2023/04/19

キハの窓試作

  デ1の木造車体の腰羽目板は、150枚近くの部材を何日もかけて斜向かいの家具工房「わ」で加工してもらいました。キハ40000の車体はその時の経験を生かして効率よく製作できるように工夫を凝らしたうえに、デ1にはなかった2段窓(下段上昇式)をできるだけ忠実に再現したいと思っています。ホームセンターで入手できる工作用ヒノキ角材は、2mm×2mmを最小断面寸法として長さ910mmで各種厚さと幅が揃っています。所要の寸法がなければ大きめの材料からカンナで削ることが可能です。幕板や腰板のように厚さと幅がさらに大きい部材は貼り合わせることで対処できますし、最後は家具工房に頼み込めばどうにかなりそうです。

工作用ヒノキ角材             所定の寸法に切断接着

 キハの窓構造を寝床で考え始めると覚醒して眠れなくなる場合と頭の中が混沌としてすぐに眠りに落ちてしまう夜があることは過日ここに書きました。半分は夢の世界なのでどんなにいいアイデアを思いついても翌日には何も残っていません。やはり図面にして具体的な構造を決定しなければなりません。ただ図面は描けても実際に組立が出来ないいわゆる地獄構造になっていたり、直角や寸法の調整が難しいとか接着部の加圧ができなかったりということがないか、等々製作上の問題をクリアーにするために実寸(もちろん実物の1/3)で窓部分を試作してみることにしました。こうすることで大宮の鉄道博物館で実測した寸法通りに作った場合に気動車の軽量車体の質感が表現できるかという確認もできるのではないかと思った次第です。睡眠時間が安定すれば健康管理にも役立ちます。ついでにリベットの大きさや塗料の色感なども車体製作前に確認できるだろうと考えました。当初考えていたブリキかトタンで半鋼製にする案は面倒なばかりでメリットがなさそうなので止めることにしました。

夢うつつの具現化

 試作は窓2個分、2段窓部と戸袋部を作りました。後者は同一寸法ながら上下ガラスが面一になっています。2個の窓を図面通りに組み立てることはできましたが、ズラリと並んだ窓を手際よく直角に接着する方法を考えなければならないのは本番までの課題です。一方で部材の切断には手鋸を使用したので寸法が不正確になり、突き合わせ窓枠にスキマが空いてしまいました。チップソーに治具をセットして量産すれば正確な切断ができるはずなのでパテのお世話にならずに済みそうです。塗装を済ませた試作窓を眺めるとなかなかの出来映えで、キハ40000の実物写真と見比べて窓枠やガラスの凹み具合もちょうど良い感じです。鉄博に展示保存されていた老車体が歪みまくっていたのでどちらかというとスッキリしすぎて新製時の姿を再現したかのように見えます。色調は手元の塗料を使ったので青、クリームともに明るくなってしまいました。

試作窓の完成品
 数が多くて着手前はかなり面倒だろうと懸念していたリベットは、3mmなべタッピンネジを電動ドライバーで植え込みました。丸いねじ頭径がφ5、実寸はφ15なのでピッタリです。小さな模型ではどうしてもオーバースケールになってしまうリベットが実に簡単正確に表現できるのは15インチゲージならではのメリットだと今さらながらに感心しました。

2023/04/06

待避線(余談雑談) SLの話

  鉄道研究会の仲間の半分くらいはSLファンです。あえてマニアと言わずにファンと呼ぶのは彼らの興味が千差万別で、いわゆるSLを追っかけて全国を駆け巡った撮り鉄から「一応鉄っちゃんなのでSL好きです」という緩~いのまで幅が広いからです。私は「一応鉄っちゃんなのでSLのこと普通の人よりはよく知ってます」程度で、やっぱり自分ではSLファンと公言するほどではないと思っています。風景の中に写っている黒く小さな物体や露出不足のシルエットを見ただけで形式がわかったり、撮影場所とか線区がわかれば番号まで言えたりするようなエキスパートには感服してしまいます。

