2021/10/22

分岐器を作る 第1編

分岐器各部の名称
  まず、分岐器各部の名称を記した説明図を参照ください。米・英で呼び名が違ったり当然日本語になった際に変わって複数の名称が生まれたりするので絶対的なものではありません。主にWikipediaを参考にしています。

 各部ごとに製作の方針と作業経過を記していきます。並行して作業を進めたり、中断して他の作業にかかったりしたので、記述は必ずしも作業順とは一致しません。





先端部断面形状

(1)トングレール
 分岐器製作の最初に着手するのがトングレールです。鋭く尖った形を想像するだけで、これを作るのかと腰が引けます。付け根(リードレール側)はレールそのものですが、先端部の断面はL字型なので実物の場合はトングレール専用の部材があるようです。おそらく工場で鍛造か鋳造で作られるのだろうと思います。鹿部電鉄では独自のポリシーに従い、模型製作の経験を生かしてレールから削り出します。

 先端部は外側(基本レールに接する側)をまず平面に削り、内側の頭部だけを削って腹部と底部を残すことでL字型断面にします。細かいことを言うと、外側はその後基本レールの頭部に接する部分を凹ませるように削り取ります。実物の鉄道のトングレール先端は刃物のように薄く鋭く尖っています。高速で通過する時に少しでも衝撃が発生しないように研ぎ澄ましてあるのでしょう。当然熱処理をして曲がったり欠けたりしないような調質がなされているはずです。速度や重量が桁違いに小さい庭園鉄道では熱処理はおろか、先端部の一番薄い部分でも3mmの厚さを残すことで強度を保つようにします。この程度の(横方向)段差では脱線しないようにフランジ形状が工夫されているので心配は無用です(2021/5/22投稿の「鉄道用車輪の話」参照)

トングレールの加工
 直進側の加工の概略を、わかりやすくするために長さ方向を縮めて図に示しています。図からもわかるように、この通りの加工方法では頭部の内側の面が直線になりません。これを直線にするために小さな模型ではペンチでレールを曲げて修正すると前回書きましたが、6kgレールでは予め曲げておいてから真っすぐに削ることになります。ここでレールベンダーが登場というわけです。外側の面は基本レールに沿うように仕上げます。この加工は余肉を見て引いたケガキ線に沿って金鋸で切り取り、次いで電動グラインダーで余肉、段差、バリ、を削り取り、ヤスリで仕上げ、最後にサンダーで表面を整えるという段取りになります。書けば簡単ですが、鋭角の切り込みでは金鋸の弦が邪魔をして最後まで切り落とせません。反対側からも切り込んだり、グラインダーで強引に切り取ったりの力技で切り抜けざるを得ませんでした。今回この面の仕上げ角度をかなりな鋭角にしてしまったので、トングレールと基本レールが面接触しないという骨折り損をやらかしてしまいました。この動画はトングレール加工時のものではありませんが、レールを斜めに切るのがいかに根気のいる仕事か理解いただけると思います。

 片方のトングレール一本の加工に10時間近く(延べ日数では数日)を費やしてしまいました。もちろんこの中には素材の切り出しやサビ落とし、レールベンダーの調整なども含んでいるものの、もう一本の加工着手に少し戸惑ってしまいました。「分岐器を自分で作るなら2ヶ月はかかる。」と言われていたので、こんなことで気後れしていては先が続かないと自分に発破をかけて曲線側の二本目もがんばりました。おかげで能率も上がって幾分短い時間で加工は終わりましたが、金鋸やヤスリがけ作業の連続は肩からわき腹、腰に負担があるようで、しばらく張り薬のお世話になりました。それにしても削り終えたトングレールは、刀匠が研いだ日本刀のような鈍い輝きを放ち、魂が宿ったような妖しい空気を漂わせています。せっかくなのでクリアのラッカーを塗布して防錆処理をしました。

苦労の末削り上がったトングレール

 二本のレールの加工にケリがついたのはそろそろ裏の駒ケ岳が白くなる頃、里でも冬支度をしなければならなくなりました。やり始めて2ヶ月は経ったので本当ならすでに完成しているはずですが、そんなわけで分岐器作りは2年がかりの大仕事になります。

