まないように締め付けてクリアランスを保ってあります。部品同士の結合に使用するネジは六角頭のボルトにしてあります。なぜならキャップスクリューと呼ばれる六角穴付きボルトやプラスネジが普及したのは戦後のことで、大沼電鉄が建設された昭和初期には六角頭とマイナス溝のネジしかなかったからです。転轍バーの裏側中央にはリンクボールを取り付け、転轍棒と連結できるようにします。見えないところでは時代を無視した便利なものを使います。今回はまだダルマ転轍器(テコ)が設計中で間に合わないので当面はレールを直接手で動かします。

2021/11/01

分岐器を作る 第2編

  トングレールはクリアラッカーのおかげでガレージでの冬眠から覚めてもその輝きを失うことはありませんでした。続いて色々な工程が待っています。

 (2)フログ

 近年の実物の鉄道ではフログとウィングレールは一体鋳造で成形した部材が使われていますが、例によってレールを削って製作します。レールの斜めカットはトングレールに比べて角度が少し大きいのでその分楽ですが、金鋸の弦が邪魔して一気に切り落とせない状況は変わりません。分岐角度(14°)で切ったレールを少しずらして継ぐ方法と半分の角度で切って重ね合わせる方法があり、後者にしてチョッと工夫をしました。

ずらし継ぎ         合わせ継ぎ         挟み継ぎ  
                                      (独断の呼び方です)

組立済フログ(仕上げ前)
 その理由は単純に斜めカットすると先端部は腹の部分がなくなってしまうからです。トングレールと同様に予め曲げておいて頭部だけを削る方法もありますが、斜めカットしても平板を両側から挟むとなくなった腹を簡単に復元することができることを思いつきました。よく見える所ではないし、腹がなくなっていても別にレールが荷重に耐えかねて変形するおそれもありません。これも偏執モデラ―のこだわりの一つです。レールの高さ(50.8mm)と同じ幅にt4.5の平鋼を切出し、2本のフログレールに挟んでクランプで固定しておいて腹の残っている部分に2ヶ所のφ4通し穴をあけ、片方のレールにはM5のねじ加工をしたうえで残りのレールと平鋼の穴をφ6に広げます。これらの間に接着剤を塗布してボルトで締め上げ、接着剤が硬化してからヤスリで余分の角を落とすとフログが完成します。

(3)リードレールとウィングレール

 リード部とウィング部は別々に切出してから溶接でつなぐのが真っ当な方法ですが、切り込みを入れて曲げ、腹部か底部に当て板をねじ止めすれば溶接する必要がなくなると考え、切り離さずに一体で作り始めました。リードレールの曲線側は既設レールの曲率に合わせて予め曲げておきました。リードレール/ウィングレールの折れ曲がり箇所でレール底部の片側(内側)に約5mmを残して分岐角度と同じ14°のV字型の切欠きを入れ、ウィング側を万力に挟んで「エイッ」と力を入れるとすんなり曲がりました。しかし、想定とは違って切欠きの形状が適切でなかったのかレール同士が密着せず、見事に失敗。得意満面のVサインとはならず、念入りな仕上げも徒労に終わりました。

     当初の目論見はこんな感じ            実際には断面が密着せず

レールの底にあけたネジ穴
 結局両者を切り離してから当て板で接合することにしました。t4.5×70mm×100mmの平鋼板に16ヶ所の皿モミ穴をあけた当て板を、裏返しで正確に置いた4本のリード・ウィングレールに重ねて穴位置を写し、レールの底部に下穴をあけてからM5のねじを切ります。この作業は16個のネジ穴位置がすべて正確に加工されなければネジが入らなかったり、入ってもレール同士の関係が設計通りにならなかったりします。案の定一部の皿モミ穴をヤスリで広げる羽目になりました。少し厄介でした。

 ウィング部の先端のフランジガイドも同様のやり方でレールを折り曲げるのが本来ですが、手抜きをして頭部のみを45°にカットしてそれに代えてあります。後述のガードレールも手抜きします。

タイバー
 4本のレールが繋がったとはいえリードレールの長さは1.4m、端部に力が加わるとモーメントになって付け根のM5ネジに大きな負担がかかり、極端な場合は剪断されてしまう可能性もあります。そこで両リードレールをタイバーで結合して剛性を高めてあります。実は、この加工は前述の当て板を取り付ける前に済ませてあり、当て板のネジ穴の位置決めの精度を上げるための一助にもしてありました。タイバーはφ10の鋼棒の両端にM10の雄ネジ加工をしたもので、リードレールの腹にあけたφ12の穴の両側からナットで締め付けてあり、曲線側はタイバーとレールが直交しないのでテーパーワッシャを介してあります。

 結果的に当て板とタイバーの組み合わせでリードレールとウィングレールは強固に一体化することが可能になり、溶接をしないで分岐器を製作するという秘策はチョッと形を変えて実現することができました。もちろんそれは同時に不安でもあったわけで、大きな達成感を味わうことになりました。