2021/11/22

分岐器を作る 第5編

 (8)試運転

 レールが繋がれば一刻も早く運転したいものです。ただ、水平確認しただけでいきなり電車を走らせて万が一脱線でもすると大変です。まずは無蓋車を手押しでゆっくり通過させます。最大の不安はフログでの脱輪です。分岐角度が小さいので動線に沿ってウィングレールとフログの間に大きなギャップがあり、乗り移る際に車輪が落ち込んでしまわないか、落ち込まないまでも衝撃や乗り心地への影響が大きくならないか心配していたのですが、結果的にはそれは杞憂でした。車輪の踏面の幅が想像以上に広いのでスムーズにウィングレールからフログへ乗り移っている、つまり一時的には両方のレールに乗っている状況を経て通過していることがわかりました。もう一つの懸念は異線進入です。この時点ではまだガードレールを取り付けていないので、フランジがフログの先端にぶつかったりそのままあらぬ方向に進んでしまったりしないかを確認しました。こちらも結果は上々で、直線側、曲線側とも普通に無蓋車を押して走らせる限り異線進入は起こりませんでした。ただこの部分を通過中に車体を横方向に押すと脱線が起こりえることを確認しました。結論としてガードレールは必要です。ただ常時ガードレールでフランジの内側を案内するのではなく、異常な外圧が加わっても車輪がフログ部で異線進入を起こさない程度の位置に設置することが望ましいと判断しました。


(9)ガードレール

 路面電車では溝付きレールでフランジを案内することによって決まった軌跡から逸脱せずに運転されていることを書きました(2021/5/22投稿「鉄道用車輪の話」)。鹿部電鉄では溝付きレールは使用せず、基本的にガードレールは異常時の脱線防止策として機能するようにします。高速鉄道と同じ考えです(エヘン!)

 そこでガードレールは、①通常の運転時には車輪と接触せず、②外部から力が加わって押されても異線進入しないようにフランジ内側を案内し、③外力が加わった状態でガードレール部に進入しても衝撃が生じない、このような形状と位置に設置することにします。具体的にどのような形状にするのがよいか、木製(枕木)のガードレールを設置して検討することにしました。ちょうど良さそうに反りが出て曲がった枕木があったので曲線側に置いて上記の①から③の条件を満足する最適な寸法を測定し、最終的にレールを曲げてガードレールを製作、設置します。ただしレールベンダーではスパンの関係でどんな形状にでも曲げられるわけではないので、実際に試行錯誤しながら設計していきます。

 通常ガードレールの両端は線路の内側へ曲げてあります。ウィングレールの先端も同じ形状になっていて、その目的は脱線復帰機能を持たせるためです。実際に後部車両が脱線したまま走行していた貨物列車が分岐通過した際に復線して何事もなかったかのように運転を続けていた事実があるようです。旅客や車掌の乗った列車ではこんなことはあり得ませんし、鹿部電鉄でも脱線復帰は期待しないものの、見た目はリアルに再現したい気持ちはあります。前述の通りウィングレールの曲げが思い通りに行かなかったのでどうしたものか悩みながら、その先端は頭部を斜めカットすることでお茶を濁しているのが現状です。実はこれと同じ形状のガードレールをJRの分岐器観察中に見つけたのですが、昭和の始めにこのようなものがあったかどうかはわかりません。

JRの先端カットガードレールと鹿部電鉄同ウィングレール  

 ところが昔の絵葉書と思われる大沼電鉄鹿部駅の写真を拡大してみると、ウィングレールもガードレールも先端はカットではなく曲げてあるようです。

鹿部駅(時期不詳)

