2021/03/24

駆動部と制御器の設計・製作

  入手した直流モーターおよび電源となるバッテリーの実験と、駆動部および制御器の設計・製作は車体製作に先行して、あるいは並行して行っていました。雨対策を考えると屋根のない車体に電装品を取り付けるわけにもいかず、車体と仮屋根の完成を待っていたわけです。

直接制御器 仙台市電保存館
 実物の路面電車の直接制御では、2個のモーターを直列接続した状態で、3段の直列抵抗と抵抗なし1段の計4段、さらにモーターを並列に接続しなおして同様の4段、合計8段のノッチが刻まれます。さらに「断」位置から逆方向に電制が68段あります。庭園鉄道では走行距離や最高速度の関係からせいぜい力行4段程度が適していると思われます。もっともモーターが1個なので直並切り替えできません。制御装置は、最終的には直接制御器の実物をスケールダウンしたものを製作したいと思っているので、とりあえずの運転試験ができるようなスイッチや計器をアルミ製のシャーシに取り付けることにしました。先にも書いたように感電防止を最優先して密封構造にします。スイッチや計器は手持ち品に加え日本橋のパーツ屋であらかじめ購入していました。設計を進めるうちに必要となった部品は通販を利用しました。僻地にいても特殊な品物が数日で手に入れられる、便利になったものです。それでいて東京や大阪に出た時のジャンク屋漁りは楽しくて、使いもしない余計なものをつい買ってしまいます。

配線作業中の制御器
 制御器には、ブレーカー、逆転スイッチ、電圧計、電流計、そして速度制御用のロータリスイッチを取り付けられるように設計しました。手持ちのロータリスイッチが「切」を含めて3ポジションなので、突入電流を抑える抵抗を直列に入れる「起動」位置と抵抗をパスする「運転」位置の2段のみとしました。30m足らずの線路を往復するだけなら当面は2段で済むだろうとの予測ですが、もし段数を増や
制御器回路図
す必要があるようなら多段のロータリスイッチを通販で購入すればいいかと楽観的に考えての判断です。抵抗器は被覆(外皮絶縁体)の種類や抵抗値、容量(W)など何種類も用意してあったのですが、この度実際に使うのはそのうちの1個だけ、とりあえず40Ωを取り付けて加速や発熱の様子を観察し、最終モデル設計の参考にします。なお電流(電圧)の制御は電機子側のみで、界磁はブレーカー投入と同時に常時電源電圧が印加されるようになっています。運転しないときは「切り忘れ注意」です。実は運転し
40Ω抵抗器
た後ブレーカーを切り忘れて一晩放置、翌朝バッテリーが完全放電して電圧0Vになっているのを発見!この時は無事復活しましたが、致命傷になる確率が高いそうなので以後ブレーカー確認は必ず
行うようにしています。

 駆動部は、40Wの交流可変速モーターを取り外して大型直流モーターが取り付けられるように、フランジの一部を削り取ったり固定用金具を製作したり、さらに中間軸のレイアウトを変更しました。軸径や軸間距離が変わるのでスプロケットやチェーンも交換して台枠に取り付けました。

制御器とブレーキ
 「起動」時の突入電流は問題なく、「運転」位置に切り替えた時の電流やショックも懸念したほどではありませんでした。もう一つわかったことがありました。電機子だけオフで界磁電流を流したまま惰行するのと、界磁もオフで惰行するのとでは減速加減に差はほとんど感じられませんでした。つまり永久磁石界磁型モーターを使用しても小さな模型のようにノッチオフしたとたんに急減速してしまう心配はないだろうということが想像できました。重い車体の慣性力は模型に比べるとはるかに大きいこと、一方で実物と比べるとほぼ一定速度で惰行が続くということはなく停止までの距離はやはり短いこと、を実感しました。
 箱型車体の運転台に乗り込んでスイッチを回すと駆動系の唸りがだんだん大きくなり、身体全体で加速感が味わえます。これはパソコンのシミュレータではなく、本当に自分が乗って電車を動かしているのです。もうトロッコ遊びも卒業です。「僕は電車の運転手だーっ!」



