2022/02/13

待避線(余談雑談) 15インチゲージのすすめ続編

  やっぱり15インチゲージには大きな壁があるとお思いの方がいらっしゃると思います。意外に誰でも楽しめる趣味だということを理解していただくためにどれくらいの費用がかかるのか紹介します。その金額を高いと感じるかどうかは人によって違うのが当然として、他のゲージの鉄道模型や他の趣味を楽しむのに必要な費用と比較していただけるように具体的な金額を示したいと思います。

 前にも述べた通り、わたしは基本的に線路も車両もスクラッチビルドで製作しています。部品、部材として購入した際に支払った金額(以下消費税抜き)(実額)と表示します。併せて、組立品として販売されている場合はわかる範囲でカタログ価格(カタログ)と、問い合わせて見積を取った場合の金額(見積)を参考値として記載します。

 1.レール

 レールは定尺(販売時の材料の長さ)5.5mあるので宅配便はもちろん混載便でも扱ってもらえず、仕立便の費用が別途必要になります。購入金額にはそれが転嫁されるので大量に仕入れるほど安くなります。

6kgレール
 6kg軽レール定尺5.5m1本の単価は20145月時点で9800円でした。当時20本分をまとめて仕入れた場合の運賃を含めた購入金額は113300(実額)で、犬釘(@70)、ペーシ/モール(継ぎ目板@550)、枕木(@240)を加えて敷設線路1m当たりでは約6800円となりました。仕入れ数量、枕木の本数、締結方法(犬釘/スクリュー)などで変わります。

 参考までにモデルニクスの直線軌框は1m単価12100(カタログ)です。レールにメッキが施されていたり、枕木が耐候性特殊強化樹脂製であったりということで単純な比較はできません。せんろ商会では長さ1.1mの軌框を販売していますが、価格は要問合せとのことです。多少割高になるかもしれないけれど、最初は少量対応してくれるメーカーの軌框も一つの選択肢になるかと思います。

 2.車輪

 レールに次いで金額が張るのは車輪です。素材もさることながら車軸との正確な嵌め合わせのために旋盤加工が必要で鉄工所に発注することになります。車輪を指定して加工工場から発注してもらうのが手間もコストも省けて最良の方法だと思います。

 φ230チルド車輪軸穴加工(精度H7)4個の金額(20145)は、

A(見積) 75000(車輪@7500+加工@11250 送料別途)    

B(見積) 59520(車輪+加工 内訳不明 送料別途)         

C(実額) 46100(車輪@7650+加工@3875 引取り)         

と幅がありました。

 最終的にC社で加工した車輪に車軸(φ35丸鋼@2882)、軸受(ピローブロック@1648)を加えて24(1両分)の合計(実額)は約58500円となりました。

 一方、D社で車輪/車軸/軸受のセットを販売していて、ほぼ同様の仕様で(見積)68000(送料別途)でした。

軸穴加工済み車輪素材   と     軸受/車軸/車輪組立品

 3.初期費用まとめ

 トロッコを走らせるためにはレールと車輪の他に、台枠や車体を形造る木材やそれを加工するための工具が必要になります。電動丸鋸や電動ドリル、カンナやノミ、ペンチにスパナにドライバー等々。それらが手元になくて新たに購入することになってもDIYでの利用価値が高いので専用の出費と考えないほうがよいでしょう。その先はこの趣味にのめり込んでから揃えてもいいと思います。

5.5mの線路とトロッコ(貨車台枠)
夢の第1歩にこぼれる笑み
 15インチゲージを始めるにあたって最小限必要なものはレール5m程とトロッコ1台とすると、木材やネジ、塗料などの小物を含めて10万円前後で自家用鉄道開業可能ということになります。世の中の一般的な遊びと比べて決して贅沢な道楽ではないと思うのですがどうでしょうか?将来も続ける強い決意があるなら50m分あるいは100m分のレールをまとめて購入しておくことで後々の出費をする必要がなく、トータルでコストを抑えることができます。コツコツと線路を延ばしたり、車両を改良、増備したり、駅や建物や信号といったシーナリーを建設するようになると、趣味としての方向性が定まる段階になります。工夫して費用をかけずに夢を広げることもできるし、スケールの車体に本格的なメカニズムやエレクトロニクスを導入して最先端の鉄道を自宅で再現することも不可能ではありません。15インチゲージ趣味を楽しむことが日常生活の一部になって動力車増備、線路規模拡大を計画するようになると、費用のことはあまり気にならなくなると思います。むしろ家族への感謝や思いやりを忘れず、理解を得られるように努力することが大切になってきます。

 4.アドバイス

森林鉄道の運材車
 私は電車とそれに牽引される貨車の製作を前提にフルサイズの車輪を購入しましたが、トロッコや森林鉄道の運材台車あるいはスケールに拘らないのであれば小径の車輪(φ100150)が手頃で、価格も加工コストも半分以下になると想像します。レールは外観に目をつぶってコストを抑えるなら角型鋼管という手があります。ホームセンターで取り寄せてもらって手頃な長さに切断して持ち帰ることもできるでしょう。枕木との固定方法など解決すべき問題がありますが、将来の目標は別にして「とりあえずトロッコ」という最初の課題を実現する近道にはなるかと思います。

