2026/04/19

待避線(余談雑談) 久しぶりの鉄旅

スタートは函館本線森駅
 体調が回復したのでかねてより計画していた札幌方面へ2泊3日の鉄旅に出かけました。家内同伴だったので純鉄ではなくて観光やグルメも織り交ぜ、それでいて単独行動時はどっぷり鉄にハマる半鉄旅でした。

 まずは岩見沢の空知鉄道訪問です。2021年11月に空知鉄道さんが鹿部電鉄を訪問下さり、その時に「是非空知鉄道さんへも見学に行きます」と約束しておきながらコロナ騒動や私の体調不良が原因で果たすことができず、ずっと心残りになっていたのでした。その間に空知鉄道さんには2両連結の赤い電車(国鉄711系がモチーフ)が増備され、新しい車両基地や線路の延長がされていました。6月には延伸開業式典もあるとかで、訪問時はその準備に忙しくされているところでした。レイアウトが大幅に変わっても鉄道はPoint to pointであるべきだとの拘りは持ち続けているそうで、私はループで無限運転を夢見ているのですが、気持ちは大いに理解できるところです。興味のない人からすれば何がそんなに面白いんだと言われそうな話題で盛り上がりながらも、気が付けば次のスケジュールが迫っていたのでお暇しました。

 札幌市交通資料館という交通局の市電・地下鉄・バス博物館があり、そこには私の大好きなディーゼル路面電車D1040が保存展示されています。実は鹿部に移住してくる以前の2010年に見学したことがあってこちらに来てからもずっと再訪したかったのですが、2017年からリニューアル工事でずっと閉館していたのでした。お目当てのD1040がなくなったかもしれないという情報があって心配していたのですが、健在(?)が確認出来てひと安心。退色や発錆があるものの、今でも時代を感じさせないどころかあらためて現代の電車に見習ってほしいと思うような端麗なデザインにうっとりしてしまいました。一部の車両が入れ替えられていて近年廃車された親子電車のM101が追加保存されていました。ただしTc1と離れた場所に置かれているのは博物館として思慮不足(資金不足?)としか思えません。

再会できたD1040     と     M101と簡易密着連結器

 もう一つ久しぶりの市電に変化があったのがすすきの付近での路線ループ化です。と言っても2015年のことで、この目で見るのは初めてになります。札幌駅前通をサイドリザベーションで南北に電車が走り、ニッカウヰスキーのヒゲのおじさんの前を大回りして月寒通に向かいます。すすきの電停の西側に路面電車としては珍しい引き上げ線が増設され、さらに渡り線までありますが一体この線はどのように使われるのか興味が尽きません。ここからまず内回りの電車(3車体ポラリス)で循環線を所要55分で1周、お好みの電車に乗り換えてさらに3周しました。日が暮れてこの日の鉄活は終了です。

__外回り線の大カーブ         すすきの電停西寄りの引上げ線

 札幌からは特急でさっさと帰りたがる家内の説得に成功し、廃止バス転換が決定された山線での普通列車の旅を楽しむことにしました。”DECMO”の愛称で呼ばれるH100型気動車に乗るのは初めての体験です。鹿部電鉄で製作中(計画中)のキハ40000と同じディーゼルエレクトリックなので、どんな音がするのか、どんな運転操作なのか、と興味津々です。結局床面から聞こえるエンジンの騒音はキハ40以上に耳障りで、運転操作は電車と同じワンハンドル、圧力と速度以外のメーター類はモニター上に選択表示されてほぼすべてがコンピュータ制御されていることが窺えました。今どき珍しくなったクロスシートの座り心地はどうかと言うと、座面の奥行きは浅くクッションは硬い、その割に尻が痛いとか疲れるということはなく、むしろ足元が広い感じがして旅情を楽しむのには適していると思いました。倶知安に近づくと羊蹄山の威容が車窓に迫り、鉄旅は最高潮に達します。車内は地元客と通学生が多くを占めており、新幹線が開通したら在来線を廃止するという理屈の妥当性は全くもって理解できません。