             伯備線布原の三重連 1972年        鉄研富田さん撮影

 で、私の場合はSLのメカには興味があって、というかSLは自立機械そのものであり、全ての機構はロッドと蒸気配管で繋がっているので機械の知識があればその動きを理解することができます。今どきの機械のようにコンピューターはおろかセンサーも電線もついていませんが、本当によく出来たロボットだと感心させられます。その代りこの機械を動かすためには動作させる順序や限度、絶対に冒してはならない操作や監視項目などを熟知していなければなりません。

 例えば機関車を加速するためには次のいずれかあるいは複数の操作が必要です。

①より多くの石炭を投入してボイラーの蒸気圧を上げる

②バルブを開いてより多くの蒸気を送り込む

③弁装置によって蒸気の流入タイミングを変える

どの操作が適切かは一概には言えません。わかりやすく例えると、マニュアルミッションの車で加速するためにはそのままアクセルペダルを踏み込むのと、シフトダウンしてアクセル、シフトアップしてアクセルする方法がありますが、平地と上り勾配と下り勾配でどれがよいかは変わってきます。機関車の場合も発車後の加速なのか、長い登り勾配に備えて勢いを付けるのか、蒸気(燃料)を節約するためなのかによって取るべき操作は異なります。最新の自動車ならコンピューターが最適の条件を選んでアクセルペダルの踏み込み量だけでブレーキングも含めて意のままに速度が変えられるそうですが、機関士と機関助士はその時のボイラーの状態や線路の条件、運行ダイヤなどを考えていろいろある機能の中からどんな組み合わせで操作するかというコンピューターの役割を演じていたわけです。

            SLの運転台       小樽市総合博物館C126

 では具体的にどの機器を使ってどうすれば蒸気機関車を加速できるのか、私は実際に機関車を運転したことがないので想像にもとづいて説明します。当然のことながら時代や形式によって機器配置や操作方法は異なりますが、もし間違いや補足があれば下のコメントまたは右のお問い合わせメールでご指摘ください。上の写真は小樽市総合博物館に静態保存されているC126の運転台です。自由に出入りできる割に欠損部品もあまりなく、比較的良い保存状態が保たれています。

①は投炭口、手でハンドルを掴んで蓋を開き、シャベルで石炭を投入します。蒸気の圧力は蒸気消費量、給水量、加熱量によって変化し、投炭したからと言ってすぐに上がるわけではありませんが、石炭の高温燃焼ガスはボイラー煙管を通過する際に缶胴内の汽水に内部エネルギーとして蓄えられます。もし圧力が上がり過ぎると安全弁から蒸気が抜けるようになっています。

②は加減弁ハンドルで、ボイラーから送り出される蒸気の量を制御することができます。長いレバーを手前に引くと弁の開口が大きくなってより多くの蒸気が送り込まれます。引き過ぎると動輪が空転するのですぐに戻すなど微妙な操作が必要です。

ピストンと逆転器の位置からシリンダーに
送り込まれる蒸気のタイミングが変化する
③は逆転器ハンドルと呼ばれるもので、これを回すとネジの働きでボイラーの側面に沿った長いロッドが前後に動き、テコの支点と作用点の位置関係を変化させることで、動輪の回転位相に連動する心向棒によって蒸気をシリンダーに送り込む弁装置の動作タイミングが変わります。このハンドルを時計回りに一杯回すとピストンの全ストロークに渡って圧力が加わり大きな力を出すことができます。逆方向に回すと蒸気の入り方が少しずつ減って中立状態になり、さらに回すと蒸気流路が逆になって進行方向が変わります。逆転器は単に前後切替えるだけではなく、弁装置を介して速度や負荷に対応し効率よくシリンダーに蒸気を送り込む量を加減する機能を持っています。その原理の説明は省きますが、興味があれば「蒸気機関車の仕組み」で検索すると多くのサイトで解説されています。

 この他にブレーキ弁、給水装置、空気圧縮機などを動作させる弁類、圧力計や速度計、水面計などの計器類が運転台に所狭しと並んでいます。ブレーキは空気圧で作動するようになっているので蒸気で駆動する空気圧縮機が装備されています。古い機関車に発電機はなく、ランプや蓄電池式の前照灯や室内灯が付いていましたが、後にはタービン発電機が装備されるようになりました。人間コンピューターたる機関士と機関助士は列車を運転しながらこれらの補機や計器を見て正常な運転状態にあることを確認し、同時に外乱に対して最適な操作を選択しなければなりません。