2021/10/11

レールベンダーの製作

 レールベンダーは基本的には両側のフックの部分とその中央を押すラムからなっています。機能的には市販の油圧式パイプベンダーと同じなのでレールに合うように改造する方法もあるようですが、パワーや改造の程度に不安がありました。厚鋼板を6kgレールの形状に合わせて加工してフックにすることにし、このフックとラムをどう組み合わせるかを色々検討しました。

 上図の①は原形のネジ式ラムを油圧ジャッキに変えたもので、当初近所の鉄工所に放置されていたものが入手出来たらこういう形にしようと考えていました。これは鍛造品で、専用の加工機がないと真似て作ることはできません。②はその代替案、フック部を厚鋼板として木製の底部を挟む構造ですが、100mm角材が折れることはないもののネジ部で割れが発生する可能性があります。そこで鋼板を曲げて材木を抱える案が③です。強度的には②より優れていますが、ここまでするなら鋼板をコの字型に曲げる方が部品点数も減ってコストは下がるはず、と考え、最終的には一体型にしました。同じ理由で3枚の鋼板を溶接組立にする案は除外しました。レールの剛性に負けてベンダーが変形・破損するようなことがないように要所の強度計算をし、必要な肉厚確保と補強を追加することで頑丈な構造にします。当然ながらレールを曲げるのにどれくらいの力が必要で、ジャッキの圧力を抜いたらどの程度のスプリングバックがあって、最終目標の曲率半径を得るのにどこまで変形させる必要があるのかなどを計算しました。その詳細な計算方法は材料力学と塑性学の教科書に出てくる公式や解説に書いてありますが、ここで紹介したところで面白くもなんともないので省略します。

 両フックのスパンを500mmとしてレールが永久変形を始める時のジャッキの荷重は590kgという計算結果だったので、ホームセンターで4tの油圧ジャッキを購入しました。ジャッキの寸法に合わせて図面を描き、いつもお世話になっている函館の柴田工作所を訪ね、加工が可能か確認しました。当初板厚は12mmとして強度計算していましたが、16mmでも曲げ加工ができるとのことだったので少しでも頑丈にと思い変更しました。加工が終わったフックにジャッキと補強材を取り付け、試しに端材のレールをセットして加圧してみると見事くの字に曲がりました。もちろん曲がったのはレールの方で、ベンダーの変形は全くありませんでした。ジャッキハンドルの可動範囲が少し狭いので改良の余地がありますが、かくの如く頑丈な割に近所の鉄工所で見失ったΨ型の鉄の塊より遥かに軽量で、一人で持ち運ぶことができます。結果的にはこの方が良かったような気がします。

完成したレールベンダー



2021/10/06

分岐器の計画と準備

  電車がとりあえず完成した(内装やブレーキなど未完成です)ので次は線路を延伸しようと考えました。最終目標は母屋を一周するエンドレスです。これまでの線路は途中にS字カーブをはさんだ全長約30mの往復路で、全体計画図に示された南側(図の下部褐色)の部分です。一端は道路に面し、他端はウッドデッキ横づけなので、買い出し時の運搬やカヌーの積み出しに便利であり、運転を楽しむのにもそれなりの距離があって満足はしていました。エンドレスにするには樹木の伐採、築堤の造成、橋梁の建設などの課題があります。庭仕事で出てきた土石の捨て場に困った時に築堤予定地に盛土をしたり、花壇の中の線路が通ることになっている場所には意識的に植栽を避けていたり、ということもあって部分的にはそれらしい地形が形成されています。道行く人から「一向に線路が延びませんねぇ。」と冷やかされた時には「ほら、少しずつ準備は進んでいるンですよ。」とかわしながら、いよいよ本腰入れてエンドレスの建設に着手しようと思うようになっていました。そこに直面する最大の不安と期待が分岐器の製作です。レールを曲げ、切り、削って、繋ぐ作業が必要になります。全部自分でできるかという心配がある一方で、溶接をせずに組み立てる秘策を考えて挑戦してみたくなりました。