2021/11/15

分岐器を作る 第4編

 仮組みで問題のないことを確認したらいよいよ分岐器の敷設工事に取りかかりますが、その前に分岐器製作で工夫したことについてお話ししておきます。

 (6)レール穴あけ治具

 分岐器を製作する場合、レールを短く切ったり、組立後に左右の長さを調整したりという必要が出てきます。切ったら繋がなくてはならないので継ぎ目板(ペーシ)を取り付けるための穴あけをしなければなりません。レール端部の穴径と位置はJIS規格E1103で決められています。元がインチ系の寸法なので小数点付きの細かい数字になっていますが、バカ穴でいいので神経質になる必要はありません。とは言うものの手持ちの電動ドリルで大径の穴あけをしようとするとレールは表面硬化していることもあって刃先が走って狙い通りの位置に加工できません。そこで正確な穴あけ加工ができるように簡単な治具を作りました。t4.5×32の帯鋼から図のようなガイド板を作ります。このガイドは下穴をあけるためのものでφ5です。ガイドとレール端部を面一にしてクランプで固定してから小型の電動ドリルで下穴を加工します。その穴をガイドにしてφ12.7(φ12~φ13で可)のドリルで正規の径に広げ、丸ヤスリでバリ取りをすれば加工完了です。ステップドリルとかタケノコドリルと呼ばれるものを使うとバリ取りする必要もなく小型の電動ドリルで最後まで加
工できます。

レール端部の継目板用穴 JIS規格と穴あけ治具
治具をクランプし     φ5の下穴をあけ    φ12.7に拡大する
↖ステップドリルを使うと便利

(7) 分岐器敷設工事

 さて、分岐器を計画していた場所つまりS字カーブの東側の線路の位置に敷設します。一旦5.5m分の線路を取り外し、道床(砂利)を撤去して路盤(地面)を現状よりさらに掘り込みます。これは既設部分の枕木の厚さが50mmであったのに対して分岐器部分は70mmとなるためです。さらに線路を取り外してわかったことですが、枕木下の砂利厚さが薄いためか水はけが悪く一部の枕木が腐っていたことからその対策として砂利層を厚くしようと考えたことにもよります。

 線路撤去は、犬釘抜去、レール移動、枕木掘り出し、砂利除去、路盤掘り込みの順に行います。犬釘は最初に打ち込んでから7年が経っていました。ついこの間のように思っていましたが、そんな年月が流れていたのかと思いながら一抹の不安を抱えていました。202011月投稿「最初の犬釘」で書いたように「何年か経って釘が錆びた時も同じような力加減で抜くことができるかは確かめる術がない。」というものです。結論から言うと、幾分は抜き難かったけれど犬釘が錆びついてビクとも動かないということはありませんでした。硬いクリ材の中で木と鉄が密着していたため酸欠状態で錆の発生が抑えられていたのでしょう。一方で継ぎ目のボルト(モール)は雨ざらしのもと錆が進行して固着し、取り外しに苦労しました。前述のように枕木の一部は腐敗していました。敷設時に防腐剤の塗布をしていてもいつまでその効力が持続するかは疑問です。砂利の厚さを増すことに加えてなんらかの対策が今後線路延長時の検討課題となりました。

下半分が腐った枕木


 既設線路から除去した砂利には、規格外の大石小石や異質な石(火山岩)、木の枝、根、実(クリのイガ)、キノコや昆虫の残骸など色々な物が混入しているので、ふるい分けたうえで洗浄して再利用します。7年のうちに散乱して量も減っているし、道床が厚くなる分も補充しなければなりません。

路盤の掘り込み
 既設線路の撤去に続いてエンドレスに繋がる線路の路盤の掘り込みを行います。久しぶりに連通管式水準器が復活して、分岐部のすべての箇所で水平が出ていることを確認しながら掘ったり埋め戻したりします。もともと地面が傾斜しているのでエンドレス側に進むにつれて掘り込みが浅くなっていきます。錯覚しがちなので目視だけでの作業は禁物です。次に砂利を入れ枕木を並べた上にレールを置くのですが、ここで大問題発生。曲線側(既設側)の基本レールが前後の既設線路の間に入りません。叩いても捩っても収まりません。5.5mでわずか0.5mm程、全長の1万分の1ですが新線の曲率が甘かったのでしょう。無理に入れて継目のスキマがなくなったり、夏の熱膨張で線路が曲がったりという副反応も心配です。思い切って3mmほど切り落とすことにしました。レールを切るのは慣れているので30分もあれば仕事は終わる、と思っていました。実はこれが落とし穴でそれだけではなく、継ぎ目板(ペーシ)とレール端の位置がずれるために穴を広げなければならず、電動工具がないのでヤスリを使う手仕事になってしまいました。

