2021/11/06

分岐器を作る 第3編

  レールの斜め切りが終わってホッとしました。ここまで来たらもう少しと思っていましたが、どっこいすることは次々と出てきます。

(4)その他のレールと枕木

曲率を比較しながら曲げます
 分岐器が完成したら既設の線路と置き換える計画です。だから分岐の曲線側の基本レールもリードレール、トングレール同様既設線路の上において同じ曲率になるように比較しながらレールベンダーで曲げます。既設レールを外して使うと理想的ではありますが、工事が終わるまで運転ができなくなる期間が長くなって買い物やカヌーの運搬など色々と問題があります。一方左右で長さの違うレールを思い通りに同じ曲率に曲げるのは難しく、詳しくは後述しますが、完成した分岐器が前後の既設線路の間にピッタリと納まらなくなるという事態を招いてしまいました。

仮置きの状況
 枕木はクリ材の□70×2000角材から、予め設計図に書き込んでいた寸法に切り出し、防腐剤を2度塗りして乾燥します。トングレールがスライドする部分の枕木は約4mm凹ませてから6個の研磨した平鋼板を皿ネジで取り付けておきます。またウィングレールの当て板が取り付けられる部分も凹ませておきます。これらを図面にもとづいて広い場所に並べ、レールを置いて左右の曲率やゲージを確かめます。同じように作ったはずでも並べてみると微妙な差があり、またまたレールベンダーで更に曲げたり戻したりして修正します。次にトングレールが動作する部分の基本レール内側は底部を切り欠いて密着するようにしておきます。レールの継目に食い違いがないか隙間が適切かなども点検し、必要に応じて置き直したり削ったりします。問題がなくなったら枕木にレールと犬釘の位置をマジックで描き、レール側にも枕木の位置を描き入れます。一旦レールをどけて枕木に描かれたマークに犬釘の下穴をあけておきます。こうすることで敷設予定地にあらためて枕木とレールを高い再現性で置き直すことができるわけです。

(5)転轍機構

 16番模型の場合、両トングレールは付け根部と先端部で真鍮板がはんだ付けされて四角の枠形となり、それぞれの真鍮板の中央にピン(ビスまたはハトメ)を取り付け、片方は回転中心、他方は左右に動かすことで分岐器の切り替えができるようになっています。一方実物の分岐器では、左右のトングレールはいわゆるリンク結合になっていて平行四辺形が歪むように動きます。鹿部電鉄ではこれもこだわって実物に倣うことにしました。分岐器メーカーのウェブサイトを見ると、近年の高速鉄道では可動部のレールの倒れやゲージの狂い、衝撃などを防止する目的で色々と複雑な仕組みが導入されていて、両トングレールも剛結合されているようです。しかし昭和の地方私鉄や森林鉄道、軽便鉄道の分岐器を観察してきた限りにおいて、それらはこの鹿部電鉄方式と大差ない機構になっています。
鹿部電鉄のトングレール結合         木曽森林鉄道の分岐器 

トングレールの継ぎ目
 リードレールとトングレールは継ぎ目板で柔結合します。一般の継ぎ目板は長穴になっていてレールの伸縮や誤差を吸収できるようになっています。一方この継ぎ目板は長手方向には自由度を持たせず、トングレールが首を振れるように少しばかり開き気味にしてあります。リードレールのボルト・ナットは強く締め上げ、トングレールの付け根はしっかり保持されながら継ぎ目板の他端側はレールとクリアランスが保てるようにボルトが取り付けられていますがダブルナットで緩みを防ぐ対処がしてあります。

