2024/08/25

待避線(余談雑談) ある日車型軽量気動車の話

              神戸電鉄クハ131          自身撮影

   右の写真は、私が昭和40年頃に神戸電鉄鈴蘭台駅のはずれで撮影したクハ131です。近くにいた駅員か乗務員にひと言声をかけてから線路に降りて撮ったはずですが、今では考えられないような時代でした。

 まぁそんなことは本題ではなくて、この車両クハと称しているものの、元は神中鉄道(現相模鉄道)の気動車キハ30型、1935-1936年(昭和10-11年)製造、戦時中に2両が神戸有馬電鉄に譲渡されて(電車の)制御車になった変わり種です。そう思って見るといかにも日車製気動車で、車体幅は狭く、窓まわりが薄っぺらで、乗務員扉がありません。運転台は左片隅にあり、その右側は妻板まで客席が迫っています。台車は元の帯鋼製菱枠型を電車型(おそらく改造を手掛けた川崎車両製D-16)に履き替えているようです。全長はキハ40000とほぼ同じ12mです。

            クハ151                自身撮影
 神戸電鉄は母方の実家が沿線にあったので幼い頃からよく乗っていました。先頭の席に座った時は窓を開き、身を乗り出して線路が足元に流れる様子を目の当たりにしたものです。側窓と違って手や頭を出しても特に危険があるわけではないので真横にいる運転手から注意されることはありませんでした。クハ151もやはり元神中鉄道の気動車で、こちらは少し大型のびわこ型流線形車体でした。先頭に展望席があるのは同じで、私は子供ながらにこれらが他の電車と違うことを認識していたので、乗り込んだら真っ先に前へ走っていました。もう少し大きくなってからのことですが、コンビを組んでいるもう一両(電動車)と車幅や車高が違うことが気になり、なんとはなしに異端車に見えたのはすでに鉄ごころが芽生えていたためだったからかもしれません。もしこの車両が凸凹ユニットの制御車ではなく、気動車のままであったり単行の電車であったりしたなら、スマートでキュートな存在に見えたことだろうと思います。そんなわけで、当時この日車型軽量気動車は展望席以外あまり興味をそそられることはありませんでした。

 そう思わせたもう一つの理由は、はるかに強く心揺さぶる新型車両が目の前に現れたことでした。それはデ301で、フカフカのクロスシート、アルミサッシや美しい内装、ゆったりとした車体の揺れ方、カルダン駆動のヒューンという加速音、ツートンカラーの外装と湘南型の2枚窓正面など、すべてがそれまでの田舎電車神有(神戸有馬電鉄)のイメージを一新する装備でした。何年か前の遠足で山陽の2000型に乗って受けた衝撃を思い出させる出来事でありながら、より身近な場所での新型電車との遭遇は、今思うと自分の家の庭に好きな電車が走るような幸福感にも匹敵する喜びでした。

              デ301              自身撮影

2024/08/12

キハ妻板ユニットの製作 第2編

  隅柱は図に示すように少し複雑な形状です。4枚の妻板・腰板補強板がはめ込まれる溝が成形されており、本箱の棚板のような構造です。ただし本格的なほぞ組みであれば打ち込んだだけで直立するはずですが、溝は位置決め程度の深さしか取っていませんので、箱状で自立するように仮組みする必要があります。直角を確認しながら余っていた節だらけの板を裏側に当てがって隅柱と補強板を木ネジで本箱状に仮固定します。この段階は接着剤を使わず、これに貼り付ける幕板や腰板の寸法確認と加工を行うための準備作業です。

車体隅柱の図面(上)
加工中の様子(下左)と完成品(下右)
雇いの裏板を取り付けて組上げた本箱状態の妻板枠

4枚の幕板をピタリと取付け
 補強板が固定されたらその上に4枚の幕板と11枚の腰板を貼り付けます。補強板の加工時に残されたケガキ線と幕板および腰板が正確に合致するよう1枚ずつ原物合わせで幅を確定します。この時、隣り合う板の面がスキマなく密着するように側面の角度もカンナで修正し、形状が決まったら木ネジで補強板に取り付けます。デ1の腰板は凹凸をはめこんで繋いでいく板継ぎ構造だったのでスキマはあまり気にしなくてよかったのですが、キハ40000は木製車体の表面を鋼板に見せる必要があるので部材の継目のスキマが残るのは禁物です。最終的には接着してからパテを塗ってツルツルに仕上げる計画ですが。


 幕板、腰板の取付けが終わったら、R900の曲面を手のひらで感触を確かめながらカンナとサンダーで仕上げていきます。カヌーの曲面を成形した時の手法の応用です。これも柔らかいヒノキ材ならではのテクニックと言えます。ただし素材が柾目ではないので場所によってはクセの強い板目(不規則な年輪模様)が現れることがあり、カンナをかけたときに逆目でささくれ立った面も出てきます。こういう部分はサンダーをかけても凹凸が消えないことがありますが、最後はパテが隠してくれるので、あまり気にせずそこそこにしておきます。

