2022/06/25

待避線(余談雑談) なぞなぞあるある

  鉄道に関する質問で一般の人がよく間違える問題があります。鉄っちゃん相手では釈迦に説法なので多くは語りません。

1.アプト式

 「急こう配を登るために鉄道の線路と車両の間で歯車をかみ合わせる方式を何というでしょうか?」

 正解は「ラックレール方式」ですが、多くの人は「アプト式」と答えます。何種類もあるラックレール方式の中で日本の国鉄が採用したのがアプト式であったために、これが有名になってしまったことが誤答の多くなる理由でしょう。

2.出発進行

「出発信号、進行」
 「『出発進行』とはどういう意味でしょうか?」

①「発車して列車が進むので気を付けてください。」という乗客に対する案内

②機関士が助手に告げる発車の合図の名残

③「気を引き締めて運転するぞ」という掛け声

④出発(信号)が進行()になっているという確認

 テレビ番組などでは「発車の掛け声」的な意味合いで使われることが多いので、正しく理解している人が少ないのかも知れません。

3.汽車汽車シュッポシュッポ

 「子供が機関車のマネをして腰の両側に当てた腕を動かす仕草で正しいのはどれ?」

①左右を同じように前後に動かす

②左右を交互に動かす

③いずれかを少しずらせて動かす

 そもそも左右の動輪を同時に見ることはできないので、ロッドピンの位相が90°ずれていることを知っている人は少ないと思われます。SLの模型を持っている人なら見たことがあるかもしれませんが、おもちゃの機関車はそこまで正確に作ってあるか疑問です。

2022/06/19

妄想か現実か

 この投稿は、2021.12.29「妄想トレイン前編」、2022.1.19「妄想トレイン後編」、2022.1.22「妄想トレイン続編」、2022.4.6「妄想その後」に続く後日談です。

鹿部電鉄へキハ40000導入の妄想

 OB会参加のために内地(本州)へ渡った際に神戸の実家以外にも色んな所へ寄り道をしました。大宮の鉄道博物館は入場制限をしているので事前に入場券を購入しておかなければならないとは聞いていましたが、コンビニに置いてあるイベントチケット販売機(予約機)で手続きをするなんてつゆぞ知りませんでした。タッチ画面を悪戦苦闘しながら操作し続けると最後に機械から申し込み券が出てきて、料金を添えて渡すと入場券が購入できました。

 さて鉄道博物館のターゲットはキハ41000。

何はともあれここに急行
 概略寸法はメーカー図面から読み取れるものの、軽量化設計された窓枠の厚さや台車の鋼材寸法などは実測に頼らざるを得ないと考え、アクセスの利便性から大宮に白羽の矢が立ったというわけです。予めメジャー、物差し、ノギスと寸法測定箇所の一覧表を準備して手際よく作業を始めました。
寸法測定と観察の重点箇所
 側板(窓柱)から窓枠までの凹み寸法、上下窓枠の段差や窓枠の幅、同様に扉の段差などは車体材料の選定にどうしても必要なデータです。ウィンドウシル・ヘッダーの幅と厚さ、扉部のRやリベットのサイズ、ピッチなども測定しなければなりません。床下の鋼帯組立菱枠台車の部材寸法は写真から大体の見当をつけていましたが、鋼材の幅や厚さは実測でどうしても確認したいところです。車体上部の高い部分や床下に手を伸ばし、かがみ込んで車体の裏側の寸法を測るのは硬くなった老体には堪え難い苦痛であり、次々とやって来る親子連れから送られる奇異のまなざしはそれ以上に厳しいものがあります。車体の下にも潜り込んで手の届く限り観察したいところですが、立ち入り禁止の柵があるので、上半身だけ乗り出して車体鋼板の厚さをノギスで測ったりもしました。なにぶん古い車両なので塗料が何層にも固まっており、測る場所によって数値が定まらず、塗料の薄い部分や剥がれている箇所を探し出し、JIS規格と照合して鋼板の厚さを推定しました。
昭和の香り漂う車内
 2時間近くかけて心ゆくまで観察し、隣にあったクモハ40も比較参考のために測定しましたが、両車の測定結果からはキハの軽量化に向けた当時の設計陣による努力の跡が偲ばれました。
         これまた昭和の代表選手        彫りの深さ車体の大きさ歴然