 トングレールの先端は上述の通り左右がピンで結合されてリンクを形成しています。両者を結合している棒(バー)の正式な名称を調べたのですが的確な答えを見つけることができませんでした。ここでは転轍バーと呼ぶことにします。そしてこれと繋がって外部の転轍機(テコ)の動きを伝える部材を転轍棒と呼びます。転轍バーはすべて山形鋼や平鋼から金鋸で切り出してヤスリで仕上げた部品で構成されています。点数はありますが、レールを切ったり削ったりした後だったので大した苦労とは思いませんでした。ピンの役目を果たすボルトはやはりダブルナットで緩まないように締め付けてクリアランスを保ってあります。部品同士の結合に使用するネジは六角頭のボルトにしてあります。なぜならキャップスクリューと呼ばれる六角穴付きボルトやプラスネジが普及したのは戦後のことで、大沼電鉄が建設された昭和初期には六角頭とマイナス溝のネジしかなかったからです。転轍バーの裏側中央にはリンクボールを取り付け、転轍棒と連結できるようにします。見えないところでは時代を無視した便利なものを使います。今回はまだダルマ転轍器(テコ)が設計中で間に合わないので当面はレールを直接手で動かします。

2021/11/01

分岐器を作る 第2編

  トングレールはクリアラッカーのおかげでガレージでの冬眠から覚めてもその輝きを失うことはありませんでした。続いて色々な工程が待っています。

 (2)フログ

 近年の実物の鉄道ではフログとウィングレールは一体鋳造で成形した部材が使われていますが、例によってレールを削って製作します。レールの斜めカットはトングレールに比べて角度が少し大きいのでその分楽ですが、金鋸の弦が邪魔して一気に切り落とせない状況は変わりません。分岐角度(14°)で切ったレールを少しずらして継ぐ方法と半分の角度で切って重ね合わせる方法があり、後者にしてチョッと工夫をしました。

ずらし継ぎ         合わせ継ぎ         挟み継ぎ  
                                      (独断の呼び方です)

組立済フログ(仕上げ前)
 その理由は単純に斜めカットすると先端部は腹の部分がなくなってしまうからです。トングレールと同様に予め曲げておいて頭部だけを削る方法もありますが、斜めカットしても平板を両側から挟むとなくなった腹を簡単に復元することができることを思いつきました。よく見える所ではないし、腹がなくなっていても別にレールが荷重に耐えかねて変形するおそれもありません。これも偏執モデラ―のこだわりの一つです。レールの高さ(50.8mm)と同じ幅にt4.5の平鋼を切出し、2本のフログレールに挟んでクランプで固定しておいて腹の残っている部分に2ヶ所のφ4通し穴をあけ、片方のレールにはM5のねじ加工をしたうえで残りのレールと平鋼の穴をφ6に広げます。これらの間に接着剤を塗布してボルトで締め上げ、接着剤が硬化してからヤスリで余分の角を落とすとフログが完成します。

(3)リードレールとウィングレール

 リード部とウィング部は別々に切出してから溶接でつなぐのが真っ当な方法ですが、切り込みを入れて曲げ、腹部か底部に当て板をねじ止めすれば溶接する必要がなくなると考え、切り離さずに一体で作り始めました。リードレールの曲線側は既設レールの曲率に合わせて予め曲げておきました。リードレール/ウィングレールの折れ曲がり箇所でレール底部の片側(内側)に約5mmを残して分岐角度と同じ14°のV字型の切欠きを入れ、ウィング側を万力に挟んで「エイッ」と力を入れるとすんなり曲がりました。しかし、想定とは違って切欠きの形状が適切でなかったのかレール同士が密着せず、見事に失敗。得意満面のVサインとはならず、念入りな仕上げも徒労に終わりました。

     当初の目論見はこんな感じ            実際には断面が密着せず

レールの底にあけたネジ穴
 結局両者を切り離してから当て板で接合することにしました。t4.5×70mm×100mmの平鋼板に16ヶ所の皿モミ穴をあけた当て板を、裏返しで正確に置いた4本のリード・ウィングレールに重ねて穴位置を写し、レールの底部に下穴をあけてからM5のねじを切ります。この作業は16個のネジ穴位置がすべて正確に加工されなければネジが入らなかったり、入ってもレール同士の関係が設計通りにならなかったりします。案の定一部の皿モミ穴をヤスリで広げる羽目になりました。少し厄介でした。

 ウィング部の先端のフランジガイドも同様のやり方でレールを折り曲げるのが本来ですが、手抜きをして頭部のみを45°にカットしてそれに代えてあります。後述のガードレールも手抜きします。