2021/03/20

直流モーターと電源

  結局駆動部の実証実験の結果は、もっとパワフルな直流モーターが必要との結論になりました。懲りずに秋葉原や日本橋のジャンク屋でガラクタ漁りもしましたが、希望に叶うモーター探しは徒労に終わりました。そんな折、「中古の直流直巻モーターがある」との耳より情報を得ました。仕様を聞いたところDC100V200Wとのことですが詳細は不明、必要なら送ると言ってくれました。DC100Vというのが気になりますが、日本橋のパーツ屋で整流用ブリッジダイオードを買っていたのでAC電源を利用して実験くらいはできるだろうと思い、送ってもらうことにしました。

直流モーター
 我が家には重量物の配達がよくあるのですが、その日も宅配のお兄さんが「重いですよ。」と言いながら段ボール箱を置いて行きました。すぐに箱を開けると緩衝材の中にねずみ色の物体が横たわっていました。目方は約20kg200Wの割に図体がバカでかい、「えらいモンを受け取ってしもうた。」と少し後悔しながら、さらに観察を続けました。図面が同梱されていて、寸法の他、諸元や簡単な配線接続(電線の色表示)が描いてありました。テスターを当ててショートしていないか、手で回した時に異音がしないかなどを調べたうえで、12Vの中古バッテリーに接続すると静かに回り始めました。定格100Vに対して12Vですから指で軸をつかむと止まってしまうくらいでしたが、壊れて使い物にならないわけではなさそうでした。DC100Vを得るには、AC100Vを整流してDC化するのが最も簡単で、車載するにはバッテリーのDC12VからインバーターでAC100Vに変換することができます。いずれにしてもDC化すると実効値が70Vくらいになってしまうという問題が残ります。
 直巻モーターと聞いていましたが、界磁と電機子のそれぞれに電線が接続されていて、結線の仕方で直巻あるいは分巻のいずれでも使用できそうです。図面には電圧や電流値が書いてあるのですが、条件やどの部位の数値なのか不明なのでさっぱり参考になりません。結局、テスターや電流計などをつないで測定しながらこのモーターの素性を調べたり、さらに鉄研の電気・電子工学系の後輩に相談を持ちかけたりして有用なアドバイスをもらうことができました。当初の狙い通り直巻モーターとして接続すると界磁の抵抗値が大きいために電機子の電圧・電流が制限されて充分な出力が期待できないことがわかりました。結局、界磁と電機子にそれぞれ電圧を加えて分巻モーターとして使用するのが最も効率の良い使用方法であり、そうすることによって電源電圧DC100V200W程度の出力が得られるだろう、との結論に達しました。ただ電車の動力源として適しているか、つまり直巻モーターに期待していた加速ができるかは、そこから発する音響も含めて、実際にこのモーターに適合する駆動部を設計製作して確認することにしました。

Ni-MHバッテリー
 その過程で「用済みではあるが充分使用可能なバッテリーがあるので譲ってもよい。」との申し出を受けました。そのバッテリーはニッケル水素電池というコンパクトながら高性能で、単3乾電池と同じくらいの大きさのものを10個直列接続して定格電圧が12Vとなるようにユニット化されているものでした。これを6ユニット直列接続すると72V8ユニットでは96Vとなり、定格電流は3A、突入電流は5A程度まで取れると言うことで、モーターのテスト結果に照らしても余裕をもって使用できそうであることがわかりました。バッテリーが放電したらそっくり入れ替えることができるように予備を含めて16ユニット分けてもらえることになりました。併せて専用の充電器も用意してもらい、もう感謝感激です。

 唯一の懸念は、DC96Vはもとより72Vでも危険電圧であり、直接触れることがあると生命の危機を招く恐れがあることです。端子や電線被覆のない部分の露出は絶対に許されません。メンテナンスや故障の際でも感電が起こらないような構造にしなければなりません。駆動部と制御装置の設計ではこのことを念頭に置いて作業することにしました。また1/3スケールでは架線に手が届くため架線集電はあきらめざるを得ません。

2021/03/11

木造車体の組立

  材料を使用部位ごとに並べ、凹凸のはめ込み具合を確かめ、不都合のある部分は予備材を充当して、すべての材料が揃っていることを確認してから組立を始めました。腰板の上下の裏側から補強材を木ねじで固定しますが、表側からもその都度不揃いがないかチェックしながら作業を進めます。妻板は1000Rに加工した補強材に取り付けるため、表側から木ねじを入れます。深めの皿モミにしてねじ頭を少し沈ませ、塗装前にパテで埋めて表面仕上げします。もしも妻板を分解するなら塗装とパテを剥がす必要があるということになります。ホームセンターではステンレス木ねじのサイズが限られているので、ねじ専門店の通販で適切なものを大量に取り寄せました。