____札幌から小樽までは733系      小樽からは一部クロスシートのH100

残雪が美しい羊蹄山
 というわけで、まずは近場のお試し旅行は全くトラブルなしの大成功。次は津軽海峡を渡って青森からリアス海岸めぐりかなとか、想いを巡らしています。

2026/04/09

車止めの修復

  昨年11月18日に「冬支度」のタイトルで、道路に面した終端部に設置していた車止めが腐朽してレールと上部が分離してしまっていることを報告しました。「後ろ向きの仕事は来春のとっかかりにする」と書いているので、少し暖かくなった数日前から取り外して線路脇に置いてあった車止めをまず解体しました。最初に作った時の設計図が保存してあるので、枕木を所定の長さに切断し、防腐剤を塗布乾燥してから組み立てます。


 旧車止めから取り外したレールを新しい枕木に打ち付けますが、この作業は何年ぶりでしょうか。分岐器の先にエンドレスを延長したのが2022年の晩秋でしたから、かれこれ4年近く犬釘打ちをしていなかったことになります。中腰の作業は次の日にぎっくり腰を誘発するので庭仕事用のコマ付き椅子に座りますが、今度はちょっと離れたところの道具に手が届かず、立ったり座ったりするうちにまた腰が痛くなってきます。

 設置場所の砂利を除去してから出来上がった車止めを置き、砂利を戻してレール上面高さを調整、ペーシ・モール(継ぎ目板)で既存レールに接続します。砂利には泥や草の根、木の葉などが混ざっているので高圧散水で吹き飛ばすと見違えるばかりにきれいになりました。

2026/03/30

グリーシング

  鹿部電鉄は雪のシーズンもできるだけ除雪をして通年運転が可能となるように努めています。とは言え考えてみると今冬は実際に雪の中を電車が走ることはありませんでした。庭の雪もほとんどなくなり、そろそろ運転のための整備をしようと思いながら、暖かい日には試し釣りに出かけてしまうのでなかなか始まりませんでした。今日は日差しがなくて肌寒く、暖房の効いた部屋から出るのに勇気が必要でしたが、近々お客様の訪問があるので運転を披露することにもなるかと重い腰を上げました。雪が積もるほど寒いときは積極的に雪かきするのに、春になったら外に出るのが億劫になる心理は我がことながら理解できません。

屋根から落ちた雪が残っていますがこれが最後の塊です

清掃します
 久しぶりにデ1の車内を見渡したところ、クモの巣や虫の死骸、木の葉、石ころが転がっていて、まずは掃除が必要と判断しました。床板を外して駆動部を見るとチェーンもスプロケットも赤錆に覆われてカラカラになっているではありませんか。やはり掃除機で枯葉と石ころを取り除いてから潤滑油をスプレーし、続いてグリースを塗布しました。動かしていなかったので油切れでも異常摩耗が進んでいるわけではなさそうです。注油が済んで試運転をしたところ、走行音は心なしか静かに感じられます。何カ月ぶりかの通電でバッテリー電圧は少し低めになっていました。

カラカラに乾いたチェーンとスプロケットにグリースを塗布します


 トの車軸にグリースを塗布し、キハのペデスタルにもグリースを塗布しました。この部分は構造的に直射日光に晒され、雨ざらしでもあるのでうっかりすると枯渇してしまいます。逆に注油はしやすいので定期的にメンテを怠らないように気を付けます。

 夕方になって気温が下がり、指が凍えて痙攣していました。春とは言えまだまだ寒い!