 5.5mのレールは3分割すると約1.8mになり乗用車の車内に積むことができ、車内が無理でもルーフキャリアに載せることは可能です。どうしても自宅に線路を敷くスペースがない場合、空地や河川敷など他者の迷惑にならない場所でトロッコ遊びが楽しめないか考えてみてはどうでしょうか。

 体験からのアドバイスですが、コストを抑えるために木製の線路や車輪という発想はお薦めしません。鉄の線路の上を鉄の車輪で転がってこそ、ニュートンの慣性の法則が体感できるからです。

2022/02/06

空知鉄道さんご来訪

  20145月に鹿部に移住して来てすぐに15インチゲージ鉄道の建設を始めました。そして202010月から約14ヶ月かけて、7年半の建設経過を記録してきました。その記事の内容が建設現況に追いついてしまってネタ切れになり、ここしばらくは「妄想」の話題でお茶を濁していました。雪融けを待って建設再開したところですぐに報告に値する発見や新工法の紹介ができるとは思えません。そんな訳でこの後の新規投稿の頻度はこれまでのように1週間とか10日ペースというわけには行かず、それでも「待避線(余談雑談)」が書けるような話題を思いついたらその都度投稿したいと考えています。

空知鉄道の様子
空知鉄道さん提供
 書き残したことはないか?と思いを巡らせていたら、ありました。分岐器の先に曲線路を延長し建設にケリがついた202110月、「15インチゲージのすすめ」に空知鉄道の金森さんからコメントを頂いたのでした。「いつか鹿部電気鉄道さんへ見学に伺わせていただけたら幸いです。」と書かれていたので「コロナ騒動が収まったら是非お越しください。」とリプライしたのですが、話が盛り上がって11月に来鹿してくださることになりました。

 空知鉄道も同じ北海道の岩見沢郊外(鹿部から約300km)で建設途上にある15インチゲージです。鹿部電鉄と線路延長や車両数、開設時期等がよく似ていて、かねてからテレビ報道やTwitter(https://twitter.com/soratetu1910)でその様子はうかがい知っていました。オーナーが強いこだわりを抱いて建設しているのも同じで、実際にお目にかかるまで「チョッと変わった人だな。」と思っていました(猿の尻笑いです)11月に入ると雪が降る日があり天気予報にも雪マークが付いていましたが、幸運にも恵まれたコンディションの下で電車や線路を見ていただくことができました。本職の電車運転手さんにコントローラーとブレーキを試してもらい、「運転操作・感覚は本物の電車と同じです。」とお墨付きを頂戴できたのはこの上ない喜びでした。苦労して完成させた分岐器にはこだわりが詰まっており、自慢や失敗の裏話、作業の苦労や喜びにはお互いに通じるものがあってうなずき合いました。感染症流行で久しく鉄研のメンバーと会っていなかった私にとって、鉄っちゃんならではの偏った話題は鈍った脳への刺激が強くまた快い癒しにもなりました。単に「庭の電車だ」と驚かれるのと違って、こだわった部分を評価してもらえると苦労して作った甲斐があったと納得できるものです。決して人に見てもらうためにやっているわけではないし所詮は独りよがりなのですが、作り鉄の喜びってそんなものだとつくづく思いました。多くの学びも得ながら時間の過ぎるのを忘れて話し込み、次は空知鉄道にお邪魔させていただく約束をして帰り支度が始まった頃にはもうすっかり暗くなっていました。

 その日のうちにTwitterに鹿部訪問の報告をアップされ、ブログやYouTubeの紹介までしていただきました。後日当ブログの統計情報をチェックしたところ、翌日の閲覧数が史上空前の500回越えを記録しており、空知鉄道のフォロワーさんへの影響力の大きさに驚きました。また私と違って職業に就きながら休日のみの作業で成果を積み上げるなど、そのバイタリティにはただ脱帽です。訪問がいつになるかわかりませんが、楽しみにしたいと思います。