全体計画
下の褐色の部分が既設区間

 S字カーブの東側の線路(5.5m)と同じ長さの分岐器を作って既設線路を置き換えることにします。このS字カーブのレールは202012月の投稿「レールを曲げる」で説明した通り、2本の立木にレールの一端をかませ他端にかけたロープを引っ張って曲げたものです。曲率は計算したわけではなく結果的に半径が約5mになっていますが厳密には円弧ではありません。そこでまずこの線路の形状を実測して、同じ寸法の分岐器が製作できるように図面化することにしました。分岐角度は14°、番数でいうと#4相当ですから、非現実的な急分岐ではありません。できた分岐器の図面から必要な部材ごとに寸法を割り出して加工していきます。

S字カーブの半分をこの分岐器に置き換えます

 昔、16番のレイアウトでポイントを自作したことがあったのでトングレールを含めて各部材の形状は理解しているつもりです。模型のトングレールは真鍮製レールの先端の片面に平ヤスリを当ててゴシゴシと擦り、頭部の反対面も少しヤスってペンチで曲がりを修正すると出来上がり。失敗しても作り直せば済みます。ところが6kgレールでは真鍮レールと同じように全部を削って作れなくもないでしょうが、あまり賢明な方法でないことは誰が考えても明白です。金鋸で斜めに切り落としてグラインダーで粗削りをしてからヤスリで仕上げるという手順になります。削った後ペンチで曲げて修正というわけにいかないので、予めレールを曲げておかなければなりません。こういう修正が出来なければ最初から作り直しになってしまいます。というわけで結局ほとんどが手作業、つまり図面はあっても金鋸とヤスリが頼りの現物合わせの世界です。鉄工所に依頼してフライス盤で加工したら仕事は楽ですが結局修正に追われかねません。トングレール以外にフログやウイングレールの製作の際にもこういう作業が必要になります。

レールベンダー
上士幌鉄道資料館
 削る前に曲げておく必要があるということは、まずレールを曲げる道具を入手しなければなりません。前にも少し触れた通り近所の鉄工所のガラクタ置き場に、かつて博物館で見たことのあるレールベンダーと思しきΨ型の鉄の塊が放置してあるのを見つけました。ところが、捨てるのなら声をかけてと頼んでいたのにいつの間にかなくなってしまっていました。フックの形状から考えてどう見てもレールを曲げるために使う道具としか思えず、しかもなぜそんなものが漁業の町の鉄工所にあったのか不思議でなりません。いずれにしても大変残念ですが、こうなったら自分で作るしかありません。

2021/09/28

待避線(余談・雑談) 15インチゲージのすすめ

  私が中学生の時に小さな電車の中に乗り込んで運転をした夢を見て以来、そんな電車があったらいいのになぁと思っていたことは、最初の投稿「事の始まり」で書いた通りです。多くの鉄っちゃんは実現できるかどうかは別にして、自家用鉄道を持ちたいと憧れるものです。模型を作って「〇〇鉄道」の社長を名乗ったり、仮想の路線やダイヤで妄想を展開したり、CG技術を駆使して運転席でマスコンを握ったり、それぞれに工夫して夢に近付くことを楽しんでいる人がいます。

マイ電車の運転席

 他人の趣味のことをとやかく言うつもりはありませんが、私は自分が乗れる電車を作ってみて「これは究極の鉄道趣味だ!」と思いました。始めた頃は「最後まで作り上げられるだろうか?どれくらいの時間と費用がかかるのか?」と不安がいっぱいでした。さらにそれ以前は「夢としてはあるけど、とても実現なんかできそうもない。」と思っていました。

 何がその夢の実現を妨げているかと言うと、第一に線路用地、次に費用、続いて材料、時間、技術、体力、他人の目、移り気などでしょう。最後の方こそ個人によって乗り越えられるかどうか判断に迷うところですが、用地、費用、材料は考え方、取り組み方によってとてつもなく難しい問題であり続けるわけではありません。もちろんこれも個人の置かれている環境に左右されることは言うまでもありませんが、着手する前から諦めたり悲観的な結論を導いたりすることではないと声を大にして進言したいと思います。

 例えば市街地に住居を構えていて、庭どころか隣家との隙間もない場合、あるいは借家住まいで勝手な使い方ができない場合、大好きな趣味を犠牲にして死ぬまでそこに住み続けるつもりでしょうか?いつか、できるだけ早い方がいいのですが、隣家との間に空間が確保できる場所に引っ越すことを真剣に考えるだけでこの敷居は一気に低くなります。郊外かいっそのこと地方に移住すれば広大な土地を得ることも可能です。通勤距離や家族の理解・同意など難しい問題も出てきますが、生活環境の改善や老後の生活設計と併せて綿密な計画を立てることで道は拓けてきます。

広い敷地に線路を敷くことができる北海道は人生の楽園?

