2022/02/25

待避線(余談雑談) スイスの鉄道

 多趣味の私は恥ずかしながら鉄一辺倒ではありません。神戸の自宅の近くに六甲山人工スキー場があったので週末ナイタースキーで足を磨き、社会人になってからは休暇を取って信州などへ遠征していました。その後ゲレンデで知り合った女性と家庭を築いて、現在に至っています。

ベルナーオーバーラント鉄道(BOB)ABDeh4/4
初めて乗った窓が大きくて明るい登山電車

画像はすべてWikipediaより
 新婚旅行先に海外を選ぶカップルが多くなった頃(1981)のことで、スイスへ行くことにしました。パッケージ旅行でオプションがあり、鉄道でユングフラウの展望台に登る日帰りツアーを選びました。インターラーケンから最初に乗車したのがベルナーオーバーラント鉄道(BOB)*です。メーターゲージで車体の大きさも日本の在来線と同じくらい、ところが座席はなんと板張りで、その割に一人分のスペースが大きく感じられ、これがヨーロッパの登山電車かと感心しました。新妻を座席に残したまま車内を観察してまわり、ふと我に返って戻ってくると微笑んではいましたが、寛容な心の表れだったのか呆れていたのかはわかりません。

*すべてのスイスの鉄道はアルファベット2~3文字で略称が標記されます。

 ラウターブルンネンでウェンゲルンアルプ鉄道(WAB)に乗り換え、最後はクライネシャイデックからユングフラウ鉄道(JB)でヨーロッパ最高地駅(3454m)に至りました。これら3つの鉄道はラックレールの方式が異なる他、WABだけが800mmゲージ、JB3相交流電化(架線2)BOBは牽引運転でWABJBは山麓側動力車の固定編成であるなど、ことごとく個性を主張していました。共通しているのは、内装が阪急電車の上を行く気品に溢れた木目調で外観も大変美しいことです。その時以来私はスイス鉄道のファンになってしまいました。いっぱい写真を撮りましたが、ネガもプリントも今は手元にありません。

 仕事で上京した時は必ず洋書店に寄って、スイスの美しい景観の中を走る鉄道写真集や車両図面の載ったガイド本、月刊誌とそのバックナンバー、地図やポスターなどを買い集めました。スイスには鉄道ファンが多いようで、国私鉄の実物から模型まで結構マニアックな書籍が揃っています。それらはドイツ語で書かれていたので、学生時代に使っていた辞書と首っ引きで読みふけりましたが、慣れるまではサッパリ意味が解らず不勉強を後悔しました。挙句は通信講座やドイツ語教室に通うなど費用をかけて自己研鑽に励んだ結果、雑誌に何が書いてあるかぐらいは解るようになりました(専門用語さえ理解すればなんとかなります)。日常会話も少しはできるようになりましたが、ほとんどのスイス人やドイツ人は英語を喋るのでこちらがカタコトでためらっていると英語会話になってしまい、本場ではほとんど役に立ちませんでした。

マルティニシャトラール鉄道(MC) 
右側の電車BDeh 4/4は松本電鉄のモハ10型です
レーティッシュ鉄道(RhB)のABe4/4
京浜急行旧500型の正面貫通車です
 スイスの電車の何が魅力かと言うと、メーターゲージ車両のサイズは日本型に近く、車体の構造やバランス(屋根、窓と側面の比率など)が昭和30年代の憧れのスタイルに似ているのです。というかその頃の日本の新型車はスイスの車両をお手本にしたと言われています。そのまま日本のどこかの地方私鉄に持ってきても通用するかと思うくらいです。標準軌の国鉄(SBB)にも魅力的な車両がありますが、スイスは私鉄王国でありその多くはメーターゲージです。氷河急行で有名なレーティッシュ鉄道(RhB=日本で言うと近鉄かな?)やパノラミック急行のモントルーオーバーベルヌア鉄道(MOB=名鉄か?)に代表されるメジャーから、延長数kmの超ローカルまで私鉄網が発達しています。ヨーロッパ出張中に時間を工面して訪問した小私鉄の車庫では、2軸や3軸の小型車が使われなくなってもきれいに手入されて保管してあったり、片ボギーのクラシック電車の台車の外側には蒸気機関車を思わせるロッドとカウンターウェイトまで付いていたりします。さすがこんなのは日本にはありませんね。そうそう簡単に手が届くところではないので専ら雑誌や写真集を眺めながら、長期滞在してスイス各地の鉄道を巡りたいとか登山電車の線路脇にロッジを建てて移住できたらいいのになぁ、と妄想に耽っていました。