 最初に書いたような事情で今後当面は不定期投稿になる見通しですので、あしからずご了解を頂きたいと思っています。

2022/01/31

妄想ステーション

  次期増備車両(導入時期予測困難)の妄想もさることがら、鹿部電鉄建設開始以来予定していながら未だ実現していない駅舎、建物の建築計画があります。

 北海道へ移住して来てまだ間のない頃、札幌へ足を延ばした際に北海道銘菓の製造元である石屋製菓の「白い恋人パーク」に立ち寄りました。そこには「白い恋人鉄道」という550mmゲージのミニ鉄道があったのでつぶさに観察させてもらいました(これは202110月営業終了)。それはそれで大いに参考になったのですが、その近くに子供が遊べるミニハウス広場があり、サイズ的に15インチゲージ鉄道のシーナリーにピッタリだとインスピレーションを感じました。その後家内のリクエストで帯広郊外の「紫竹ガーデン」という庭園を訪ねたところそこにもミニハウスがあり、嬉々として子供が出入りする微笑ましい光景を目の当たりにして「いつか線路脇にミニハウスを建てるぞ。」と決意したのでした。
白い恋人パークのミニハウス(上と左下)および紫竹ガーデン(右下)
大沼公園駅舎設計図 寸法は後で追記
 帰宅後国立公文書館の所蔵書類の中に電鉄大沼(公園)停留場の新設工事設計図として建物の図面があることがわかり、コピーを入手しました。建物内部の寸法まで記入された貴重な資料です。国鉄大沼公園駅に対抗するかのように山小屋風の三角屋根を誇る洒落た建物で、「ミニハウスを建てるならこれだ。」と決めました。現役時代の写真こそありませんが、鉄道廃止後駅舎は熱烈な大沼電鉄愛好者に譲渡され、薬局に改装してしばらく存続した後そのまま20mほど東に牽引移動(曳家)したそうです。そのご子息から当時の建物の様子について伺うことができました。駅や電車の写真をいっぱい収めたアルバムがあるはずだったがなくなってしまったと残念がられ、それでもわずかに残っていた写真を示しながら、屋根は青色、壁は灰白色であったとの説明を聞くことができました。ここまで解れば1/3スケールの駅舎は作ることができます。
薬局として移築後の元大沼公園駅舎

1/3スケールの大沼公園駅舎

昭和5年(1930年)新築再建直後の鹿部駅舎
絵葉書
 大沼電鉄の終点鹿部停留場(後の鹿部温泉駅)は開業半年後に駒ケ岳の大噴火によって大破し、翌年新築再建されました。田舎の村の駅にしてはモダンで大きな赤い三角屋根、内部は3階建てであったようです。こちらは建物の図面類が見当たらずスケールダウンは叶いませんが、チョッと考えがあってこの三角屋根をモチーフにした倉庫の建築を思いつきました。ガレージに車を入れても奥に1mほど余裕があるので、スキーやキャンプ、カヌー用品を置いてあるのですが、かねてからDIYの材料や道具類に加えてボール盤作業が出来るくらいのスペースが欲しいと思っていました。無粋な鼠色トタン波板の造りも気になっていたので、ガレージの前に赤い三角屋根の小屋を置き、前面を入母屋風にして何枚かの折戸をシャッター代わりにすれば鹿部温泉駅の雰囲気を醸し出すことができるのではないかと考えました。車を入口側に停めれば奥2~3mを倉庫スペースとして十分な広さが確保できます。
ガレージの前に鹿部温泉駅をイメージした小屋を建てる
階上は資材置き場にして外の梯子と窓を使って出入する
 私の拘りで大沼電鉄の駅に執着しているわけですが、そうでなければこれらは単なる小屋でしかありません。鹿部にいて最も身近な駅と言えばこのリゾート内にあるJR鹿部駅です。大多数の住民は自家用車を持っているので、実際にJRを利用するのはほとんどが鹿部中心部から函館などに通学する学生です。とはいえ、リゾート住民がキノコ狩りや歩くスキーに行く時の集合場所にしたり、散歩の途中で休憩に立ち寄ったりとちょっとした鹿部のランドマークになっています。おなじミニチュアハウスであっても、赤く深い屋根にクリーム色の壁、ピンクの帯の建物はだれが見ても「鹿部駅だ」と気づくはずです。戦時中(1945)の新築以来80年近く経過しており、20年ぐらい前までは暗赤一色だったのですが、少なくともリゾート住民の大多数は現在の色調を鹿部駅だと認識しています。その他に大木から切り出した駅名標やなぜか屋根の櫓の上で回り続ける風力計など、そんな特徴をちりばめたJR鹿部駅の1/3モデルを線路際に置けばインパクト強そうだなと思ったりします。
          夏のJR鹿部駅(2010年頃)   原木に書き込んだ駅名標と屋根上の風力計
建物実測値から作成したJR鹿部駅3面図 1/3スケールにするとちょうど人の背丈ほどになる
 国定公園大沼の湛水は銚子口の水門から大沼電鉄と並行して鹿部に向かう折戸川を流れ、噴火湾に至るまで3ヵ所の発電所で電力を作り出していました。1965年にその水は函館側の七飯発電所へ暗渠で導かれ、折戸川沿いの3発電所は稼働停止するとともに流量は激減しました。現在各発電所は牧場の倉庫として利用されたり廃墟となって放置されたりしていますが、荒廃したと言えど辛うじてその姿を遺しているのがせめてもの救いです。このレンガ造りの発電所の建物を規模縮小して鹿部電鉄の線路脇に建てたいと思っています。元の建物が大きいのでスケールダウンしても人が立ったまま出入りできる倉庫あるいは作業場として使用できそうです。コツコツとレンガを積んで建てることができればいいだろうなぁと思う反面、レンガも1/3のスケールにしなければ迫力に欠けるのではないかと悩ましく思い、小さなレンガ風の外壁材を貼り付けてそれらしくする簡便法でごまかす手も考えました。タービンや発電機を搬入した大型扉やアーチ形の窓に格子状の窓桟、石造りの角柱などどうやって表現するか考え始めると止まらなくなってしまいます。
大沼電鉄に電力供給していた頃の折戸川第二発電所  と    その遺構       
  いずれの建造物も外観がそれなりの存在感を示すわけですが、内部の待合室や改札口、切符の販売窓口も再現したいものです。一方で神戸の実家に置いてきた大量の鉄道関係蔵書(鉄道模型趣味、鉄道ファン、ピクトリアル、海外鉄道写真集他)と模型をいずれ鹿部に持って来た時の保管場所にしようかとも考えています。できればレンガ造りの発電所に線路を引き込み、壁一面に本棚と模型展示棚を作り付け、一角に薪ストーブを置き、旧型客車を彷彿とさせる直角座席に腰かけて傍らのデ1を眺めながら、昔懐かしい駅売りの土瓶に入ったお茶を飲んだら(酒は飲めないので)楽しいだろうなぁ、とまたまた妄想を逞しくしています。

