2023/01/13

待避線(余談雑談) 交通政策に思うこと

  -本稿は客観的データや詳細な調査にもとづいて考察した結果ではなく、個人的感想と想像(妄想)から私の鉄道に対する偏狭な愛と願望を述べたものです、その一部でも共感いただければ幸甚です-

鉄道以外に移動手段のない利用者にとって廃止は死活問題
 ご承知のように各地でJR路線の廃止が話題になっています。特に北海道では今後本線級の動脈が寸断されるおそれも報道されているようですが、「いつまでも自家用車の運転ができるわけではないので、鉄道の廃止は生存権のはく奪に等しい。」「バスに置き換えればいいと簡単に言うが、トイレのないバスはキハ40以下だ。」と特に高齢鉄っちゃんの私は考えます。廃止の最大の理由が採算であるとされていますが、鉄道の存廃を論じる時になぜ最初に採算の問題を持ち出すのでしょう。鉄道を維持する必要性の根拠の一因かもしれないけれど、どちらかというと最後の課題ではないかと思うのです。山中のぽつんと一軒家にも電力や道路の便が図られている今の時代、もしその建設や維持について採算が取れないという理由で切断、閉鎖してしまうことがあっても合理的だと許されるでしょうか。建設が続けられている幹線以外の高速道路の採算性は一体どうなっているのでしょうか。

動脈の維持活性化は国の政策として実施すべきだと思う
 JR地方線の存廃は国が総合的な交通政策として決めるべきであるのに、JRと自治体に維持財源を含めてその判断を委ねているのがそもそもおかしな話です。まず利用の低迷をはねかえす地域の活性化を促すのが本来の筋なのに、車両や施設の老朽化やそれに伴う保全不足を理由に間引きダイヤに始まる悪循環でますます利用しにくくなってしまっています。ここに至って不採算の穴埋めをせまった挙句、廃止ありきで自治体(=建前上住民の意思)に答えを出させる猿芝居のようなやり方です。高齢化や過疎化への対応が無策に等しい中でもっともらしい数値を見せつけて、あたかも住民が自ら最善の判断を下したかのような筋書きにする企みに思えてなりません。

 我が家の裏を走るJR函館本線は、数年後に新幹線が札幌まで延伸されると原則的に第三セクターに移管されることになっているようです。沿線自治体は赤字線を押し付けられたくないので、貨物を含めてこぞって第三セクターへの参入回避に動いています。この鉄道は日本の頸動脈ですから、そんな自治体の判断でもし廃止にでもなったら国全体の経済に及ぼす影響は計り知れません。例外的に国有鉄道として復活してはどうかと思うのですが、その節はもう他人事とは言わせない国土交通省直轄にしてほしいものです。

 スイスやドイツで見た山岳地方の鉄道は決して地元の利用者が多いわけではなく、厳しい立地への対策に費用は嵩むはずですが、居住者の生活を重視した手厚い政策に守られています。100年以上の昔に敷かれた線路をただ漫然と利用しているだけではなく、路線の規模に見合った観光客の誘致や雪に埋もれる冬季の移動手段を確保するという目的に沿い、官民が一体となった地域プロジェクトで資金を注いで車両や施設の近代化が行われています。持続可能な交通行政の根本は、利用者特に地元住民の足としての利便性を最優先課題として考えることにあると思います。

60年以上前に誕生した日本型インターアーバン
LRTを予言するかのような先進的電車だったが
今地下鉄に置き換えられて身を持て余している
          
京阪京津線80型1969年撮影
 廃止される鉄道の話題から一転して新しい鉄道の話をしたいと思います。新しい鉄道と言えば大都市の地下鉄やそこへ乗り入れる私鉄の新線が思い浮かばれますが、私はあまり興味がありません。むしろ地方のコンパクトな電車、具体的には宇都宮や富山の路面電車線の開業や各地の新線計画が気になります。「気になる」と言うのは手放しで喜ばしいという意味ではなくて、近年猫も杓子もLRT(Light rail transit)を看板に掲げていることが気がかりになっています。少し前まで看板はみんな新交通システムでした。それまでになかった新技術を取り入れた運行システムや車両開発をすることで助成金や建設費負担を得ることができ、自治体と企業がタッグを組んで都市交通の利便性を向上するプロジェクトが計画されているようです。LRTは文字通りなら軽軌道ですが、次世代路面電車とかお洒落な都市交通という意味合いが広がり、また確たる定義がないままLRV(Light rail vehicle)と混同されて超低床車や連接車のイメージも一人歩きしています。時として導入の是非が政争の具として使われたり、助成金が割に合わないとそれっきり計画が打ち切られたり、住民を主体と考えていない行政の姿勢が疑われることもあります。バスで輸送量が不足する路線を軌道化する、路面電車の速度向上を図る、あるいは既存の鉄道をスリム化するには超低床型LRTが最適だ、と画一的に結びつけるのはあまりに単純な発想です。そして流線型の超低床連接車こそLRTだという思い込みはすぐに改めるべきだと考えます。

