2021/03/06

待避線(余談・雑談) 木工機械の話

  ノコギリやカンナは機械ではなく、工具の部類です。DIYで木工をしている人が使う電動ドリルや電動丸鋸もやはり電動工具と呼ばれます。それでは木工を生業にしている人たちはどんな機械を使っているのでしょうか。またそれらはDIYで使う電動工具とどう違うのでしょうか?

 電車の車体作りでお世話になった長沢さんの工房には家具などの木工製品製作に必要な本格的機械が複数備えられています。車体部品の製作に際し、加工に立ち会うことで今まで知らなかった木工に関する知識を得ることができました。奥の深い世界ですが、その一部を紹介します。大きく分けて「切る機械」と「削る機械」があります。切る機械はノコギリ、削る機械はカンナを、電気(AC200V)で動かして正確な加工ができるようにしてあります。

帯鋸盤
 まず機械には対応できるサイズに制限があるため、材料が大きい場合は最終形状に近い大きさに切り出します。例えば大きな丸太や角材から板を切出す場合に使うのが帯鋸盤です。帯状の鋸刃が上から下へと走るので、鋸刃と平行に固定された当て板に沿わせて材料を押すと板が切り出せます。誤差や仕上げ代を考慮して少し厚目にしておきます。

手押しカンナ盤
 帯鋸で切断した表面は比較的粗く、材料が大きい場合は平面度もあまり期待できないので、手押しカンナ盤で表面の仕上げを行います。長いベッドの中央に回転刃があり、材料をベッドに押し付けながら前方に滑らせて何回か削るうちに完全な平滑面になります。ベッドが大きい分手持ちの電動カンナより格段に精度よい平面に加工できます。次にこの加工した面をベッドと直角に調節された当て板に押し付けて側面が平滑になるまで削ると、互いに直角の2つの基準面が形成されます。

自動カンナ盤
 次は自動カンナ盤です。基準面を下にして材料を投入すると自動的に送り込まれ、予め設定した板厚になるように上面が回転刃で仕上げられます。削り代には限界があるので材料が厚い場合は何回かに分けて板厚設定する必要があります。これで3面の仕上げが終わることになります。最後の面もこの機械で仕上げることができますが、幅に比べて板厚が小さい場合は不安定になるので次の丸鋸盤で切ります。

丸鋸盤
 丸鋸盤は、大きなベッドの下から電動丸鋸の刃が出たような形で、鋳鉄製のベッドには鋸刃と平行に溝が切られています。溝の中を滑る金具と一緒に動く治具に材料を押し付けるかクランプなどで固定することで正確な幅や長さに切断ができます。丸鋸盤は切断だけではなく、ベッドから出た鋸刃の高さを小さくする(ベッドを高くする)ことで、溝やほぞの加工ができます。羽目板をつなぐ凹凸溝もこれを使って加工しました。

 いずれの機械も大きな材料の加工ができるように大電力モーターを使用して刃が高速回転しています。使用に際しては重大な危険が伴うので、上手く加工する知識や技術以上に危険を回避する対策やその仕組みを理解すること、さらにそれらの点検確認に費やす時間を持つ心の余裕が必要です。

木工用角ノミ盤
 これ以外に角ノミ盤という便利な機械があり、ほぞ穴などの四角い穴をあけることができます。ドリルを囲むように4面のノミが取り付けられていて、ボール盤と同じようにハンドルを回すと丸い穴の周りが四角に仕上げられます。手ノミと違って互いの刃が直角に仕上げられており、必ず鉛直方向に動くので正確な角穴が加工できます。

 これらの機械が手持ちの電動工具と大きく違うのは、いずれも刃面と平行あるいは直角に調整された大きなベッドあるいはガイド(当て板)が装備されていることです。これにより、まず基準面を削り出し、順次正確な平面を形成することができるわけです。ホームセンターの木材売り場でカットサービスがある場合、特に大きな(長い)面を正確に加工するにはお金を払ってでも利用する価値があると思います。

2021/03/05

電車の木造車体

  いよいよ車体製作に取りかかります。無蓋車と電車の台枠は以前にも書いたように自分で切り出して組立てましたが、結果は散々でした。手持ちの電動丸鋸では直角度や直線度さらに寸法精度が充分に確保できません。道具だけのせいではなく、技量の不足が根本原因です。ここは我が家の斜向かいに家具工房「わ」を構える長沢さんにお願いし、信頼の手練で専用の機械を使って正確な寸法に切り出してもらうしかないと判断しました。ただこれは自分勝手な判断で先方の仕事の段取りもあるし、機械の種類、サイズ、性能によって希望通りの加工が可能か、費用はどのくらい見込めばいいのかなど、不安があったのでまずは相談に行きました。

