2022/06/16

待避線(余談雑談) 本家15インチゲージ

  5月末から3年ぶりに内地(本州)方面へ出かけていました。最大の目的は長らく延期になっていた鉄道研究会のOB会への出席です。本来は2020年に青森で開催し、五能線や津軽鉄道の乗車や撮影をした後宴会で盛り上がる予定でした。移動や会食が憚られるようになり、それでもなんとか開催できないかと相談してきた結果、できるだけ参加者の居住地からの移動距離合計を短くし、鉄談中のディスタンス確保を前提に、開催場所を滋賀県長浜のリゾートホテルにすることで落ち着きました。そのOB会はいつも通り、各自鉄活動の近況報告、持参した模型の自慢、写真集出版の野望、鉄の将来展望、鉄機密情報の暴露など飽きることなく深夜まで続きました。

 さて翌朝解散後私は神戸の実家へ向かい、そこで保管していた書籍や写真の中から鹿部電鉄建設に必要なものを探し出しました。その中にイギリスのロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道の写真がありました。タイトルを「元祖15インチゲージ」と書こうかと思いましたが、この鉄道が歴史的に一番古い15インチゲージでないことは明らかです。しかし、営業距離の長さや擁する車両の規模、世界的な知名度から言って「本家」「聖地」「最高峰」と言えるのではないかと思います。

総延長20㎞超の鉄道は15インチゲージであっても庭園鉄道とは異次元です

 ここを訪ねたのは1979年の8月だったと記憶しています。初めての海外出張先がロールスロイス社、半年間の英会話研修の成果が試されることになりました。飛行機に乗るのも人生初体験で、国際線ビジネスクラス航空券には往復料金76万円と印字されていました。約一ヶ月の滞在で日本人とイギリス人の働き方に対する考えの違いにまず驚きました。細かい話はさて置いて、私が鉄っちゃんであることを聞きつけたあるマネージャに呼ばれて執務室(部課長クラスは個室で仕事をしていました)に行くと何枚もの写真を見せてくれました。自宅の庭にライブスティームの鉄道を走らせており、よかったら一度遊びにおいでと誘ってくれました。おそらく7.5インチか10.5インチゲージだと思うのですが、「アルミの引き抜きレールは見た目リアルだが、摩耗するので鉄の角材をレールにしている。」と言っていました。彼がもう一つ教えてくれたのがロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道で、滞在していたイングランド中部のコベントリーからドーバー海峡に面したハイスまで直線距離で200kmほど、日帰りで行けるからとパンフレットをくれました。次の週末、どうやってそこに辿り着いたか記憶が定かではありませんが、15インチゲージ列車の乗客になっていました。

 前にも記しましたが私はあまりSLには興味がなく、この時も胸ときめかせて列車の到着と乗車を待ちわびると言うほどのことはありませんでした。ただ目の前に現れた色鮮やかな蒸気機関車が力強く煙と蒸気を噴き上げるのを見て、2フィート6インチ(762mm)のタンク機関車よりもやっぱり迫力あるなぁと思いました。日本のSLの汽笛が和音でボーッと鳴るのに対してイギリスでは本線の大型機関車でもピーッと言う甲高い音なので少し拍子抜けします。遊園地の列車と違って客車は屋根が一体になった構造で、乗り込むまでは窮屈そうに見えましたが乗ってみると座っている限り頭がつかえるようなことはありませんでした。走り出すと「カタンカタン」と軽快なジョイント音が聞こえ、実際の速度はわからないものの視線が低いのでかなりのスピード感が味わえました。往復約2時間の車窓からは草原、砂丘に加えておとぎ話に出て来るような暖炉の煙突が付いた家々が見え、いかにも異境の鉄道で旅していることを実感しました。

下の車両はダイニングカーのようです

客車はかなりの大きさ
 途中駅で停車中に車外へ出て車両の観察をしました。客車は実車のスケールダウンではなく乗降と居住性を考慮したスタイルになっています。一方、機関車は実在する(した)名機のスケールモデルのようで、標準軌との比率から推定すると、381/14351/3.8となりますが、これはあくまで便宜的な計算で個々の機関車でスケールには差があるようです。パンフレットの写真を見ても機関士が屋根の上から頭を出していたり、キャブの側面から乗り出して前方を見ていたりします。記念撮影した写真では客車の全高と私の背丈が同じくらいですからこちらのスケールは1/2.5前後相当ではないかと思います。レールはゲージに比して太く、枕木も異常なほど幅広で頑丈そうに感じました。機関車がスケールに忠実に作られているのに、それ以外の車両や施設のスケールが統一されていないのはやはり実用鉄道として機能させる必要があるためでしょうか。イギリス出張中にはこの鉄道以外にも週末ごとに鉄道博物館や路面電車博物館、鉄道ファンツアーなど各地を訪ねて鉄三昧に明け暮れました。そういう意味でロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道もそれらの内の一つということで、鉄道模型や庭園鉄道といった特別に作り鉄の興味をそそり立てるような対象にはなりませんでした。もし今再訪したら、当時とは全く違った視線でその鉄道を観察することになると思います。

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