 仮組みの際に描き入れたマークを頼りに互いの位置を確定していき、必要に応じてスクリューで仮固定しておきます。ゲージを確認しながら基本レールの端から順番に犬釘を打っていき、フログ、リードレールを固定、トングレールとその関連部品を結合します。犬釘を打ち込むと砂利の中に枕木が沈み込み、別の場所でレールが浮き上がることになるので、その都度レール上面の水平を確かめます。沈んでいる場合はL型バールで枕木をもち上げながら別の棒で砂利をザクザクと押し込む、いわゆるマルチプルタイタンパーの作業を人力でやる感じです(一人でやるのでシングルタイタンパーです)。この段階で枕木の間に砂利が入っていると浮いた枕木を沈めるのがいささか厄介になるので、全部の結合が終わってから砂利を充填します。7年前に初めて犬釘を打った時と比べると老齢化で腰椎が硬くなり、立ち屈みが大儀、根気が続かないだけでなく、トイレも近くなって頻繁に作業中断するなど能率の大幅低下が否めない状況になっています。

佳境に入った分岐器敷設工事

2021/11/06

分岐器を作る 第3編

  レールの斜め切りが終わってホッとしました。ここまで来たらもう少しと思っていましたが、どっこいすることは次々と出てきます。

(4)その他のレールと枕木

曲率を比較しながら曲げます
 分岐器が完成したら既設の線路と置き換える計画です。だから分岐の曲線側の基本レールもリードレール、トングレール同様既設線路の上において同じ曲率になるように比較しながらレールベンダーで曲げます。既設レールを外して使うと理想的ではありますが、工事が終わるまで運転ができなくなる期間が長くなって買い物やカヌーの運搬など色々と問題があります。一方左右で長さの違うレールを思い通りに同じ曲率に曲げるのは難しく、詳しくは後述しますが、完成した分岐器が前後の既設線路の間にピッタリと納まらなくなるという事態を招いてしまいました。

仮置きの状況
 枕木はクリ材の□70×2000角材から、予め設計図に書き込んでいた寸法に切り出し、防腐剤を2度塗りして乾燥します。トングレールがスライドする部分の枕木は約4mm凹ませてから6個の研磨した平鋼板を皿ネジで取り付けておきます。またウィングレールの当て板が取り付けられる部分も凹ませておきます。これらを図面にもとづいて広い場所に並べ、レールを置いて左右の曲率やゲージを確かめます。同じように作ったはずでも並べてみると微妙な差があり、またまたレールベンダーで更に曲げたり戻したりして修正します。次にトングレールが動作する部分の基本レール内側は底部を切り欠いて密着するようにしておきます。レールの継目に食い違いがないか隙間が適切かなども点検し、必要に応じて置き直したり削ったりします。問題がなくなったら枕木にレールと犬釘の位置をマジックで描き、レール側にも枕木の位置を描き入れます。一旦レールをどけて枕木に描かれたマークに犬釘の下穴をあけておきます。こうすることで敷設予定地にあらためて枕木とレールを高い再現性で置き直すことができるわけです。

(5)転轍機構

 16番模型の場合、両トングレールは付け根部と先端部で真鍮板がはんだ付けされて四角の枠形となり、それぞれの真鍮板の中央にピン(ビスまたはハトメ)を取り付け、片方は回転中心、他方は左右に動かすことで分岐器の切り替えができるようになっています。一方実物の分岐器では、左右のトングレールはいわゆるリンク結合になっていて平行四辺形が歪むように動きます。鹿部電鉄ではこれもこだわって実物に倣うことにしました。分岐器メーカーのウェブサイトを見ると、近年の高速鉄道では可動部のレールの倒れやゲージの狂い、衝撃などを防止する目的で色々と複雑な仕組みが導入されていて、両トングレールも剛結合されているようです。しかし昭和の地方私鉄や森林鉄道、軽便鉄道の分岐器を観察してきた限りにおいて、それらはこの鹿部電鉄方式と大差ない機構になっています。
鹿部電鉄のトングレール結合         木曽森林鉄道の分岐器 