超低床車でなくてもバリアフリーは可能
エレベーター付き地下道での踏切廃止や
速度向上、連結運転による輸送量増強で
路面電車はLRTに進化することができる
 超低床車でなくても車両の床とホームの段差をなくすことは可能です。路面を走る場合でも停留所の前の線路に車が入って来ると考える必要がないので、線路を少し沈めることで車両の床が下げられます。路面電車であっても交差点で車が横切る部分のみ併用軌道にし、それ以外はバリア付き専用軌道にすることで速度向上と建設保守費用の軽減が可能になります。車両は一般の鉄道よりコンパクトで軽量な従来型路面電車からステップを取り去ったような形状にすることで製造コストが低減できると考えます。つまり台車や車輪、駆動装置は従来の構造を踏襲すればよく、超低床化に伴う複雑で高価な構造を採る必要はありません。運転手は料金収受に関わらず、ホーム入口での
ICカードまたは料金投入によることで乗降時間の短縮(=スピードアップ)が図れます。セキュリティカメラを使えば信用乗車の徹底が期待できますし、乗降扉の配置や数、連結車両数の制約もなくなります。もうお分かりいただけるかと思いますが、荒川線や世田谷線みたいな中量輸送交通機関をもう少し大胆に進化させた新しい鉄道が行き詰った公共交通の救世主になりえると考えます。交差点や交通が輻輳する区間のみ地下や高架にしても地下鉄に比べると建設費は安上がりです。江ノ電や京阪石坂線は郊外型LRTの要素を取り入れることでさらに近代化を進められると思う一方、富士山五合目までの登山電車は既存のスバルライン上を走るとして路面電車スタイルが想定されているようですが、その必然性には疑問を感じます。宇都宮の詳しい事情は知りませんが、既存の路面区間に乗り入れるわけではなければ超低床車である必要はなく、車両に合わせた高いホームか低い線路を建設して対応すべきではなかったかと考えます。

 新技術開発と抱き合わせで膨大な予算を前提とする斬新でお洒落な超低床LRTの導入ではなく、すぐに使えて信頼性の高い従来技術で本当の意味で住民の足になる「ジェネリック鉄道」の実現が待ち望まれます。

2 件のコメント:

  1. 昨年コメントした「さいだいちすのすけ」です。今回のローカル線とLRTのお話興味深く拝読いたしました。ローカル線問題については交通系YouTuberの方も取り上げていてそちらもいくつか拝見しています。鹿部電鉄さんは昔ヨーロッパの鉄道を実際にご覧になっているのでなおさら日本の現状がもどかしく感じられていると思います。近年のCOVID-19の影響でヨーロッパの鉄道も危機に瀕しましたが、専門誌の記事を見るとヨーロッパでは鉄道をライフラインと同じ主要インフラと捉え、国や行政が公的資金を投入して鉄道運行を維持していた、ということでした。日本は残念ながら今だにアメリカ式の車社会の習慣が続き、道路にはいくらでも税金を投入しても鉄道路線の維持は会社や自治体でやれ、という考え方ですから最初からフェアではありません。公的資金の投入を決めたとしても、防衛費増額よりは国民の理解は得られやすいのではないでしょうか。また私たち鉄道が好きで詳しい人達でも、「赤字のローカル線の廃止は仕方ない」と国鉄時代から廃止されることに慣れてしまって異論が出てきませんし、車両やダイヤへの興味はあっても鉄道運営に無関心なのも原因かと思います。
    後半のLRTについても、昨年富山に行って実際見たり乗ったりしてきました。富山港線は全線LRTの運行ですが、専用軌道区間では都電同様に地面より若干高めのホームを設置しながらスロープによってアクセスが容易であって、実際ベビーカーを押すお母さんや高齢者の利用が目立ちました。もともとの市内線区間には従来型の車両も通っていますが、市内線停留所から従来型に乗るのは少々大変で、停留所のバリアフリー化は必要だと感じました。しかし富山の電車は路線系統やダイヤなど大変使いやすく、交通系ICカードも富山ローカルだけでなく全国のものにも対応しているため乗降もスムーズで運転士の負担も軽減されていると感じました。
    これらについてはリンクになっていると思いますが、私のブログにも書いております。
    長文失礼いたしました。今年もよろしくお願いいたします。


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  2. さいだいちつのすけ様
    コメントありがとうございます。また私の考えの一部でもご理解いただけたとしたら感謝申し上げます。少なくとも我が家の周辺では利用者を含めて住民や自治体から鉄道存続を求める動きはないどころか、バスになった方が便利になるという声さえ聞こえて来ます。まさにおっしゃるように車社会の習慣が身についてしまっているのですが、その拠って来るところは長年にわたる国の交通政策とJR(国鉄時代から)の無気力無策にあったと思います。
    新しい都市交通も本当に利便性を重視したものがタイムリーに実現されるべきなのに、新技術や目新しいものに助成金(開発費、建設費負担)が動く結果、話題だけが先行してなかなか具体化できない問題があるようです。富山港線は市内線と直通運転するので超低床LRTを選択したことは正解だったと思います。

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