 近年動態保存車の本線運転ではATSが車載されるので、古式豊かな運転台にスマートな操作盤が取り付けられていて滑稽な感じがします。考えてみるとCO2NOx等の排出が厳しく制限される時代にモクモクと黒煙を吐き、油混じりの蒸気をまき散らし、大音量の汽笛、ドラフト・ブラスト音を発するなど、前時代の文化遺産としてでもなければとても許される存在ではありません。

 身近な物質である水は加熱すると体積が約1000倍もの蒸気になるので、閉じ込めてやると大きな力を取り出すことができます。大気圧で水が沸騰すると100℃で一定になるように、圧力と温度は一定の関係を保ちながら安定して大きなエネルギーを蓄える特性を持っており、産業革命以降蒸気原動機は人馬に代わる動力として利用されて来ました。蒸気機関車は過去の遺物になりましたが、火力・原子力発電、船舶推進用動力として蒸気のパワーは今も健在です。動力源として利用するだけでなく、水以外の流体を使って低温熱源を活用したり、原理を逆用して加えたエネルギーより多くの熱を生み出すヒートポンプが熱源に採用されたり、熱抵抗なしに一瞬で大量の熱を伝えられるヒートパイプで地熱を利用したり、蒸気機関の応用技術はなおも進化を遂げています。私が大学の蒸気工学研究室の扉を叩いた時、鉄道マニアであることを知った先輩に「いくら汽車好きでも蒸気機関車の研究はできないよ。」と釘を刺されました。学術的にはまだまだ興味深い現象があり、エネルギーの有効利用を求める時代の声に応えることができる分野だと思います。

                関西本線加太越え 1972年          鉄研富田さん撮影     

2023/03/28

2022-23冬の総括

  12月の始めになんとかカヌー格納庫の仮扉を取り付けたのを最後に、屋外作業は冬眠に入りました。この冬は例年に比べると冷え込みが厳しかった割に積雪が少なく、家に籠ってパソコンで指の運動をするのには都合が良かったと思います。このブログは待避線の記事ばかりでは面白くなかろうと途中からお断りを入れてお休みをいただきました。

 で、何をやっていたかと言うと、鹿部電鉄バージョンのキハ40000の設計に注力していたのでした。初めはTR27台車の外注製作部品図(車輪追加工、バネ座など旋盤加工図)だけ描けばこと足りるだろうと思っていたのですが、台車のバネ選定をしようとすると車体の重量計算が必要になりますし、そのためには車体の構造を決めなければならなくなり、台車と車体のバランスや乗降方法とか運転姿勢なども考え始めると全体構想までかなり詳細な材料や組立方法の検討が必要になってしまいました。

 台車については、妄想を始めた頃には旋盤加工部品以外は金鋸とヤスリで作るつもりでしたが、正確な切断や穴あけをすることにして新たな加工機械導入の検討をしました。レールの切断にも使えるチップソー切断機が通販なら1万円前後で入手できそうであることがわかり、性能(加工可能サイズ)やメーカーの選定をしました。切断面が正確できれいになるだけでなく、能率向上と肉体負荷の軽減が期待できます。またこれまで穴あけは鋼材も木材も電動ハンドドリルで済ませていましたが、卓上ボール盤を通販で購入することにしました。ボール盤を買うなら本格的なものをとずっと考えていながら価格が予算と折り合わなかったのでためらっていたのでした。台車の製作に限定すれば鋼材にφ13の穴あけが出来る小型機がやはり2万円前後で通販入手できそうで、それ以上の加工は今のところ思い当たらないもののそういう事態になったら外注することにしました。考えてみればよくここまでボール盤も持たずにやってきたものです。これらの設置場兼作業場を物置の一角に整備したら発注する予定です。