 そんな風にユニークだったスイスの鉄道車両のデザインが、現代的というのかどれも似たような丸っこい流線形になり、部分低床化の影響で窓や扉の不連続配置が強いられるなど、かつて私の心を揺さぶった憧れのスタイルからどんどん乖離していきました。月刊雑誌の定期購読は打ち切り、もっぱら蔵書に目を通す程度になりますが、ときめくようなニュースがなければそんな興味も失せるもので、いつの頃からか本棚は埃をかぶったまま眠りに就いたようになっていました。

 最近のことですが、YouTubeに忘れかけていた懐かしい電車の走行シーンが映っているのを見つけました。古いモノを大切にするお国柄があのロッドを揺らしながら走る片ボギー車の動態復元を成し遂げたとのこと。大好きだった電車が時の流れの中で淘汰されてしまうことを懸念していたのでとても嬉しく、現地を訪れることは多分もうないと思いながらも安堵の念を覚えました。

アルトシュテッテンガイス鉄道(AG)の片ボギー電車CFe3/3 1948年頃と近年復元後の姿
1911年製木造車で、ピニオン駆動機構は取り外されているが修復が予定されているらしい
 またまた余談ですが、画像の説明で電車の形式が挿入されていますので、簡単に解説しておきます。機関車と動力車(電車)の場合で多少異なり、機関車は最高速度やゲージ等でも区分されます。時代によっても変わっていて、日本では3等制の廃止で「イ」がなくなりましたが、スイスでは3等室を表す「C」がなくなりました。便宜的に「型式」と書きましたが、原語では”Bauart”という用語が使われ「製造様式」を意味します。日本で言うクモハとかキハ二に相当する名前、つまり同じ標記で全然違う車両が存在します。そこで同じ形式(様式)で新しい車両が製造されると後にIとかIIと識別記号が付く場合があります。形式とは別に鉄道会社ごとに車番が付されていますが、通し番号であることも多いようです。国鉄(SBB)車両はヨーロッパ各国に相互乗り入れするので、国際的に統一された規準にもとづいて長ったらしい番号や記号が車体に書いてあります。他に細かい決まりがあるようですし、最近の情勢で変わっているかもしれません、大雑把な説明ですがあしからず。

絶景をバックにラウターブルンネンミューレン山岳鉄道のBe4/4

レーティッシュ鉄道(RhB)のABe4/4IIIが牽引するベルニナ急行

2022/02/13

待避線(余談雑談) 15インチゲージのすすめ続編

  やっぱり15インチゲージには大きな壁があるとお思いの方がいらっしゃると思います。意外に誰でも楽しめる趣味だということを理解していただくためにどれくらいの費用がかかるのか紹介します。その金額を高いと感じるかどうかは人によって違うのが当然として、他のゲージの鉄道模型や他の趣味を楽しむのに必要な費用と比較していただけるように具体的な金額を示したいと思います。

 前にも述べた通り、わたしは基本的に線路も車両もスクラッチビルドで製作しています。部品、部材として購入した際に支払った金額(以下消費税抜き)(実額)と表示します。併せて、組立品として販売されている場合はわかる範囲でカタログ価格(カタログ)と、問い合わせて見積を取った場合の金額(見積)を参考値として記載します。

 1.レール

 レールは定尺(販売時の材料の長さ)5.5mあるので宅配便はもちろん混載便でも扱ってもらえず、仕立便の費用が別途必要になります。購入金額にはそれが転嫁されるので大量に仕入れるほど安くなります。