組立てた側板


組立てた妻板
 組み立てられた妻板はすでに台枠に固定されている構体(枠組)の隅柱に木ねじで取り付けました。やはりネジは表側からしか入らないので、容易に取り外しができないことは容認せざるを得ません。

 一方で側板は、下部に固定した山形鋼(Lアングル)を台枠に引っ掛けて木ねじで固定し、上部は構体の側梁に表側から長めの木ねじで固定します。この部分は最上部で雨樋に隠れるので埋め込み処理は不要です。したがって狭い車内での駆動部の取り付けや修理といった作業時には側板が簡単に取り外せます。またこの後で側板に窓枠などを内側から取り付ける際も広い場所で作業することができます。

側板と妻板を車体枠組に取り付けた状態
 まだ青天井で、車体が雨で濡れないようにシートを掛けても、真ん中に水が溜まってびしょ濡れになってしまいます。そこで発泡スチロール板を買って来て仮の屋根を付けました。定尺の1.8mで少し足りない前後部分は板で塞ぎ、風が吹いた時に軽い屋根が飛んで行ってしまわないように、ガムテープで固定しました。なんか掘っ立て小屋みたいですが、少しは電車らしくなりました。仮とは言え屋根がついて車内への雨の侵入がなくなるので駆動部や制御器が取り付けられるようになりました。
スチロール製仮屋根を取り付け

2021/03/06

待避線(余談・雑談) 木工機械の話

  ノコギリやカンナは機械ではなく、工具の部類です。DIYで木工をしている人が使う電動ドリルや電動丸鋸もやはり電動工具と呼ばれます。それでは木工を生業にしている人たちはどんな機械を使っているのでしょうか。またそれらはDIYで使う電動工具とどう違うのでしょうか?

 電車の車体作りでお世話になった長沢さんの工房には家具などの木工製品製作に必要な本格的機械が複数備えられています。車体部品の製作に際し、加工に立ち会うことで今まで知らなかった木工に関する知識を得ることができました。奥の深い世界ですが、その一部を紹介します。大きく分けて「切る機械」と「削る機械」があります。切る機械はノコギリ、削る機械はカンナを、電気(AC200V)で動かして正確な加工ができるようにしてあります。

帯鋸盤
 まず機械には対応できるサイズに制限があるため、材料が大きい場合は最終形状に近い大きさに切り出します。例えば大きな丸太や角材から板を切出す場合に使うのが帯鋸盤です。帯状の鋸刃が上から下へと走るので、鋸刃と平行に固定された当て板に沿わせて材料を押すと板が切り出せます。誤差や仕上げ代を考慮して少し厚目にしておきます。

手押しカンナ盤
 帯鋸で切断した表面は比較的粗く、材料が大きい場合は平面度もあまり期待できないので、手押しカンナ盤で表面の仕上げを行います。長いベッドの中央に回転刃があり、材料をベッドに押し付けながら前方に滑らせて何回か削るうちに完全な平滑面になります。ベッドが大きい分手持ちの電動カンナより格段に精度よい平面に加工できます。次にこの加工した面をベッドと直角に調節された当て板に押し付けて側面が平滑になるまで削ると、互いに直角の2つの基準面が形成されます。

自動カンナ盤
 次は自動カンナ盤です。基準面を下にして材料を投入すると自動的に送り込まれ、予め設定した板厚になるように上面が回転刃で仕上げられます。削り代には限界があるので材料が厚い場合は何回かに分けて板厚設定する必要があります。これで3面の仕上げが終わることになります。最後の面もこの機械で仕上げることができますが、幅に比べて板厚が小さい場合は不安定になるので次の丸鋸盤で切ります。

丸鋸盤
 丸鋸盤は、大きなベッドの下から電動丸鋸の刃が出たような形で、鋳鉄製のベッドには鋸刃と平行に溝が切られています。溝の中を滑る金具と一緒に動く治具に材料を押し付けるかクランプなどで固定することで正確な幅や長さに切断ができます。丸鋸盤は切断だけではなく、ベッドから出た鋸刃の高さを小さくする(ベッドを高くする)ことで、溝やほぞの加工ができます。羽目板をつなぐ凹凸溝もこれを使って加工しました。