タイバー
 4本のレールが繋がったとはいえリードレールの長さは1.4m、端部に力が加わるとモーメントになって付け根のM5ネジに大きな負担がかかり、極端な場合は剪断されてしまう可能性もあります。そこで両リードレールをタイバーで結合して剛性を高めてあります。実は、この加工は前述の当て板を取り付ける前に済ませてあり、当て板のネジ穴の位置決めの精度を上げるための一助にもしてありました。タイバーはφ10の鋼棒の両端にM10の雄ネジ加工をしたもので、リードレールの腹にあけたφ12の穴の両側からナットで締め付けてあり、曲線側はタイバーとレールが直交しないのでテーパーワッシャを介してあります。

 結果的に当て板とタイバーの組み合わせでリードレールとウィングレールは強固に一体化することが可能になり、溶接をしないで分岐器を製作するという秘策はチョッと形を変えて実現することができました。もちろんそれは同時に不安でもあったわけで、大きな達成感を味わうことになりました。

2021/10/22

分岐器を作る 第1編

分岐器各部の名称
  まず、分岐器各部の名称を記した説明図を参照ください。米・英で呼び名が違ったり当然日本語になった際に変わって複数の名称が生まれたりするので絶対的なものではありません。主にWikipediaを参考にしています。

 各部ごとに製作の方針と作業経過を記していきます。並行して作業を進めたり、中断して他の作業にかかったりしたので、記述は必ずしも作業順とは一致しません。





先端部断面形状

(1)トングレール
 分岐器製作の最初に着手するのがトングレールです。鋭く尖った形を想像するだけで、これを作るのかと腰が引けます。付け根(リードレール側)はレールそのものですが、先端部の断面はL字型なので実物の場合はトングレール専用の部材があるようです。おそらく工場で鍛造か鋳造で作られるのだろうと思います。鹿部電鉄では独自のポリシーに従い、模型製作の経験を生かしてレールから削り出します。

 先端部は外側(基本レールに接する側)をまず平面に削り、内側の頭部だけを削って腹部と底部を残すことでL字型断面にします。細かいことを言うと、外側はその後基本レールの頭部に接する部分を凹ませるように削り取ります。実物の鉄道のトングレール先端は刃物のように薄く鋭く尖っています。高速で通過する時に少しでも衝撃が発生しないように研ぎ澄ましてあるのでしょう。当然熱処理をして曲がったり欠けたりしないような調質がなされているはずです。速度や重量が桁違いに小さい庭園鉄道では熱処理はおろか、先端部の一番薄い部分でも3mmの厚さを残すことで強度を保つようにします。この程度の(横方向)段差では脱線しないようにフランジ形状が工夫されているので心配は無用です(2021/5/22投稿の「鉄道用車輪の話」参照)

トングレールの加工
 直進側の加工の概略を、わかりやすくするために長さ方向を縮めて図に示しています。図からもわかるように、この通りの加工方法では頭部の内側の面が直線になりません。これを直線にするために小さな模型ではペンチでレールを曲げて修正すると前回書きましたが、6kgレールでは予め曲げておいてから真っすぐに削ることになります。ここでレールベンダーが登場というわけです。外側の面は基本レールに沿うように仕上げます。この加工は余肉を見て引いたケガキ線に沿って金鋸で切り取り、次いで電動グラインダーで余肉、段差、バリ、を削り取り、ヤスリで仕上げ、最後にサンダーで表面を整えるという段取りになります。書けば簡単ですが、鋭角の切り込みでは金鋸の弦が邪魔をして最後まで切り落とせません。反対側からも切り込んだり、グラインダーで強引に切り取ったりの力技で切り抜けざるを得ませんでした。今回この面の仕上げ角度をかなりな鋭角にしてしまったので、トングレールと基本レールが面接触しないという骨折り損をやらかしてしまいました。この動画はトングレール加工時のものではありませんが、レールを斜めに切るのがいかに根気のいる仕事か理解いただけると思います。