2022/01/22

妄想トレイン 続編

  後編を書いて終わろうと思っていましたが、妄想が止まらないので続編を記します。D1040もキハ40000も気動車なので動力にエンジンを使ってはどうか、とこれは15インチゲージ鉄道を始めようと最初に考えた時から小型ガソリンエンジンが念頭にありました。もちろんその時は動力の伝達方法まで気が回っていませんでしたけど。内燃機関を動力源とする場合必ず考えないといけないのが変速機とクラッチ、逆転機のことです。小型バイクの部品を流用したと思われる(あくまでも想像です)モデルを見たことがあるので絶対に不可能というわけではありません。ただ、ちょうど良い部品が見つかったとしてもそれらを流用するために周辺部品を自作するのは費用、技術(道具、設備)、運用面でかなりの無理があるだろうと思われます。でも妄想するだけなら自由だし、お金も要りません。

線路脇の草刈り
 北海道の田舎に移住して色々な初体験をしましたが、その内の一つが庭の草刈りです。フキ、イタドリ、スギナ、タンポポやイネ科の雑草が短い夏に生命力を爆発させるかの如く、刈っても刈っても成長してきます。2サイクルエンジンの付いた肩掛け式草刈り機で刈り払うのが、冬の雪かきと同様にこの地での日課です。時々エンジンの清掃や調整で簡単な分解修理をすることもあるのでその構造はだいたいわかりました。数万円出せば新品が買えるし、汎用エンジン単体の販売もされています。実は農業用品の販売店で修理の請負をしているようなところがあって、そういう店裏の作業場へ行けばポンコツが転がっているので、事情を話せば選り取り見取りタダで分けてもらうことができるかも知れません。

 草刈り機は、エンジン起動と同時に回転刃が動き出すと危ないので、出力軸に遠心クラッチが内蔵されています。スロットルレバーを最小位置にしておけばクラッチが切れて軸は回転せず、レバーを引いてエンジンの回転数がある程度上がると出力軸が連れ回りを始めます。ただ、ガソリンエンジンの回転数-トルク特性と車両の走行特性がマッチするかが問題です。つまり一般論ですが、ガソリンエンジンからトルクを取り出せる回転数範囲(クラッチが繋がってから最大まで)は車両運転に要求される回転数より狭く、変速ギアやトルクコンバーターに類する機構を介してトルク特性を改善することが必要になってきます。この問題を解決するため、さらに妄想が膨らみます。

ディーゼルエレクトリックDF200
 我が家の裏には函館本線が走っていてまさに北海道の頸動脈、今や旅客輸送は風前の灯ですが、貨物輸送は頼もしくもその大役を担っていて” Red bear DF200”が先頭に立って毎日幾多のコンテナを満載した重量列車が函館方面へ勾配を駆け上って行きます。このDF200はディーゼルエレクトリックと呼ばれ、エンジンで発電機を回しモーターで動輪を駆動する電気式ディーゼル機関車です。ヒントはここにありますが、全く同じ方式ではありません。あくまでD1040かキハ40000の運転方法に似せた取り扱いで動かしたいと拘っています。キハ40000の場合は手前に引けばエンジンの回転数が上昇するスロットルレバーがあり、クラッチペダルとチェンジレバーで変速し、戻したスロットルをもう一度引くという動作を4(4)繰り返して加速していきます。つまり電車の加速と同じようにモーターと直列に接続した抵抗を抜くためにわざわざ疑似的に変速操作をするという実に面倒臭いことを企んでいます。D1040では電車のそれに似たコントローラーで3段加速し、充分な速度に達したら一旦ノッチオフにしてから変直切替レバーを「直」に入れ、再びフルノッチに戻して最高速まで加速することにすれば計4段となり、キハと同じ仕組みで動かすことができます。あとは運転台の機器(スロットルやコントローラー)を車種に合わせてそれらしく作れば楽しく運転できることになります。
キハ40000の動力伝達概念図

D1040運転台 床には足踏みブレーキもある                    
      コントローラー主ハンドルの右側(運転手から見て)が変直切替、左が前後切替
札幌市交通資料館
 下の実験動画をごらんください。同型のDCモーターの端子を互いに接続した状態で一方の軸を回転させると、発生した電力で他方のモーターが回転します。もうお分かりいただけると思いますが、エンジンで一方のモーターを動かして他方のモーターで車輪を駆動すれば車両が動くわけです。ただ単純にそうしただけでは過電流や速度の頭打ちが懸念されるので発電機とモーターの間に抵抗を入れ、速度に応じてそれを抜いていくという電車の制御と同じ方法をとるわけです。キハではチェンジレバーの位置で抵抗値が変わるようにし、D1040ではコントローラーのノッチでそれを行います。接点の切替だけで前後進が簡単にできるのも電車と同じです。