 キハ40000の鹿部電鉄への導入は妄想であったはずですが、鉄道博物館を訪れたことでかなりその実現性が高まりました。今年はエンドレスを完成させるための線路の延長を最優先課題としていたのに、詳細寸法が明らかになったことで車体製作の構想が具体化してきました。ホームセンターでヒノキ製材を見つけたこともそれに拍車をかけました。各種寸法に仕上げられた角材や板材があり、複雑な2段窓を忠実に再現できる目途が立ち、ヒノキ風呂に使用されているように耐水性も期待できることから、車体材料に適していると思えてきました。加えて簡易的に独立回転車輪を実現する方法も思い付き、鋼帯組立菱枠台車を早く試作したいと強く思うようになりました。

 キハ増備の火に油を注いだのがこの本の発掘です。1999年初版発行RMライブラリーの1号と2号が「キハ41000とその一族」というタイトルで、幼い頃に加古川線での乗車体験を持つ私は迷わずにその2冊を購入していたのでした。神戸の実家で本箱から探し出しあらためてページをめくると、各種の写真に加えて詳細な構造図などが掲載されていることを思い出しました。屋根のR寸法などが書き込まれているのを見ると、鉄道博物館での計測結果と併せて、もう鹿部の庭に1/3スケールで再現するしかないと思い詰めるまでになりました。

 線路延長か車両増備か、いずれかを優先して他方を当面犠牲にする、あるいは両方並行して進める、悩ましい問題が目の前に出現してしまいました。過日線路の砂利清掃の際に一部の枕木が腐朽しているのが発覚し、今後は後ろ向きのメンテナンス作業が増えそうな予感もします。あれもこれもと欲張りすぎると結局みんな中途半端に終わってしまうことは経験済みです。単なる作業の選択だけではなく、どちらに転んでもレールや材料の仕入れに影響があるので真剣に計画を立て直さなければなりません。

2022/06/16

待避線(余談雑談) 本家15インチゲージ

  5月末から3年ぶりに内地(本州)方面へ出かけていました。最大の目的は長らく延期になっていた鉄道研究会のOB会への出席です。本来は2020年に青森で開催し、五能線や津軽鉄道の乗車や撮影をした後宴会で盛り上がる予定でした。移動や会食が憚られるようになり、それでもなんとか開催できないかと相談してきた結果、できるだけ参加者の居住地からの移動距離合計を短くし、鉄談中のディスタンス確保を前提に、開催場所を滋賀県長浜のリゾートホテルにすることで落ち着きました。そのOB会はいつも通り、各自鉄活動の近況報告、持参した模型の自慢、写真集出版の野望、鉄の将来展望、鉄機密情報の暴露など飽きることなく深夜まで続きました。

 さて翌朝解散後私は神戸の実家へ向かい、そこで保管していた書籍や写真の中から鹿部電鉄建設に必要なものを探し出しました。その中にイギリスのロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道の写真がありました。タイトルを「元祖15インチゲージ」と書こうかと思いましたが、この鉄道が歴史的に一番古い15インチゲージでないことは明らかです。しかし、営業距離の長さや擁する車両の規模、世界的な知名度から言って「本家」「聖地」「最高峰」と言えるのではないかと思います。

総延長20㎞超の鉄道は15インチゲージであっても庭園鉄道とは異次元です

 ここを訪ねたのは1979年の8月だったと記憶しています。初めての海外出張先がロールスロイス社、半年間の英会話研修の成果が試されることになりました。飛行機に乗るのも人生初体験で、国際線ビジネスクラス航空券には往復料金76万円と印字されていました。約一ヶ月の滞在で日本人とイギリス人の働き方に対する考えの違いにまず驚きました。細かい話はさて置いて、私が鉄っちゃんであることを聞きつけたあるマネージャに呼ばれて執務室(部課長クラスは個室で仕事をしていました)に行くと何枚もの写真を見せてくれました。自宅の庭にライブスティームの鉄道を走らせており、よかったら一度遊びにおいでと誘ってくれました。おそらく7.5インチか10.5インチゲージだと思うのですが、「アルミの引き抜きレールは見た目リアルだが、摩耗するので鉄の角材をレールにしている。」と言っていました。彼がもう一つ教えてくれたのがロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道で、滞在していたイングランド中部のコベントリーからドーバー海峡に面したハイスまで直線距離で200kmほど、日帰りで行けるからとパンフレットをくれました。次の週末、どうやってそこに辿り着いたか記憶が定かではありませんが、15インチゲージ列車の乗客になっていました。