 片方のトングレール一本の加工に10時間近く(延べ日数では数日)を費やしてしまいました。もちろんこの中には素材の切り出しやサビ落とし、レールベンダーの調整なども含んでいるものの、もう一本の加工着手に少し戸惑ってしまいました。「分岐器を自分で作るなら2ヶ月はかかる。」と言われていたので、こんなことで気後れしていては先が続かないと自分に発破をかけて曲線側の二本目もがんばりました。おかげで能率も上がって幾分短い時間で加工は終わりましたが、金鋸やヤスリがけ作業の連続は肩からわき腹、腰に負担があるようで、しばらく張り薬のお世話になりました。それにしても削り終えたトングレールは、刀匠が研いだ日本刀のような鈍い輝きを放ち、魂が宿ったような妖しい空気を漂わせています。せっかくなのでクリアのラッカーを塗布して防錆処理をしました。

苦労の末削り上がったトングレール

 二本のレールの加工にケリがついたのはそろそろ裏の駒ケ岳が白くなる頃、里でも冬支度をしなければならなくなりました。やり始めて2ヶ月は経ったので本当ならすでに完成しているはずですが、そんなわけで分岐器作りは2年がかりの大仕事になります。

2021/10/11

レールベンダーの製作

 レールベンダーは基本的には両側のフックの部分とその中央を押すラムからなっています。機能的には市販の油圧式パイプベンダーと同じなのでレールに合うように改造する方法もあるようですが、パワーや改造の程度に不安がありました。厚鋼板を6kgレールの形状に合わせて加工してフックにすることにし、このフックとラムをどう組み合わせるかを色々検討しました。

 上図の①は原形のネジ式ラムを油圧ジャッキに変えたもので、当初近所の鉄工所に放置されていたものが入手出来たらこういう形にしようと考えていました。これは鍛造品で、専用の加工機がないと真似て作ることはできません。②はその代替案、フック部を厚鋼板として木製の底部を挟む構造ですが、100mm角材が折れることはないもののネジ部で割れが発生する可能性があります。そこで鋼板を曲げて材木を抱える案が③です。強度的には②より優れていますが、ここまでするなら鋼板をコの字型に曲げる方が部品点数も減ってコストは下がるはず、と考え、最終的には一体型にしました。同じ理由で3枚の鋼板を溶接組立にする案は除外しました。レールの剛性に負けてベンダーが変形・破損するようなことがないように要所の強度計算をし、必要な肉厚確保と補強を追加することで頑丈な構造にします。当然ながらレールを曲げるのにどれくらいの力が必要で、ジャッキの圧力を抜いたらどの程度のスプリングバックがあって、最終目標の曲率半径を得るのにどこまで変形させる必要があるのかなどを計算しました。その詳細な計算方法は材料力学と塑性学の教科書に出てくる公式や解説に書いてありますが、ここで紹介したところで面白くもなんともないので省略します。

 両フックのスパンを500mmとしてレールが永久変形を始める時のジャッキの荷重は590kgという計算結果だったので、ホームセンターで4tの油圧ジャッキを購入しました。ジャッキの寸法に合わせて図面を描き、いつもお世話になっている函館の柴田工作所を訪ね、加工が可能か確認しました。当初板厚は12mmとして強度計算していましたが、16mmでも曲げ加工ができるとのことだったので少しでも頑丈にと思い変更しました。加工が終わったフックにジャッキと補強材を取り付け、試しに端材のレールをセットして加圧してみると見事くの字に曲がりました。もちろん曲がったのはレールの方で、ベンダーの変形は全くありませんでした。ジャッキハンドルの可動範囲が少し狭いので改良の余地がありますが、かくの如く頑丈な割に近所の鉄工所で見失ったΨ型の鉄の塊より遥かに軽量で、一人で持ち運ぶことができます。結果的にはこの方が良かったような気がします。