2026/03/21

待避線(余談雑談) 春の嵐

  昨夕から降り始めた雪混じりの雨が夜半に突風を伴うようになったのは知っていましたが、朝起きたらなんと線路を跨いでいたパーゴラが崩壊していました。このパーゴラは将来エンドレスになる曲線部にありましたが、そこに線路が敷かれるずっと前、バラの苗が植えられた時にからまって成長できるように設置したものです。SPF材で作ったので風雨に曝されて根元は腐り、触るとグラグラしていました。全壊状態でしたが、幸いバラは無事でした。

無残に崩壊したパーゴラ

2016年に作成したパーゴラの設計図

 パーゴラが設置されたころに開通した北海道新幹線がまもなく10周年を迎えます。同じ日に開業した道南いさりび鉄道でも記念イベントが目白押しです。去る3月14日のダイヤ改正でJR線からは全廃されてしまったキハ40がなお主力で働いており、旧国鉄色の2両編成記念列車が今日、明日の2日間函館本線森駅まで駒ケ岳を往復周回します。

塗り替えただけでチョッと高級な感じになるキハ40

タラコ色ながら方向幕は「急行」です

 自宅裏手の踏切で列車の通過を待っていると何台かの乗用車が走って来て、勝手知ったるが如く線路脇のスペースに駐車したかと思ったらカメラを持った鉄っちゃん達は線路沿いに撮影場所へ移動していきました。地元民かと思いましたがナンバープレートを見るとレンタカーらしく、ということは全国から集まってきているのでしょう。ご苦労様です。

2026/03/11

待避線(余談雑談) 春の陽気に誘われて

  鹿部では今冬降雪量が少なく、2月末にはあちこちで地面が露出してフキノトウが芽を出し、このまま春になるのではないかと思わせる日が続きました。その後辻褄を合わせるかのように湿った雪が降って重たい雪かきに苦悩しましたが、それも数日で融けて今日は朝から暖かい陽光が射しています。

 年明けの手術のおかげで体調は万全となり、差し控えていた運動や外出も復活、それで少し長めの散歩にでかけました。青空が広がり、空気が澄んでいることもあって陽が当たるとポカポカしますが、空気の温度はまだ一桁なので手袋がないと肌寒い感じは否めません。

 家を出て数分歩けば大きなリゾートホテルが建っています。数年前から休館していたところ、別の事業者が5月から営業を再開するとの情報があり、周辺では活気が戻ると期待が膨らんでいます。遠方からの鹿部電鉄訪問は便利になるかもしれません。

 ホテルの前にはゴルフ場が広がっています。ここも一度はほぼ全面的に芝が広がっていましたが、先日来またうっすらと雪に覆われてしまっています。ここのTグラウンドからは噴火湾の向こうに室蘭一帯が見渡せます。

 ゴルフ場の隣にあるのがリゾートのサロンです。デベロッパーの現地管理事務所があり、集会室や展望席が自由に使えてセルフサービスでコーヒーやお茶もいただけます。

 自宅近くまで戻って来たついでに函館本線の踏切に立ち寄りました。線路わきの残雪には動物の足跡が多数あり、上空からは北に向かって旅立つ白鳥達のにぎやかな鳴き声が聞こえてきます。

 自然に囲まれた雰囲気を満喫していると、はるか彼方から何やら轟音が響いてきました。音の主はレッドベア。8時半の函館行きを最後に客レは15時半まで来ませんが、カモツは1、2時間に1本くらいの割合でダイヤが組まれています(日によってウヤあり)。ここの線路は数十年来レール交換されていなかったので酷く凸凹しており、コンテナが揺れて脱線しないかハラハラしながら見守っていましたが、最近やっと整備されて普通の線路らしくなりました。大沼あたりまで全線の整備が完了するまで40km/hの速度制限はまだしばらく解除されそうもありません。

 何年か前の散歩中に撮影した線路の画像を思い出しました。脱線しかねなかった線路の旧談です。左は取り外して鹿部駅構内に積み上げてあったレール端面の摩耗状態、右は継ぎ目部を車輪が通過したときに叩かれて扁平に剝離変形した部分です。