 いずれの機械も大きな材料の加工ができるように大電力モーターを使用して刃が高速回転しています。使用に際しては重大な危険が伴うので、上手く加工する知識や技術以上に危険を回避する対策やその仕組みを理解すること、さらにそれらの点検確認に費やす時間を持つ心の余裕が必要です。

木工用角ノミ盤
 これ以外に角ノミ盤という便利な機械があり、ほぞ穴などの四角い穴をあけることができます。ドリルを囲むように4面のノミが取り付けられていて、ボール盤と同じようにハンドルを回すと丸い穴の周りが四角に仕上げられます。手ノミと違って互いの刃が直角に仕上げられており、必ず鉛直方向に動くので正確な角穴が加工できます。

 これらの機械が手持ちの電動工具と大きく違うのは、いずれも刃面と平行あるいは直角に調整された大きなベッドあるいはガイド(当て板)が装備されていることです。これにより、まず基準面を削り出し、順次正確な平面を形成することができるわけです。ホームセンターの木材売り場でカットサービスがある場合、特に大きな(長い)面を正確に加工するにはお金を払ってでも利用する価値があると思います。

2021/03/05

電車の木造車体

  いよいよ車体製作に取りかかります。無蓋車と電車の台枠は以前にも書いたように自分で切り出して組立てましたが、結果は散々でした。手持ちの電動丸鋸では直角度や直線度さらに寸法精度が充分に確保できません。道具だけのせいではなく、技量の不足が根本原因です。ここは我が家の斜向かいに家具工房「わ」を構える長沢さんにお願いし、信頼の手練で専用の機械を使って正確な寸法に切り出してもらうしかないと判断しました。ただこれは自分勝手な判断で先方の仕事の段取りもあるし、機械の種類、サイズ、性能によって希望通りの加工が可能か、費用はどのくらい見込めばいいのかなど、不安があったのでまずは相談に行きました。

 以前からいずれ電車を作る時にはお手伝いをしてほしいと頼んでいたので、待ってましたとばかりに色々なアドバイスをもらうことができました。木工用機械を使うと「ほぞ組み」をはじめ色々な形状を生かした構造を精度よく加工することができるようです。単に突き合わせたり重ね合わせて釘やネジで組み立てるのとは違って、強度や耐久性を向上させることができることは容易に理解できます。ただ私には木工の専門知識がないので、こういう組み合わせならどんな構造が良いかということについてはその都度教えてもらうことにしました。

木造車体枠組

 車体の構造については、台枠の上に四隅の柱を立て、それに側梁、妻梁を固定して構体(枠組み)を構成し、妻板、側板を張付け、屋根を被せることにしました。これらの部材同士の接合には接着剤を使わずに木ねじで結合することとし、必要な場合に分解ができるようにします。ステンレス製木ねじは、コストはかさみますが年月を経過しても取り外し、再利用が可能という利点があり、鉄製木ねじは一切使用しないことにしています。こうすることで必要な部分のみ取り外して改造や修理を行うことができますし、例えば万が一脱線や衝突事故で車体が損傷したような場合でも、関連部位のみの再製作で修復ができることを期待しているわけです。

車体組立

敷居を走る西武電車

 概略の構造と寸法を説明し、加工をしてもらえる日程に合わせて部品の図面を描いて持って行くことにしました。「家具の製作も原価で請け負っているので、材料持ち込みなら費用はいらない。」と頑なに言われました。ただし条件があって、「孫が遊びに来たときは電車に乗せてやってほしい。」とのこと。当時2歳ながら、きかんしゃトーマスと西武電車をこよなく愛する鉄ちゃん予備軍だそうです。この年の冬、手慰みに作った、敷居を走る西武電車をお礼代わりにプレゼントさせてもらいしました。

 持参した妻梁と隅柱の図面を下に示します。ほぞとほぞ穴の寸法は14×20とだけ記してあります。金属加工図面の場合、例えば穴側はこれだけ大きめに加工しなさいという数値が書き込まれていなければなりません。必ずそうなっていないと穴と軸は嵌め合わないからですが、木は多少伸び縮みがあるので少し無理して入れた方がしっくり納まるのです。しっくり度合いは木の材質や使用目的によって加工しながら職人が決めるので数値では表せない微妙なもののようです。実際仕上がったほぞをほぞ穴に入れようとしたところ、堅くて入りそうになかったのですが、長沢さんが木槌を取り出してコンコンと叩くと先端が少し嵌りました。「家に帰ってから底が突くまで叩き込めばいい。」と、ここは少しきつめに仕上げてあるそうです。持ち帰った部材は、ほぞの部分を除いて油性ペイントで塗装(ハケ塗り)し、乾燥してから組み立てながら台枠に取り付けました。

