キリというと木工で使う木の柄の先に尖った針がついたものを思い浮かべますが、金属加工ではいわゆるドリルのことをキリと呼びます。DIYでは磨り減るほど使わないので古くなると買い換えるのが普通ですが、本職は切れ味が悪くなると短くなるまで研いで使い続けます。何十年も前に新入社員の現場実習でキリの研ぎ方を教わりました。今でもそれを思い出しながら研ぐことがありますが、キリの両側かららせん状の切粉が連続して湧いてくるような見事なキリにはなりません。
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鉄工用キリ |
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チゼルエッジとシンニング |
キリというと木工で使う木の柄の先に尖った針がついたものを思い浮かべますが、金属加工ではいわゆるドリルのことをキリと呼びます。DIYでは磨り減るほど使わないので古くなると買い換えるのが普通ですが、本職は切れ味が悪くなると短くなるまで研いで使い続けます。何十年も前に新入社員の現場実習でキリの研ぎ方を教わりました。今でもそれを思い出しながら研ぐことがありますが、キリの両側かららせん状の切粉が連続して湧いてくるような見事なキリにはなりません。
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鉄工用キリ |
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チゼルエッジとシンニング |
台車を製作するにあたって材料や加工のための機材を購入して準備を進めてきたこと、戦前型気動車用の典型としての概要、急曲線通過の際の走行抵抗を低減する仕組み等について繰り返し書いてきました。いよいよ製作に着手したので具体的な加工、組立調整手順や作業上の工夫、気付いた点や感想について記述したいと思います。
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花巻電鉄デハ3の板台枠台車 自身撮影 |
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TR27台車の各部名称 |
加工が終わった部品から組立を始めるのではなく、とりあえず全部の部品加工を完了させてから一気に組立てることにしました。そのために各部の寸法や仕上がりが問題ないことは仮組みをすることで確認し、必要に応じて修正しておきます。
無蓋車の下回りは購入品の軸受けと外注加工の車輪をネジで組立てただけでした。デ1の時は2軸台車枠が外注溶接加工で、バネの部分が少し複雑になっておりチョッと苦労はしましたが、数日で組み上がりました。それに対して今回の台車製作については部品を素材から加工するという作業が延々と続きました。ボギー車なので4軸、8輪、部材によっては16個または24個の同一形状品を正確に製作する必要があり、治具や型板を使って能率の向上と均質化を図りました。機械力も同様の効果を発揮しており、投資効果は大きかったと納得しています。
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ボール紙のマスターで切断線折り曲げ線をケガく 切断する 折り曲げる ステム24個完成 |
切断箇所や穴中心位置は素材にケガキ針で線を描き入れるのが一般的ですが、素人の仕事ではどうしても誤差が大きくなってしまいがちです。そこで鋼材の表面にクリアまたはグレーのラッカーを吹きつけた上に油性の極細サインペンでケガキ線を描くことにしました。複数個の同一形状部品のケガキにはボール紙のマスターを使用しました。穴あけ治具は正確なケガキをした上で穴位置にφ2のキリ穴をあけ、基準となる縁を合わせてからその治具をガイドにφ2の下穴をあけて行きます。全部の下穴が開いてから所定の径のキリを通し、さらにねじ切りをすることで位置のバラツキのない部品が製作できました。下穴を開けてから大径のキリを通すとキリ先端が躍らず、切刃先も長持ちするようでサクサクと作業を進めることができます。
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穴あけ治具(左)と穴加工済のフレーム 穴あけ治具を使って下穴加工中のステム |
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加工が終わった組立前の全部品(ネジ類を除く片側の台車1台分) |
暫く投稿が滞っている理由は例年と同じで、8月は孫が2週間近くやって来てお付き合いに忙しくなるためです。ご近所の爺さん婆さんを訪ねてくるお孫さんが電車に乗りたいと言えば知らん顔はできません。普段通りにサークル活動があり、花火大会やカッター競漕等のイベントもあってゆっくり休む暇はありません。やりかけたTR27台車の製作は寸暇を惜しんでコツコツと進めているものの、成果を発表するほどの形を成しているわけではありません。
老体に鞭打って夏を乗り越える努力をしているわけですが、体力の消耗のみならずこの時期の電車運転は神経がすり減る思いがします。これぞ15インチゲージの宿命かとつくづく感じたので報告しておきます。