 幕板と腰板の寸法合わせと仕上げが終わったら一旦木ネジを緩めて部品を取り外し、一ヶ所ずつ木工ボンドを塗布してから再度ネジで固定し、位置ズレや歪みがないことを確かめたうえで接着剤が固まるのを待ちます。同じ要領で11枚の腰板を取り付け、翌日以降に接着剤が乾燥してから木ネジは全部抜き取ります。ウィンドウシル・ヘッダーで隠れないネジ穴は後ほどパテで埋めます。

 淡々と組立て手順を書いていますが、最初からこの筋書き通りに作業できたわけではなく、実は雇いの裏板を木ネジで固定して箱状に自立させることも試行錯誤の末に寝床で考えた方法です。「よし、明日はこのやり方を試してみよう」と楽しみにしながら眠りに就くと、夢見も目覚めもいいようです。

2024/08/01

キハ妻板ユニットの製作 第1編

  やっとキハ木製車体製作の途中経過報告ができるところまで漕ぎつけました。と言ってもまだ部品加工の段階です。材料調達や道具の調整に時間を費やしていたことに加えて、組立ての核になる隅柱の加工が家具工房の順番待ちなどで遅くなってしまいました。

 車体製作の工程(計画)は以下の通りです。

1.鋼製構体 (完了)

2.妻板ユニット(製作中)

3.扉ユニット

4.側板(扉間)

5.屋根

6.ディテール(ベンチレーター、灯火類、連結器)

妻板ユニット
 鋼体に各ユニットを取り付けて行くという段取りで、完成後も改造や修理の際にはユニットごとに取り外すことが可能となるよう設計してあります。ここまで今年の雪が降り始める頃に完成できれば、と考えていますが計画通りに終わった試しがありません。

妻板寸法





 まずは妻板ユニットの部材加工から着手しました。すでに設計は終わっていましたが、あらためてサインコサインピタゴラスで詳細寸法を計算して部品図に記入し、よく切れる道具でできるだけ正確に加工しました。デ1の材料であるクリ材に比べて柔らかいヒノキ材はカンナの食いつきもよく、ノギスを使って寸法を確認すれば0.2mm程度の精度が出せるようです。購入した板の幅は75mmなので、例えば120mmの幕板は75mmと45mm幅の板に接着剤(木工用ボンド)を塗布し、クランプで挟んで一昼夜待ってから加工します。そうやって準備した素材は部品図および組立図に従って外寸を仕上げた後、正面の幕板および腰板表面がR900になるよう仕上げ代1mm程度を残して大雑把にカンナで削っておきます。

幕板補強板の詳細加工寸法

片側の妻面幕板は素材4枚を補強板に取付けて曲面を構成
 さてそうこうしている内に家具工房に依頼していた隅柱の加工が始まりましたので、機械に貼り付いて図面の説明をしました。次編に続く。

2024/07/20

各種資材搬入

  キハの車体製作が始まりました。木製車体は主にヒノキ材から製作します。2023年4月19日投稿の「キハの窓試作」に書いた通り、ホームセンターで入手できる工作用ヒノキ角材を使えば日車製軽量気動車の窓まわりが実感的に表現できることに起因しています。窓以外の部分も同じ材質にすることで温度や湿度による歪みや反りを低減できるのではないかと期待しているわけです。ヒノキは風呂の浴槽に使われるくらいですから耐水性、耐久性に優れている一方、柔らかい性質もあって加工性が良い反面、当て傷や掻き傷ができやすいという弱点があります。節のない柾目の材料を使えばきれいな仕上げ面が得られますが、大きな部材はびっくりするような値段になります。色々と悩んだ結果、窓まわり以外の幕板や腰板、屋根のリブ等の構造部材は12mm厚75mm幅の表面仕上げ材を通販で購入することにしました。節なしだと値段が10倍以上に跳ね上がるのでイチかバチか節ありを選びました。どうせ切り継ぎするので表面に節の部分を避けて使えば何とかなるだろうとの見込みです。

工作用ヒノキ角材で試作した窓

節のないきれいな上4枚と節や外皮の残った下2枚
 通販サイトからヒノキ製材長さ2mの24枚セットを注文したところ、価格7800円に対して送料のほうがはるかに高い見積が返ってきたので一旦キャンセルし、長さを1mにして48枚注文したところ送料は2800円と普通の宅配便の料金になったので内容変更して発注し直しました。数日後届いた梱包を開くとほとんど節のないきれいな板が入っていました。「これは儲けた」と勇んで1枚めくるとやっぱり節なし板、しかしもう1枚下からはあちこちに穴の空いた板が出てきてまぁまぁ想定の範囲に落ち着きました。因みに購入した製材はプレーナー仕上げ乾燥済み品でした。表面は組立て後塗装前にパテを塗ってサンダーで仕上げるのでどうでもいいのですが、乾燥材であることは必須条件です。