 人が乗れる鉄道模型は3.5インチゲージから5インチ、7.5インチと色々なサイズがあります。愛好者の数で言うと5インチゲージがもっともポピュラーでしょう。確かにライトバンに載せて気軽に運転会に参加できたり、各地に運転場があったりというのは趣味者同士の交流の面でメリットがあると思います。16番やNゲージでは飽き足りないモデラ―が、自分が乗って運転できる最も身近なシステムとして5インチゲージを選択するのは納得できる話です。しかし、ゲージが5インチであっても人が乗るからには線路用地の幅は最低60cm必要ですので15インチゲージとほとんど変わりません。5インチゲージを走らせる用地が確保できるなら、ぜひ15インチゲージを検討してみる価値があると思います。自分が列車に乗り込んで運転するということは、もはや模型の範疇を超えて実物の鉄道の領域に踏み入っているわけで、単に寸法が大きいだけではなくて音や振動、視角など次元の異なる体験を通して魅惑の世界が広がります。

 鉄道建設には膨大な費用がかかる、というのが世間の常識です。私の庭園鉄道を見て「お金がかかるでしょう、現役時代はどれほどの収入があったのですか。奥様も理解がありますね。」とよく言われます。公共事業としての鉄道建設は色々な業界に資本を拡散するためにお金がバラまかれているのであって、庭に線路を敷くためにはレールと枕木と砂利を買えば済みます。どれも1kgあたり数百円ですから、ゴルフやスキーに一回行くくらいの出費で数メートルの線路が敷けます。材料を買えばできる限りの加工は自分でやることが基本です。私が現役時代にもらっていたお小遣いは、飲み屋に投資する代わりにせっせとヘソクリとして積み立てていました。塵も積もればなんとやらで、そのおかげをもって定年退職後はお小遣いがもらえなくなっても鉄道建設に家計からの支出はゼロでやっています。

 夫の変な趣味を大目に見ているだけで良妻の評価が得られるのですから家内も大満足です。我が家にお客様が来ると運転準備をする私の傍らで定番の質問「線路はどこかで売っているのですか?」に家内が得意げに答えます。「学校や工場の門扉にはレールや車輪が付いているでしょ。」と。そう、15インチゲージは贅沢な道楽なんかではなく、身近な工夫と家族の理解・協力で夢が広がるDIYの一種なのです。一般的な鉄道模型の場合、パーツとしてのレール、車輪、台車の他、完成車両やキットも各社から販売されています。もちろんフルスクラッチビルドもできるし、財布と相談しながら半完成組立品を購入して製作の効率や質を上げることも可能です。お金を惜しまなければ好みの車両が手に入ります。それは15インチゲージでもメーカーがあるので同じことが言えます。ただ私の場合は模型店からキットや組立品を購入するのではなくて、鋼材商や材木商から購入した素材を切ったり曲げたり繋いだりして線路を敷き、一般産業用機械部品を通販やホームセンターで購入して車両を製作しています。特殊な部品だけは溶接や機械加工を鉄工所に外注することで極力経費を削減することを心掛けます。製作にかかる費用は線路や車両のサイズで決まるのではなくて、材料の調達方法によるところが大きいと思います。またあくまでも趣味として考えると、作ることを楽しむのか、車両の運転をしたいのか、あるいは人に乗ってもらうことに喜びを感じるのか、自分自身が何に重きを置いているかによってかかる費用も大きく異なってきます。

