2022/10/04

待避線(余談雑談) 機械式気動車の話

機械式気動車 紀州鉄道キハ40801(元芸備鉄道)
                鉄研OB富田さん提供
 心を揺する妄想トレイン、キハ40000は以前にも書いた通り機械式気動車と呼ばれる前世紀の遺物です。もちろん現役を退いて久しく、南部縦貫鉄道、頚城鉄道他等で動態保存された車両が細々とイベントで運転されているに過ぎません。基本原理は自動車と同じですが、製造時期が昭和初期(1920~1950年)であるため今どきの乗用車とは比較にならず、誰でも簡単に扱えるという代物ではありません。チャップリンの無声映画に出て来る自動車をご覧になったことがあるかと思います、あの自動車のメカが鉄道車両に転用されたと考えればだいたいどんな代物か想像できるでしょう。例えば車両重量が何十トンもあるのにエンジン出力はたった数十から百馬力程度、変速機にシンクロ(歯車を嚙み合わせる際に周速を合わせる機構)が付いていないために特殊なクラッチ操作が必要、前後の運転台から長い連結棒で機関制御や変速を行う等コツを要する体力操作をしなければなりません。というわけで、鹿部電鉄建設とは直接関係ない昔気動車についてとりとめのない余談雑談をします。興味のない人には全然面白くないし、何のことか理解しづらいかと思います。

 その多くは戦前製で新造時はガソリン機関を搭載していたものが、1940年の重大火災事故(転覆で漏れたガソリンに引火して多数の死傷者発生)を契機に戦後ディーゼル機関に換装されています。両者は機関回転数の制御方法や出力特性が大きく異なるためおそらくスロットルとクラッチの扱いが違ったのではないかと想像しています。その頃のディーゼル機関は出力軸から減速駆動された高圧燃料噴射ポンプを内蔵していて、プランジャ―ストローク(噴射量)を的確に制御してやらないと回転数がハンチング(不安定変動)したりオーバースピード(暴走)してしまったりするのでメカニカルガバナー(調速機)を装備していました。運転台にあるスロットルレバーはこのガバナーの設定速度を変化させることで機関回転数を制御します。

車体下に吊り下げられたディーゼルエンジンとクラッチ、変速機など
一部の部品は逸失していますが、各機器は運転台の操作レバーやペダ
から連結棒で制御される様子がわかります  旧佐久鉄道保存車キホハニ56

 私は機械式気動車を含めて実物の鉄道車両を運転したことがないので、今から50年以上前に各地の地方私鉄で乗車中に運転手の操作を観察した結果と機関や駆動系に関する知見から、想像で機械式ディーゼル動車の運転操作方法について説明します。もし間違いや補足すべきことにお気付きの節は、右側の「お問い合わせメール」または下の「コメント」でご教示いただければ幸甚です。

 運転台の操作機器配置は車両によってまちまちで、電車のように左がコントローラー(マスコン)右がブレーキ弁というような決まりはありません。ただ装備されている機器と機能はほぼ共通と考えていいでしょう。

            運転台操作機器配置例  旧佐久鉄道保存車キホハニ56 

1.スロットルレバー:機関の速度(回転数)を制御します。運転席の正面にあって左手で手前に引くと増速するのが地方私鉄では一般的ですが、国鉄型は右足元のペダルを踏みます。

2.クラッチペダル:多くは右足で踏み込むとクラッチが解放されるタイプです。国鉄では左足の位置にペダルがあります。

3.ブレーキ弁:単行を前提としているので路面電車と同様右手操作の直通ブレーキが多いようです。国鉄型は左側に自動ブレーキ風の弁を装備しています。機関車のブレーキ弁は入替時に窓から身体を乗り出して操作するために左側にあると言われていますが、なぜ国鉄の気動車がそうなったのかわかりません。