ほぞ             と      ほぞ穴    

 しばらくしてから今度は妻板と側板の図面を持って行きました。木造電車の腰板の線を表現するために16番の模型なら1mmくらいの間隔で切り込みを入れたりエッチングで掘り込むところを、実物同様に羽目板を貼り付ける構造にします。実物の羽目板の幅は一般的には60100mmくらいで、1/3にすると2030mm余りというところですが、大沼電鉄の古い写真からは読み取れませんでした。幅は広い方が製作するのが楽なのですこし広めの40mmにしました。単純に平らな板を貼り付けると隙間ができて光や水が漏れるので、隣り合わせの板の凹凸を嵌め合わせて一枚板に仕上げる構造にしたいと思っていました。これも実物と同じ工法ですが、思ったように簡単にできることなのか私には想像できませんでした。相談してみると、木工では特別なことではなく、せっかく木造電車を作るのならそうした方がいいとのことでした。凹凸の幅も細かい寸法は任せました。ただこちらは嵌め合わせる部分が長くなり、板の反り方によっては固くなって入らないことがあるのでやや緩めにしてあるようです。実際加工後に乾燥や内部に節があって変形するものがあり、12割増しの数量で予備を作っておかないと部材が足りなくなることがあります。羽目板は、ステップ(戸袋)の部分は長く、窓柱部は腰板から幕板まで通しになるし、窓や扉の部分は凹凸がないように加工しなければなりません。必要な寸法のものを必要な数量だけ製作するのですが、変形などで使用できない場合は臨機応変に転用できるよう工夫が必要でした。

側板の腰羽目板 基本形(上)とバリエーション(下)

加工が終わった羽目板
 長さや形状の違いで16種類、総計146枚に及ぶ羽目板や幕板を、私が図面を見ながら寸法と形状の指示を出し、長沢さんにはひたすら加工に専念してもらい、その後補強材などを含めると延べ10日くらいお世話になりました。すべての材料が揃った時にはぐったり疲れました。

2021/02/22

待避線(余談・雑談) モーターの話

  電気エネルギーを動力に変換するのがモーター(電動機)ですが、その種類は多岐にわたります。電源、原理、構造、目的など分類の方法がそもそもいっぱいあって一口で言いきれません。それは専門書に任せるとして、従来から鉄道車両の駆動に使用されてきたのは直流直巻モーターで、近年VVVF方式になって主流は交流誘導モーターに取って代わられました。いずれにも共通の特徴は低速(起動)時のトルク(回転力)が大きいことです。世の中にモーターで動かしている機械はたくさんありますが、その多くはほぼ一定の回転数で使われています(例:送風機、ポンプ等)。そういう目的に適しているのが交流誘導モーターで、構造が簡単で頑丈なうえに電源の周波数に見合った回転数で効率よく動きます。一方で低速から大きな負荷を抱えながら最高速まで自由に速度を変えることができるのが直流モーターの特徴です。特に界磁(固定子)と電機子(回転子)を直列接続した直巻モーターは起動時に最大トルクを発生するので鉄道で重宝されて来ました。

 直流直巻モーターのトルク(引張力)特性を図(左)に示します。速度とトルクは反比例の関係にあって、速度が0の時に最高のトルクが得られます。その代り消費電流も最大になるので、実際には過電流にならない程度に抵抗器をつないで抑制します。ある程度速度が上がると電流が減る(トルクも減る)ので一部の抵抗を短絡するとまた電流とトルクが増えます。これを繰り返すことで徐々に加速することができるわけです。この抵抗器を順に短絡して行く過程は、運転台の大きな直接制御器を回すことで接点を切り替えるか、主幹制御器(マスコン)で床下の接点を遠隔操作することで達成できます。VVVF時代への過渡期には抵抗値を変える代わりに大容量半導体を用いたチョッパ制御が用いられました。