購入検討中の卓上ボール盤とチップソー  通販サイトから

 台車を設計する際に車体側の横梁の設置方法(取付位置や構造)をある程度決めなければならず、車体がデ1に比べて長くなる(2.53.4m)ことから台枠を木材ではなく鋼材(角型鋼管)にすることを検討しました。木材は経年変形が避けられないうえに3mを越えるとなると途中で継ぎ足す必要も出てきます。ただ、台車を取り付ける横梁も鋼製にして溶接構造にするか、組立式にするか、木製にするか、いろいろな長短を考えていて最終結論は出ていません。

 車体側板の構造は寝床に入ってから考えるのですが、これがまた楽しい悩みです。デ1と違って2段窓になっていることに加え、キハ特有の軽量設計に起因する窓枠の薄さやガラス面と窓枠の段差をどう表現するか、縦桟と横桟の接合方法や幕板、腰板と縦桟を面一にする方法、それらの強度保持方法、シル・ヘッダーの材料と取付、リベットの表現、なかなか寝付けない夜があります。16番の模型では2枚の0.3mmケント紙を切り抜いて貼り合わせるとそれらしくなりましたが、1/3スケールでは上に書いた色々な段差を表現することが可能になります。これぞ15インチゲージの特徴だと思うと手抜きできなくなってしまうのです。そんな繊細さは誰にもわからないかもしれない、けれどやはりそこは拘りたい自分だけの趣味の世界です。これが完成した時の喜びをいろいろ想像しているといつしか夢の世界に吸い込まれていきます。


2023/02/26

待避線(余談雑談) 庭園鉄道が紡ぐ円満家庭

  「衣食足りて礼節を知る」あらためて説明するまでもなく、生活に余裕があってこそ社会秩序が育まれるということわざです。基本的欲求が満たされて精神的なゆとりが生まれると人は寛容になり周囲と融和する、と言い換えられると思います。

 Gゲージや5インチゲージなどの庭園鉄道を建設した人のSNSを見ていると、家族特に奥さんに反対された、あるいは説得に苦労した、という記述がたくさん見受けられます。実際に険悪な関係になったと言うほどではないにしても一筋縄に行かない理由はいろいろあると思います。線路用地と家人の花壇、菜園が干渉する、通行や庭利用の邪魔になる、世間体が悪い、などが主なトラブルでしょう。世間体云々というのはお互いが家族になる前に解決しておかなければならない問題だと思いますが、まさかその時は庭園鉄道という発想がなかったのでしょうね。さて冒頭の「衣食」を「土地」あるいは「庭」に置き換えると庭園鉄道に関して家族との関係悪化が回避できそうなことは想像に難くありません。16番やNゲージのレイアウトでさえ設置場所を巡って争奪戦があるのですから、15インチゲージ何をか言わんやでしょう。もし将来自宅に庭園鉄道を敷く計画がある、いや夢を持っている、かも知れない、少しは考えておきたい、ならチョッと広めの敷地購入をお薦めします。建売や住宅付き土地を検討する場合は建物と隣地境界の間に1m幅の帯地があり、できるだけ大きな半径(5m以上)で建物の角を曲がれることを確認しておきましょう。

 敷地がとてつもなく広ければ線路用地と花壇菜園の土地争いが起こらないか、と言えばそれは断言できません。「衣食足りて」と言う通りなんでも余るほどあるとろくなことはありません。家族はお互いに分かち合うからその絆が強まるのであって、列車の巻き起こす風に揺らぐ花も畑を横切る線路も、これこそが我が家の光景だと思えば奪い合うという気持ちは起こらないはずです。上に書いた土地の条件を満たしたうえでどんなふうに線路を敷くか、どんな想定の鉄道にするか(トロッコ遊び、実物の再現、運転本位、子供を乗せる)などを考えると同時に、家族が庭をどう使うつもりなのかをよく話し合って理解することが肝要です。極端な話、枯山水の純日本庭園を赤青黄色の遊園地列車が走るのはいただけません。