4.変速機レバー:加速時にスロットル操作する手と反対側にないと扱い難いので、多くは運転席の右側にあります。スロットルレバーが右手操作の場合は運転席の左側になります。レバーは抜き差しできるようになっていて方向転換した時は反対側の運転席に持って行きます。レバーが抜けないタイプの場合は、無人の後位側で運転席に連動してレバーが動きます。

5.上記以外の操作機器として、アイドル(低速)ガバナー、オーバースピード(高速)ガバナー、前後進切替レバー、手動ブレーキハンドル、スタータースイッチ、ブザーなどがありますが、すべてが装備されているとは限りませんし、運転席から離れた場所に設置されていることもあります。計器類としては空気圧計、油圧計などがあり、意外にも速度計がついていない場合が多いのに驚きます。

運転中の様子 岡山臨港鉄道
           鉄研OB富田さん提供
 続いて運転方法です。始業点検、機関始動、暖機運転までが終わった状態で気動車を動かすところから説明します。まず発車の際にはクラッチペダルを踏み込んで変速レバーを第1速に入れます。クラッチペダルを徐々に戻すと機関出力軸と変速機の間にあるクラッチが摩擦しながら回転力を伝え始めます。この負荷によって機関回転数が下がるので今にもエンストしそうになると同時に、出力軸のトルクムラによる振動で車両全体から「ガガガガーン」と大音響を発します。マニュアルトランスミッションの自動車を運転した経験のある人は、クラッチを繋ぐ前にアクセルペダルを少し踏み込んで回転数を上げておくことでこの現象を回避できると考えるでしょう。しかしディーゼル機関の場合は回転数が一時的に下がってもガバナーの働きによって燃料噴射量が自動的に増やされ元の回転数に戻ります。スロットルレバーを引くなど意図的に回転数を上げる操作はクラッチの摩耗を増進させ、過負荷の原因になるおそれもあるので禁物です。エンストしない程度に微妙なクラッチペダル操作をしながら、アイドル(最低)回転数のまま完全にクラッチが繋がるまで待ってからスロットルレバーを引いて加速します。第1速では機関速度が最大近くまで上がっても車両がやっと動いたという程度でしかありません。静摩擦状態から抜け出すことが第1速の役割です。

 そこまで加速できたらスロットルレバーを戻すと同時にクラッチペダルを踏み込みます。ここで変速レバーを第2速に入れようとしても異音がするだけで歯車は嚙み合いません。一旦中立(ニュートラル)位置で保持し、一時的にクラッチペダルを戻してから再度踏み込んで第2速の位置にレバーを動かします。レバーから軽く「ゴンゴンゴン」と歯車がぶつかる感覚が伝わるのに続いて第2速の位置にスムーズに入ります。いわゆるダブルクラッチというテクニックです。これは変速の前後で大きく異なる歯車の周速を同期させるために行われるもので、昭和の大型トラックやバスでは普通に行われていた操作です。その原理やメカニズムはネット検索すると動画の解説でも見ることができます。同じ要領で第3速、第4速と加速し、平坦路で安定速度に達したらクラッチペダルを踏んで変速レバーを中立位置にし、惰行運転に移ります。

 第1速での起動しやすさや第4速での均衡速度は、車両重量と機関出力によって変わってきます。当然運転線区の勾配によっても影響を受け、客車や貨車を牽引すれば自ずと限界があります。いずれにしても当時のひ弱なエンジンとシンプルなメカニズムで巨大な車両を安定して動かすのは並大抵のことではなかったであろうと想像できます。