 前にも記しましたが私はあまりSLには興味がなく、この時も胸ときめかせて列車の到着と乗車を待ちわびると言うほどのことはありませんでした。ただ目の前に現れた色鮮やかな蒸気機関車が力強く煙と蒸気を噴き上げるのを見て、2フィート6インチ(762mm)のタンク機関車よりもやっぱり迫力あるなぁと思いました。日本のSLの汽笛が和音でボーッと鳴るのに対してイギリスでは本線の大型機関車でもピーッと言う甲高い音なので少し拍子抜けします。遊園地の列車と違って客車は屋根が一体になった構造で、乗り込むまでは窮屈そうに見えましたが乗ってみると座っている限り頭がつかえるようなことはありませんでした。走り出すと「カタンカタン」と軽快なジョイント音が聞こえ、実際の速度はわからないものの視線が低いのでかなりのスピード感が味わえました。往復約2時間の車窓からは草原、砂丘に加えておとぎ話に出て来るような暖炉の煙突が付いた家々が見え、いかにも異境の鉄道で旅していることを実感しました。

下の車両はダイニングカーのようです

客車はかなりの大きさ
 途中駅で停車中に車外へ出て車両の観察をしました。客車は実車のスケールダウンではなく乗降と居住性を考慮したスタイルになっています。一方、機関車は実在する(した)名機のスケールモデルのようで、標準軌との比率から推定すると、381/14351/3.8となりますが、これはあくまで便宜的な計算で個々の機関車でスケールには差があるようです。パンフレットの写真を見ても機関士が屋根の上から頭を出していたり、キャブの側面から乗り出して前方を見ていたりします。記念撮影した写真では客車の全高と私の背丈が同じくらいですからこちらのスケールは1/2.5前後相当ではないかと思います。レールはゲージに比して太く、枕木も異常なほど幅広で頑丈そうに感じました。機関車がスケールに忠実に作られているのに、それ以外の車両や施設のスケールが統一されていないのはやはり実用鉄道として機能させる必要があるためでしょうか。イギリス出張中にはこの鉄道以外にも週末ごとに鉄道博物館や路面電車博物館、鉄道ファンツアーなど各地を訪ねて鉄三昧に明け暮れました。そういう意味でロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道もそれらの内の一つということで、鉄道模型や庭園鉄道といった特別に作り鉄の興味をそそり立てるような対象にはなりませんでした。もし今再訪したら、当時とは全く違った視線でその鉄道を観察することになると思います。

2022/05/26

線路のメンテナンス

  メンテナンスなどと言うと日頃から点検や保守を怠らずに手入れしていると思われてしまうかもしれません。実は最初に敷設してからそれらしいことは何もしていませんでした。広葉樹の枯葉は強い風が吹くとどこかに飛んで行きますが、落葉松(カラマツ)の針葉は砂利の間に入り込み、泥土と絡んで堆積していきます。寂れた地方私鉄の雰囲気を醸し出していると思って放っていました。土があると雑草が生え、ますます寂れます。

カラマツ針葉に覆われた線路
 昨年分岐器を設置する時に砂利ごと線路を取り外して敷き直したところ見違えるようにきれいになりました。しかしとてもじゃないが数年ごとにそんなことはできません。で、思いついたのがブロワーによる吹き飛ばしです。泥土で固まった松葉は少々の風では飛ばないので、砂利と一緒に混ぜ返しながら吹き飛ばします。

 なかなかの名案で、マルタイによる道床の突き固めみたいでしょ。普段はあまり機械力に頼ることがないので、いかにも保線作業という感じです。土や小石が舞い上がって作業服や長靴の中まで入ってくるし、作業後はすぐ入浴しなければなりません。

落葉泥土除去作業後
 線路がきれいになったところで、埋まっていた枕木が露出して朽ちていたことが判明。犬釘もほとんど利いていませんでしたが、幸いなことにレールは他の枕木に助けられてしっかりしていました。本来なら腐った枕木は一本ずつ横に抜いて入れ替えることになるのですが、この部分はエンドレス化の際に曲線に付け替える予定になっており、当面そのままにしておきます。監督官庁の査察があるわけではないのでお気楽です。

腐朽した枕木
想像を超える生命力のスギナ
 砂利と絡んだ泥土にはクローバーなど根の浅い草が生え、ブロワーによる混ぜ返しで除去できます。一方昨年新たに敷いた線路の砂利から生えて来たのはスギナです。ツクシと地下茎で繋がった栄養茎
(光合成をする)で、砂利のさらに下の路盤に相当する土壌から伸びてきています。あっという間に成長し、抜いてもぬいても繁茂するのでお手上げです。専用の除草剤もあるそうですが、あまり薬剤は使いたくありません。今後敷設する線路には透水性防草シートを敷いた上に厚めに砂利を撒き、腐朽対策と併せてスギナ対策をすることにします。

2022/05/20

待避線(余談雑談) 趣味って何だろう?