6kgレール
 6kg軽レール定尺5.5m1本の単価は20145月時点で9800円でした。当時20本分をまとめて仕入れた場合の運賃を含めた購入金額は113300(実額)で、犬釘(@70)、ペーシ/モール(継ぎ目板@550)、枕木(@240)を加えて敷設線路1m当たりでは約6800円となりました。仕入れ数量、枕木の本数、締結方法(犬釘/スクリュー)などで変わります。

 参考までにモデルニクスの直線軌框は1m単価12100(カタログ)です。レールにメッキが施されていたり、枕木が耐候性特殊強化樹脂製であったりということで単純な比較はできません。せんろ商会では長さ1.1mの軌框を販売していますが、価格は要問合せとのことです。多少割高になるかもしれないけれど、最初は少量対応してくれるメーカーの軌框も一つの選択肢になるかと思います。

 2.車輪

 レールに次いで金額が張るのは車輪です。素材もさることながら車軸との正確な嵌め合わせのために旋盤加工が必要で鉄工所に発注することになります。車輪を指定して加工工場から発注してもらうのが手間もコストも省けて最良の方法だと思います。

 φ230チルド車輪軸穴加工(精度H7)4個の金額(20145)は、

A(見積) 75000(車輪@7500+加工@11250 送料別途)    

B(見積) 59520(車輪+加工 内訳不明 送料別途)         

C(実額) 46100(車輪@7650+加工@3875 引取り)         

と幅がありました。

 最終的にC社で加工した車輪に車軸(φ35丸鋼@2882)、軸受(ピローブロック@1648)を加えて24(1両分)の合計(実額)は約58500円となりました。

 一方、D社で車輪/車軸/軸受のセットを販売していて、ほぼ同様の仕様で(見積)68000(送料別途)でした。

軸穴加工済み車輪素材   と     軸受/車軸/車輪組立品

 3.初期費用まとめ

 トロッコを走らせるためにはレールと車輪の他に、台枠や車体を形造る木材やそれを加工するための工具が必要になります。電動丸鋸や電動ドリル、カンナやノミ、ペンチにスパナにドライバー等々。それらが手元になくて新たに購入することになってもDIYでの利用価値が高いので専用の出費と考えないほうがよいでしょう。その先はこの趣味にのめり込んでから揃えてもいいと思います。

5.5mの線路とトロッコ(貨車台枠)
夢の第1歩にこぼれる笑み
 15インチゲージを始めるにあたって最小限必要なものはレール5m程とトロッコ1台とすると、木材やネジ、塗料などの小物を含めて10万円前後で自家用鉄道開業可能ということになります。世の中の一般的な遊びと比べて決して贅沢な道楽ではないと思うのですがどうでしょうか?将来も続ける強い決意があるなら50m分あるいは100m分のレールをまとめて購入しておくことで後々の出費をする必要がなく、トータルでコストを抑えることができます。コツコツと線路を延ばしたり、車両を改良、増備したり、駅や建物や信号といったシーナリーを建設するようになると、趣味としての方向性が定まる段階になります。工夫して費用をかけずに夢を広げることもできるし、スケールの車体に本格的なメカニズムやエレクトロニクスを導入して最先端の鉄道を自宅で再現することも不可能ではありません。15インチゲージ趣味を楽しむことが日常生活の一部になって動力車増備、線路規模拡大を計画するようになると、費用のことはあまり気にならなくなると思います。むしろ家族への感謝や思いやりを忘れず、理解を得られるように努力することが大切になってきます。

 4.アドバイス

森林鉄道の運材車
 私は電車とそれに牽引される貨車の製作を前提にフルサイズの車輪を購入しましたが、トロッコや森林鉄道の運材台車あるいはスケールに拘らないのであれば小径の車輪(φ100150)が手頃で、価格も加工コストも半分以下になると想像します。レールは外観に目をつぶってコストを抑えるなら角型鋼管という手があります。ホームセンターで取り寄せてもらって手頃な長さに切断して持ち帰ることもできるでしょう。枕木との固定方法など解決すべき問題がありますが、将来の目標は別にして「とりあえずトロッコ」という最初の課題を実現する近道にはなるかと思います。