水島臨海鉄道キハ311(元国鉄) 鉄研OB小林さん提供
 この煩雑な操作の一部を自動化した気動車に乗ったことがありました。いえいえ、トルクコンバーター付きの液体式気動車ではありません。1970年頃の水島臨海鉄道キハ311で、元国鉄キハ04の譲渡車です。この車両は発車時にエンストしないように運転手が勘を働かせながらクラッチペダルを徐々に戻す必要がなく、一気にペダルを戻してもクラッチが一定のタイミングでゆっくりと繋がる仕組みになっていました。その機構を実際に見ることができないので想像するしかなかったのですが、ペダルを踏んだ時は普通にクラッチが切れながら逆方向にはゆっくり動作するドアクローザーのようなメカニズムが組み込まれているのではないかと思っていました。もちろんこの仕組みがあっても第1速でクラッチが繋がる時の大音響と振動がなくなるわけではありませんし、
ドアクローザー
運転手の労力が特段軽減されているようにも見えませんでした。第2速以降への切替え時のダブルクラッチ操作がどうであったのかは観察不足で説明できません。この改造が国鉄時代に行われていたのかあるいは水島臨海で採用されたのか、他の車両(当時4両の気動車が在籍していました)も同様に装備していたのかずっと不明でした。その後色々と調べていると、国鉄で戦後ディーゼル機関に換装した車両で発車時(1)のトルクが大きくなって車輪や車軸の破損事故が多発したという記述を見つけました。その対策としてガバナーの作動速度向上と併せて空気圧動作でクラッチ接着が遅くなるよう自動化する改良がなされたと書いてありました。この事故は重連運転が頻繁に行われた車両でよく見られたとのこと、協調のタイミングが合っていなかったり混雑で過負荷になっていたりしたのでしょうか、取り扱いの荒っぽい運転手がいたのかもしれません。技術研究所で詳しい解析を行い、機関と車輪の間で自励振動(共振)が発生していたという結論から辿り着いた解決策がこの自動化だったそうです。機械式気動車にプレート車輪が多く使われているのも併せて実施された対策の結果とのことです。そんな問題を抱えながら機械式気動車は地方私鉄というフィールドで細々と生き長らえて来たのでした。

 近年の大型バスやトラックでは乗心地の向上や運転手の負担軽減を図るためにスイッチ操作によってギヤチェンジが行えるようになっており、当然ながら発車時の大音響なんか聞こえるはずもありません。もしこんな技術が機械式気動車に導入されていたなら静粛で快適なレールバスでローカル旅ができたと思うのですが、鉄道車両としての気動車は液体変速機という総括制御に適したメカニズムを取り入れて発達していきました。最新の気動車は発電機や蓄電池を効率よく組み合わせ、電車と同一の駆動系を装備していて、電化区間では架線から集電するなど多様な機能を持つようになっています。それはもはや気動車という範疇が鉄道からなくなってしまうかもしれないことを意味しています。

2022/09/18

タイムスケジュール変更

  過日投稿した「今後の方針とタイムスケジュール」に自身の性分として「移り気に加えて無計画」と書きました。方針を立てて予定を組んだのですから移り気でも無計画でもありませんが、完了期限の9月中旬になっても在庫レールを使ったエンドレス線路延長(13m)は道半ばです。これが済んだら走行抵抗改良台車の試作をする計画でしたが、このまま線路延長工事を続けます。多分まだひと月くらいはかかりそうなので、台車試作の図面作成作業を冬季の課題に先延ばしして、雪が降る前にカヌー格納庫の床、外壁、扉整備を急ぐことにします。ここはレールや長尺の木材などの保管場所にもなるので、来春の資材購入と線路延長に備えてその基地を整えておきたいと考えたからです。鹿部はめっきり肌寒くなり、秋風が吹き始めると途端に冬や雪のことが気になってしまいます。

ゼブラ
 さてその後の進捗ですが、踏切はとりあえず人が歩けるようにはなったものの、段差でつまずく危険性があるので勾配の緩和とゼブラ塗装をしました。それでも何もなかったころに比べると歩きにくいのか、郵便や宅配の配達員さん達は併用軌道の旧線を遠回りして玄関までやって来ますし、ご近所さんも「警戒色が塗ってあるので通っちゃいけないのかと思った。」と言います。人道専用踏切は古き良き時代の雰囲気を醸していると悦に入っていたのですが、とんだはた迷惑になってしまったようです。