  「趣味とは何ぞや?」難しい問いかけですね。「小さい頃から電車が好きなだけで、理屈なんかあるかい。」とずーっと思っていました。でもやっぱり歳取ると理屈っぽくなるわけです。最近なんで鉄道模型を作っていたかを考える機会がありました。

 人間って理性の仮面をかぶっていますが、実は本能に操られているンです。それを突き動かすのは征服欲とか独占欲です。あからさまな民族支配とか略奪ではなく、人道を遵奉しながら代替行動を取ることでそれは満たされます。昔の若者は馬を馴らして野山を駆け巡っていたのが、現代では車を意のままに動かして征服欲を満たします。鉄ッチャンは気に入った車両の模型を作ったり買ったり、それにディテールを付けたりして我が物にしますが、これらは合法的独占欲の発現に他なりません。他人と違う物を手に入れたり、違った方法を使ったりすることでより強い欲望が満たされます。撮り鉄然り、乗り鉄また然り。ある時期、私は山の中で土に埋もれた森林鉄道のレールを掘り起こして金鋸で切出し、それを自分の手で握りしめた時無上の喜びを感じました。これは「掘り鉄」と言うのでしょうか、それとも「切り鉄」?「○○鉄」と一括りにできないような千差万別のフィールドがありますが、気付かぬうちに本能に駆られて一人愉悦に浸るのが趣味ではないでしょうか。

 受け売りで恐縮ですが、仏教の解説書にこんなことが書かれていました。人間の欲には二種類あって、一つは欲求もう一つは欲望である。食欲や睡眠欲が生命を維持するために必要な欲求であるのに対して、快楽欲や金銭欲は生きていくのに必須ではない欲望である。長い人生をかけて収集した鉄道コレクションを命より大切だと言う人がいるかもしれませんが、鉄道に限らず趣味にうつつを抜かすのは生きることに余裕のある証しではないかと思います。無人島に漂着した時、砂浜に椰子の実とブレーキハンドルが転がっていたら、あなたはどちらを先に手に取るでしょう。

初夏の鹿部電鉄

2022/05/16

転轍機の試験

  転轍機と分岐器が繋がってとりあえずはうまく動作するようになりましたが、前回の投稿に挿入した動画ではなんとなくぎこちない動きをしているように見えました。トングレールがスライドするプレートの表面が汚れていたので清掃してから新しいグリスを塗布し、2本のロッドの長さを調整することで定位側と反位側で伸縮筒の動きが均等になりました。

 こうやって試行錯誤の末に新しいモノが出来上がっていきます。世の中で言えば決して新しいどころか100年以上もの昔からあった分岐器ですが、鹿部電鉄にとっては新規開発品です。真っ当な使い方をして期待通りに動作するだけでは開発したとは言えず、想定外の事態に遭遇しても損傷を被ったり危険な状態に陥ったりしないことを検証しておく必要があると思います。と言ってもこれを販売するわけではありませんので、耐久試験や取扱説明書の作成まではやりません。ついうっかりやってしまいそうな「想定外の事態」に備えて安全性の確認だけはしておこうという話です。

 つまり、転轍機を切り替えて閉じた側の線路から車両が逆行した場合でも絶対に破損や脱線が起こらないことを確かめます。理屈の上では伸縮筒が撓んで鎖錠状態の転轍機に無理な力が加わらないようにしてあります。

 もう一つの試験では不完全な切替え操作、つまりレバーを中間の位置で止めてトングレールが基本レールに密着していない状態で車両が進入した場合、どの程度不完全な状態なら脱線に至るのかを確かめます。完璧に密着していなくてもフランジのテーパーのおかげで簡単に脱線しないことは解っていましたが、実は中途半端な状態で進入すると間違いなく脱線するだろうと想像していました。試験結果は動画をご覧ください。