 鹿部に移住してきた当初は義父母と同居していました(させていただいておりました)。それ以前からコツコツと庭石を入れたり芝生を張ったりしてありましたが、まだまだ手付かずで雑草や灌木が生えている所があり、そういう場所を開墾して線路を敷きました。庭に線路を敷くというとんでもないことを見て初めは驚いていましたが、「この家は駅前徒歩0分の一等地になるよ。」「今度医者に行く時は道路までトロッコで行こうね。」と話している内にそれが当たり前になりました。「北海道は遠いけどウチの自慢の線路を一度見に来てよ。」と親戚や知人に電話する有様でした。もちろんこんな土地を自由に使わせてもらえるありがたさに感謝を伝えることは怠りませんでしたが、何より線路やトロッコを作っている時の私の嬉しそうな顔を見るのが本人以上に嬉しかったと言っています。

 今我が家は二人とも年金受給者ですが、現役時代から夫は外で稼いでくるもの、子育て家事は妻の務め、と言った考えは絶対に持たないことにしていました。互いに得意なことは進んでするけれど、それを義務だとか役割と決めつけると不満の種になります。趣味の世界であっても境界線は引かないに越したことはありません。花壇作りの力仕事を頼まれた時は体力と時間の許す限りは引き受けて、色とりどりの花が咲いたら大いに愛で、畑からお芋が採れたら腕を振るって美味しくいただく、電車遊びを楽しんだらとびっきりの笑顔で喜びを表現する。それぞれにお客様が訪ねてきたら一緒におもてなしに加わる。共有する庭があるからこそ分かちあえるものが生まれるのだと思います。

 と言うのは鹿部電鉄での一つの実例で、明確な境界線を引いて相互不可侵の掟を堅持するもあり、最初から国境も敵国もない世界で生きていくのも有力な選択肢かとは思います。

2023/01/27

分岐器の雪対策

  冬だから寒いのは当たり前ですが、内地ではいつになく大雪に見舞われて各地(特に西日本)で分岐器の動作不良が発生したと、ニュース(2023126)で知りました。凍結したり雪が詰まったりその結果一部の機器が損傷したとのことでした。鹿部電鉄は雪国の鉄道なので対策は万全、と言いたいところですが実は転轍機を設置して初めての雪が降った12月初旬、転轍機を切り替えてもトングレールが途中までしか動かないという不具合に見舞われていました。

電車の留置状況     と      トングレールの様子
 分岐部は駐泊所風の建屋と留置した電車に覆われており、余程横殴りの吹雪でなければトングレールに雪が詰まることはありません。転轍機は屋根の外にあって雪に埋まると困るのでカバー(手箕)を被せていました。

転轍機の防雪対策
 何が手落ちだったかと言うと、転轍棒に繋がったL型ベルクランクは屋根の下にあるので気を抜いていたところに雪が吹き込んでいたのでした。融けた後再凍結して動作が不完全になっていました。この部分に板を被せて以降問題は発生していません。来シーズンまでには転轍機とL型ベルクランクを覆う正式な構造物を製作することにしました。

L型ベルクランクが凍結してトングレール動作不良発生
転轍機を動かしても伸縮筒のおかげで損傷は免れました

2023/01/13

待避線(余談雑談) 交通政策に思うこと

  -本稿は客観的データや詳細な調査にもとづいて考察した結果ではなく、個人的感想と想像(妄想)から私の鉄道に対する偏狭な愛と願望を述べたものです、その一部でも共感いただければ幸甚です-

鉄道以外に移動手段のない利用者にとって廃止は死活問題
 ご承知のように各地でJR路線の廃止が話題になっています。特に北海道では今後本線級の動脈が寸断されるおそれも報道されているようですが、「いつまでも自家用車の運転ができるわけではないので、鉄道の廃止は生存権のはく奪に等しい。」「バスに置き換えればいいと簡単に言うが、トイレのないバスはキハ40以下だ。」と特に高齢鉄っちゃんの私は考えます。廃止の最大の理由が採算であるとされていますが、鉄道の存廃を論じる時になぜ最初に採算の問題を持ち出すのでしょう。鉄道を維持する必要性の根拠の一因かもしれないけれど、どちらかというと最後の課題ではないかと思うのです。山中のぽつんと一軒家にも電力や道路の便が図られている今の時代、もしその建設や維持について採算が取れないという理由で切断、閉鎖してしまうことがあっても合理的だと許されるでしょうか。建設が続けられている幹線以外の高速道路の採算性は一体どうなっているのでしょうか。