 4mの直線に続くR=5m曲線部は隣家との境界に迫って行きます。隣家の敷地とは2m近い段差があり、斜面に土留めを兼ねて根を張る低木が植えてあって、夏には枝葉が茂って軌道敷に張り出してきます。いつぞや廃線跡みたいになっていると言ったのはこの区間のことです。路盤造成工事の前に刈り込んで作業スペースと線路用地を確保します。「これでもか!」というくらい丈を詰めても翌年の夏には元通りに茂りますのでチェーンソーと電動ノコギリを使ってバッサリ伐採しました。

枝払いbefore                after

 この区間はすでにある程度の土砂で路盤らしき土手が形成されていますが、測量しなおしてみるとさらに盛り土をする必要があったので、家の裏手の高地を切り崩して土砂を一輪車で運びました。


線路延長部の俯瞰

2022/09/07

エンドレス線路延長 続編

  線路延長作業の中間報告です。前回の投稿写真の通り一部の防草シートを張った後、路盤造成用の土砂を運搬したり、追加の防草シートや砂利を仕入れたりしました。北海道といえどもやはり8月前半には堪らなく暑い日があり、日によっては湿度が90%を越えることもあります。日よけテントを張ったり木陰で休んだりしながら作業を進めた結果ガレージ裏まで線路を延ばすことができました。路盤造成以外は従来の線路敷設と同じ工程なので、記述が重複しますが作業の進捗を説明します。

 分岐器に引き続き敷設したR=4mの曲線路の先にR=5mの曲線路を繋げます。この部分の路盤はまだ周囲とほとんど同じ高さで、少し土をばらまいて設計通り山形の傾斜にする程度で済みます。ところがちょうど砂利を使い果たしていたので発注したところ2週間待ちとの返事、レール曲げや枕木の準備(防腐剤塗布、犬釘用下穴あけ)を先に済ませても手空きになってしまいました。そこでその先の直線部の路盤造成を進めることにしました。家の裏手から一輪車で何度も土砂を運び、突き固めては連通管式水準器で水平を確認することを繰り返します。この線路と交差する通路も傾斜をつけて嵩上げします。ある程度土手の形状が定まったら散水し、水が浸み込むのを見計らってさらに散水を繰り返し、一昼夜置くと土壌が固まります。防草シートを張ってもまだ砂利が届かないのでさらに先のR=5mの部分の測量と線路用地の線引きや杭打ちまでしました。
    直線部の路盤造成      と   その先R=5m曲線部の測量杭打ち

想像を超える量の砂利搬入
得したような損したような
 砂利を8年前に発注した時はその日のうちに配送してくれたのに、なぜか今回はその業者から納品できないと言ってきたので、近所の造園業者に前回と同じく「25mmの玉砂利を3立米」と発注しました。10日以上待った末にやっと届いたのはいいのですが、同じ3㎥とは思えないくらい量が多く4tダンプで2回に分けて搬入されました。また小石が多く混ざっていて粒度が均一ではないのが気になりましたが、いまさら篩(ふるい)にかけて選別しても使い道に困るだけなのでそのまま使うことにしました。砂利であることに間違いはなく、想定より量が多かったことと相殺して良しとしました。

とりあえず敷設完了
 路盤上の防草シートを敷き詰めたところに雨が降り、翌朝見るとシート上に水溜りが出来ていました。路盤表面に凹凸があったためで、修正した上に砂利を目分量で50100mm程度の厚さに敷き、防腐剤塗布した枕木を並べます。R=5mに曲げたレールを約40cmの間隔で枕木の上に置き、曲率修正の必要がないかチェックしました。この時点で厳密に測定しておけばよかったのですが、その先の直線レールと接続する段になって曲げ過ぎであることが判明し、後で曲げ戻す羽目になりました。そして犬釘を打ってレールと枕木を締結し、枕木の間に砂利を入れるととりあえずこの区間(2.2m)線路敷設完了です。