 左は線路をズームアップした画像、右はそこを通過するトランスイート四季島、乗客はローカル線らしい心地よい揺れに酔いしれていたことでしょう。

2026/02/20

待避線(余談雑談) トルクの話

 エンジンの話のついでに余談雑談を続けます。あまり面白い話では有馬温泉。

 エンジンに限らずモーターなどの原動機の出力は回転数とトルクで表示されます。トルクは回転力と呼ばれることもあり、軸中心からの距離とその位置で取り出せる力の積、つまり㎏mという単位あるいはNm(下記参照)で表されます。またポンプなどの負荷では同じ単位でどれくらいの回転力が必要か、が示されます。支点からの距離と回転力を生み出す力の積は一般的にモーメントと呼ばれ、特に細長い軸の中心線周りの回転力のことをトルクと呼びます。トルクとモーメントは力学的には同じことを指しています。

 注記 本稿ではkgは質量(目方)ではなく力の大きさを表しています。正確を期すにはkgfと書くべきですが余計わかりにくくなるので略します。なお1kg=9.8Nで、Nはニュートンと読む国際単位系における力の単位です。

偶力の不思議

 例えば地上にある岩のてっぺんを押して転がそうとする場合、岩の高さが0.5mで押す力が10㎏であったとすると、この岩に加わるモーメントはM=0.5m×10㎏=5㎏mということになります。ここで岩に加える力は10㎏だけですが、実は言葉に出てこない隠れた力が働いていることにお気付きでしょうか。岩を押すと地面との摩擦で、岩を押した力と反対向きで等しい大きさの力が反作用または反力として岩に加わっています。これを偶力といいます。岩の高さの半分の位置にある仮想の点のまわりのこれら二つの力のモーメントを計算するとM=0.25m×10kg+0.25m×10㎏=5kgmとなり、地面(底面)上の点のまわりのモーメントと同じです。つまり偶力によるモーメントは常に一定でM=L×Fとなります(M:モーメント F:偶力 L:偶力間の距離) 。また例えばボルトを締め付ける時に長さ0.5mのスパナの先端に10㎏の力を加えると、ボルトとの間にも加えた力と同じ大きさの反力が生じていて、この偶力によるモーメントM=0.5m×10kg=5kgmがねじを締め付けるトルクになります。

エンジンのトルク

 エンジンのトルクはどうやって発生するかと言えば、シリンダーの中で燃料が爆発的に燃焼膨張してピストンを押す力がクランクシャフトに伝わり、その力とクランクピンの中心軸からの偏心距離の積がトルクになるわけです。クランクシャフトは回転しているのでトルクは時々刻々変化しており、しかも通常シリンダーは複数あるので、それらの合計(積分値)が出力トルクになります。4サイクルエンジンでは2回転の内の半回転分が爆発行程でこの時だけ正のトルク(赤線)が発生しますが、残り1回転半は排気、吸入、圧縮行程で他のシリンダーの出力か慣性力によって駆動されます(負のトルク青線)。


 22/10/30投稿の「ディーゼルエンジンの話」で書いた通りガソリンエンジンに比べて一般的にシリンダー内の圧力が大きいのでそれだけ発生するトルクの総量が大きくなります。単純にトルクが大きいと言えば語弊があるので、実はトルク特性が異なると言います。当然加える燃料の量(スロットルの位置)や回転数によって発生するトルクは変わるので、横軸に回転数、縦軸にその回転数で発生しうる最大トルクをグラフにしてトルク特性と呼びます。これを比較するとガソリン機関は高い回転数でトルクが高くなるのに対してディーゼル機関では比較的低い回転数領域で高トルクが発生することが解ります。出力はトルク×回転数で計算できるので出力特性を青線で書き加えると図のようになります。出力のグラフの右端が最大出力を示すわけですが、この部分ではディーゼルのトルクはそれほど大きくないので上に書いたように最大出力で比較すると見劣りしてしまいます。この性能差を乗用車で乗り比べると、「ガソリンは高回転で馬力を発揮する」のに対して「ディーゼルは中低速で粘り強い」という評価になります。これらは急加速や急勾配でアクセルを一杯踏み込んだ時の反応であって普通の運転でその差を感じることはあまりありません。