トングレールの継ぎ目
 リードレールとトングレールは継ぎ目板で柔結合します。一般の継ぎ目板は長穴になっていてレールの伸縮や誤差を吸収できるようになっています。一方この継ぎ目板は長手方向には自由度を持たせず、トングレールが首を振れるように少しばかり開き気味にしてあります。リードレールのボルト・ナットは強く締め上げ、トングレールの付け根はしっかり保持されながら継ぎ目板の他端側はレールとクリアランスが保てるようにボルトが取り付けられていますがダブルナットで緩みを防ぐ対処がしてあります。

 トングレールの先端は上述の通り左右がピンで結合されてリンクを形成しています。両者を結合している棒(バー)の正式な名称を調べたのですが的確な答えを見つけることができませんでした。ここでは転轍バーと呼ぶことにします。そしてこれと繋がって外部の転轍機(テコ)の動きを伝える部材を転轍棒と呼びます。転轍バーはすべて山形鋼や平鋼から金鋸で切り出してヤスリで仕上げた部品で構成されています。点数はありますが、レールを切ったり削ったりした後だったので大した苦労とは思いませんでした。ピンの役目を果たすボルトはやはりダブルナットで緩まないように締め付けてクリアランスを保ってあります。部品同士の結合に使用するネジは六角頭のボルトにしてあります。なぜならキャップスクリューと呼ばれる六角穴付きボルトやプラスネジが普及したのは戦後のことで、大沼電鉄が建設された昭和初期には六角頭とマイナス溝のネジしかなかったからです。転轍バーの裏側中央にはリンクボールを取り付け、転轍棒と連結できるようにします。見えないところでは時代を無視した便利なものを使います。今回はまだダルマ転轍器(テコ)が設計中で間に合わないので当面はレールを直接手で動かします。

2021/11/01

分岐器を作る 第2編

  トングレールはクリアラッカーのおかげでガレージでの冬眠から覚めてもその輝きを失うことはありませんでした。続いて色々な工程が待っています。

 (2)フログ

 近年の実物の鉄道ではフログとウィングレールは一体鋳造で成形した部材が使われていますが、例によってレールを削って製作します。レールの斜めカットはトングレールに比べて角度が少し大きいのでその分楽ですが、金鋸の弦が邪魔して一気に切り落とせない状況は変わりません。分岐角度(14°)で切ったレールを少しずらして継ぐ方法と半分の角度で切って重ね合わせる方法があり、後者にしてチョッと工夫をしました。

ずらし継ぎ         合わせ継ぎ         挟み継ぎ  
                                      (独断の呼び方です)

組立済フログ(仕上げ前)
 その理由は単純に斜めカットすると先端部は腹の部分がなくなってしまうからです。トングレールと同様に予め曲げておいて頭部だけを削る方法もありますが、斜めカットしても平板を両側から挟むとなくなった腹を簡単に復元することができることを思いつきました。よく見える所ではないし、腹がなくなっていても別にレールが荷重に耐えかねて変形するおそれもありません。これも偏執モデラ―のこだわりの一つです。レールの高さ(50.8mm)と同じ幅にt4.5の平鋼を切出し、2本のフログレールに挟んでクランプで固定しておいて腹の残っている部分に2ヶ所のφ4通し穴をあけ、片方のレールにはM5のねじ加工をしたうえで残りのレールと平鋼の穴をφ6に広げます。これらの間に接着剤を塗布してボルトで締め上げ、接着剤が硬化してからヤスリで余分の角を落とすとフログが完成します。

(3)リードレールとウィングレール

 リード部とウィング部は別々に切出してから溶接でつなぐのが真っ当な方法ですが、切り込みを入れて曲げ、腹部か底部に当て板をねじ止めすれば溶接する必要がなくなると考え、切り離さずに一体で作り始めました。リードレールの曲線側は既設レールの曲率に合わせて予め曲げておきました。リードレール/ウィングレールの折れ曲がり箇所でレール底部の片側(内側)に約5mmを残して分岐角度と同じ14°のV字型の切欠きを入れ、ウィング側を万力に挟んで「エイッ」と力を入れるとすんなり曲がりました。しかし、想定とは違って切欠きの形状が適切でなかったのかレール同士が密着せず、見事に失敗。得意満面のVサインとはならず、念入りな仕上げも徒労に終わりました。