 続く直線部ですが、こちらは3年前にデ1を文化祭に出展した際に作った完成済軌框があるので砂利の上に置けばいいだけです。と安易に考えていましたが、曲線と直線を滑らかに繋げるために左右のレールの長さや互いの向きを調整しなければなりません。前述のとおり曲げ戻しが必要になったもののなかなかその要領がつかめず悪戦苦闘、しかもどういうわけか計算間違いをしていて、内側のレールは10cmばかり切り落とすことになってしまいました。そして敷設状態でのペーシ(継目板)締結用の穴あけも苦しい姿勢での作業になりましたが、そういう困難を乗り越えて直線部との接続が完了しました。交差する通路の踏切を作らないといけないので砂利入れはまだ見合わせておきます。

枕木に締結した状態での曲げ戻しは作業しづらい       内側レールの切断       

R=5m曲線部に接続した直線区間の水平確認
 踏切はコンクリートプレートをはめ込む手もありますが、人道専用の雰囲気を出すために枕木を並べることにしました。レール上面と元の通路の高低差が40cm近くあるため、取り付け部付近は盛り土をして通路に傾斜を付けます。それでも道床とレールの厚さ分は階段にして高さを稼ぎます。これも人道専用踏切ならではの利点()です。

踏切完成状態 この後段差部にゼブラ塗装する予定

 繋がった6m余りの線路を手押し無蓋車と電車で試運転したところ問題となるようなことはありませんでした。電車で走行した感じでは、R=4mの曲線からR=5mに入ったところでモーターの唸り音が変わり、体感速度が上がるとともに電流値が下がる様子が観察できました。線路の見た目も明らかにR=4mの部分は急カーブという感じがします。

 延長工事は着手以来2ヶ月近くかけてやっと計画の半分が完成しました。この後曲線部の路盤造成を含めて残された予定工期は10日ほどしかありません。

2022/08/24

待避線(余談雑談)  機械設計のツボ

  先日電車を運転していたら突然動かなくなってしまいました。その数日前から車輪がスリップ気味だったのですが、雨で線路が濡れているためだろうとあまり気にしていませんでした。実際には車輪がスリップしていたわけではなく、チェーンのスプロケットと軸が滑って最終的に脱落していました。慌てて他のスプロケットの固定部に緩みがないか点検しましたが異常はありませんでした。この故障は本質的な設計ミスとまでは言えず、どちらかというと日頃の点検を怠っていたことに起因したと考えた方がいいでしょう。


 スプロケットは軸に対して2本のネジで固定されています。1本ではなく、90°または120°ずらした方向から軸表面を押し付けるように締め上げてあるのです。もしこのネジが1本だったら回転方向が何回か切り替わった時点で緩み始め、そう長くないうちに滑り始めていたと考えられます。軸とスプロケットの穴の間には数十ミクロンのスキマがあり、ミクロ的に見ると両者はギッコンバッタンと相対運動をする可能性があるわけで、この動きによってネジは少しずつ緩んでいきます。2本のネジで押し付けると軸と穴は3ヵ所で接触することになり、相対運動がなくなる結果繰り返して負荷の方向が変わっても緩むことがなくなります。

止めネジが1ヶ所の場合(左)軸は完全には固定されず、穴との相対運動が発生してしまいます

 私が設計技術者として駆け出しの頃、このことを知らずにネジ1本で部品固定していたのですぐ緩んでしまい、その都度締め直すという徒労を繰り返していました。それは実験用の設備だったので面倒な仕事が増えるだけのことでしたが、製品の設計者としては失格です。そんな下積み時代の失敗談をいくつか。

 上に書いている軸と穴のスキマをどの程度にするか、規格の記述や何ページにもわたる表があって、経験の少ない設計者にとっては何を根拠に決めればよいのか困ってしまいます。実は嵌り具合をカチンカチンにするのかグサグサにするのかさえ決めれば、実用的な選択肢はほぼ確定するのですが、特殊な結合事例を網羅するためにJISにはいろいろな嵌め合い条件が想定されているのです。実際に使用する欄に赤線を引いておけば簡単で便利なツールであることがわかります。そのことさえ知っていれば車輪と車軸の嵌め合いでも、軸径からこの規格の最もノーマルなスキマの値を決めることができます。ものわかりのいい鉄工所なら図面に細かい数値を書き入れなくても「スキマ嵌めでしっくり」とか「H7g6で」と言えば加工してくれるでしょう。さらに今どきのCADではいちいちそんな表を見なくても画面上で公差の選択ができるようになっていて、おそらく常用する項目がデフォルトで設定されているはずです。