 ガソリンエンジンの回転を直接機械的に車輪に伝達する代わりに発電機とモーターを使うことであまり手間やコストを掛けずに気動車を製作することができそうです。悩みは2サイクルエンジンの甲高い排気音をなんとか腹に響くようなディーゼルエンジンの低音に変えることができないか、太鼓の皮を共鳴箱に貼り付けてエンジン軸に取り付けたバチで「ドドドド」と叩くのはどうかとか、またとめどない妄想が広がります。

2022/01/19

妄想トレイン 後編

  車体の妄想はどんどん膨らんでいきますが、事の発端が急曲線通過時の走行抵抗を低減しようということですから足回りを真剣に考えなければなりません。独立車輪付きの短軸距ボギーをどのように実現するか、さらに駆動軸の左右独立回転をどういう手法で解決するかが命題です。

独立車輪のバリエーション
 通常車軸は両端を軸受で支えられ、そこに2個の車輪が固定されて両輪は同じ回転数で転がります。左右の車輪が独立回転するためには何らかの方法で軸を左右分離するか、さもなければ一本の車軸に一方または両方の車輪が軸受を介して取り付けられる必要があります。一本軸の場合は図のようなバリエーションが考えられます。
BCでは付随車輪の場合機能的な差はありませんが、加工や材料のコストの面でBがまさっています。Dの車軸は回転する必要がなさそうに思えますが、台車枠に完全に固定されてしまうと台車の捩れが許容されず、軸バネの自由度もなくなってしまうので現実的ではありません。

 軸受は使用目的に応じて多くの種類があり、ここでは便宜的にそれらしく図示してありますが、形式によって取り付け方や寸法的制約があるので条件に適した軸受の選定と車輪側の寸法形状を検討する必要があります。すでに鹿部電鉄の無蓋車や電車の軸受として使用しているピローブロックは、深溝玉軸受と呼ばれるボールベアリングが取り付け穴付きの鋳物のハウジングに納められていてDIYで簡便に使用できる優れものです。一方玉軸受やコロ軸受(ローラーベアリング)をそのまま使用するには、取り付け部の寸法公差や固定(抜け止め)方法の決定などチョッとした機械設計の知識が必要になります。実物の鉄道車両には一般的に円錐コロ軸受が使用されますが、車両重量が二ケタくらい軽い上に速度も低い庭園鉄道ではもっとも汎用的な単列深溝玉軸受で充分に負荷を受けることができます。回転数や使用時間などタカが知れているので限界荷重や寿命の計算など難しいことは考える必要なく、退役技術者の頭の体操にはちょうどいい題材です。

独立車輪軸受の構造案




 既存の無蓋車、電車に合わせて車輪径はφ230、車軸径をφ35とします。ボス径はφ75あるので軸受を取り付けるのに充分な加工しろが確保できます。屋外使用、メンテフリーが必須条件になるのでグリス封入型を選定し、できるだけ工作機械による加工を少なくして市販部品を使うことでコストを抑えるように留意した構造を図に示します。



 さて、付随台車の独立車輪はこれで問題解決ですが、動力台車の差動滑り対策を立てねばなりません。考え方としては次の選択肢があります。

①自動車のようなデファレンシャルギア使用

Bタイプ独立車輪を使用して11輪駆動

③同上で2モーター使用22輪駆動

④同上で1モーター使用22輪駆動

実際問題として①を自作するには加工部品点数が多く、コスト面で自信が持てません。電動シニアカーの構造はよく知りませんが、中古品(スクラップ)の利用ができるようであればモーターやバッテリーを含めた流用が可能かもしれないので一考の価値があり、今後機会を見つけて調査しようかと思います。~③は図示の通りの構造になります。ボギー車で1輪駆動はやはり心もとないので②にもう1セット駆動軸を、というわけで対角上に動輪を配置したら③になります。2本の車軸は機械的に繋がっているわけではないので差動滑りは起こらないはずです。モーターを1個にするためにチェーンで両軸を繋いでしまうと元も子もありません。そこで動輪を片側に寄せて同じレールの上を走るようにしたのが④です。片側の車輪だけが摩耗するなどと心配していてはエンドレスの走行などできません。どうやらこれで急曲線の走行抵抗を可能な限り低減した庭園鉄道車両の理想像が浮かんできました。
 次に台車の妄想に移ります。2軸電車の単台車の軸受にはピローブロックを使用しました。実はピローブロック(軸受ユニット)にも多くの種類があり、目的や取付場所によってハウジングの材質や形状、サイズが選択できるようになっています。
ピローブロック(軸受ユニット)の種類 旭精工H.P.より