     当初の目論見はこんな感じ            実際には断面が密着せず

レールの底にあけたネジ穴
 結局両者を切り離してから当て板で接合することにしました。t4.5×70mm×100mmの平鋼板に16ヶ所の皿モミ穴をあけた当て板を、裏返しで正確に置いた4本のリード・ウィングレールに重ねて穴位置を写し、レールの底部に下穴をあけてからM5のねじを切ります。この作業は16個のネジ穴位置がすべて正確に加工されなければネジが入らなかったり、入ってもレール同士の関係が設計通りにならなかったりします。案の定一部の皿モミ穴をヤスリで広げる羽目になりました。少し厄介でした。

 ウィング部の先端のフランジガイドも同様のやり方でレールを折り曲げるのが本来ですが、手抜きをして頭部のみを45°にカットしてそれに代えてあります。後述のガードレールも手抜きします。

タイバー
 4本のレールが繋がったとはいえリードレールの長さは1.4m、端部に力が加わるとモーメントになって付け根のM5ネジに大きな負担がかかり、極端な場合は剪断されてしまう可能性もあります。そこで両リードレールをタイバーで結合して剛性を高めてあります。実は、この加工は前述の当て板を取り付ける前に済ませてあり、当て板のネジ穴の位置決めの精度を上げるための一助にもしてありました。タイバーはφ10の鋼棒の両端にM10の雄ネジ加工をしたもので、リードレールの腹にあけたφ12の穴の両側からナットで締め付けてあり、曲線側はタイバーとレールが直交しないのでテーパーワッシャを介してあります。

 結果的に当て板とタイバーの組み合わせでリードレールとウィングレールは強固に一体化することが可能になり、溶接をしないで分岐器を製作するという秘策はチョッと形を変えて実現することができました。もちろんそれは同時に不安でもあったわけで、大きな達成感を味わうことになりました。

2021/10/22

分岐器を作る 第1編

分岐器各部の名称
  まず、分岐器各部の名称を記した説明図を参照ください。米・英で呼び名が違ったり当然日本語になった際に変わって複数の名称が生まれたりするので絶対的なものではありません。主にWikipediaを参考にしています。

 各部ごとに製作の方針と作業経過を記していきます。並行して作業を進めたり、中断して他の作業にかかったりしたので、記述は必ずしも作業順とは一致しません。





先端部断面形状

(1)トングレール
 分岐器製作の最初に着手するのがトングレールです。鋭く尖った形を想像するだけで、これを作るのかと腰が引けます。付け根(リードレール側)はレールそのものですが、先端部の断面はL字型なので実物の場合はトングレール専用の部材があるようです。おそらく工場で鍛造か鋳造で作られるのだろうと思います。鹿部電鉄では独自のポリシーに従い、模型製作の経験を生かしてレールから削り出します。

 先端部は外側(基本レールに接する側)をまず平面に削り、内側の頭部だけを削って腹部と底部を残すことでL字型断面にします。細かいことを言うと、外側はその後基本レールの頭部に接する部分を凹ませるように削り取ります。実物の鉄道のトングレール先端は刃物のように薄く鋭く尖っています。高速で通過する時に少しでも衝撃が発生しないように研ぎ澄ましてあるのでしょう。当然熱処理をして曲がったり欠けたりしないような調質がなされているはずです。速度や重量が桁違いに小さい庭園鉄道では熱処理はおろか、先端部の一番薄い部分でも3mmの厚さを残すことで強度を保つようにします。この程度の(横方向)段差では脱線しないようにフランジ形状が工夫されているので心配は無用です(2021/5/22投稿の「鉄道用車輪の話」参照)

