(10)線路延長工事(曲線路の敷設)
無蓋車と電車の試運転結果が想像以上に良かったので、エンドレス側に線路を延長することにしました。フログから1mほどしかなかったので車両の留置さえもできず、このままでは分岐器を新設した意味がありません。線路がY字型になると入れ替えができるようになり、電車ごっこも俄然面白くなりそうです。5.5mの未使用レールが3本残っていて、既設線路から外した1本と合わせると10mくらいの敷設が可能です。分岐の先は半径5mの曲線で約90°曲がって直線が延びる予定です。レールベンダーでは分岐器の一部のレールを曲げましたが、定尺の全長に亘って一定の曲率に加工するのは初めての経験です。
敷設に先だって線路用地の測量をします。分岐の先端から直角に線を引き、5m先に10mm角の杭を打ち込んで曲線路の中心にします。この杭にヒモを掛け、4.5mと5.5mの位置に小さな輪っかを作り、そこに差し込んだ棒をコンパスにして尖った先で地面に1m幅の線路用地を描きます。この作業は順調に進みましたが、用地の先には白樺の大樹が立ちはだかっているではありませんか。全体計画図ではこの白樺をうまくかわしてガレージの後に到達するはずです。何度も計画図と実際の測量結果を見比べてみると、どうやら分岐器先端の直線部が1mほど長すぎたことがわかりました。計画図ではほぼフログあたりから曲線が始まることになっていました。計画段階では基本的に曲線半径を5mとしていましたが、この問題を回避するには特例として半径を4mにするしかありません。あらためて中心の杭を打ちなおして半径3.5mと4.5mの用地境界線を描き直しました。
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計画と実際の線路の食い違い |
幅1mというのは道床(砂利)のことで、地面を掘り込みます。傾斜地を進むにつれて路盤は地面から出てきて曲線の最後の方の道床は見慣れた台形断面になり、その先さらに地面は低くなって盛土の路盤に続きます。ここまで来て砂利のストックが底を尽きそうになったので路盤と道床の造成は一旦打ち切り、線路の敷設に取りかかることにしました。前述の通り定尺レールの曲げ作業が待っています。
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定尺レール曲げ作業時のテーブル配置 |
レールを地面に置いてレールベンダーで曲げ作業を行うことが、高齢者にとって大変な苦行であることが想像いただけるでしょうか?レールの斜め切り、車庫建設、土木造成作業など老体に鞭打ってかなりの無理をしてきましたが、作業意欲の醸成という観点からレールベンダーの設計と並行してDIY環境整備をしていました。適正な高さにレールベンダーを置く頑丈なメインテーブルと余分なレールを支えるサブテーブル2台を予め作ったのでした。サブテーブルは曲げる位置によって、両側に置いたり片側に2台並べたりと機動的に移動できるようにします。当初レールベンダーはメインテーブルに固定していましたが重量があるので動き回る心配はなく、ある位置の曲げが終わって次の位置にレールを送る際に固定されていない方が使いやすいことが作業中に判明して固定用ネジは抜き取りました。 連続して一定の半径の曲線になるようにレールを曲げるにはどうすればよいか?送り量を変えて試してみました。つまり、一ヶ所の曲げ作業が終わった後レールベンダーのスパンである500mm送って次の曲げ作業をする場合と、半分の250mm送って曲げる場合で仕上がりにどのような差が出るかを比較しました。結果、500mm送った場合レールの形状は図のようにいびつな曲がりになるのに対して、250mmでは見た目滑らかな曲線になることがわかりました。これは理論的にも説明ができ、ラムで押される中央部は曲げモーメントが最大になって曲率が最大(半径が最小)になり、フックの部分はモーメントが0になるので全く曲がらない(直線のまま)ために起こる現象です。スパンの半分だけ送った場合も場所によって多少曲率の変化はあるのですが、それは厳密な測定をしないかぎりわからないということです。
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レール曲げにおける送り量と仕上がりの関係 |
レールベンダーのラムでどれだけ変位を与えれば最終的に半径4m(または5m)になるか、これは事前の理論式での近似計算によって、7mmの変位で半径が約5.5mになる予測をしていました。250mm送りの実測の結果では、9mmの変位を与えると半径が約4mとなりました。とはいえ大雑把な話で、曲線の内側と外側の15インチ(約0.4m)の差を意図的に作り出すことは難しく、曲げ終わった2本のレールを見比べて曲率の大きい(半径の小さい)方を内側にしてゲージを計りながら修正する方法を採りました。
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久しぶりの線路延長でした |
テーブルの導入によって、修正を含めて50ヶ所以上に及ぶ曲げと送りを繰り返す作業は想像以上に順調に進めることができました。こうやって曲げたレールを道床の上に並べた枕木の上に置き、犬釘で固定して砂利を入れる手順はこれまでと同じです。完成した線路に電車を乗り入れると世界が広がったような感覚がし、あらためて庭園鉄道を自宅に持つ喜びがこみ上げて来ました。ここまでに撮りためた写真や動画を編集し、「分岐器製作大作戦」としてYouTubeにアップロードしました。最後の方にテーブルを使ってレールを曲げる作業の様子が映っています。
以上をもって「分岐器を作る」を完結します。