自宅の庭に線路のある暮らし
 大型の鉄道模型を楽しみたい、人を乗せて走る列車がほしい、自分で運転してみたい、と思ったらまず15インチゲージの妄想からはじめてみてはどうでしょうか。思いがふくらんでチョッとやってみようかと思い立ったら、3mでも5mでもいいから実際に線路を敷いてみる。手押しトロッコが動くようになったらもうひたすら前に進むしかありません。

2021/09/20

ブレーカーボックス

  旧制御器には電圧計と電流計が取り付けてありました。模型のパワーパックと同じ感覚でそうしていたわけですが、特に電圧計は電源電圧を見る目的でブレーカーの入力側に接続していました。つまり電圧計を確認することでバッテリーの残量がわかるようにしていました。その電圧計のフルスケールがたまたま100Vであったので、フル充電で100V以上あると正確には読み取れませんが、バッテリーが弱って力行時に70Vを割ると交換の目安にするという意味では用をなしていました。新制御器製作に際して電源電圧用としてフルスケール150Vのものを新たに購入し、100Vの旧品は電機子への印加電圧モニター用として前後切替スイッチの前に接続しています。

正面窓右側幕板のブレーカーボックス
 直接制御器が大きくなったので手元(制御器とブレーキ弁の付近)に計器を配置するスペースがなくなってしまいました。これらの計器は旧制御器のアルミ製シャーシを改造して取り付ける計画でしたので、電源電圧計用の取付穴を追加工してから正面窓右側幕板の内側に取り付けました。ブレーカーはそのまま流用、加速用ロータリースイッチもそのままの位置に残しておいて後で前照灯の前後切替スイッチとして利用することにしています(未配線)。昔の電車の断流器(ブレーカー)や灯火スイッチはだいたいこの位置にあったので実物に似ていい感じです。これらの電流・電圧計はプラスティック製角型のモダンな形状をしていて昭和初期の電車に似つかわしくないので、いずれ黒塗りで丸い穴のあいたパネルの覆いを付けようと思っています。

 バッテリーからコネクタを介してこのブレーカーボックスに電源線を引き込み、ここから制御器へ電源供給するとともに、電機子電圧モニター用の計装配線を並行して接続します(前回のお蔵入り色付き配線図参照)。このブレーカーボックスの改造や配線にてこずったのも新制御器の取り付けと試運転が遅れた原因でした。狭い運転台の上部にアルミ製シャーシが取り付けられたので、運転のために乗り降りする度にハゲ頭をシャーシの角にぶつけては痛い思いをしてとうとう流血事故に至りました。後日コーナーパッドを貼り付けることでこの労災問題は解決することになりました。

2021/09/12

直接制御器各部の構造 後編

  3.前後切替軸

現合で作った切替機構
 モーターの電極切り替えは模型のパワーパックに使用するのと同じトグルスイッチで行います。基本的に約100Vの直流電圧が加わった状態で切り替えるわけではないので運転中の電流負荷(0.5~2A)で言えば模型とほとんど差がありません。ただし、インターロックがかかっていないので運転中に誤って切り替えるとスイッチのみならず他にも悪影響があることは充分留意しておく必要があります。トグルスイッチのレバーはそれ自身がスナップアクションになっているので、外力で強制的に動かすと無理が生じます。そのためなんらかの緩衝機構が必要であると同時に、前後切替軸も「前進」「中立」「後進」位置で自立的に停止することを考えなければなりません。トグルスイッチのレバーにちょうど被さるサイズのバネを強引に押し込み、その先端付近を切替軸でオーバーラン気味に動かすようにします。切替ハンドルを動かしてトグルスイッチを切り替える機構はうまく図面が描けません。現品を見ながら手仕事で鉄板を切出して万力で曲げ、穴をあけて部品を当てがい、動きを見て調整していく方式です。早い話が現物合わせ、あまり賢い方法ではないものの仕方ありません。

金属製と見まがう切替ハンドル
 実物の前後切替ハンドルは本来中立位置で抜き取れる構造になっています。これは部外者による操作を防止するためのロックアウト機能であり、鹿部電鉄では必要がないので差し込んだ状態の外形を模した形状にします。それにしても複雑な形なので、木材から彫刻製作するしかなく図面化はしましたが、寸法より見た目の形状優先で加工することにします。サーフェーサーを塗っては削り、磨きを繰り返し、最後はメタリックのラッカースプレーを吹いて完成です。芸術品のような風合いで、漆塗りで金箔仕上げにしたいくらいです。

