エンジンの話のついでに余談雑談を続けます。あまり面白い話では有馬温泉。
エンジンに限らずモーターなどの原動機の出力は回転数とトルクで表示されます。トルクは回転力と呼ばれることもあり、軸中心からの距離とその位置で取り出せる力の積、つまり㎏mという単位あるいはNm(下記参照)で表されます。またポンプなどの負荷では同じ単位でどれくらいの回転力が必要か、が示されます。支点からの距離と回転力を生み出す力の積は一般的にモーメントと呼ばれ、特に細長い軸の中心線周りの回転力のことをトルクと呼びます。トルクとモーメントは力学的には同じことを指しています。
注記 本稿ではkgは質量(目方)ではなく力の大きさを表しています。正確を期すにはkgfと書くべきですが余計わかりにくくなるので略します。なお1kg=9.8Nで、Nはニュートンと読む国際単位系における力の単位です。
偶力の不思議
例えば地上にある岩のてっぺんを押して転がそうとする場合、岩の高さが0.5mで押す力が10㎏であったとすると、この岩に加わるモーメントはM=0.5m×10㎏=5㎏mということになります。ここで岩に加える力は10㎏だけですが、実は言葉に出てこない隠れた力が働いていることにお気付きでしょうか。岩を押すと地面との摩擦で、岩を押した力と反対向きで等しい大きさの力が反作用または反力として岩に加わっています。これを偶力といいます。岩の高さの半分の位置にある仮想の点のまわりのこれら二つの力のモーメントを計算するとM=0.25m×10kg+0.25m×10㎏=5kgmとなり、地面(底面)上の点のまわりのモーメントと同じです。つまり偶力によるモーメントは常に一定でM=L×Fとなります(M:モーメント F:偶力 L:偶力間の距離) 。また例えばボルトを締め付ける時に長さ0.5mのスパナの先端に10㎏の力を加えると、ボルトとの間にも加えた力と同じ大きさの反力が生じていて、この偶力によるモーメントM=0.5m×10kg=5kgmがねじを締め付けるトルクになります。
エンジンのトルク
エンジンのトルクはどうやって発生するかと言えば、シリンダーの中で燃料が爆発的に燃焼膨張してピストンを押す力がクランクシャフトに伝わり、その力とクランクピンの中心軸からの偏心距離の積がトルクになるわけです。クランクシャフトは回転しているのでトルクは時々刻々変化しており、しかも通常シリンダーは複数あるので、それらの合計(積分値)が出力トルクになります。4サイクルエンジンでは2回転の内の半回転分が爆発行程でこの時だけ正のトルク(赤線)が発生しますが、残り1回転半は排気、吸入、圧縮行程で他のシリンダーの出力か慣性力によって駆動されます(負のトルク青線)。
22/10/30投稿の「ディーゼルエンジンの話」で書いた通りガソリンエンジンに比べて一般的にシリンダー内の圧力が大きいのでそれだけ発生するトルクの総量が大きくなります。単純にトルクが大きいと言えば語弊があるので、実はトルク特性が異なると言います。当然加える燃料の量(スロットルの位置)や回転数によって発生するトルクは変わるので、横軸に回転数、縦軸にその回転数で発生しうる最大トルクをグラフにしてトルク特性と呼びます。これを比較するとガソリン機関は高い回転数でトルクが高くなるのに対してディーゼル機関では比較的低い回転数領域で高トルクが発生することが解ります。出力はトルク×回転数で計算できるので出力特性を青線で書き加えると図のようになります。出力のグラフの右端が最大出力を示すわけですが、この部分ではディーゼルのトルクはそれほど大きくないので上に書いたように最大出力で比較すると見劣りしてしまいます。この性能差を乗用車で乗り比べると、「ガソリンは高回転で馬力を発揮する」のに対して「ディーゼルは中低速で粘り強い」という評価になります。これらは急加速や急勾配でアクセルを一杯踏み込んだ時の反応であって普通の運転でその差を感じることはあまりありません。
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| ガソリン機関とディーゼル機関のトルクおよび出力特性の違い エンジン形式個々の差があるので一般的な特性として示します |
トルク特性に対する誤解
上に書いたガソリン車とディーゼル車の差はクルマ雑誌などに書いてあり、わざわざ高価なディーゼル車を購入するユーザーはそれを理解しています。ところが、こんな話を聞いた(読んだ)ことがあります。「発進時に雑なクラッチ操作をしてもエンストしない。」「渋滞に巻き込まれた時アクセルを踏まなくてもエンストせずに一定速度で走ることができる。」という体験談です。いずれも低速トルクのお陰だとの注釈が付いていました。ディーゼルエンジンがエンストしにくいのはアイドルガバナーが付いているからで、負荷がかかって回転数が低下すると燃料噴射量が自動的に増加して回転数を維持するように制御されているからなのです。ディーゼルエンジンのトルクが大きくなるのはアイドルよりもっと上の回転数領域のことです。ガバナーが回転数制御しているというのも広い意味でディーゼルエンジンの特性かもしれませんが、中低速トルクが高いこととは別の話です。
「トルク」という言葉に対する誤解
低速域で高トルクを取り出せるのでディーゼル車は勾配でシフトダウンせずに走り続けることができる。これを「トルクがある」「粘りがある」と表現することから、「トルク」と「粘り」を同義語、あるいは「トルク」には「粘り」という意味があると誤解している人がいるようです。釣り雑誌やカタログで、強い引きの魚が釣れた時に折れたり極端に曲がることがないような竿のことを「トルクがある」「トルクフルなロッド(竿)」と紹介されています。その方面では著名な方が使い始めた表現で、いまや釣り道具の分野では定着しているようです。他の品物での誤解ならまだしも、トルクは軸周りの回転力のことですから釣り竿にトルクが発生したら使い難くてたまりません。気動車と魚釣りの両方が好きな私ならではの違和感です。





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