ガソリン機関とディーゼル機関のトルクおよび出力特性の違い
エンジン形式個々の差があるので一般的な特性として示します

トルク特性に対する誤解

 上に書いたガソリン車とディーゼル車の差はクルマ雑誌などに書いてあり、わざわざ高価なディーゼル車を購入するユーザーはそれを理解しています。ところが、こんな話を聞いた(読んだ)ことがあります。「発進時に雑なクラッチ操作をしてもエンストしない。」「渋滞に巻き込まれた時アクセルを踏まなくてもエンストせずに一定速度で走ることができる。」という体験談です。いずれも低速トルクのお陰だとの注釈が付いていました。ディーゼルエンジンがエンストしにくいのはアイドルガバナーが付いているからで、負荷がかかって回転数が低下すると燃料噴射量が自動的に増加して回転数を維持するように制御されているからなのです。ディーゼルエンジンのトルクが大きくなるのはアイドルよりもっと上の回転数領域のことです。ガバナーが回転数制御しているというのも広い意味でディーゼルエンジンの特性かもしれませんが、中低速トルクが高いこととは別の話です。

後日追記 私は長い間MTのガソリン車に乗ったことがなかったので時代錯誤的なバックグラウンドでの記述をしてしまいました。近年の自動車は電子制御(ECU)が主流になり、ガソリン車でもアイドル回転数が設定値を下回ると直ちに燃料が送り込まれて、設定値を維持するようになっているようです。つまり新技術がエンジンの弱点を補正してくれるようになったわけで、併せてハードウェアの改良でトルク特性の改善も行われているようですが、一般的なガソリン機関とディーゼル機関の特性の差については記述の通りです。

「トルク」という言葉に対する誤解

 低速域で高トルクを取り出せるのでディーゼル車は勾配でシフトダウンせずに走り続けることができる。これを「トルクがある」「粘りがある」と表現することから、「トルク」と「粘り」を同義語、あるいは「トルク」には「粘り」という意味があると誤解している人がいるようです。釣り雑誌やカタログで、強い引きの魚が釣れた時に折れたり極端に曲がることがないような竿のことを「トルクがある」「トルクフルなロッド(竿)」と紹介されています。その方面では著名な方が使い始めた表現で、いまや釣り道具の分野では定着しているようです。他の品物での誤解ならまだしも、トルクは軸周りの回転力のことですから釣り竿にトルクが発生したら使い難くてたまりません。気動車と魚釣りの両方が好きな私ならではの違和感です。


2026/01/28

待避線(余談雑談) 機械式変速機の話 後編

  前編ではガソリンカーのエンジンがかかるまでの危うい話を書きました。続いてはそれを加速する時のうんちくです。機械式変速機と聞いてオートマチックトランスミッション(AT)ではなくてマニュアルトランスミッション(MT)のことだと多くの方が考えると思いますが、まんざら間違いではありません。ただ、チャップリン時代のそれを引き継いだ機械式気動車は今日の乗用車のMTとは違って、構造はシンプルですがやはり相応に取り扱いがややこしい代物でありました。

旧型気動車の床下 旧佐久鉄道キホハニ50
 その前にまず変速機の原理から説明します。直流モーターやVVVF制御された交流モーターは低速から高速域まで鉄道車両の走行に適したトルクを発生するので、モーター軸と車軸は常に同じ歯車で噛み合っています。一方ガソリン機関やディーゼル機関は、アイドル回転数以下では出力を取り出せない他、車両が低速時には高トルクが必要でありながら高速域まで加速できるような特性が要求されることから、エンジンと車軸の回転を切り離すクラッチと速度に応じて歯車比を変える変速機が必要になります。通常エンジンとクラッチ、変速機は一体に組み立てられて右の写真のように気動車の床下に吊り下げられています。クラッチと変速機の内部を下の模式解説図に示していますのでこれに従って機能を説明します。実際には各機器は複雑な形状なので詳しくは実体図を参照ください。
機械式変速機模式図(左)自身作図      と     実体図(右) 国鉄工作局

