2021/09/28

待避線(余談・雑談) 15インチゲージのすすめ

  私が中学生の時に小さな電車の中に乗り込んで運転をした夢を見て以来、そんな電車があったらいいのになぁと思っていたことは、最初の投稿「事の始まり」で書いた通りです。多くの鉄っちゃんは実現できるかどうかは別にして、自家用鉄道を持ちたいと憧れるものです。模型を作って「〇〇鉄道」の社長を名乗ったり、仮想の路線やダイヤで妄想を展開したり、CG技術を駆使して運転席でマスコンを握ったり、それぞれに工夫して夢に近付くことを楽しんでいる人がいます。

マイ電車の運転席

 他人の趣味のことをとやかく言うつもりはありませんが、私は自分が乗れる電車を作ってみて「これは究極の鉄道趣味だ!」と思いました。始めた頃は「最後まで作り上げられるだろうか?どれくらいの時間と費用がかかるのか?」と不安がいっぱいでした。さらにそれ以前は「夢としてはあるけど、とても実現なんかできそうもない。」と思っていました。

 何がその夢の実現を妨げているかと言うと、第一に線路用地、次に費用、続いて材料、時間、技術、体力、他人の目、移り気などでしょう。最後の方こそ個人によって乗り越えられるかどうか判断に迷うところですが、用地、費用、材料は考え方、取り組み方によってとてつもなく難しい問題であり続けるわけではありません。もちろんこれも個人の置かれている環境に左右されることは言うまでもありませんが、着手する前から諦めたり悲観的な結論を導いたりすることではないと声を大にして進言したいと思います。

 例えば市街地に住居を構えていて、庭どころか隣家との隙間もない場合、あるいは借家住まいで勝手な使い方ができない場合、大好きな趣味を犠牲にして死ぬまでそこに住み続けるつもりでしょうか?いつか、できるだけ早い方がいいのですが、隣家との間に空間が確保できる場所に引っ越すことを真剣に考えるだけでこの敷居は一気に低くなります。郊外かいっそのこと地方に移住すれば広大な土地を得ることも可能です。通勤距離や家族の理解・同意など難しい問題も出てきますが、生活環境の改善や老後の生活設計と併せて綿密な計画を立てることで道は拓けてきます。

広い敷地に線路を敷くことができる北海道は人生の楽園?

 人が乗れる鉄道模型は3.5インチゲージから5インチ、7.5インチと色々なサイズがあります。愛好者の数で言うと5インチゲージがもっともポピュラーでしょう。確かにライトバンに載せて気軽に運転会に参加できたり、各地に運転場があったりというのは趣味者同士の交流の面でメリットがあると思います。16番やNゲージでは飽き足りないモデラ―が、自分が乗って運転できる最も身近なシステムとして5インチゲージを選択するのは納得できる話です。しかし、ゲージが5インチであっても人が乗るからには線路用地の幅は最低60cm必要ですので15インチゲージとほとんど変わりません。5インチゲージを走らせる用地が確保できるなら、ぜひ15インチゲージを検討してみる価値があると思います。自分が列車に乗り込んで運転するということは、もはや模型の範疇を超えて実物の鉄道の領域に踏み入っているわけで、単に寸法が大きいだけではなくて音や振動、視角など次元の異なる体験を通して魅惑の世界が広がります。

 鉄道建設には膨大な費用がかかる、というのが世間の常識です。私の庭園鉄道を見て「お金がかかるでしょう、現役時代はどれほどの収入があったのですか。奥様も理解がありますね。」とよく言われます。公共事業としての鉄道建設は色々な業界に資本を拡散するためにお金がバラまかれているのであって、庭に線路を敷くためにはレールと枕木と砂利を買えば済みます。どれも1kgあたり数百円ですから、ゴルフやスキーに一回行くくらいの出費で数メートルの線路が敷けます。材料を買えばできる限りの加工は自分でやることが基本です。私が現役時代にもらっていたお小遣いは、飲み屋に投資する代わりにせっせとヘソクリとして積み立てていました。塵も積もればなんとやらで、そのおかげをもって定年退職後はお小遣いがもらえなくなっても鉄道建設に家計からの支出はゼロでやっています。