 注目はテークアップ型で、ハウジングの両側が溝になっていてペデスタル式(軸箱守式)台車を再現するのに打って付けなのです。ペデスタル式というのは比較的古いタイプの台車で用いられていた軸箱保持の構造で、軸受両側のガイドで上下方向のみに動きを与えてバネで振動を吸収するようになっているものです。以前からテークアップ型ピローブロックを使ってこの種の台車を作りたいと思っていたので渡りに船です。余分な部分を切り落として軸バネと組合せ、台車枠にはめ込むことで意外と簡単にそれらしく仕上げられそうです。札幌市D1040TS-115台車もキハ40000の菱枠型TR27(TR28)台車もペデスタル式なので最終判断で迷いそうです。 
  TS-115ペデスタル式台車         ペデスタル式菱枠型台車の妄想

2021/12/29

妄想トレイン 前編

  と言っても鉄っちゃん向けテレビバラエティ番組ではありません。独立車輪付きボギー車は急曲線の走行抵抗が小さくなるので庭園鉄道に適しているという結論を得て、それならどんな車両がいいかと考えたお話です。鹿部電鉄では翌春から本格的にエンドレス建設に力を注ぐことにしているので車両増備のためにマンパワーを割くわけにはいきません。その後と言うとまたまた年を重ねるので、元気で身体が思い通りに動く間にそんな車両を完成させることができるか甚だ疑問です。たぶん実際に製作することにはならないであろう車両なので、やりたい放題の仕様を盛り込み妄想を膨らませて楽しもうという魂胆です。屋外はすっかり冬景色になって雪かき以外の作業はお休み、スキーから帰ったら暖かい部屋でパソコン遊びに没頭します。

札幌市交通資料館に保存されているD1040
 大沼電鉄にボギー車は存在しなかったのでモデルの縛りはありませんが、やっぱり好きな車両にします。第一候補は「鹿部前史」(2020/10/8投稿)に書いた札幌市電のD10401964(昭和39)製、本邦唯一のディーゼル路面電車です。今日でも通用しそうな近代的スタイルは当時中学生だった私をその虜にしていましたが、北海道への撮影旅行の計画を裏切るかのように1971年に廃車されてしまいました。幸運にも札幌市交通資料館に保存されていて2010年に初対面を果たしました。遡って1979年の夏イギリスに長期出張した際にロムニー・ハイス・ダイムチャーチ鉄道に乗ったのですが、帰り道ロンドンの本屋で”Modern Tramway”という雑誌が棚いっぱいに並べられているのを見つけました。実はその雑誌に憧れのD1040の記事が図面と一緒に載っていることを知っていたので、片っ端から表紙の写真をチェックしてとうとうOctober/1966号を手に入れたのでした。その日は15インチゲージ鉄道の乗車体験よりD1040の図面が入手できたことで天にも舞い上がる気分を覚えました。今その図面で15インチゲージの車両の妄想をしているのは何かの因縁かもしれません。

Modern Tramwayに掲載されていた図面         

 全長13mのうち、窓2個分をカットし、中央の巨大両開きドアを片開きにして10mに短縮します。前面のパノラミックウィンドウをそのまま残せば、イメージを充分再現できます。台車の軸距は1600mmなので1/3より少しでも短く500mmにします。大きな空気バネに揺れ枕が目立ちますが、それらしくなんちゃって台車に仕上げるのは得意技です。車体は全体に丸みを帯びているのでカヌー製作技法が応用できます。車体断面の枠を台枠に固定し、外側に杉の薄板を貼り付け、最後にFRPで仕上げます。窓がはめ殺しなので窓枠を作る必要がなく、その点で手間が省けそうです。本来の扉もその幅では役立たずなのではめ殺してしまい、側板ごと開く「乗務員扉」を目立たぬように設けます。いや、両開きドアを復活した方がいいかな?

ショーティのイメージと車体の構造を妄想する

車内に乗り込めません
 一方でその魅力的な前面の造形をいかに再現するか、パノラミックウィンドウの成形、固定、方向幕と換気口の構造、屋根と裾の3D曲面成形など課題が山積みです。とはいえ、あれこれ考えることは楽しいし、いつ何時までに答えを出さないといけない仕事ではないし、失敗したからと言って誰かに責められるわけでもありません。ただ緊張感のない生活は認知症まっしぐらになりますから、頭と指(パソコン)はできるだけ使うように心がけます。そうやって1/3スケールの図面に私サイズのフィギュアを貼り付けてみると、、、、「アッチャーっ」。D1040は路面電車なのでやはり全体的に小ぶりなのでしょう、乗り込んで運転するには10~20%オーバースケールにしなければならないようです。
キハ40000 Wikipediaより