 重厚感あふれる金属製主ハンドルと比べると、見た目は遜色ありませんが切り替えのために動かしてみると木製ハンドルはどうしても軽薄な感じが免れません。「ガチャン」ではなく「プチッ」と動きます。

 4.天板

 天板の鋳物を作るわけにはいかないので木材を加工して最後にメタリック塗装します。仮に鋳物にするとしても木型が必要になるので、その段階までの手間は同じです。図面に従って楕円形に切り出した板の上縁外周にR加工し、外周から10mmの部分を残して2mmの深さで彫り込むことにします。彫刻刀、ノミ、カッターナイフなどを使ってノッチの目盛りと「OFF」「FWD」「REV」など浮き彫りにする部分を残します。削り過ぎてもパテで修正ができるので神経を使う作業ではありませんが、根気は必要です。ハンドルの左側にメーカーや形式名が入るスペースがあるので大沼電鉄の社紋を浮き彫りにします。

文字を浮き彫りに

 金色のラッカースプレーは適度な艶がありながら磨いた金属みたいにピカピカではなく、真鍮製の主ハンドルによく似た質感になり、全く違和感がありません。何も言わなければ金属製の加工品と木製の塗装部分の見分けがつかない仕上がりになりました。見た人はそれをどうやって手に入れたか質問します。「作った」と聞いて驚き、「木製」と聞いて目を疑います。

 5.カバー

 天板の楕円形(長短2種半径の円弧の組み合わせ)に合わせて曲げた薄板を取り付け、手前側はメンテナンスのために取り外せるようにします(実物と同じ)。曲げ作業は鉄工所にロール加工を依頼します。曲率は図面に指示した通りにならないことが予測されるので、後でも修正ができるようにt1のアルミ製(材質A5052)にします。木製の天板と底板の側面に鬼目ナットを打ち込んでビスで固定しますが、現物合わせになるので穴の加工は最後にします。

 完成後に吹き付け塗装した結果きれいに仕上がりました。アルミ表面への塗料の食いつきを懸念していましたが、乗降時に誤って蹴とばしても剥がれるようなことはないようです。

 6.制御器の組立配線と取付

 各機構部品を取り付けてから配線をします。線ごとに色分けした実体配線図を作り、各部品は端子台を経由して接続作業をするわけですが、どうしても意のままにならない部分があって結局配線図は役立たず、記録の用も果たさないままお蔵入りになってしまいました。それでも経路ごとに線材を結束して、旧制御器よりは複雑な割にまとまった配線になったと満足しています。

お蔵入りの色付き配線図 この通りの配線はできなかった

 完成した制御器をデ1の前に置いて記念写真を撮影しました。なかなかの出来ばえです。見た目はチョッと小さいけれど立派な憧れの直接制御器です。「ガチャガチャ」とハンドルを回すと、いやがうえにも早く電車に取り付けて運転してみたいという思いに駆られました。

完成記念写真

 旧制御器を取り外してすぐに交換できるよう電源ケーブルやコネクターを事前に準備していた割に、寸法が合わなかったり取り付け予定場所の不都合があったり、あげくは長雨で作業ができなかったり(基本的に屋外作業です)、結局ひと月近くも運休の日が続きました。そして抜けるような秋空のもといよいよ試運転にこぎつけました。

 ハンドルを回すと我がデ1はゆっくりと動きだし、ノッチを進めるにしたがって加速していきます。別に以前より速く走るわけでもないのに、心なしか宙に浮いているような、そう初めて山陽電車の2000型に乗って揺られたときのような感激が込み上げて来ました。「ガチャガチャガチャ」っと一気にハンドルを戻すとモーター音が変わって惰行に移り、ブレーキをかけると静かに停止します。