妻板ユニット用に購入した工作用角材

 車体の工作は手始めに妻板ユニットである正面と運転台横の窓部を作ります。窓枠やウィンドウシル・ヘッダーは工作用角材を使うのでホームセンターで所定の寸法の材料を揃えました。函館には3系列の大手ホームセンターがありそれぞれの価格比較をしました。A店は「同一品が他社より高い場合はさらに10%引きにします」と謳うだけあって一番安く、サイズによって他店の70~50%程度の価格でした。一般的に考えて細い角材ほど加工費(メーカーコスト)は高くなると思うのですが、単純に寸法(体積)に比例したような価格(ユーザーバリュー)が付けられているようで驚きました。ちなみに3×3×900は単価19円でした。

 そうこうしている内に6kgレールの配送連絡がありました。6月に届くとのことでしたが、天候の関係で船積みが滞って遅くなっていました。道路と生垣の間(セットバック用地)に枕木を置いて待っていると、なんとユニッククレーン付きの12t車が家の前に横付けされました。最初の時も4t車で驚きましたが、よほどやりくりがつかなかったのでしょう、送り状には「694kg」と書いてありました。想定外の大型車だったので国道へ出る曲がり角が心配でしたが、難なく帰って行きました。

大型トラックに恥ずかしいような積み荷

 本州各地で梅雨の豪雨被害が出ている中、当地はお天気続きで早速レール踏面の防錆処理(クリアラッカー塗装)をしました。翌日カヌー格納庫に保管する作業を始めました。暑さをしのぎながら(と言っても本州の酷暑とは桁違い)半分ほど(十数本)入れた時点で床が歪んでこれ以上運び込むと底が抜けるかも、という状態になりました。枕木は2本敷いただけだったので荷重が集中していたのでした。さらに翌日、作業効率を考えてカヌー移動用レールを撤去し、一旦全部運び出してから床に枕木を50cm間隔に敷き直しました。レールは3.6mと短めですがそれでも1本20kg以上あり、一人で狭い場所への出し入れで腰への負担は限界に達していましたし、熱中症の恐れもあって作業は半日で中止。次の日は午前4時起床して涼しいうちに開始、日が差す頃にはカヌーレールの復旧を含めて全部の作業を終えました。

左:防錆処理をして格納庫まで一人で入れたり出したり、ここまで3日がかり      、                
                   右:翌早朝から作業して合計32本搬入完了     

 このレールが日の目を見るのはキハの製作が一段落してから、軽快にデやキハが走る日を夢見ながらしばらくここで眠ってもらいます。

2024/07/10

待避線(余談雑談) 刃物の切れ味 続き

  すでにキハの車体製作に着手していますが、その進捗はキリのいいところであらためて報告させていただきます。木工作業の修正や仕上げにカンナを使う機会が増え、切れ味の冴えない刃に少しイラついていました。このカンナは結婚してDIYを始めた頃に懐と相談しながら買って以来、40年余り刃を研いだことは一度もありません。テレビのドキュメンタリーで宮大工が仕事終わりに気合を込めてノミやカンナの刃先を研いでいる姿を見て、素人にできるものではないと信じていたからです。

 キャベツを切る包丁は毎日のように自信をもって研いでいるので、カンナもできるか?とふと思い立ちました。しかし包丁用の砥石は真ん中が凹んでしまっているので使い物になりません。ネットで調べたら「面直し用砥石」という物があって、これで砥石表面を常に平らに修正しながらカンナ刃を研ぐことで真っすぐな刃先を得ることができるそうです。ホームセンターの台所用品売場に行くと、砥石セットと一緒に面直し用砥石があったので迷わずに買って来ました。説明書を読むと、刃を研ぐ前に水に濡らした砥石と面直し用砥石の両方を平らになるまでこすり合わせるとのこと。試しにやってみましたが、どちらも新品なのでそこそこにして刃研ぎを始めました。

 砥石に刃を押し当てて何回かこすってみると、この安物カンナの刃は全然平面になっておらず、刃先どころかアチコチが削れて光っていることがわかりました。全体を平らに削るのはあきらめて、まずはとにかく切れ刃を形作ることにしました。全体形状の修正は時間をかけて根気よく進めます。研ぎ直したカンナで試しに残材の側面を曳いてみたところ、かつお節とまではいかなくてもそれなりに薄いカンナくずが出てきて、木工作業らしくなるかなと思った次第。宮大工の仕事には遠く及びません。