 夫の変な趣味を大目に見ているだけで良妻の評価が得られるのですから家内も大満足です。我が家にお客様が来ると運転準備をする私の傍らで定番の質問「線路はどこかで売っているのですか?」に家内が得意げに答えます。「学校や工場の門扉にはレールや車輪が付いているでしょ。」と。そう、15インチゲージは贅沢な道楽なんかではなく、身近な工夫と家族の理解・協力で夢が広がるDIYの一種なのです。一般的な鉄道模型の場合、パーツとしてのレール、車輪、台車の他、完成車両やキットも各社から販売されています。もちろんフルスクラッチビルドもできるし、財布と相談しながら半完成組立品を購入して製作の効率や質を上げることも可能です。お金を惜しまなければ好みの車両が手に入ります。それは15インチゲージでもメーカーがあるので同じことが言えます。ただ私の場合は模型店からキットや組立品を購入するのではなくて、鋼材商や材木商から購入した素材を切ったり曲げたり繋いだりして線路を敷き、一般産業用機械部品を通販やホームセンターで購入して車両を製作しています。特殊な部品だけは溶接や機械加工を鉄工所に外注することで極力経費を削減することを心掛けます。製作にかかる費用は線路や車両のサイズで決まるのではなくて、材料の調達方法によるところが大きいと思います。またあくまでも趣味として考えると、作ることを楽しむのか、車両の運転をしたいのか、あるいは人に乗ってもらうことに喜びを感じるのか、自分自身が何に重きを置いているかによってかかる費用も大きく異なってきます。

自宅の庭に線路のある暮らし
 大型の鉄道模型を楽しみたい、人を乗せて走る列車がほしい、自分で運転してみたい、と思ったらまず15インチゲージの妄想からはじめてみてはどうでしょうか。思いがふくらんでチョッとやってみようかと思い立ったら、3mでも5mでもいいから実際に線路を敷いてみる。手押しトロッコが動くようになったらもうひたすら前に進むしかありません。

4 件のコメント:

  1. はじめまして。毎回楽しく記事を拝見しております。
    同じ北海道で15インチ鉄道を運営している「空知鉄道」と申します。
    技術的な記事は大変勉強になり、色々と参考にさせていただいております。
    「鉄道建設」への情熱とその苦労話に大変同感いたしました。
    決して「お金持ちの趣味」ではなくて、誰でも情熱さえあれば出来る趣味であり
    今後、興味を持ってくれる方が増えることを願っております。


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  2. 空知鉄道さん 
    コメントありがとうございます。私も空知鉄道さんのTwitter見せていただいています。あっ、テレビでも紹介されていましたね。しかも私の憧れだった市電の運転手さんなんですよね。
    趣味の楽しみ方は人それぞれで、自分の思うようにやって満足できればそれで良しと思っていますが、少しでも誰かの参考になるならと偏執的な電車と線路の製作記を綴っています。苦労話っぽく書いていますが、楽しいからこそ汗をかいているわけで、これぞ究極の鉄道趣味たる所以だと思っています。

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  3. 空知鉄道をご存じでしたか、それは大変光栄です。
    趣味人口としてはごく僅かで、ノウハウも無いなかで自分の鉄道をつくる、こんな楽しいことはないと思っております。
    これからも鉄道建設の苦労話や技術的な解説などの記事を楽しみにしております。
    いつか鹿部電気鉄道さんへ見学に伺わせていただけたら幸いです。

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  4. コロナ騒動が収まったら是非お越しください。こちらでは12月から4月半ばまで屋外作業はできませんが、毎日除雪して周年運転に努めています(天候により運休あり)。
    連絡などは欄外右の「お問い合わせメール」をご利用くださればアドレス交換などもできます。今後ともよろしくお願いします。

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