2021/09/06

直接制御器各部の構造 前編

  まずは完成した直接制御器の外観をご覧ください。実物の1/2の大きさですが、良く出来ていると思いませんか。

完成した直接制御器

 図面検討した各部は、部品図を作成して外注加工するものと自身で彫刻や仕上げ加工をするもの、通販で購入するものからなります。

直接制御器内部構造図

 1.主ハンドル軸とノッチ機構

 制御器の機構部はt3.2の亜鉛メッキ鋼板を、長ネジを介して3枚配置し、そこに主ハンドル軸、カム軸、前後切替軸の軸受けユニットを取り付けます。実物の制御器のノッチ機構は各種あるようですが、製作容易=構造簡易=動作確実と考えて、主ハンドル軸上のVノッチを加工した円板にローラーを押し付ける構造にしました。バネの押し付け圧力は作ってみてから調整します。主ハンドル軸は大きな力や衝撃が加わってもズレが生じないようハンドルやVノッチ円板とはキーを介して固定します。

 その主ハンドルは20mm厚の黄銅板から削り出すことにし、軸が嵌る穴やネジ加工があるので荒削りも含めて鉄工所に外注します。ハンドルの下に別体の円形ベースを取り付けます。この部品が軸と嵌合し、やはりキー溝加工を施して手荒な取り扱いでも緩んだり抜けたりしないように強固に固定します。

機械加工が終わったハンドル
 これら制御器内部の機構部品は、従来からお世話になっていた函館市内の柴田工作所に発注しようと考えていました。ところが感染症流行で世間全体が休眠状態の中、テレワークもママならぬ鉄工所が果たして操業しているのか心配して訪問したところ、意外にも好況で忙しいとのこと。図面を手渡して「本業の合間仕事で結構なので出来るだけお安く!」と無理をお願いし、次の買い物で出かけたついでに部品を受け取ることにしました。
 フライス盤による加工の終わった主ハンドルはグラインダーとヤスリで角を落とし、Rに仕上げます。こちらはパテで修正ができないので少しずつ削りながら真円になっているか形状を確認し、最後はサンドペーパーで磨きます。主ハンドルは直接制御器の見せ場であり、我ながら見事な仕上がりになったと自慢の一品です。

 ノッチの動作状態はバネ圧を含めて試作一発目の出来上がりで丁度いい感じになったと思います。Vノッチ円板には通常の操作範囲を超えてハンドルが回らないようにストッパー(ボルト頭)が取り付けてあり、思いっきりハンドルを回してもガッチリ止まります。指先でロータリースイッチを遠慮がちに回していた時とは違ってとても実感的です。

 2.カム軸

左側がカム軸とマイクロスイッチ
 実物の制御器のようにカムで接点を押し付ける構造にすると相当の駆動力が必要になることが想像されますし、接点の構造設計や信頼性に自信が持てませんでした。市販のマイクロスイッチ(ローラー付きリミットスイッチ)を使用することで構造を簡便にし、駆動力も低減できると考えました。電動機負荷125V2.5Aの開閉ができるOmron製マイクロスイッチをネットで探し出し、予定しているコントローラーの寸法にきっちり収まることを確認して設計を進めました。必要な駆動力が小さいので歯車の代わりにタイミングベルトで主ハンドル軸と連動するようにします。マイクロスイッチを押すカムは「シャフトホルダー」という市販部品で、相手のローラー動作範囲に合わせてフランジ部分を削り取って使用します。マイクロスイッチは5個使用し、Off位置からノッチ1の中間で界磁がOnになり、ノッチ1の手前で電機子と抵抗3個の直列接続回路が形成され、その後順に抵抗を短絡してノッチ4でバッテリー電圧が電機子に加わるようにカム軸を調整します。つまり、力行は4段ということになり、従来の制御器より1段増えます。実際の抵抗値は完成後の運転で試行錯誤して決めます。なお、ロータリースイッチで制御していた時はタップ間で一旦無電圧になるため、ツマミの位置によっては加速が止まってしまうことがありましたが、この機構ではそういう懸念はありません。
スイッチタイミングチャート

旧回路(左)と新回路(右) 抵抗と界磁の接続が異なる

 カム軸が回ってスイッチが順に動く様子は鉄道博物館で見た制御器の動作と似ていて、こんなものが手元にあるのかと思うとゾクゾクします。