JIS規格の軸の公差 左欄の軸径(mm)に対して加工許容値(μ)が定められています

「盗み」「逃げ」を考えるのは
窃盗犯だけではありません
 次はなかなか教えてもらえない盗みのテクニックの話。大きな声では憚られますが、これはよく新人設計者が製造現場から「盗みを入れてくれ」と言われる実例です。板金(鋼板)を曲げた部品の図面を描くときに、完成品のイメージから展開図を作り、寸法を記入して仕上げます。するとその図面に従って鋼板を切ったり曲げたりする作業担当者は「テッパンは折り紙みたいに自由自在に曲げられるモンじゃない」と悲鳴を上げます。鋭い曲げの根元には「ヌスミ」とか「ニゲ」と呼ばれる空洞部分を設けないと内部応力が拡散して周囲が変形したりひび割れしたりしてしまうのです。ヌスミが大きすぎると強度低下を招くのでどれくらいが適当か、現場でそのテクニックを盗むしかありません。強度に影響がない場合は図面の片隅に「必要に応じてヌスミ加工を許容する」という注記を書き込むニゲのテクニックもあります。

 構想図を描くのは設計作業の中でも腕の見せ所です。完成した機械をどう扱うかを考えながら使いやすさやその機能、強度を充分に発揮できる形状を決めていきます。ところがその機械をどういうふうに組み立てて作るのかということに考えを巡らせないと困ったことになってしまいます。図面は紙の上に線を引いて描いていくので、実際に作ることができない物の組立図が描けてしまうことがあるのです。空洞の中に取り付ける部品が入り口の穴より大きいとか、長い部品は曲げないと入れることができないとか、工具を回すスペースがないので組立てられないとか。こういう図面や形状のことを「地獄」と呼び、そんな設計をした者は同僚や組立現場から蔑まれます。面白いもので、地獄設計で使えなくなった部品や加工ミスで廃却する部品のことを「オシャカ(お釈迦)」と呼びます。

 新人の内はこんな経験も一度や二度ではありません。その都度挫折し、落ち込み、反省はしますが、言い訳もします。「そんなこと学校では教わらなかった。」

2022/08/16

待避線(余談雑談) 鉄道工学を学んだ頃

当時の最新車両が表紙を飾っています
 本棚を整理していたらチョッと懐かしい書籍が出てきました。「入門鉄道車両」というB6版サイズ(128×182mm)で、大学の専門課程で鉄道工学の教科書として購入したものです。工学部の授業や勉強ではいわゆる理科の内容を深める一方、さらに実際的なモノ作りについて学びました。つまり物理、化学、数学の難しい(さっぱり解らない)理屈や数式をノートに書き写し、製図や加工、機械や道具の使い方について実習や講義を受けました。子供の頃から機械いじりや模型作りが好きだったので、「機械要素」という授業でウォームギヤやユニバーサルジョイントといった聞き慣れた用語が出て来ると、一歩先んじているような気がして嬉しかったことを覚えています。

ページをめくると

 「自動車工学」「航空工学」「鉄道工学」という講義が選択科目にあったので迷わずカリキュラムに入れ、週に一回最前列で受講しました。鉄道工学の講師は国鉄鷹取工場の技師の方で最後の授業は工場見学でした。その授業で一括購入したのが「入門鉄道車両 石井幸孝著」です。講義は一般学生が対象なので「鉄道車両には蒸気機関車、電車、ディーゼルカー等があって、、、」から始まって、電車の抵抗制御やディーゼルカーのトルクコンバーター、線路のカントとスラック、そして新幹線とリニアモーターカーの話などでした。私にとっては全部常識的に知っていることばかりで新鮮な知識を得るような機会ではありませんでしたが、やっぱり嬉しい時間でした。そんな内容なので授業で教科書はほとんど参照されることはなく、私も記述内容を細かく見ていませんでした。今あらためて読み直すと実にわかりやすく解説されていて、ブログで説明した下手な走行特性と出力特性の関係などはこの教科書を読んでから書けばよかったと後悔しきりです。その他にも知らなかったことが詳しく書いてあり、天狗になっていた自分が恥ずかしく思えてきました。

