2023/04/28

15インチゲージのデメリット/メリット

  前回の投稿で車両の細密表現が出来るのは15インチゲージのメリットであると締めくくったので、デメリットについても書いておこうと思います。どちらかと言うと余談雑談の類ではありますが、少し大げさに言うと大型鉄道模型の何たるかを意味づける話ですので力を入れて書きます。

16番の自作気動車 珍しく手すりが付いています
連結器は取り付けてあったけど外れてしまったか
 私は元々作り鉄なので幼少の折からOゲージ模型で遊ぶ一方で車両の自作をしていました。処女作は側板の取れたブリキ製トムの下回りにボール紙で作った自由形の緩急車のボディーを被せたものでした。12歳で16番に転向し、その後は大小色々なスケールの電車/気動車を真鍮、紙、プラで作っていました。私の作品の特徴は車両の全体イメージ優先で、リベットをはじめ手すりや標識灯などの付属物や床下屋上機器の細密表現はしないことにしていました。それはポリシーなどという立派な考えからではなく、実のところ技術/技能が及ばないためでした。
 小さな模型が思い通りにならないのは単に自分の能力不足だけが原因ではありません。例えば模型を走らせるためにパワーパックのツマミを回すと急に動き出し、戻すとガクンと止まるのは慣性力と摩擦力の関係が実物と大きく異なるという物理上の問題で小型ゆえの宿命です。高周波パルスによるスロー運転やトランジスタ制御(当時の表現)でそれなりの改良はされていたようですが、軽薄感は如何ともし難かったと思います。赤ちゃん返りではありませんが一時的にOゲージに足を踏み入れて惰行運転を試みたことがありました。どこかの公園で何人もの大人が乗った5インチゲージ列車を見て強い憧れを抱いたこともありました。鉄道模型趣味にはなにかそういうモヤモヤした欲求不満がくすぶっているような気がします。

せんだんは双葉より芳し
 人間の視聴覚能力は野生動物に比べると一般的に劣ってはいるでしょうけれども、仮に片眼でものを見ても視力以外の感覚補正能力の働きで大体の大きさはわかってしまうものです。いくらほっぺたを畳にこすりつけるくらいに視線を下げても1/80の模型が見上げるような大きさには絶対に見えません。写真に撮っても同じです。煙突から煙を出してもスピーカーから低音を響かせても、やっぱり模型はどうしても模型でしかありません。それは15インチゲージの車両が所詮は実物の1/3の大きさにしか見えないことから間違いのない事実だと言えます。ところが模型をこよなく愛する人間は逆に「これは模型なんだから」と意識的に余計な感性を排除して目の前にある小さな模型ができるだけ実物の大きさに見えるように努力しながら自分ひとりの世界に浸ります。そのことをわかった上で目を細め、上下左右から眺めては音や情景、時には匂いまでも妄想しながら自分が拘った部分に焦点を合わせて愛玩するのです。
 それでも15インチゲージの電車は16番に比べると圧倒的な大きさと重量感に加え、体に伝わる音や振動、揺れ、加速度が実物に近いことを感じさせてくれます。何より車内に乗り込み、運転席の窓から線路を眺めながらコントローラーやブレーキハンドルを握って意のままに動かすと、もうこれはまさに自分ひとりだけの世界です。
 そこにどんな欲求不満があるかと言うと、限られた敷地の中で運転を楽しむためには急カーブの線路を敷かなくてはならないことが挙げられます。あるいはそのカーブを通過できる車両の長さや種類が自ずと限られてしまうという制約があります。ホイールベースの短い2軸車か、ボギー車でも全長を詰めなければなりません。森林鉄道や軽便鉄道をモデルにするのは一案かもしれませんが、HOnスケールのテーブルレイアウトみたいに庭をグルグル回るのは見る分には楽しいけれど運転向きではないような、 、 。