動脈の維持活性化は国の政策として実施すべきだと思う
 JR地方線の存廃は国が総合的な交通政策として決めるべきであるのに、JRと自治体に維持財源を含めてその判断を委ねているのがそもそもおかしな話です。まず利用の低迷をはねかえす地域の活性化を促すのが本来の筋なのに、車両や施設の老朽化やそれに伴う保全不足を理由に間引きダイヤに始まる悪循環でますます利用しにくくなってしまっています。ここに至って不採算の穴埋めをせまった挙句、廃止ありきで自治体(=建前上住民の意思)に答えを出させる猿芝居のようなやり方です。高齢化や過疎化への対応が無策に等しい中でもっともらしい数値を見せつけて、あたかも住民が自ら最善の判断を下したかのような筋書きにする企みに思えてなりません。

 我が家の裏を走るJR函館本線は、数年後に新幹線が札幌まで延伸されると原則的に第三セクターに移管されることになっているようです。沿線自治体は赤字線を押し付けられたくないので、貨物を含めてこぞって第三セクターへの参入回避に動いています。この鉄道は日本の頸動脈ですから、そんな自治体の判断でもし廃止にでもなったら国全体の経済に及ぼす影響は計り知れません。例外的に国有鉄道として復活してはどうかと思うのですが、その節はもう他人事とは言わせない国土交通省直轄にしてほしいものです。

 スイスやドイツで見た山岳地方の鉄道は決して地元の利用者が多いわけではなく、厳しい立地への対策に費用は嵩むはずですが、居住者の生活を重視した手厚い政策に守られています。100年以上の昔に敷かれた線路をただ漫然と利用しているだけではなく、路線の規模に見合った観光客の誘致や雪に埋もれる冬季の移動手段を確保するという目的に沿い、官民が一体となった地域プロジェクトで資金を注いで車両や施設の近代化が行われています。持続可能な交通行政の根本は、利用者特に地元住民の足としての利便性を最優先課題として考えることにあると思います。

60年以上前に誕生した日本型インターアーバン
LRTを予言するかのような先進的電車だったが
今地下鉄に置き換えられて身を持て余している
          
京阪京津線80型1969年撮影
 廃止される鉄道の話題から一転して新しい鉄道の話をしたいと思います。新しい鉄道と言えば大都市の地下鉄やそこへ乗り入れる私鉄の新線が思い浮かばれますが、私はあまり興味がありません。むしろ地方のコンパクトな電車、具体的には宇都宮や富山の路面電車線の開業や各地の新線計画が気になります。「気になる」と言うのは手放しで喜ばしいという意味ではなくて、近年猫も杓子もLRT(Light rail transit)を看板に掲げていることが気がかりになっています。少し前まで看板はみんな新交通システムでした。それまでになかった新技術を取り入れた運行システムや車両開発をすることで助成金や建設費負担を得ることができ、自治体と企業がタッグを組んで都市交通の利便性を向上するプロジェクトが計画されているようです。LRTは文字通りなら軽軌道ですが、次世代路面電車とかお洒落な都市交通という意味合いが広がり、また確たる定義がないままLRV(Light rail vehicle)と混同されて超低床車や連接車のイメージも一人歩きしています。時として導入の是非が政争の具として使われたり、助成金が割に合わないとそれっきり計画が打ち切られたり、住民を主体と考えていない行政の姿勢が疑われることもあります。バスで輸送量が不足する路線を軌道化する、路面電車の速度向上を図る、あるいは既存の鉄道をスリム化するには超低床型LRTが最適だ、と画一的に結びつけるのはあまりに単純な発想です。そして流線型の超低床連接車こそLRTだという思い込みはすぐに改めるべきだと考えます。