 5.5mのレールは3分割すると約1.8mになり乗用車の車内に積むことができ、車内が無理でもルーフキャリアに載せることは可能です。どうしても自宅に線路を敷くスペースがない場合、空地や河川敷など他者の迷惑にならない場所でトロッコ遊びが楽しめないか考えてみてはどうでしょうか。

 体験からのアドバイスですが、コストを抑えるために木製の線路や車輪という発想はお薦めしません。鉄の線路の上を鉄の車輪で転がってこそ、ニュートンの慣性の法則が体感できるからです。

2022/02/06

空知鉄道さんご来訪

  20145月に鹿部に移住して来てすぐに15インチゲージ鉄道の建設を始めました。そして202010月から約14ヶ月かけて、7年半の建設経過を記録してきました。その記事の内容が建設現況に追いついてしまってネタ切れになり、ここしばらくは「妄想」の話題でお茶を濁していました。雪融けを待って建設再開したところですぐに報告に値する発見や新工法の紹介ができるとは思えません。そんな訳でこの後の新規投稿の頻度はこれまでのように1週間とか10日ペースというわけには行かず、それでも「待避線(余談雑談)」が書けるような話題を思いついたらその都度投稿したいと考えています。

空知鉄道の様子
空知鉄道さん提供
 書き残したことはないか?と思いを巡らせていたら、ありました。分岐器の先に曲線路を延長し建設にケリがついた202110月、「15インチゲージのすすめ」に空知鉄道の金森さんからコメントを頂いたのでした。「いつか鹿部電気鉄道さんへ見学に伺わせていただけたら幸いです。」と書かれていたので「コロナ騒動が収まったら是非お越しください。」とリプライしたのですが、話が盛り上がって11月に来鹿してくださることになりました。

 空知鉄道も同じ北海道の岩見沢郊外(鹿部から約300km)で建設途上にある15インチゲージです。鹿部電鉄と線路延長や車両数、開設時期等がよく似ていて、かねてからテレビ報道やTwitter(https://twitter.com/soratetu1910)でその様子はうかがい知っていました。オーナーが強いこだわりを抱いて建設しているのも同じで、実際にお目にかかるまで「チョッと変わった人だな。」と思っていました(猿の尻笑いです)11月に入ると雪が降る日があり天気予報にも雪マークが付いていましたが、幸運にも恵まれたコンディションの下で電車や線路を見ていただくことができました。本職の電車運転手さんにコントローラーとブレーキを試してもらい、「運転操作・感覚は本物の電車と同じです。」とお墨付きを頂戴できたのはこの上ない喜びでした。苦労して完成させた分岐器にはこだわりが詰まっており、自慢や失敗の裏話、作業の苦労や喜びにはお互いに通じるものがあってうなずき合いました。感染症流行で久しく鉄研のメンバーと会っていなかった私にとって、鉄っちゃんならではの偏った話題は鈍った脳への刺激が強くまた快い癒しにもなりました。単に「庭の電車だ」と驚かれるのと違って、こだわった部分を評価してもらえると苦労して作った甲斐があったと納得できるものです。決して人に見てもらうためにやっているわけではないし所詮は独りよがりなのですが、作り鉄の喜びってそんなものだとつくづく思いました。多くの学びも得ながら時間の過ぎるのを忘れて話し込み、次は空知鉄道にお邪魔させていただく約束をして帰り支度が始まった頃にはもうすっかり暗くなっていました。

 その日のうちにTwitterに鹿部訪問の報告をアップされ、ブログやYouTubeの紹介までしていただきました。後日当ブログの統計情報をチェックしたところ、翌日の閲覧数が史上空前の500回越えを記録しており、空知鉄道のフォロワーさんへの影響力の大きさに驚きました。また私と違って職業に就きながら休日のみの作業で成果を積み上げるなど、そのバイタリティにはただ脱帽です。訪問がいつになるかわかりませんが、楽しみにしたいと思います。

 最初に書いたような事情で今後当面は不定期投稿になる見通しですので、あしからずご了解を頂きたいと思っています。