トングレールの加工
 直進側の加工の概略を、わかりやすくするために長さ方向を縮めて図に示しています。図からもわかるように、この通りの加工方法では頭部の内側の面が直線になりません。これを直線にするために小さな模型ではペンチでレールを曲げて修正すると前回書きましたが、6kgレールでは予め曲げておいてから真っすぐに削ることになります。ここでレールベンダーが登場というわけです。外側の面は基本レールに沿うように仕上げます。この加工は余肉を見て引いたケガキ線に沿って金鋸で切り取り、次いで電動グラインダーで余肉、段差、バリ、を削り取り、ヤスリで仕上げ、最後にサンダーで表面を整えるという段取りになります。書けば簡単ですが、鋭角の切り込みでは金鋸の弦が邪魔をして最後まで切り落とせません。反対側からも切り込んだり、グラインダーで強引に切り取ったりの力技で切り抜けざるを得ませんでした。今回この面の仕上げ角度をかなりな鋭角にしてしまったので、トングレールと基本レールが面接触しないという骨折り損をやらかしてしまいました。この動画はトングレール加工時のものではありませんが、レールを斜めに切るのがいかに根気のいる仕事か理解いただけると思います。

 片方のトングレール一本の加工に10時間近く(延べ日数では数日)を費やしてしまいました。もちろんこの中には素材の切り出しやサビ落とし、レールベンダーの調整なども含んでいるものの、もう一本の加工着手に少し戸惑ってしまいました。「分岐器を自分で作るなら2ヶ月はかかる。」と言われていたので、こんなことで気後れしていては先が続かないと自分に発破をかけて曲線側の二本目もがんばりました。おかげで能率も上がって幾分短い時間で加工は終わりましたが、金鋸やヤスリがけ作業の連続は肩からわき腹、腰に負担があるようで、しばらく張り薬のお世話になりました。それにしても削り終えたトングレールは、刀匠が研いだ日本刀のような鈍い輝きを放ち、魂が宿ったような妖しい空気を漂わせています。せっかくなのでクリアのラッカーを塗布して防錆処理をしました。

苦労の末削り上がったトングレール

 二本のレールの加工にケリがついたのはそろそろ裏の駒ケ岳が白くなる頃、里でも冬支度をしなければならなくなりました。やり始めて2ヶ月は経ったので本当ならすでに完成しているはずですが、そんなわけで分岐器作りは2年がかりの大仕事になります。

2021/10/11

レールベンダーの製作

 レールベンダーは基本的には両側のフックの部分とその中央を押すラムからなっています。機能的には市販の油圧式パイプベンダーと同じなのでレールに合うように改造する方法もあるようですが、パワーや改造の程度に不安がありました。厚鋼板を6kgレールの形状に合わせて加工してフックにすることにし、このフックとラムをどう組み合わせるかを色々検討しました。

 上図の①は原形のネジ式ラムを油圧ジャッキに変えたもので、当初近所の鉄工所に放置されていたものが入手出来たらこういう形にしようと考えていました。これは鍛造品で、専用の加工機がないと真似て作ることはできません。②はその代替案、フック部を厚鋼板として木製の底部を挟む構造ですが、100mm角材が折れることはないもののネジ部で割れが発生する可能性があります。そこで鋼板を曲げて材木を抱える案が③です。強度的には②より優れていますが、ここまでするなら鋼板をコの字型に曲げる方が部品点数も減ってコストは下がるはず、と考え、最終的には一体型にしました。同じ理由で3枚の鋼板を溶接組立にする案は除外しました。レールの剛性に負けてベンダーが変形・破損するようなことがないように要所の強度計算をし、必要な肉厚確保と補強を追加することで頑丈な構造にします。当然ながらレールを曲げるのにどれくらいの力が必要で、ジャッキの圧力を抜いたらどの程度のスプリングバックがあって、最終目標の曲率半径を得るのにどこまで変形させる必要があるのかなどを計算しました。その詳細な計算方法は材料力学と塑性学の教科書に出てくる公式や解説に書いてありますが、ここで紹介したところで面白くもなんともないので省略します。

 両フックのスパンを500mmとしてレールが永久変形を始める時のジャッキの荷重は590kgという計算結果だったので、ホームセンターで4tの油圧ジャッキを購入しました。ジャッキの寸法に合わせて図面を描き、いつもお世話になっている函館の柴田工作所を訪ね、加工が可能か確認しました。当初板厚は12mmとして強度計算していましたが、16mmでも曲げ加工ができるとのことだったので少しでも頑丈にと思い変更しました。加工が終わったフックにジャッキと補強材を取り付け、試しに端材のレールをセットして加圧してみると見事くの字に曲がりました。もちろん曲がったのはレールの方で、ベンダーの変形は全くありませんでした。ジャッキハンドルの可動範囲が少し狭いので改良の余地がありますが、かくの如く頑丈な割に近所の鉄工所で見失ったΨ型の鉄の塊より遥かに軽量で、一人で持ち運ぶことができます。結果的にはこの方が良かったような気がします。