普段は電車に乗り込むと運転手になりきって「前方よし!」とノッチを進めます(信号がないので「出発進行!」とは言いません)。S字カーブでわざと身体を少し揺すりながらフルノッチで走り抜け、微妙なブレーキ操作で車止めギリギリに停めます。続いて固い身体を捩り、後方に障害物がないことを確認してバック運転です。分岐器を少し過ぎて転轍機を切替え、新線の急カーブでのモーターの唸りを楽しみます。カーブのバック運転では首が回らないのでほとんど後方確認はできませんが、ひと気はないので強引に走ります。
下の孫も3歳になり、子供二人が一緒にいる間はまだいいのですが、親の目を離れて別々になると電車の運転は気が抜けません。無蓋車に座っていても身を乗り出したり、まだ動いているのに飛び降りたり、線路際を走ったり。これにご近所のお子さんまで加わるともうカオス状態になります。実物のように車両限界と建築限界の間に安全距離が取られていればまだいいのでしょうが、どちらもエエ加減なのが現実です。線路際のバラの枝の棘は車両にバリバリ当たります。少しでも車体から手や顔を出すと車庫の柱やウッドデッキの手すりに激突しかねません。もし電車の扉から頭を出してそこを通過するとギロチンになってしまいます。子供はいくら注意しても目が離せません。
一人で運転を楽しんでいる時には考えが及ばなかったリスクがあることに気付きました。私自身が楽しめるように作った庭園鉄道ですが、他の人から見れば遊園地のミニ列車、つまり乗客の安全が担保された乗り物として映っているのだと想像します。さらに大勢で乗った方が楽しいし、所有者も喜ぶと思われていることでしょう。感染症収束に伴って来訪者が増えたことで今まで気づかなかった問題が新たに浮き彫りになりました。
がんこ爺さんの昔話です。クリスマスプレゼントで電気機関車のおもちゃをゲットして以後、ゼンマイ仕掛けの汽車に続いてOゲージのEB電機と貨車のセットを買ってもらいました。当時の子供としてはずいぶん早くに鉄道模型を所有していたことになります。「子供の科学」「模型とラジオ」「模型と工作」等の雑誌を読んで、よりリアルなHOゲージに憧れ、6年生の時に叔父にR450の円形線路とDT22台車2個を買ってもらって転向を果たしました。その後事あるごとにフレキシブルレールや4番ポイントを買い足してベニヤ板に貼り付けたレイアウトを完成させ、自作した神戸電鉄デ310とともに中学校の文化祭に出品しました。
レイアウトと言っても線路と駅ホームだけ、いわゆるシーナリーは何もありませんが、これまた自作のパワーパックをつなげば電車は自由に走るので、運転マニアの少年は神戸電鉄の始発駅である湊川から終着の粟生までダイヤ通りの運転に没頭しました。傍から見ればベニヤ板の上ですが、運転手は勾配や踏切に注意しながら次々と現れるトンネルや鉄橋を越えて時刻表通りに次の駅のホームの定位置に停車させる妄想に没頭しているのでした。これぞ私のレイアウトのイメージです。本屋で立ち読みした「鉄道模型趣味」のグラビアページには国内外の大小様々なシーナリー付きのレイアウトの写真が載っていました。憧れて植樹のまね事をしても根気が続かず、住宅模型(プレハブ小屋)を置いた程度でやめてしまいました。私の心の中では、線路と車両は一体で鉄道であるけれど軌道敷以外の植栽や情景は模型化の対象外であるような気がしました。それは今線路と電車は実物のスケールに拘っていても、脇にあるアンバランスな草花がちっとも気にならないことからして、やっぱり昔から変わっていないと思います。
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原鉄道模型博物館 |
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1/120スケール(ゲージ9mm)で建設中の スイス登山鉄道レイアウト 自身製作 |
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購入した鋼材は即日防錆処理 |
これらの資材を使用してTR27台車を製作するにあたり新たにチップソー切断機を購入しました。DIY用で価格が手ごろであり、当面の作業に必要な寸法の鋼材が切断できる物を選びました。作りが華奢で精度もあまり期待できませんが、手挽きの金鋸作業に比べると労力や切断面の平面度などでは格段の能率向上と仕上がりを楽しみにしていました。
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チップソー(φ190)に軸受をセットした全景 刃先の様子 |
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上部をカットした軸受 |
キハ40000の兄貴分であるキハ41000の台車はTR26(固定軸距1800mm)で、その軸距を1600mmに短縮したのがTR27(動力側)とTR28(付随側)です。軸距2000mmのキハ42000用TR29は揺れ枕機構が強化されているものの、外観は類似形状になっています。いずれも帯鋼をトラス状に組み立てた簡易軽量構造ながら乗心地がよく、信頼性が高かったようで戦後製の私鉄気動車にも採用されていました。詳しく観察すると溶接されている箇所は見当たらず、ボルト・ナットとリベットで組み立てられているようで、見れば見るほど製作欲がかき立てられます。
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TR27/28総組立図 |