 以前からいずれ電車を作る時にはお手伝いをしてほしいと頼んでいたので、待ってましたとばかりに色々なアドバイスをもらうことができました。木工用機械を使うと「ほぞ組み」をはじめ色々な形状を生かした構造を精度よく加工することができるようです。単に突き合わせたり重ね合わせて釘やネジで組み立てるのとは違って、強度や耐久性を向上させることができることは容易に理解できます。ただ私には木工の専門知識がないので、こういう組み合わせならどんな構造が良いかということについてはその都度教えてもらうことにしました。

木造車体枠組

 車体の構造については、台枠の上に四隅の柱を立て、それに側梁、妻梁を固定して構体(枠組み)を構成し、妻板、側板を張付け、屋根を被せることにしました。これらの部材同士の接合には接着剤を使わずに木ねじで結合することとし、必要な場合に分解ができるようにします。ステンレス製木ねじは、コストはかさみますが年月を経過しても取り外し、再利用が可能という利点があり、鉄製木ねじは一切使用しないことにしています。こうすることで必要な部分のみ取り外して改造や修理を行うことができますし、例えば万が一脱線や衝突事故で車体が損傷したような場合でも、関連部位のみの再製作で修復ができることを期待しているわけです。

車体組立

敷居を走る西武電車

 概略の構造と寸法を説明し、加工をしてもらえる日程に合わせて部品の図面を描いて持って行くことにしました。「家具の製作も原価で請け負っているので、材料持ち込みなら費用はいらない。」と頑なに言われました。ただし条件があって、「孫が遊びに来たときは電車に乗せてやってほしい。」とのこと。当時2歳ながら、きかんしゃトーマスと西武電車をこよなく愛する鉄ちゃん予備軍だそうです。この年の冬、手慰みに作った、敷居を走る西武電車をお礼代わりにプレゼントさせてもらいしました。

 持参した妻梁と隅柱の図面を下に示します。ほぞとほぞ穴の寸法は14×20とだけ記してあります。金属加工図面の場合、例えば穴側はこれだけ大きめに加工しなさいという数値が書き込まれていなければなりません。必ずそうなっていないと穴と軸は嵌め合わないからですが、木は多少伸び縮みがあるので少し無理して入れた方がしっくり納まるのです。しっくり度合いは木の材質や使用目的によって加工しながら職人が決めるので数値では表せない微妙なもののようです。実際仕上がったほぞをほぞ穴に入れようとしたところ、堅くて入りそうになかったのですが、長沢さんが木槌を取り出してコンコンと叩くと先端が少し嵌りました。「家に帰ってから底が突くまで叩き込めばいい。」と、ここは少しきつめに仕上げてあるそうです。持ち帰った部材は、ほぞの部分を除いて油性ペイントで塗装(ハケ塗り)し、乾燥してから組み立てながら台枠に取り付けました。

ほぞ             と      ほぞ穴    

 しばらくしてから今度は妻板と側板の図面を持って行きました。木造電車の腰板の線を表現するために16番の模型なら1mmくらいの間隔で切り込みを入れたりエッチングで掘り込むところを、実物同様に羽目板を貼り付ける構造にします。実物の羽目板の幅は一般的には60100mmくらいで、1/3にすると2030mm余りというところですが、大沼電鉄の古い写真からは読み取れませんでした。幅は広い方が製作するのが楽なのですこし広めの40mmにしました。単純に平らな板を貼り付けると隙間ができて光や水が漏れるので、隣り合わせの板の凹凸を嵌め合わせて一枚板に仕上げる構造にしたいと思っていました。これも実物と同じ工法ですが、思ったように簡単にできることなのか私には想像できませんでした。相談してみると、木工では特別なことではなく、せっかく木造電車を作るのならそうした方がいいとのことでした。凹凸の幅も細かい寸法は任せました。ただこちらは嵌め合わせる部分が長くなり、板の反り方によっては固くなって入らないことがあるのでやや緩めにしてあるようです。実際加工後に乾燥や内部に節があって変形するものがあり、12割増しの数量で予備を作っておかないと部材が足りなくなることがあります。羽目板は、ステップ(戸袋)の部分は長く、窓柱部は腰板から幕板まで通しになるし、窓や扉の部分は凹凸がないように加工しなければなりません。必要な寸法のものを必要な数量だけ製作するのですが、変形などで使用できない場合は臨機応変に転用できるよう工夫が必要でした。

側板の腰羽目板 基本形(上)とバリエーション(下)

加工が終わった羽目板
 長さや形状の違いで16種類、総計146枚に及ぶ羽目板や幕板を、私が図面を見ながら寸法と形状の指示を出し、長沢さんにはひたすら加工に専念してもらい、その後補強材などを含めると延べ10日くらいお世話になりました。すべての材料が揃った時にはぐったり疲れました。