 海外ではとてつもなく広い原野や森林の中を走る乗用鉄道模型のYouTubeを見ることができます。そのオーナーに欲求不満はないか聞いてみると多分「模型ではなく実物の列車を走らせたい。」と言うと思います(個人の想像です)
もうこれは庭園鉄道ではありません

 以下15インチゲージのデメリットとメリットを思いつくままに書き上げてみます。

デメリット

〇小さな模型に比べて作るのが大変、時間がかかる、費用がかかる、広い土地が要る。

〇前例が少ないので作り方がわからない。

〇市販の部品、半完成品が少ない。あっても高価。

〇家族の理解を得るのに苦労することがある。

〇実物の車両の重量感、存在感には及ばない。もっと大きな車両が欲しくなる。

〇線路とトロッコが出来てしまうと楽しすぎてその先に進めなくなる。

〇毎日好きな時に電車の運転が出来るが、それが日常になってしまうとありがたみが感じられなくなる。

 デメリットと言っても工夫次第でなんとかなりそうですね、後半は贅沢な苦労です。

メリット

〇車両が大きくて重量感がある。惰行運転が出来る。

〇乗り込んで自分で運転できる。振動や音響、加減速度が体感できる(シミュレータと違う)

〇細密加工が可能である。実物のメカニズムを取り入れることができる。

〇人を乗せると喜んでもらえる。子や孫から尊敬される(と思える)

〇実物大の車両に比べるとコンパクトで扱いやすい。

〇庭の電車を見るだけで癒される。

〇どんなに悔しい場面でも「ウチの庭には乗れる電車があるンだぞ!」と心の中で呟けば耐えられる。

 まだまだありますが書ききれません。

2023/04/19

キハの窓試作

  デ1の木造車体の腰羽目板は、150枚近くの部材を何日もかけて斜向かいの家具工房「わ」で加工してもらいました。キハ40000の車体はその時の経験を生かして効率よく製作できるように工夫を凝らしたうえに、デ1にはなかった2段窓(下段上昇式)をできるだけ忠実に再現したいと思っています。ホームセンターで入手できる工作用ヒノキ角材は、2mm×2mmを最小断面寸法として長さ910mmで各種厚さと幅が揃っています。所要の寸法がなければ大きめの材料からカンナで削ることが可能です。幕板や腰板のように厚さと幅がさらに大きい部材は貼り合わせることで対処できますし、最後は家具工房に頼み込めばどうにかなりそうです。

工作用ヒノキ角材             所定の寸法に切断接着

 キハの窓構造を寝床で考え始めると覚醒して眠れなくなる場合と頭の中が混沌としてすぐに眠りに落ちてしまう夜があることは過日ここに書きました。半分は夢の世界なのでどんなにいいアイデアを思いついても翌日には何も残っていません。やはり図面にして具体的な構造を決定しなければなりません。ただ図面は描けても実際に組立が出来ないいわゆる地獄構造になっていたり、直角や寸法の調整が難しいとか接着部の加圧ができなかったりということがないか、等々製作上の問題をクリアーにするために実寸(もちろん実物の1/3)で窓部分を試作してみることにしました。こうすることで大宮の鉄道博物館で実測した寸法通りに作った場合に気動車の軽量車体の質感が表現できるかという確認もできるのではないかと思った次第です。睡眠時間が安定すれば健康管理にも役立ちます。ついでにリベットの大きさや塗料の色感なども車体製作前に確認できるだろうと考えました。当初考えていたブリキかトタンで半鋼製にする案は面倒なばかりでメリットがなさそうなので止めることにしました。