 2本のトングレールの幅と両輪のフランジ間隔がほぼ同じであることが幸いして、両側の車輪は必ず揃ってトングレールのいずれかの側へ転がり、脱線することはありませんでした。結果的に解ったことですが、こういう異常な状況下でもトングレールの幅が狭過ぎず広過ぎないことで脱線を免れる要因が備わっていました。動画の後半ではフランジがトングレール先端に乗り上げる様子が映っています。速いスピードでこういう衝突が起こるとおそらくなんらかの問題が発生することは想像に難くありません。転轍機を操作した時は確実に切り替わっていること、また日常点検で転轍機と分岐器が正常に連動していることを確認しておく重要性をあらためて感じました。

2022/05/06

だるま転轍機 後編

  後編は、実物のだるま転轍機の動作原理に少し触れてから、鹿部バージョンのメカニズムとリンク系について説明します。

 21世紀の今では、だるま転轍機を見る機会はほとんどありません。保存鉄道や使われなくなった側線とか地方私鉄の車庫・工場などで稀に目にすることがある程度でしょう。その構造はシンプルで、レバー(テコ)L型ベルクランクの一端を上げ下げすると他端が水平方向に動いて転轍棒で繋がったトングレールを連動させる、というものです。レバーの支点は2ヶ所あって、レバーの操作方向と分岐方向、設置位置の組み合わせでいずれかを選択できるようになっています。

だるま転轍機の動作原理

 そのシンプルさ故に旅客列車や重量貨物列車が通過する本線で使用するには、安全性の見地から不適と判断されるのだと思います。現在実際に使用されている分岐器では、列車の重量や衝撃で転轍機が破損したり逆動作が起ったりすることがないように、原則として動作と鎖錠の両機能を兼ね備えるようになっています。さらに電気的、電子的(コンピューターシステム)に信号系とインターロックが掛かっていて誤動作、誤進入を防止するように制御されています。一方で閉じている側の線路から分岐器に逆進入(背向または割出し)することを常時可能とする発条転轍機(スプリングポイント)も例外的に存在します。鹿部電鉄での実績で言えば、分岐器が完成してからずっと転轍機はなく、切換えはトングレールを直接手で動かすことで全然問題ありませんでしたから、そんな難しいことを考える必要は全くありません。でもせっかく転轍機を作るのだから単なるダミーではなく、またそれが原因で転轍機が壊れたり脱線事故が起こったりすることがないようには考えておきたいものです。

 前編でも触れたとおり、実物のだるま転轍機のようにトングレールの真横に設置すると操作上不便が生じるので、貨車一両分手前からロッドとリンクで遠隔操作()できるようにします。したがって転轍機側面にL型ベルクランクは取り付けず、独自の機構でレバーの操作と同じ方向にロッドが動くようにしました。機構学用語では揺動スライダークランクと言います。その仕組みは動画をご覧ください。

転轍機設置位置
 転轍機と反対側のロッドの先端は、分岐器の横で水平に置いたL型ベルクランクに係合し、方向を変えてトングレールに伝わります。動画の終わり頃に、ロッドに外力が加わってもレバーが逆動作しない仕組みになっていることを説明していますが、これがこの転轍機における鎖錠機能です。鎖錠されたままの状態で列車が逆進入すると分岐器か転轍機が損傷を受ける可能性があるのでなんらかの対策が必要になります。そこでロッドの途中に過大な外力を吸収する機能を持たせるとともに、転轍機のオーバーアクションでトングレールが確実に基本レールに押し付けられるように、伸縮筒を取り付けます。これは予め圧縮した2個のバネでロッドの一端に付けた円盤を挟み、外力に応じてロッドの全長が伸縮するような構造になっています。いわゆるショックアブソーバーとかダンパーと呼ばれるシリンダーに似ていますが、伸縮はしても減衰力は働かないので微妙に機能が異なります。オイルや高圧ガスを封入するわけではなく、市販の機械部品を組み立てることで製作できるので安価で寿命も心配不要です。 

伸縮筒の構造
ロッドはφ10のミガキ鋼棒で、防錆のために黒色塗装してあります。蹴飛ばしたり踏んづけたりすると変形するおそれがあるので、コンクリートブロックのU字溝でガードしようと考えたのですが、ちょうど良い寸法のものがありませんでした。ホームセンターを捜索して見つけたのがエアコン冷媒配管用の化粧ダクトです。中央部に自重で撓むロッドを受ける溝車(戸車)を取り付け、園芸用のプラスティックペグで地面に固定し、カバーをパチンと嵌め込めば完成です。伸縮筒と転轍棒の動作は下の動画をご覧ください。

ロッドのたわみを受けるローラー

 転轍機が完成して車内から操作する様子です。