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同上軸受部 |
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同上ボルスター部 |
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上部をカットし軸バネを装着 |
台車枠の構造材は厚さ6mm、幅32mmの帯鋼で、実物に倣ってすべてボルト・ナットで組み立てます。切断および穴あけ、ねじ切り加工は自分で行いますが、厚さが6mmともなると人力での曲げができないので、トラス構造部材のみおなじみの柴田工作所に加工依頼しました。
車輪はデ1と同じく永瀬工場製チルド車輪を柴田工作所から手配して機械加工してもらいました。デ1の車輪径がφ230であったのに対して今回はφ250にしました。径だけでなくタイヤ幅やフランジ高さがより実物に近く、床下で目立ちにくいとはいえ完成時の見た目に期待がふくらみます。ただ旧型気動車特有のスポーク車輪でもプレート車輪でもなく少し残念ですが仕方ありません。この車両はそもそも急曲線通過時の両輪の差動滑りによる走行抵抗低減が期待される左右独立回転車輪付きの試験車です(2022年1月19日投稿「妄想トレイン後編」参照)。ただし当初計画では車軸と車輪の間に玉軸受けを組み込むことにしていましたが、これらの相対速度が非常に低いことから樹脂製のカラーを利用した滑り軸受に設計変更しました。部品コストや加工・組立の容易さ、耐久性を考え合わせても賢明な方法だと考えています。滑り軸受を入れた車輪の反対側はキーを入れて車軸と固定してあります。現時点では駆動方法は未定です。走行抵抗の実験をしたうえで駆動軸数(車輪数)と併せて検討するつもりです。
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奥がキー溝付き駆動車輪、手前は滑り軸受付き従動車輪 右側4個は油性ペイントによって塗装済み、左側未塗装 |
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車輪との嵌め合い部がある車軸は塗装せず防錆油塗布のみ |
今回の投稿では台車設計の図面と概要説明のみにとどめ、加工・組立が進展したら写真や試運転の様子をお伝えします。
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仮組みした車輪 |
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屋内で約9年間保管されていたスパイキ 大部分は黒錆のねずみ色を呈しているが 加工された先端部は赤錆が広がっている |
レール、車輪、台車等15インチゲージでは鉄製の部品や組立品を多数使用しており、特にレールは塗装もされずに屋外で雨ざらしです。茶色の錆に覆われた質感や趣が何とも言えない雰囲気を醸し出していると言えばその通りですが、よく見ると表面の腐食が進行して凹凸が激しくなっていることが多くあります。レールも含めて鋼材を購入した時点では、その表面の大部分はねずみ色を呈しています。黒錆と呼ばれる四三酸化鉄(Fe3O4)は緻密で安定した性質を持ち、高温下の圧延工程で表面に被膜として生成され、内部を保護する効果により防錆剤として機能します。それでも長期間湿潤に晒されると被膜のない部分からいわゆる赤錆(Fe2O3)が広がってしまいます。この辺りの事情は2021年12月投稿の「レールの保管について」で詳しく書いています。その対策として、鋼材を購入したらできるだけ早くクリアまたは黒色ラッカーを吹いておく、雨のかからない場所で保管する、等の対策が必要と判断しました。カヌー格納庫の雨漏り対策が難航しているために長尺鋼材の購入予定が遅れているのもそれが理由です。
レールに先行して手配していたペーシ・モール(継ぎ目板)が届いたので防錆対策を施しました。今回30組(ペーシ2枚モール4本を一組として)購入しましたが、これは次のレール発注予定が5.5m×20本(55m分)なので、分岐や短線の分を見越したためです。一組の単価は為替レートやエネルギ・材料価格高騰の波を受けて9年前の¥550(税抜き)から¥750に大幅値上がりしていました(約40%増し)。それでも自作の手間を考えると市販品はプレスで長穴加工されており量産効果でリーズナブルだと思います。
宅配便の箱を開けると仮組状態だったので一旦全部バラしました。ペーシ(プレート)は脱脂スプレー(パーツクリーナー)とウェスで一枚ずつ表面の油分をぬぐい取り、60枚をブルーシートの上に並べて裏面や端面もクリアラッカーを吹きます。仕上げ塗装ではないので塗り残しやダレを気にする必要もありません。モール(ボルト・ナット)は塗膜が付くと回りが悪くなるので、食品冷凍用のジッパー付袋に入れて防錆油漬けにしておきます。
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開梱 クリア塗装 塗装済の状態 油漬けしたモール |
これらは長尺ではないのでカヌー格納庫の雨漏りが直るまでガレージで保管することにしました。この後TR27菱枠型台車用の帯鋼や山形鋼、丸鋼などを手配するので同様の作業をしなければなりませんが、それぞれの使用目的に応じて塗装、防錆油漬けを使い分けます。長尺重量物は取り扱いに危険を伴うので注意が必要です。