夢うつつの具現化

 試作は窓2個分、2段窓部と戸袋部を作りました。後者は同一寸法ながら上下ガラスが面一になっています。2個の窓を図面通りに組み立てることはできましたが、ズラリと並んだ窓を手際よく直角に接着する方法を考えなければならないのは本番までの課題です。一方で部材の切断には手鋸を使用したので寸法が不正確になり、突き合わせ窓枠にスキマが空いてしまいました。チップソーに治具をセットして量産すれば正確な切断ができるはずなのでパテのお世話にならずに済みそうです。塗装を済ませた試作窓を眺めるとなかなかの出来映えで、キハ40000の実物写真と見比べて窓枠やガラスの凹み具合もちょうど良い感じです。鉄博に展示保存されていた老車体が歪みまくっていたのでどちらかというとスッキリしすぎて新製時の姿を再現したかのように見えます。色調は手元の塗料を使ったので青、クリームともに明るくなってしまいました。

試作窓の完成品
 数が多くて着手前はかなり面倒だろうと懸念していたリベットは、3mmなべタッピンネジを電動ドライバーで植え込みました。丸いねじ頭径がφ5、実寸はφ15なのでピッタリです。小さな模型ではどうしてもオーバースケールになってしまうリベットが実に簡単正確に表現できるのは15インチゲージならではのメリットだと今さらながらに感心しました。

2023/04/06

待避線(余談雑談) SLの話

  鉄道研究会の仲間の半分くらいはSLファンです。あえてマニアと言わずにファンと呼ぶのは彼らの興味が千差万別で、いわゆるSLを追っかけて全国を駆け巡った撮り鉄から「一応鉄っちゃんなのでSL好きです」という緩~いのまで幅が広いからです。私は「一応鉄っちゃんなのでSLのこと普通の人よりはよく知ってます」程度で、やっぱり自分ではSLファンと公言するほどではないと思っています。風景の中に写っている黒く小さな物体や露出不足のシルエットを見ただけで形式がわかったり、撮影場所とか線区がわかれば番号まで言えたりするようなエキスパートには感服してしまいます。

             伯備線布原の三重連 1972年        鉄研富田さん撮影

 で、私の場合はSLのメカには興味があって、というかSLは自立機械そのものであり、全ての機構はロッドと蒸気配管で繋がっているので機械の知識があればその動きを理解することができます。今どきの機械のようにコンピューターはおろかセンサーも電線もついていませんが、本当によく出来たロボットだと感心させられます。その代りこの機械を動かすためには動作させる順序や限度、絶対に冒してはならない操作や監視項目などを熟知していなければなりません。

 例えば機関車を加速するためには次のいずれかあるいは複数の操作が必要です。

①より多くの石炭を投入してボイラーの蒸気圧を上げる

②バルブを開いてより多くの蒸気を送り込む

③弁装置によって蒸気の流入タイミングを変える

どの操作が適切かは一概には言えません。わかりやすく例えると、マニュアルミッションの車で加速するためにはそのままアクセルペダルを踏み込むのと、シフトダウンしてアクセル、シフトアップしてアクセルする方法がありますが、平地と上り勾配と下り勾配でどれがよいかは変わってきます。機関車の場合も発車後の加速なのか、長い登り勾配に備えて勢いを付けるのか、蒸気(燃料)を節約するためなのかによって取るべき操作は異なります。最新の自動車ならコンピューターが最適の条件を選んでアクセルペダルの踏み込み量だけでブレーキングも含めて意のままに速度が変えられるそうですが、機関士と機関助士はその時のボイラーの状態や線路の条件、運行ダイヤなどを考えていろいろある機能の中からどんな組み合わせで操作するかというコンピューターの役割を演じていたわけです。

            SLの運転台       小樽市総合博物館C126

 では具体的にどの機器を使ってどうすれば蒸気機関車を加速できるのか、私は実際に機関車を運転したことがないので想像にもとづいて説明します。当然のことながら時代や形式によって機器配置や操作方法は異なりますが、もし間違いや補足があれば下のコメントまたは右のお問い合わせメールでご指摘ください。上の写真は小樽市総合博物館に静態保存されているC126の運転台です。自由に出入りできる割に欠損部品もあまりなく、比較的良い保存状態が保たれています。