直流直巻モーターと交流誘導モーターの特性
 一方で交流誘導モーターの出力特性を図(右)に示します。直流モーターとは全然違う特性で、電源周波数で決まる最大速度より少し低いところで最大トルクが発生します。ここで使用するのが効率的なので一定速度の場合は安定した出力になりますがその用途は限定されていました。1970年代になって大容量半導体の開発やコンピューター制御技術の発達に伴って電源電圧と周波数が容易に変えられる(VVVF)ようになったことから、交流誘導モーターの速度制御方式が導入されて現在に至っています。モーターそのものも特化改良されています(誘導モーター→同期モーター)が、本来の交流モーターの特性というより、複雑なプログラムによる電源制御法と融合したシステムが鉄道車両に適した駆動技術として確立されたと言えます。減速も同じ理屈で最高速から停車までほとんどブレーキシューに頼ることなくエネルギーを回収することが可能になっています。ところでVVVF特有の「プワーン、プワーン、プワーン」という唸り音は、低速域で大トルクを発生させるために界磁極数を多くしていたのが加速に伴って減極することで変調するように聞こえるものです。マニュアルミッションの自動車やバイクが変速ギアを切り替えるたびにエンジン音が低くなるのと同じ理屈です。

 近年15インチゲージや5インチゲージの電車でもVVVF方式を採用していて、特有の音を楽しみながら運転されている様子がネットで見られます。適当な出力のインバーターやモーターの汎用品も市販されているので、少しばかり電気の知識があれば工夫して趣味の幅を広げることができるでしょう。

 鹿部電鉄では昭和の始めの電車を走らせるので「プワーン、プワーン」は似合いません。やはり直流直巻モーターを釣掛式に架装した加速音を楽しみたいものです。ところが直流直巻モーターは、電気工学の教科書に「鉄道車両用に適している」と書いてあるように、世の中では鉄道やクレーン以外の用途には使用されていないらしく、ネットで探しても市販の汎用品を見つけることはできませんでした。数kW程度までのモーターでは高性能の小型マグネットを界磁に使用した永久磁石界磁型が主流のようです。Nゲージや16番で一般的に使われているあのタイプですが、電源を切るとすぐに止まってしまうイメージがぬぐい切れません。卓上模型に比べると車両の重量がけた違いに大きいのでそんなことはないと想像できなくもないのですが、ノッチオフでギアが遊ぶ音(「グワワ~ン」)を発しながら惰行する雰囲気を楽しむには、巻線界磁型しかないと思うのです。懐古趣味の爺さんの頑固なこだわりです。

2021/02/16

豪雪と闘う鉄道員

 2016年は119日に積雪があり、庭に置いたバケツが凍結しました。12月に入ると早くも家の前の道路でスキーが楽しめるようになり、寒い冬の予感がしました。このシーズンは何度か爆弾低気圧が接近・通過し、雪の置き土産を残して行きました。日夜降り続いて雪掻きができなかったり、せっかく掻いても数時間後にはまた埋まってしまったりというようなことがあり、一晩のうちにドカ雪が積ってガレージ前、庭の通路、線路と全部の雪掻きを終えるまで半日以上かかることもありました。これを雪国の住人に課せられた無益の労働と考えると辛いだけですが、気は持ちようで鉄っちゃんならではの除雪を楽しむこともできます。

キマロキ Wikipediaより

 豪雪地帯の鉄路を力強く守る「キマロキ」をご存知でしょうか?機関車()+マックレー車()+ロータリー車()+機関車()が協調して線路脇の雪壁を崩しながら遠方に排雪する鉄機甲軍団です。右の写真の先頭が牽引機関車です。その炭水車の後に控えるのがマックレー車、赤く見える翼を逆八の字に広げて線路脇の雪を掻き集めます。それを次のロータリー車が遠方に吹き飛ばし、また機関車(補機)があと押しして隊列を締めくくります。鹿部電鉄には強力機関車がないので人間の手でキマロキを演じます。除雪が終わったら線路の両側に新たな雪の壁を築き、黒部ならぬ鹿部アルペンルートを作って楽しみます。


雪明りの夕暮れ
 当然ですが、ただ静かに冷え込む日もあります。そんな時、氷のランプシェードを線路脇に並べて冬の夕暮れを光で飾ります。せっかくの演出も北国では日が暮れると出歩く人はおらず、誰の目にも留まることなくローソクの火ははかなく消えていきます。