完成したレールベンダー



2021/10/06

分岐器の計画と準備

  電車がとりあえず完成した(内装やブレーキなど未完成です)ので次は線路を延伸しようと考えました。最終目標は母屋を一周するエンドレスです。これまでの線路は途中にS字カーブをはさんだ全長約30mの往復路で、全体計画図に示された南側(図の下部褐色)の部分です。一端は道路に面し、他端はウッドデッキ横づけなので、買い出し時の運搬やカヌーの積み出しに便利であり、運転を楽しむのにもそれなりの距離があって満足はしていました。エンドレスにするには樹木の伐採、築堤の造成、橋梁の建設などの課題があります。庭仕事で出てきた土石の捨て場に困った時に築堤予定地に盛土をしたり、花壇の中の線路が通ることになっている場所には意識的に植栽を避けていたり、ということもあって部分的にはそれらしい地形が形成されています。道行く人から「一向に線路が延びませんねぇ。」と冷やかされた時には「ほら、少しずつ準備は進んでいるンですよ。」とかわしながら、いよいよ本腰入れてエンドレスの建設に着手しようと思うようになっていました。そこに直面する最大の不安と期待が分岐器の製作です。レールを曲げ、切り、削って、繋ぐ作業が必要になります。全部自分でできるかという心配がある一方で、溶接をせずに組み立てる秘策を考えて挑戦してみたくなりました。

全体計画
下の褐色の部分が既設区間

 S字カーブの東側の線路(5.5m)と同じ長さの分岐器を作って既設線路を置き換えることにします。このS字カーブのレールは202012月の投稿「レールを曲げる」で説明した通り、2本の立木にレールの一端をかませ他端にかけたロープを引っ張って曲げたものです。曲率は計算したわけではなく結果的に半径が約5mになっていますが厳密には円弧ではありません。そこでまずこの線路の形状を実測して、同じ寸法の分岐器が製作できるように図面化することにしました。分岐角度は14°、番数でいうと#4相当ですから、非現実的な急分岐ではありません。できた分岐器の図面から必要な部材ごとに寸法を割り出して加工していきます。

S字カーブの半分をこの分岐器に置き換えます

 昔、16番のレイアウトでポイントを自作したことがあったのでトングレールを含めて各部材の形状は理解しているつもりです。模型のトングレールは真鍮製レールの先端の片面に平ヤスリを当ててゴシゴシと擦り、頭部の反対面も少しヤスってペンチで曲がりを修正すると出来上がり。失敗しても作り直せば済みます。ところが6kgレールでは真鍮レールと同じように全部を削って作れなくもないでしょうが、あまり賢明な方法でないことは誰が考えても明白です。金鋸で斜めに切り落としてグラインダーで粗削りをしてからヤスリで仕上げるという手順になります。削った後ペンチで曲げて修正というわけにいかないので、予めレールを曲げておかなければなりません。こういう修正が出来なければ最初から作り直しになってしまいます。というわけで結局ほとんどが手作業、つまり図面はあっても金鋸とヤスリが頼りの現物合わせの世界です。鉄工所に依頼してフライス盤で加工したら仕事は楽ですが結局修正に追われかねません。トングレール以外にフログやウイングレールの製作の際にもこういう作業が必要になります。

レールベンダー
上士幌鉄道資料館
 削る前に曲げておく必要があるということは、まずレールを曲げる道具を入手しなければなりません。前にも少し触れた通り近所の鉄工所のガラクタ置き場に、かつて博物館で見たことのあるレールベンダーと思しきΨ型の鉄の塊が放置してあるのを見つけました。ところが、捨てるのなら声をかけてと頼んでいたのにいつの間にかなくなってしまっていました。フックの形状から考えてどう見てもレールを曲げるために使う道具としか思えず、しかもなぜそんなものが漁業の町の鉄工所にあったのか不思議でなりません。いずれにしても大変残念ですが、こうなったら自分で作るしかありません。