 この本には当時の最新技術であるサイリスタ制御の記述はありますが、当然ながらVVVFインバーターについては全く書かれていません。まだパソコンが一般的ではなかった時代で、計算尺や手回し式卓上計算機に代わって電子式卓上計算機(電卓)が初めて発売された頃のお話です。卒業研究といっても実質一ヶ月ほどの実験で、残りの10ヶ月近くはデータ整理とグラフ作成、論文の清書や発表用のスライド作りに費やしていました。もしエクセルやワードを使うことができたなら、たった数日で格段に見栄えのする成果があげられたと思います。そう考えると隔世の感がありますね。計算尺や手回し式計算機(通称タイガー計算機)については今では死語になっていますが、ネット検索すると画像や原理、使用方法などを詳しく知ることができます。 

2022/08/06

エンドレス線路延長

 昨日投稿の方針決定により、手持ちのレールを使ってできる限りの線路延長を図ることにしました。レールの在庫としては、新品(かなり錆びてはいますが)の定尺5.5m2本、分岐器製作時の残り4.6m1本、文化祭での展示移送用軌框完成品(直線)4m1.5m1本、合計で約13m分です。軌框として完成しているものはできるかぎり直線部にそのまま使用することにしますが、全体計画図通りに効率よく充当できるかはフタを開けてみないと何とも言えません。それはなぜならレールの曲げ半径というのが結構大雑把である、つまり計算通りにならない一方で、ゲージや継目の位置合わせのためにその場で追加曲げや戻し、切断を行うことがあるからです。

線路延長計画 褐色部分が今回の着工区間 

道床と路盤の構造
 今回の線路延長部は既にある花壇の中を横切ってガレージの裏をかすめ、隣家との境界の方向へ向かっています。庭全体が緩やかな傾斜地になっているので高地にある既設線路は地面を掘り込んで砂利を入れてあり、低地側は築堤状の路盤を造成しなければなりません。庭で穴掘りや整地などをして不要な土が出るとこの線路予定地に持ってきて盛り土にしてきたので、ある程度路盤らしくなっています。78年前に敷設した線路の枕木の一部が腐朽していたことから今後敷設する線路は水はけを考慮することにしました。また春から夏にかけてあっという間に色んな植物が芽を出して成長し、道床の砂利のスキマから葉茎が生えてくることはもとより、延長予定地に置いていた軌框が草に埋もれて廃線跡のようになってしまうことがありました。施肥によって花壇周辺の土壌が栄養豊富になっていることが一因で、雑草特にスギナが繁茂することがないような対応を考えることも必要です。 
掘り込み道床(左)と盛り土道床(右) 右の写真の手前側に盛り土路盤が造成される予定