超低床車でなくてもバリアフリーは可能
エレベーター付き地下道での踏切廃止や
速度向上、連結運転による輸送量増強で
路面電車はLRTに進化することができる
 超低床車でなくても車両の床とホームの段差をなくすことは可能です。路面を走る場合でも停留所の前の線路に車が入って来ると考える必要がないので、線路を少し沈めることで車両の床が下げられます。路面電車であっても交差点で車が横切る部分のみ併用軌道にし、それ以外はバリア付き専用軌道にすることで速度向上と建設保守費用の軽減が可能になります。車両は一般の鉄道よりコンパクトで軽量な従来型路面電車からステップを取り去ったような形状にすることで製造コストが低減できると考えます。つまり台車や車輪、駆動装置は従来の構造を踏襲すればよく、超低床化に伴う複雑で高価な構造を採る必要はありません。運転手は料金収受に関わらず、ホーム入口での
ICカードまたは料金投入によることで乗降時間の短縮(=スピードアップ)が図れます。セキュリティカメラを使えば信用乗車の徹底が期待できますし、乗降扉の配置や数、連結車両数の制約もなくなります。もうお分かりいただけるかと思いますが、荒川線や世田谷線みたいな中量輸送交通機関をもう少し大胆に進化させた新しい鉄道が行き詰った公共交通の救世主になりえると考えます。交差点や交通が輻輳する区間のみ地下や高架にしても地下鉄に比べると建設費は安上がりです。江ノ電や京阪石坂線は郊外型LRTの要素を取り入れることでさらに近代化を進められると思う一方、富士山五合目までの登山電車は既存のスバルライン上を走るとして路面電車スタイルが想定されているようですが、その必然性には疑問を感じます。宇都宮の詳しい事情は知りませんが、既存の路面区間に乗り入れるわけではなければ超低床車である必要はなく、車両に合わせた高いホームか低い線路を建設して対応すべきではなかったかと考えます。

 新技術開発と抱き合わせで膨大な予算を前提とする斬新でお洒落な超低床LRTの導入ではなく、すぐに使えて信頼性の高い従来技術で本当の意味で住民の足になる「ジェネリック鉄道」の実現が待ち望まれます。

2023/01/03

運転手の心遣い

蒸気機関車の運転席
         小樽市総合博物館C126

 電車に乗った時に運転手の所作を見たことがある人は、T字型のハンドルを手前に引けば電車が加速し奥に倒せば停車することぐらいなんとなくわかっていると思います。もしその人を蒸気機関車の機関士の席に着かせたとしても、一体どうしたら機関車が動くのかなんて想像もつかないでしょう。最新と最古の鉄道車両ではこれくらいの違いがあります。いや最新のものはボタンを押すだけで発車し次の駅で自動的に停車しますし、無人で走るものまであります。

 昭和の始めの電車「大沼電鉄デ1」はその中間的な存在で、運転するにはモーター音を聞きながら直接制御器のハンドルを少しずつ回して加速し、ブレーキハンドルを加減してショックがないように停車させなければなりません。ATSなんかありませんから前方の車両や障害物を目視し、勾配や曲線部を通過する際には制限速度以下に制御する必要があります。運転手は計器がなくても速度やモーターの電流、ブレーキの空気圧を体感で把握していて安全に動くように機器操作します。無理な運転をすると次にどんなことが起こるか、その限界までどれくらい余裕があるかなどを、勘を働かせて常に予測します。最新の電車は運転手に代わってコンピューターが安全かつ効率よく加減速するとともに色々な数値をモニター表示し、常に監視していて異常があれば警報を発します。運転手は何も考えずに座っているわけではなく、表示内容から列車運行が安定していることを把握すると同時に、センサーの目が届かない部分、前方や周囲の安全確保に余力を注ぎます。鉄道の運転に限らず、船舶や航空機の操縦方法を含めて世の中のほとんどの仕事の内容が時代とともに変わってきています。

 少し前にネットで「電車の運転が面白くない」という記事を見つけました。憧れの電車の運転手になって初めは嬉しかったけれど、何年も続けているうちに変化のない仕事に疑問を感じるようになった、という運転手の告白です。すべてがコンピューターによって落ち度なく操られるので工夫や技巧を差し挟む余地がなく、働いている時の自身の存在感、勤務を終えた後の達成感や満足感が得られない、というのです。安全で正確な輸送という本来の目的には叶ったものかもしれないけれど、それを担う人間の存在価値というか大げさに言うと尊厳がなくなってしまっているのかもしれません。かつて機械文明を皮肉ったチャップリンのモダンタイムスの再来のようにも思えます。