スプライン Wikipediaより
 模式図の左側にあるのがクラッチで、円盤がバネで押し付けられてエンジンの回転が右側の変速機に伝わるようになっています。実際には複数の円盤が中心側からと外周側から互い違いに重なって取り付けられています。運転席のクラッチペダルを踏むと円盤同志が離れてエンジンの動力が変速機側へ伝わらなくなります(図はこの状態)。つまりクラッチの右側の円盤はペダル操作で左右に動くようになっていてエンジンから独立して回転したり止まったりできます。この部分の軸は長い歯車のような形状で円盤の内面の歯と噛み合って回転力を伝え、また横滑りして位置を変えられるように作ってあります。このような軸をスプラインと言って、実は右側の変速機の軸も同じ構造になっており、クラッチによって動力が切られた状態で変速レバーを切り替えると横滑りして特定の歯車同士が噛み合うようになっています。もう一つ重要な役割を果たすのがカウンターシャフトで、クラッチの右側にある歯車と常に噛み合っています。この軸と軸上の各歯車は固定されていて滑りません。第4速は歯車を介さずにクラッチと変速機の軸端の爪が噛み合うことで直結状態になります。

 続いて加速時の実際の変速操作について説明します。もう一度模式図を見てください。変速レバーが中立(ニュートラル)でクラッチを切った状態、まさに今から気動車が動き出す準備が整った瞬間を表示しています。ここから変速レバーを第1速に入れるのですが、カウンターシャフトも変速機シャフトも停止していると歯車の側面同志がぶつかって横滑りできず噛み合うことができません。そういう場合はクラッチを少しだけ戻してまた踏み込むとカウンターシャフトが軽く回転するので歯先がぶつかるゴンゴンゴンという音がして止まる直前に歯車が嚙み合います。カウンターシャフトの回転数が上がり過ぎると衝撃が大きくなって噛み合わないので、これには勘どころを押さえるテクニックが必要です。模式図第1速にこの状態を示しています。無事に第1速の歯車が噛み合ったらブレーキを緩め、クラッチペダルを徐々に戻してやると動力が変速機を通じて推進軸に伝わります。赤色破線矢印がその経路です。ここで推進軸と動力車軸の間にある逆転機が中立状態にある場合(エンジン起動後最初の走行時などの場合)は前進側の歯車に繋がるよう運転席の前進後進切換えレバーを回します。推進軸がわずかに回転すればレバーの手応えで切替わりが確認出来ます。この後クラッチをもう一度ゆっくり戻して負荷を加えるとエンジンの回転数が下がるのでスロットルを引いて燃料を送り込んでやらないといけません。自動車学校の実技で初心者がかならずエンストの洗礼を受けるいわゆるクラッチ合わせです。ディーゼルエンジンのようにアイドルガバナーが付いている場合は回転数維持機能が働いて自動的に燃料が制御されるのでクラッチペダルの戻し加減に留意するのみでスロットルの操作は不要です。クラッチが完全に繋がってからスロットルレバーを引くと回転数が上昇して車両は加速します。