2021/09/28

待避線(余談・雑談) 15インチゲージのすすめ

  私が中学生の時に小さな電車の中に乗り込んで運転をした夢を見て以来、そんな電車があったらいいのになぁと思っていたことは、最初の投稿「事の始まり」で書いた通りです。多くの鉄っちゃんは実現できるかどうかは別にして、自家用鉄道を持ちたいと憧れるものです。模型を作って「〇〇鉄道」の社長を名乗ったり、仮想の路線やダイヤで妄想を展開したり、CG技術を駆使して運転席でマスコンを握ったり、それぞれに工夫して夢に近付くことを楽しんでいる人がいます。

マイ電車の運転席

 他人の趣味のことをとやかく言うつもりはありませんが、私は自分が乗れる電車を作ってみて「これは究極の鉄道趣味だ!」と思いました。始めた頃は「最後まで作り上げられるだろうか?どれくらいの時間と費用がかかるのか?」と不安がいっぱいでした。さらにそれ以前は「夢としてはあるけど、とても実現なんかできそうもない。」と思っていました。

 何がその夢の実現を妨げているかと言うと、第一に線路用地、次に費用、続いて材料、時間、技術、体力、他人の目、移り気などでしょう。最後の方こそ個人によって乗り越えられるかどうか判断に迷うところですが、用地、費用、材料は考え方、取り組み方によってとてつもなく難しい問題であり続けるわけではありません。もちろんこれも個人の置かれている環境に左右されることは言うまでもありませんが、着手する前から諦めたり悲観的な結論を導いたりすることではないと声を大にして進言したいと思います。

 例えば市街地に住居を構えていて、庭どころか隣家との隙間もない場合、あるいは借家住まいで勝手な使い方ができない場合、大好きな趣味を犠牲にして死ぬまでそこに住み続けるつもりでしょうか?いつか、できるだけ早い方がいいのですが、隣家との間に空間が確保できる場所に引っ越すことを真剣に考えるだけでこの敷居は一気に低くなります。郊外かいっそのこと地方に移住すれば広大な土地を得ることも可能です。通勤距離や家族の理解・同意など難しい問題も出てきますが、生活環境の改善や老後の生活設計と併せて綿密な計画を立てることで道は拓けてきます。

広い敷地に線路を敷くことができる北海道は人生の楽園?

 人が乗れる鉄道模型は3.5インチゲージから5インチ、7.5インチと色々なサイズがあります。愛好者の数で言うと5インチゲージがもっともポピュラーでしょう。確かにライトバンに載せて気軽に運転会に参加できたり、各地に運転場があったりというのは趣味者同士の交流の面でメリットがあると思います。16番やNゲージでは飽き足りないモデラ―が、自分が乗って運転できる最も身近なシステムとして5インチゲージを選択するのは納得できる話です。しかし、ゲージが5インチであっても人が乗るからには線路用地の幅は最低60cm必要ですので15インチゲージとほとんど変わりません。5インチゲージを走らせる用地が確保できるなら、ぜひ15インチゲージを検討してみる価値があると思います。自分が列車に乗り込んで運転するということは、もはや模型の範疇を超えて実物の鉄道の領域に踏み入っているわけで、単に寸法が大きいだけではなくて音や振動、視角など次元の異なる体験を通して魅惑の世界が広がります。

 鉄道建設には膨大な費用がかかる、というのが世間の常識です。私の庭園鉄道を見て「お金がかかるでしょう、現役時代はどれほどの収入があったのですか。奥様も理解がありますね。」とよく言われます。公共事業としての鉄道建設は色々な業界に資本を拡散するためにお金がバラまかれているのであって、庭に線路を敷くためにはレールと枕木と砂利を買えば済みます。どれも1kgあたり数百円ですから、ゴルフやスキーに一回行くくらいの出費で数メートルの線路が敷けます。材料を買えばできる限りの加工は自分でやることが基本です。私が現役時代にもらっていたお小遣いは、飲み屋に投資する代わりにせっせとヘソクリとして積み立てていました。塵も積もればなんとやらで、そのおかげをもって定年退職後はお小遣いがもらえなくなっても鉄道建設に家計からの支出はゼロでやっています。