 それはさておき、YouTube5インチゲージや15インチゲージの動画を見ていると、実物同様VVVF方式の電車が幅を効かせています。中には外見は汽車なのに「プワーン プワーン」と特有の音を発して加速するものまであります。そんな時代に鹿部電鉄のデ1は抵抗制御の直流モーターで動いており、チョッと自慢の一台です。近代的な駆動方式のものと比べてこの電車の運転性能には少し違うところがあります、それは最新式に対して劣っている点でありながら、ある意味失ってしまった物の価値を思い起こさせてくれる貴重な教材であるとも言えるものです。例えばコントローラーハンドルを一段ずつ進めていくと電車は同じように加速していきます。ところが線路に勾配があったり付随車を連結していたりすると、抵抗制御の電車の加速は遅くなり到達速度も低くなるのに、VVVFでは負荷に関わらず常に同じ加速度でノッチ目盛りに応じた最終速度に到達できます。急カーブにさしかかるとデ1のモーターは唸りを立てて速度が低下しますが、負荷限界を越えない限りVVVFではあたかも速度計の針とハンドルが繋がっているかのように運転することができます。昔の運転手はその先に勾配やカーブがある場合は速度低下を先読みしてハンドル操作をしていたのでしょう。下り勾配での電制の効き具合や雨の日の車輪のスリップの回避、脱出術なども体得していないと対応できません。趣味の世界とは言え、ウチのデ1ではそんな不便な運転を実践することができるのです。

路面電車用台車でスキマがある箇所        
      旧福島交通保存車モハ1116
 旧型車が運転されている地方の路面電車などでは今でも体感できることですが、コントローラーの1ノッチが入った瞬間に「ドン」とか「ガン」という音が響いて足元をすくわれることがあります。駆動系の歯車や台車のペデスタル(軸箱守)などのスキマが大きくなっているところに、無負荷のモーターへ一気に電圧が加わることで機械的衝撃が発生するのです。近代的な電車では台車を始めとしてそういうスキマがない構造に設計されており、また電圧がソフトに上昇するようにプログラムされているのでほとんど気になることもありません。ウチのデ1の台車には構造的なスキマはありませんが、停車中に緩んでいたチェーンがピンと張る瞬間に「ドン」が発生します。ある日、鹿部電鉄を訪ねて来た電車の現役運転手さんがデ1のハンドルを握って「1ノッチ『ドン』だ!」と叫んだのでした。「抵抗制御の電車を久しぶりに運転した、本物だ、懐かしい。」と賞賛を頂きました。この衝撃音は今では確かに懐かしいかもしれませんが、本来乗客にとってはないほうがいいことは明らかです。まだ抵抗制御が主流だった頃、発車時のショックを少なくする裏技がありました。動画をご覧ください。

 ブレーキをかけた状態で1ノッチ投入してからブレーキを緩めると、シリンダーの空気圧が抜けていくことで車輪が回転し始めるので衝撃が少なくなるのですが、完全に静かに動き出すわけではありません。スキマの大きさやどの部分にスキマがあるかなどによってその効果が大きかったり全然効かなかったりしますし、ノッチ入とブレーキ緩のタイミングも微妙です。だからすべての運転手が常用するわけではなく、あくまでも必要に応じて繰り出す裏技だったようです。もうひとつの問題は、自動ブレーキ弁では残圧があったりハンドルがユルメ位置になかったりするとインターロックでマスコンが無効化されるようになっていることが多く、これは直接制御器と直通ブレーキの組み合わせ、つまり主に旧式の路面電車限定のテクニックということになります。多くの電車で「ドン」「ガン」が当たり前だった時代に、少しでも乗客に心地よく利用してもらおうという気遣いをしていた運転手がいたということです。他にも経験を積み重ねては色々な裏技や奥の手を心得ることでベテランと呼ばれる域に到達していったのでしょう。鹿部電鉄ではそんな古き良き時代の乗務員に思いを馳せながらデ1の運転を楽しんでいます。