2021/02/22

待避線(余談・雑談) モーターの話

  電気エネルギーを動力に変換するのがモーター(電動機)ですが、その種類は多岐にわたります。電源、原理、構造、目的など分類の方法がそもそもいっぱいあって一口で言いきれません。それは専門書に任せるとして、従来から鉄道車両の駆動に使用されてきたのは直流直巻モーターで、近年VVVF方式になって主流は交流誘導モーターに取って代わられました。いずれにも共通の特徴は低速(起動)時のトルク(回転力)が大きいことです。世の中にモーターで動かしている機械はたくさんありますが、その多くはほぼ一定の回転数で使われています(例:送風機、ポンプ等)。そういう目的に適しているのが交流誘導モーターで、構造が簡単で頑丈なうえに電源の周波数に見合った回転数で効率よく動きます。一方で低速から大きな負荷を抱えながら最高速まで自由に速度を変えることができるのが直流モーターの特徴です。特に界磁(固定子)と電機子(回転子)を直列接続した直巻モーターは起動時に最大トルクを発生するので鉄道で重宝されて来ました。

 直流直巻モーターのトルク(引張力)特性を図(左)に示します。速度とトルクは反比例の関係にあって、速度が0の時に最高のトルクが得られます。その代り消費電流も最大になるので、実際には過電流にならない程度に抵抗器をつないで抑制します。ある程度速度が上がると電流が減る(トルクも減る)ので一部の抵抗を短絡するとまた電流とトルクが増えます。これを繰り返すことで徐々に加速することができるわけです。この抵抗器を順に短絡して行く過程は、運転台の大きな直接制御器を回すことで接点を切り替えるか、主幹制御器(マスコン)で床下の接点を遠隔操作することで達成できます。VVVF時代への過渡期には抵抗値を変える代わりに大容量半導体を用いたチョッパ制御が用いられました。

直流直巻モーターと交流誘導モーターの特性
 一方で交流誘導モーターの出力特性を図(右)に示します。直流モーターとは全然違う特性で、電源周波数で決まる最大速度より少し低いところで最大トルクが発生します。ここで使用するのが効率的なので一定速度の場合は安定した出力になりますがその用途は限定されていました。1970年代になって大容量半導体の開発やコンピューター制御技術の発達に伴って電源電圧と周波数が容易に変えられる(VVVF)ようになったことから、交流誘導モーターの速度制御方式が導入されて現在に至っています。モーターそのものも特化改良されています(誘導モーター→同期モーター)が、本来の交流モーターの特性というより、複雑なプログラムによる電源制御法と融合したシステムが鉄道車両に適した駆動技術として確立されたと言えます。減速も同じ理屈で最高速から停車までほとんどブレーキシューに頼ることなくエネルギーを回収することが可能になっています。ところでVVVF特有の「プワーン、プワーン、プワーン」という唸り音は、低速域で大トルクを発生させるために界磁極数を多くしていたのが加速に伴って減極することで変調するように聞こえるものです。マニュアルミッションの自動車やバイクが変速ギアを切り替えるたびにエンジン音が低くなるのと同じ理屈です。

 近年15インチゲージや5インチゲージの電車でもVVVF方式を採用していて、特有の音を楽しみながら運転されている様子がネットで見られます。適当な出力のインバーターやモーターの汎用品も市販されているので、少しばかり電気の知識があれば工夫して趣味の幅を広げることができるでしょう。

 鹿部電鉄では昭和の始めの電車を走らせるので「プワーン、プワーン」は似合いません。やはり直流直巻モーターを釣掛式に架装した加速音を楽しみたいものです。ところが直流直巻モーターは、電気工学の教科書に「鉄道車両用に適している」と書いてあるように、世の中では鉄道やクレーン以外の用途には使用されていないらしく、ネットで探しても市販の汎用品を見つけることはできませんでした。数kW程度までのモーターでは高性能の小型マグネットを界磁に使用した永久磁石界磁型が主流のようです。Nゲージや16番で一般的に使われているあのタイプですが、電源を切るとすぐに止まってしまうイメージがぬぐい切れません。卓上模型に比べると車両の重量がけた違いに大きいのでそんなことはないと想像できなくもないのですが、ノッチオフでギアが遊ぶ音(「グワワ~ン」)を発しながら惰行する雰囲気を楽しむには、巻線界磁型しかないと思うのです。懐古趣味の爺さんの頑固なこだわりです。

2021/02/16

豪雪と闘う鉄道員

 2016年は119日に積雪があり、庭に置いたバケツが凍結しました。12月に入ると早くも家の前の道路でスキーが楽しめるようになり、寒い冬の予感がしました。このシーズンは何度か爆弾低気圧が接近・通過し、雪の置き土産を残して行きました。日夜降り続いて雪掻きができなかったり、せっかく掻いても数時間後にはまた埋まってしまったりというようなことがあり、一晩のうちにドカ雪が積ってガレージ前、庭の通路、線路と全部の雪掻きを終えるまで半日以上かかることもありました。これを雪国の住人に課せられた無益の労働と考えると辛いだけですが、気は持ちようで鉄っちゃんならではの除雪を楽しむこともできます。