 夫の変な趣味を大目に見ているだけで良妻の評価が得られるのですから家内も大満足です。我が家にお客様が来ると運転準備をする私の傍らで定番の質問「線路はどこかで売っているのですか?」に家内が得意げに答えます。「学校や工場の門扉にはレールや車輪が付いているでしょ。」と。そう、15インチゲージは贅沢な道楽なんかではなく、身近な工夫と家族の理解・協力で夢が広がるDIYの一種なのです。一般的な鉄道模型の場合、パーツとしてのレール、車輪、台車の他、完成車両やキットも各社から販売されています。もちろんフルスクラッチビルドもできるし、財布と相談しながら半完成組立品を購入して製作の効率や質を上げることも可能です。お金を惜しまなければ好みの車両が手に入ります。それは15インチゲージでもメーカーがあるので同じことが言えます。ただ私の場合は模型店からキットや組立品を購入するのではなくて、鋼材商や材木商から購入した素材を切ったり曲げたり繋いだりして線路を敷き、一般産業用機械部品を通販やホームセンターで購入して車両を製作しています。特殊な部品だけは溶接や機械加工を鉄工所に外注することで極力経費を削減することを心掛けます。製作にかかる費用は線路や車両のサイズで決まるのではなくて、材料の調達方法によるところが大きいと思います。またあくまでも趣味として考えると、作ることを楽しむのか、車両の運転をしたいのか、あるいは人に乗ってもらうことに喜びを感じるのか、自分自身が何に重きを置いているかによってかかる費用も大きく異なってきます。

自宅の庭に線路のある暮らし
 大型の鉄道模型を楽しみたい、人を乗せて走る列車がほしい、自分で運転してみたい、と思ったらまず15インチゲージの妄想からはじめてみてはどうでしょうか。思いがふくらんでチョッとやってみようかと思い立ったら、3mでも5mでもいいから実際に線路を敷いてみる。手押しトロッコが動くようになったらもうひたすら前に進むしかありません。

2021/09/20

ブレーカーボックス

  旧制御器には電圧計と電流計が取り付けてありました。模型のパワーパックと同じ感覚でそうしていたわけですが、特に電圧計は電源電圧を見る目的でブレーカーの入力側に接続していました。つまり電圧計を確認することでバッテリーの残量がわかるようにしていました。その電圧計のフルスケールがたまたま100Vであったので、フル充電で100V以上あると正確には読み取れませんが、バッテリーが弱って力行時に70Vを割ると交換の目安にするという意味では用をなしていました。新制御器製作に際して電源電圧用としてフルスケール150Vのものを新たに購入し、100Vの旧品は電機子への印加電圧モニター用として前後切替スイッチの前に接続しています。

正面窓右側幕板のブレーカーボックス
 直接制御器が大きくなったので手元(制御器とブレーキ弁の付近)に計器を配置するスペースがなくなってしまいました。これらの計器は旧制御器のアルミ製シャーシを改造して取り付ける計画でしたので、電源電圧計用の取付穴を追加工してから正面窓右側幕板の内側に取り付けました。ブレーカーはそのまま流用、加速用ロータリースイッチもそのままの位置に残しておいて後で前照灯の前後切替スイッチとして利用することにしています(未配線)。昔の電車の断流器(ブレーカー)や灯火スイッチはだいたいこの位置にあったので実物に似ていい感じです。これらの電流・電圧計はプラスティック製角型のモダンな形状をしていて昭和初期の電車に似つかわしくないので、いずれ黒塗りで丸い穴のあいたパネルの覆いを付けようと思っています。

 バッテリーからコネクタを介してこのブレーカーボックスに電源線を引き込み、ここから制御器へ電源供給するとともに、電機子電圧モニター用の計装配線を並行して接続します(前回のお蔵入り色付き配線図参照)。このブレーカーボックスの改造や配線にてこずったのも新制御器の取り付けと試運転が遅れた原因でした。狭い運転台の上部にアルミ製シャーシが取り付けられたので、運転のために乗り降りする度にハゲ頭をシャーシの角にぶつけては痛い思いをしてとうとう流血事故に至りました。後日コーナーパッドを貼り付けることでこの労災問題は解決することになりました。