 もう一台の候補は国鉄キハ40000です。1934(昭和9年)製の11m級省型軽量ガソリン動車で、戦後キハ04~キハ06と呼ばれた兄貴分キハ41000機械式気動車の小型版です。このキハ41000も私の大好きな車両で、過去何度となく16(1/80)で模型化しています。キハ40000は貨車1両を牽引する余裕を持たせるために車体を小型化し、床下を有効に使う目的で台車の軸距も1800mmから1600mmに短縮されているので、急曲線庭園鉄道の車両選びというお題には最適のターゲットだと思います。しかも大沼電鉄と時代が合致するのでデ1と同じ線路に置いても違和感がありません。ただ残念なことにキハ40000は北海道には配属されなかったようです(キハ41000は実績あり)
             キハ40000         水島臨海鉄道キハ310
尾小屋鉄道キハ3運転台
鉄研OB富田さん提供
 機械式気動車は特殊な操作によって運転されることから、その運転方法や運転台の機器配置に深い興味を抱いていました。ガソリン機関もディーゼル機関も電動機のように停止状態からすぐに動くわけではありませんし、回転数範囲も限られているので減速機のギアを切替えなければならず、それゆえクラッチ操作が必要になります。作動原理は自動車と同じですが、機関出力に比べて車両重量が非常に大きいことや、黎明期の機器は熟練技を必要とするものが多くあったことから、乗用車の運転のように誰でもできるという簡単な話ではありません。車両の個体差(クセ)や運転技量によって振動や大きな音が発生することがあり
(いや大概はそうです)、いかに乗心地よく起動・加速するかスロットルとクラッチの操作に運転手は神経を使っていたのだと思います。スロットルはペダルを踏む車両があれば手でレバー操作する車両もあります。変速ギアレバーは運転席の右にあったり左にあったり、ブレーキ弁も機関車のように左手操作するものがあります。私が学生で全国の機械式気動車を乗り(撮り)歩いていた頃、車両ごとに操作方法を記録していたのですが、そのメモは今どこにあるのかわかりません。そんなわけで電車と同様に機械式気動車を自分の手で動かしてみたいと長年思っていました。

TR27の類似台車
元佐久鉄道キホハニ56
 その台車は帯鋼組立菱枠型という簡易軽量にして安定性(乗心地)、信頼性がともに高く、戦前戦後を通じて多くの気動車に使用されてきています。見た目からも明らかなように万力と金鋸とヤスリがあれば自作できそうな形状になっており、DIY本能が目を覚まして思わず身震いしてしまいそうです。実物の車体は半鋼製と言われ、側板と妻板は鋼板を溶接とリベットで組み立てたものです。それらしく作るには木製の骨組みにブリキかトタンを張り付けるなど、工法を検討する必要があります。こちらはスケール通りの車体の中になんとか乗り込めそうですが、多少オーバースケールにしたほうがいいかもしれません。
半鋼製車体の構造                 人体サイズ  
 
 後編は下ネタです。

2021/12/19

待避線(余談雑談) 鉄道用車輪の話 続編

車輪のテーパーとスラックの関係(再掲)

  前回説明した車輪とレールの間で発生した差動滑りと横滑りが走行抵抗に大きな影響を与える問題について、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。車輪踏面のテーパーに関しては鉄道雑学として書籍や博物館の展示などでよく解説されていますし、近年はブログや投稿動画でも取り上げられています。ただしその理屈が成り立つのは実物の鉄道でも半径が数百m以上の曲線の場合であって、路面電車が交差点を曲がる時や列車が駅に接近する時には急カーブを通過せざるを得ない場面があり、そんな時に「チュイーンチュイーン」というカン高い音を発して車輪が滑っていることを感じ取ることができます。最新鋭の電車では自己操舵台車が導入されて速度・乗心地の向上や騒音の低減などが実用化されているようですが、実は鉄道の曲線通過のメカニズムの詳細は完全には解明されておらず、音の発生源についても諸説あるようです。

 15インチゲージの庭園鉄道を模型と考えるか実物の鉄道の一種と見なすかは場面によって異なり、大きさ以外の基本的な機構や走行原理はどちらも同じですが、こと曲線に関して言えば、庭園鉄道ではそのほとんどが急カーブで占められているのに対して、多くの実物の鉄道では駅や車庫などの構内に例外的に存在しているのが実情です。その結果、車輪のテーパーの理屈と同様に必ずしも実物の鉄道での一般的な知見や常識が通用しないことが多々あります。実物の鉄道では旧国鉄の鉄道技研(後の鉄道総合技術研究所)が各種条件(速度、車両重量、曲線半径、勾配等)の下で走行抵抗や脱線限界などを実験調査して定量化(数式化)しており、その結果を庭園鉄道にそのまま適用はできないものの、傾向を窺ったり定性的な判断基準に応用したりすることは可能です。一方で偶然見つけたのですが、林業試験場(旧農林省管轄と思われる)が「森林鉄道貨車の走行抵抗」という研究成果報告論文 (昭和30年代)を発表しています。こちらは762mm(30インチ)ゲージで軸距や車輪径、軸受構造などが庭園鉄道により近く、おおいに参考になる内容が含まれています。この研究では運材車の構造や荷重、曲線半径、勾配の他、線路が乾燥しているか濡れているかなど各種の条件で走行抵抗が測定されています。現在のように便利な計測機器のない時代に苦労と工夫を凝らして解析がされており、大変興味深い内容になっています。
林業試験場発表論文
 その中でも庭園鉄道に取り入れられないかと気になるのが「単独軸型貨車」の記述です。一般的な車軸で両輪が繋がった「2軸型貨車」に対して、前後左右の4輪がそれぞれ個別の短い車軸で支持されたもので、差動滑りが発生しないという特徴を持っています。実験の結果は期待通りで、特に曲線半径が30m以下になると走行抵抗の増加を抑える効果が顕著になると記されています。ところが別の文献で、単独軸の場合は一方の線路に偏って走行するために車輪の片減り(偏摩耗)が発生する、と書いてあります。両輪が固定されて踏面がテーパーになっている一般的な車輪の場合は直線路で長周期の蛇行が起こり、車輪が均等に摩耗する効果があるからだそうです。直線路で偏摩耗が起こるという単独軸の欠点は庭園鉄道では全然問題になりません。なぜなら、少なくとも鹿部電鉄では全線が計画通りに完成した時点で直線と曲線の延長比率は46であり、そもそも長周期蛇行が発生するほどの長い直線区間はありませんし、日常の気まぐれ運転では車輪の摩耗なんて考えたこともありません。となると6割を占める曲線で走行抵抗が小さくなるメリットの方が、はるかに大きな期待が寄せられるべきではないかと思います。
通常の軸受け(左)と単独軸受(右)
林業試験場論文より
 運材車の単独軸では、図のように両端が台枠に固定された短い軸に車輪がローラーベアリングを介して取り付けられていて、4個の車輪はそれぞれが自由に回転します。念のために、軸は固定されていて首振りをするわけではないので、仮にレールがない状態で押すと直進します。また、両端固定の長い軸に自由回転できる2個の車輪を取り付けても同じ効果が得られますし、同様の構造でボギー台車を作ることも可能です。運材車や貨車のような付随車の場合はこれで差動滑り問題が解決できますが、動力車の駆動軸の場合はチョッと厄介です。まじめに考えると自動車のデファレンシャルギアが必要になってきます。