       延長予定地(ツツジの右側)       廃線跡のようになった仮置き線路

 その対策として

〇第一に枕木の下の砂利の層を厚くする。

〇次に砂利のなかに土が浸入しないように砂利層と路盤の間に分離膜を張り、傾斜を付けて水が滞留しないようにする。

〇この分離膜には防草シートを使用して路盤内部からスギナなどの雑草が成長しないようにする。

 実物の線路、道床、路盤の構造を参考にしようとネットで検索したところ、近年の路盤上面はアスファルトやコンクリートで傾斜(3%)が付けられていることを知りました。理由は書いてありませんでしたが、水はけを良くするためだと思います。枕木下の砂利層の厚さは1級線でも200~250mmですから1/3スケールで70~80mmあれば実物通りになります。防草シートはわずかながら透水性があるので仮に傾斜が不完全であっても水溜りにはならない(であろう)ことが期待できます。防草シートの本来の機能を試すためにスギナの繁茂した箇所に被せてみたところ、数週間後に葉は緑色から黒く変色していました。ただ枯死したわけではなく、地中で越冬しながらも温度と光が整えば重力に逆らってニョキニョキと顔を出すしたたか者ですから、物理的に成長を阻止するためには破れることがないように注意しなければなりません。犬走や盛り土の法面が防草シートむき出しでは美観上味気ないので試験的に人工芝を貼ってみようかと考えています。

水はけ防草対策            路盤造成工事中
  

2022/08/05

今後の方針とタイムスケジュール

  実は過日、義父が他界しました、94歳の大往生でした。このブログにも記している通り線路の敷設を始めた(2014年)頃は同居していましたし、何より鹿部電鉄があるのは彼がここに広い土地と別荘を購入してくれたおかげです。あらためて深い感謝と敬意を表したいと思います。 合掌

 

 さて私は今、鹿部電鉄設立以来の岐路に立っています。いやいや分岐器が出来たからと言ってそこに立って線路を眺めているわけではありません。幼い頃からの悲願であった運転手になる夢が実現し、次は自宅を廻るエンドレスを建設するために分岐器を作りました。用地の確保は済み、大部分の築堤の盛り土もできているので、ひたすら線路を延長すればそう遠くないうちに周回軌道が完成するはずでした。ところがいきさつを昨年末来の「妄想トレイン」に書いている通り、根が作り鉄なのでもう1両電車が欲しい、正確に言うと昭和の気動車を作りたいと思うようになってしまったのです。世のすべての作り鉄がそうであるとは言いませんが、移り気に加えて無計画は鉄ごころついた頃からの性分です。ここはしっかりとした計画を立て、着手実行する順序を決めて一つずつ完成させていくことにします。

 優先順位は以下の通りです。

 1.カヌー格納庫の艇移載用線路敷設:床、壁、扉は当面手をつけない。(7月中旬)

 2.エンドレス線路延長:在庫レールが使用できる範囲(13m)で路盤、道床、レールを敷設する。砂利追加手配。(9月中旬)

 3.気動車用走行抵抗改良台車製作:詳細加工設計図作成、外注手配、購入品手配、組立、試運転。(10月末)

 4.カヌー格納庫の床、壁整備:扉製作が降雪に間に合わなければ翌春まで密封。(台車製作と並行して11月末)

 5.レール追加手配:予備含めて20本、ペーシ/モール/スパイキ必要量算定。カヌー格納庫で保管。(20235月、格納庫の雨対策完了が前提)

 6.エンドレス線路延長:路盤造成、橋梁製作、レール敷設。(5項完了後開始)

 7.気動車留置線敷設:路盤造成、レール敷設、横取り装置製作、建屋は別途検討。

 8.気動車車体:設計、材料手配、製作。外観完成を優先。

 9.気動車動力/制動装置:設計、材料手配、製作。

 肝に銘じるべきは、やっている仕事が終わるまで次の作業着手や資材手配に手を染めないことです。天候や段取りの都合で作業を並行あるいは交互に行うことは許容しても、基本は”One by one”を徹底するように心がけます。

 第5項に始まる2023年度以降の計画に完了期限を書いてないのは正直なところ見当がつかないからです。数十メートルの線路敷設にどれだけ手間取っているンだと𠮟咤の声が聞こえて来そうです。折から空知鉄道さんでは一気に45mの延長、分岐器や駅の設置など延伸開業のテレビ放映(道内)等があり、熱意と行動力の差を見せつけられた感があります。1の製作には3年半かかったので、それ相応の期間が必要であると思う一方、そんな長い間の心変わりを抑える自信はありません。それでもデ1とキハ40000が花に埋もれた庭を行き交う光景を想像すると胸の高鳴りを覚えずにはいられません。