①は投炭口、手でハンドルを掴んで蓋を開き、シャベルで石炭を投入します。蒸気の圧力は蒸気消費量、給水量、加熱量によって変化し、投炭したからと言ってすぐに上がるわけではありませんが、石炭の高温燃焼ガスはボイラー煙管を通過する際に缶胴内の汽水に内部エネルギーとして蓄えられます。もし圧力が上がり過ぎると安全弁から蒸気が抜けるようになっています。

②は加減弁ハンドルで、ボイラーから送り出される蒸気の量を制御することができます。長いレバーを手前に引くと弁の開口が大きくなってより多くの蒸気が送り込まれます。引き過ぎると動輪が空転するのですぐに戻すなど微妙な操作が必要です。

ピストンと逆転器の位置からシリンダーに
送り込まれる蒸気のタイミングが変化する
③は逆転器ハンドルと呼ばれるもので、これを回すとネジの働きでボイラーの側面に沿った長いロッドが前後に動き、テコの支点と作用点の位置関係を変化させることで、動輪の回転位相に連動する心向棒によって蒸気をシリンダーに送り込む弁装置の動作タイミングが変わります。このハンドルを時計回りに一杯回すとピストンの全ストロークに渡って圧力が加わり大きな力を出すことができます。逆方向に回すと蒸気の入り方が少しずつ減って中立状態になり、さらに回すと蒸気流路が逆になって進行方向が変わります。逆転器は単に前後切替えるだけではなく、弁装置を介して速度や負荷に対応し効率よくシリンダーに蒸気を送り込む量を加減する機能を持っています。その原理の説明は省きますが、興味があれば「蒸気機関車の仕組み」で検索すると多くのサイトで解説されています。

 この他にブレーキ弁、給水装置、空気圧縮機などを動作させる弁類、圧力計や速度計、水面計などの計器類が運転台に所狭しと並んでいます。ブレーキは空気圧で作動するようになっているので蒸気で駆動する空気圧縮機が装備されています。古い機関車に発電機はなく、ランプや蓄電池式の前照灯や室内灯が付いていましたが、後にはタービン発電機が装備されるようになりました。人間コンピューターたる機関士と機関助士は列車を運転しながらこれらの補機や計器を見て正常な運転状態にあることを確認し、同時に外乱に対して最適な操作を選択しなければなりません。

 近年動態保存車の本線運転ではATSが車載されるので、古式豊かな運転台にスマートな操作盤が取り付けられていて滑稽な感じがします。考えてみるとCO2NOx等の排出が厳しく制限される時代にモクモクと黒煙を吐き、油混じりの蒸気をまき散らし、大音量の汽笛、ドラフト・ブラスト音を発するなど、前時代の文化遺産としてでもなければとても許される存在ではありません。

 身近な物質である水は加熱すると体積が約1000倍もの蒸気になるので、閉じ込めてやると大きな力を取り出すことができます。大気圧で水が沸騰すると100℃で一定になるように、圧力と温度は一定の関係を保ちながら安定して大きなエネルギーを蓄える特性を持っており、産業革命以降蒸気原動機は人馬に代わる動力として利用されて来ました。蒸気機関車は過去の遺物になりましたが、火力・原子力発電、船舶推進用動力として蒸気のパワーは今も健在です。動力源として利用するだけでなく、水以外の流体を使って低温熱源を活用したり、原理を逆用して加えたエネルギーより多くの熱を生み出すヒートポンプが熱源に採用されたり、熱抵抗なしに一瞬で大量の熱を伝えられるヒートパイプで地熱を利用したり、蒸気機関の応用技術はなおも進化を遂げています。私が大学の蒸気工学研究室の扉を叩いた時、鉄道マニアであることを知った先輩に「いくら汽車好きでも蒸気機関車の研究はできないよ。」と釘を刺されました。学術的にはまだまだ興味深い現象があり、エネルギーの有効利用を求める時代の声に応えることができる分野だと思います。

                関西本線加太越え 1972年          鉄研富田さん撮影