 大型鉄道模型メーカーのモデルニクスホームページでは、詳細はわかりませんが独立回転車輪が使用されていることが記されています。パワートラック(動力台車)の説明には「急曲線用に左右独立差動駆動になっています。カーブに入ると外側車輪は増速し、内側車輪は減速して、直線と同じ速度を保ちます。」とあります。

 世の中には違う目的で同じことを考えている人がいるもので、超低床路面電車では車内の床を低くするために車軸をなくした独立車輪が実用化されています。この電車では左右の車輪が別のモーターで駆動されて機械的に独立している一方、回転数やトルクの差を個別に制御しているそうです。

 差動滑りと並んで急曲線では横滑りが大きな走行抵抗の原因となります。前にも書いた通り固定軸距が長いほど、また曲線の半径が小さいほど、レールの向きと車輪の向きのなす角度(アタック角)が大きくなり横滑りが顕著になります。ボギー車の走行抵抗が四輪単車より小さいのは固定軸距が短くなるからで、さもなければ軸数が増えた分だけ抵抗も倍増してしまいます。図に軸距とアタック角の関係、アタック角と横滑りの関係を示しています。横滑りは、車輪が本来転がろうとする方向とレールの形状に沿って進む実際の動きが異なるために、フランジがレールに押されて発生するものです。後輪側では内側のレールに沿ってフランジを押す力が働きます。

アタック角と横滑りの関係

 ということで、その多くが急曲線で占められる庭園鉄道では、単独軸車輪(独立車輪)を使用して差動滑りを回避することができ、また軸距を短くして横滑りを低減すれば、走行抵抗を小さくすることが期待できます。ボギー台車では必然的に固定軸距が短くなるため、独立回転車輪と組み合わせると大きな効果を得ることができます。ただし、駆動軸の差動滑りを解決する具体的方法が検討課題として残ります。

車輪とレールの動きを
目の当たりに観察する
 鹿部電鉄を計画していた段階では、こんなことは想像もしていませんでした。実際にトロッコ遊びをしていて、S字カーブを通過する時に車輪のフランジが交互にレールに接触すると抵抗が大きくなり、速度が落ちるのを見てなるほどと感心したものです。制御器に電流計を取り付けると、カーブでモーターに負荷がかかっていることが目に見えました。半径4mの曲線では徐々に速度が低下しながらも粘り強く耐えている様子がわかります。これらは自身で鉄道を作ってこその貴重な体験だったと思いますし、机上の知識を物理現象として体感的に理解し、問題を解決したり新たな展開を導いて行く力になると信じています。

 余談の余談になりますが、2021/1/27投稿の「ラジアルトラックという2軸台車」では曲線部で車両にかかる遠心力を利用して前後輪が舵を切る機構について書きました。これもアタック角を小さくすることで急曲線の走行抵抗を低減しようとするものでした。またドイツを始めヨーロッパの路面電車では多くの3軸車が1930年頃から建造され2000年頃まで現役で稼働していました。原理的にはボギー台車に近い構造で、写真を添えておきます。どちらも見るからに複雑で修理やメンテナンスに手こずりそうです。日本に輸入されたラジアルトラックは結局ほとんどが固定軸に改造されてしまいましたが、わざわざまとまった数量を輸出したということは製造元のイギリスではそれなりの信頼性が確立されていたはずです。3軸車に至っては500両以上が製造されたとのことですが、日本には存在しません。コピー生産が得意の日本でもチョッと真似できなかったのでしょうか?

ミュンヘン市電の3軸台車   と       舵取り作動原理図 
Wikipediaより