第1速の歯車噛み合い状態と動力伝達経路     第4速の直結状態と動力伝達経路

 第1速で十分に加速したらスロットルレバーを戻すと同時にクラッチペダルを踏みこんで変速機に動力が伝わらないようにし、変速レバーを第1速から中立に戻します。そのまま第2速に入れようとしても歯車のぶつかる音がして入りません。なぜかと言うと第1速での加速中にカウンターシャフトが高速回転していた時の慣性で変速機シャフトの第2速の歯車と周速が合わなくなっているためです。そこでクラッチペダルを瞬時戻してカウンターシャフトの回転数をエンジンアイドル回転数に合わせることで歯車同士の周速が近づくようにしてやるのです。これがダブルクラッチと言われるテクニックです。クラッチペダルの戻し具合はやはり勘と熟練が必要です。と言うのは、第1速で車両が動き出したら車輪が静摩擦状態を脱するので必要以上に加速せず、すぐにクラッチを切って第2速に入れる裏技があるからです。この場合カウンターシャフトの回転数があまり上昇していないのでダブルクラッチに頼らずに変速レバーを押し付ければ軽く第2速に入れることができます。第2速ではスロットルレバーを引いて十分に加速し、ダブルクラッチ操作で第3速に繋ぎます。次は模式図第4速をご覧ください。ここではエンジンの動力(回転)はカウンターシャフトを経由せずにストレートに推進軸に伝わっていることがわかると思います。つまり滑らかに第4速の状態に到達するためにはクラッチを切ったらスロットルレバーの操作でエンジンと推進軸の回転数を合わせ、両軸の爪が噛み合う(変速レバーが第4速に入る)タイミングでクラッチを繋ぐという手順になります。さらにもう一つダブルクラッチ特有のテクニックがあります。平地から勾配区間に入ったり勾配が大きくなって均衡速度が低下してくると、第4速から第3速へあるいは第3速から第2速へシフトダウンしなければならなくなります。この時クラッチを切って変速レバーで低速側の歯車を噛み合わせるわけですが、カウンターシャフトの回転数が低下しているのでクラッチを繋ぎスロットルレバーを引いてエンジン回転数を上げてからもう一度クラッチを切って歯車を噛み合わせるというややこしい操作をしなければなりません。さらにエンジン回転を高めに保持した状態でクラッチが繋がるようにしないと駆動系や乗客に前のめりの衝撃を加えてしまうので注意が必要です。

1952年製造の機械式気動車鹿児島交通キハ101 1972年撮影時にはキユニになっていた 自身撮影

 長々と理屈を書いていますが、運転手は速度計や回転計に頼らず音やレバーから伝わる感覚でその時々に変速機の中で何が起こっているかを知り、順序良くこれらのシーケンスを進めていきます。彼らは機械操作のプロであり、原理を知り経験を積むことで運転技術を磨き、乗客が騒音や衝撃をできるだけ感じないように心配りをすることに誇りを感じていたはずです。同じようなテクニックで昭和のバスやトラックを運転していた人がいましたし、現代ではレーシングカーに要求される複雑で俊敏な加減速操作にこれらの高等技術が駆使されていると聞きます。

ドイツ国鉄VT98型レールバスの総括制御運転台
___________Wikipediaより
 今どきのMTの乗用車がこんな面倒なことをしなくてよいのは、変速機の仕組みが改良されているからです。常時噛み合い式とかシンクロメッシュと呼ばれる方式ではカウンターシャフトと変速機シャフトの歯車が最初から全部噛み合っていてスプライン軸の上を空転しており、必要に応じて(変速レバーの操作によって)クラッチスリーブというリングがスプライン軸と歯車に間にスムーズに入り込んで歯車が選択されるようになっています。ただ大型自動車やトラクターなど負荷が大きい場合には適用が困難なため依然として旧来の機構が踏襲されています。その代わり空圧やコンピュータ制御によってフィンガーシフトと言われる遠隔操作が主流になっていることは近年のバスの運転などを見てご存知かと思います。ドイツでは1950年代に類似の方式でレールバスの総括制御をしていたという記述がWikipediaにあります。

 我が国で機械式気動車が走り始めて約100年が経過しましたが、今ではその痕跡をたどることさえ難しくなってきました。前編と後編の2回にわたって旧型気動車の取り扱いに関する涙ぐましいまでの苦労を機械工学の浅見にもとづいて全くの想像で書きました。それは元々無機質の金属の塊でありながら、関わる者にとっては時として気まぐれなじゃじゃ馬であり、あるいは心が通う相棒、また可愛い我が子のような存在でもあったのでしょう。だからこそ機械と言葉を交わしながら乗客に安心して利用してもらう努力と工夫を重ねることができたのだと思います。