2024/06/27

待避線(余談雑談) 刃物の切れ味

  私の得意料理は千切りキャベツ、葉の厚さより幅が細いフワフワキャベツにとんかつやカラアゲを載せると彩だけでなく味にも影響を与えます。料理包丁は日に何度も使うので、刺身やキャベツを切る前には気合を入れて研ぐことで切れ味が蘇ります。折り刃式のカッターナイフでボール紙を切っていて裏側に切り残しが出るようになったら、「パキン」と刃を新しくすると気持ちよく作業が続けられます。ドリルは切れ味が悪くなると切り粉の出方が変わるのでグラインダーで研ぎ直しますが、先端の切れ刃が上手く削れた時はドリルの両側にらせん状の切り屑がⅤ字型に広がり、切削音も静かになります。

丸鋸用直角ガイド
 工具の切れ味はホントに少しずつ悪くなっていくのでそれに気づかないことがあります。音や振動が大きくなったり、刃が真っすぐ進まなくなったり、進み具合が遅くなったりすることで何かおかしいと思う場合もあります。実は少し前から電動丸鋸で角材を切ろうとしてガイドを当てがっていたのに、何回やっても切り口が直角にならず苦労していました。ガイドの作り方を教えてくれた家具工房の長沢さんに相談したら「直角が悪いンじゃないの?」と言われ、一から作り直しましたが、やっぱり切り口の角度が一定せず、途方にくれていました。ところが先日新しい替え刃に交換してみたところ、音も振動も進み具合もすべて一挙解決、切り口はスベスベでもちろん直角度もバッチリ決まりました。この電動丸鋸は鹿部に移住して来る前に義父のDIYを手伝うために買ったもので、最初から付いていた刃は15年近く使っていたことになります。

チップの損傷状況
 一方昨年購入してキハの台車や構体製作に重宝していたチップソー切断機がやはり直角度不良に加えて異音や異常な熱が発生するようになりました。刃先を点検したところ全周で3ヶ所のチップが欠けてなくなっているではありませんか。慌てて替え刃についてネットで調べたら、値段は数百円から1万円と幅があり、直径はもちろん被削材の種類、刃の材質形状、刃数等によっていろいろな物があるようです。世の中にたくさんの種類があったとしても、近くのホームセンターには数えるほどの在庫しかなく、結局函館の工具専門店へ足を伸ばして、軟鋼用として耐久性の高い替え刃を買いました。チョッと高いかな?と思いましたが、切れ味の良さは仕上がりだけではなく作業性や精神衛生の改善にもつながると考えて奮発しました。さて遅れて届いた構体横梁用□30mm角型鋼管の切れ味は?まるで豆腐を切っていると言えば言い過ぎですが、何の抵抗もなくハンドルが下がって行き、耳をつんざく金切り音はどこかに消え、アッと言う間にウソのような美しい切断面とともに正確な直角に仕上がりました。元々付属していた刃は木金両用と謳っていただけに普及品だったのかもしれません。私がやっている事は所詮趣味のDIYなので大層な機械や本職が使うような道具は猫に小判ですが、せめて替え刃くらいはいい物を使うべきであるという教訓でした。

2024/06/21

キハの車体製作 構体の組立て

  台車の組立ての時は通し穴とネジ穴の位置が合わずに苦労しましたが、構体の加工に際して徹底的に治具の使い方に留意したこともあって組立ては意外なほどにすんなりと行うことができました。

     台枠と台車         4個のメッキが光る台車固定用ボルト
台枠結合                構体完成

 ガセットが片面のみであり、組立て後の剛性がやや気がかりでしたが、しっかりとした組上がりになっています。上部を横から揺すっても構体自体が歪むことなく心皿両脇の側受けで台車が交互に荷重を担って軸バネが撓んでいます。部材の一部(横梁)が未入荷で、この後追加組込みしますが、一応これで構体製作を完了します。

 引き続きこの骨組みの周りに妻板や側板、屋根などの木工部材を取り付けることになります。ところがまだ専用の車庫がないので当分の間ブルーシートで雨風をしのがなければなりません。木工作業の間に現品の寸法や構造をチェックする必要があるためグルグル巻きではなく、必要な時に簡単にまくり上げてアクセスできるようにブルーシートに細工をしました。天井(屋根)には1800×900×t12の合板(コンクリート型枠用防水処理済品)2枚を置いて雨が溜まらないようにしてあります。

   合板を2枚置いて          ブルーシートを被せる(棺桶みたい)

 ついでなのでこの状態でデ1の駐泊所を通過して大型車体が構造物に接触しないか確認しました。完成車体の幅は800mmで、900mmの天板を被せた状態で大丈夫だったので建て替えの必要はないことがわかりました。机上ではピタゴラスの定理で確認済でしたが、あらためてひと安心です。