完成したレールベンダー



2021/10/06

分岐器の計画と準備

  電車がとりあえず完成した(内装やブレーキなど未完成です)ので次は線路を延伸しようと考えました。最終目標は母屋を一周するエンドレスです。これまでの線路は途中にS字カーブをはさんだ全長約30mの往復路で、全体計画図に示された南側(図の下部褐色)の部分です。一端は道路に面し、他端はウッドデッキ横づけなので、買い出し時の運搬やカヌーの積み出しに便利であり、運転を楽しむのにもそれなりの距離があって満足はしていました。エンドレスにするには樹木の伐採、築堤の造成、橋梁の建設などの課題があります。庭仕事で出てきた土石の捨て場に困った時に築堤予定地に盛土をしたり、花壇の中の線路が通ることになっている場所には意識的に植栽を避けていたり、ということもあって部分的にはそれらしい地形が形成されています。道行く人から「一向に線路が延びませんねぇ。」と冷やかされた時には「ほら、少しずつ準備は進んでいるンですよ。」とかわしながら、いよいよ本腰入れてエンドレスの建設に着手しようと思うようになっていました。そこに直面する最大の不安と期待が分岐器の製作です。レールを曲げ、切り、削って、繋ぐ作業が必要になります。全部自分でできるかという心配がある一方で、溶接をせずに組み立てる秘策を考えて挑戦してみたくなりました。

全体計画
下の褐色の部分が既設区間

 S字カーブの東側の線路(5.5m)と同じ長さの分岐器を作って既設線路を置き換えることにします。このS字カーブのレールは202012月の投稿「レールを曲げる」で説明した通り、2本の立木にレールの一端をかませ他端にかけたロープを引っ張って曲げたものです。曲率は計算したわけではなく結果的に半径が約5mになっていますが厳密には円弧ではありません。そこでまずこの線路の形状を実測して、同じ寸法の分岐器が製作できるように図面化することにしました。分岐角度は14°、番数でいうと#4相当ですから、非現実的な急分岐ではありません。できた分岐器の図面から必要な部材ごとに寸法を割り出して加工していきます。

S字カーブの半分をこの分岐器に置き換えます

 昔、16番のレイアウトでポイントを自作したことがあったのでトングレールを含めて各部材の形状は理解しているつもりです。模型のトングレールは真鍮製レールの先端の片面に平ヤスリを当ててゴシゴシと擦り、頭部の反対面も少しヤスってペンチで曲がりを修正すると出来上がり。失敗しても作り直せば済みます。ところが6kgレールでは真鍮レールと同じように全部を削って作れなくもないでしょうが、あまり賢明な方法でないことは誰が考えても明白です。金鋸で斜めに切り落としてグラインダーで粗削りをしてからヤスリで仕上げるという手順になります。削った後ペンチで曲げて修正というわけにいかないので、予めレールを曲げておかなければなりません。こういう修正が出来なければ最初から作り直しになってしまいます。というわけで結局ほとんどが手作業、つまり図面はあっても金鋸とヤスリが頼りの現物合わせの世界です。鉄工所に依頼してフライス盤で加工したら仕事は楽ですが結局修正に追われかねません。トングレール以外にフログやウイングレールの製作の際にもこういう作業が必要になります。

レールベンダー
上士幌鉄道資料館
 削る前に曲げておく必要があるということは、まずレールを曲げる道具を入手しなければなりません。前にも少し触れた通り近所の鉄工所のガラクタ置き場に、かつて博物館で見たことのあるレールベンダーと思しきΨ型の鉄の塊が放置してあるのを見つけました。ところが、捨てるのなら声をかけてと頼んでいたのにいつの間にかなくなってしまっていました。フックの形状から考えてどう見てもレールを曲げるために使う道具としか思えず、しかもなぜそんなものが漁業の町の鉄工所にあったのか不思議でなりません。いずれにしても大変残念ですが、こうなったら自分で作るしかありません。