キマロキ Wikipediaより

 豪雪地帯の鉄路を力強く守る「キマロキ」をご存知でしょうか?機関車()+マックレー車()+ロータリー車()+機関車()が協調して線路脇の雪壁を崩しながら遠方に排雪する鉄機甲軍団です。右の写真の先頭が牽引機関車です。その炭水車の後に控えるのがマックレー車、赤く見える翼を逆八の字に広げて線路脇の雪を掻き集めます。それを次のロータリー車が遠方に吹き飛ばし、また機関車(補機)があと押しして隊列を締めくくります。鹿部電鉄には強力機関車がないので人間の手でキマロキを演じます。除雪が終わったら線路の両側に新たな雪の壁を築き、黒部ならぬ鹿部アルペンルートを作って楽しみます。


雪明りの夕暮れ
 当然ですが、ただ静かに冷え込む日もあります。そんな時、氷のランプシェードを線路脇に並べて冬の夕暮れを光で飾ります。せっかくの演出も北国では日が暮れると出歩く人はおらず、誰の目にも留まることなくローソクの火ははかなく消えていきます。

2021/02/14

駆動部の試作と実験

  鉄研のメンバーには曲りなりにでも動力で走る姿を見せたかった、と少し残念でした。実は手元にあるモーターを使ってまずはなんとか動かすことができないかと真剣に考えていたのです。電車の動力になりそうな何種類かのモーターのストックの中から最大出力40Wの可変速モーターに目を付けていました。電源はAC100Vなのでそのまま使うには電力の供給方法を考えなければなりませんが、とりあえず40W程度のモーターで電車を動かすことができるかを判断する実験には使えそうでした。このスクラップモーターにはギアボックスが付いていなかったので、出力軸と車軸の間で減速する必要があります。電車は人が歩く程度の速度(4km/Hr)になればよいとすると、車軸の回転数とモーターの最大回転数から減速比が計算できます。その結果減速比は1/16にすればよいという予測のもとで計算を進めました。実際には中間軸を設けて1/4×1/42段減速になります。

 さて車両を動かすための動力としてモーターを使用する場合には、車両の走行特性とモーターの出力特性を比較する必要があります。ここでいう走行特性とは速度と走行抵抗の関係のことで、一定の速度を維持するために必要な力をグラフにしたものです。モーターの出力特性は、速度(回転数)に対して(歯車などを介して)どれだけの引張力(回転力)を伝えることができるかを示すグラフです。モーターの出力である引張力は想定される速度の範囲で常に走行抵抗を上回っている必要があります。目を付ける点は、速度が0の時の抵抗力(静摩擦力)がモーターの起動力以下であることと、想定している速度での走行抵抗が引張力より低いことの二つです。

車両の走行特性とモーターの出力特性

実験に供したモーターの
出力特性図

 走行抵抗は実際に車両を押してバネばかりで測ること
ができ、モーターの出力はカタログの特性図から計算で求めることができます。ただ走行抵抗は線路の状態(錆や潤滑等の表面状態、継目等の凹凸、勾配、曲率)で変動するようで、場合によってはかなり大きくなることが想像されるのでモーター出力には充分な余裕を持たせる必要があることがわかりました。走行抵抗の実測値とモーターのカタログ値を突き合わせると、このモーターで電車の台枠をなんとか動かすくらいの実験はできそうな感覚がつかめたので、モーターと減速機構を組み込んで実証実験をすることにしました。仮駆動部の機構設計を行い、発注した部品が揃ったところで鉄研御一行様の訪問があったというわけです。

実証実験のために試作した駆動部





 お祭りが終わって一週間ほどで組み立てが完了しました。さて動くでしょうか?電源はAC100Vのコンセントから供給するヒモ付きです。コントローラーをガムテープで台枠の足元に固定し、スイッチON。回転数制御ツマミを回すと唸りを上げながらゆっくりと動きはじめ、ツマミを戻すとそのまま惰性で走るではありませんか。ただ、停止している場所によっては唸るだけで発車しないことがあり、足で地面を少し蹴ってやらないといけない場合もありました。電源供給方法、起動トルク、最高速度、解決すべき問題が色々ありますが、まずは40Wでなんとか動くことが確認できたのは大きな成果でした。


 その後、ヒモ付き電源は12V中古バッテリーと自動車用インバーターを接続して車載AC100V電源に置き換え、移動範囲の制限なく長距離(?)試運転ができるようになりました。動画撮影時に映っている車体枠はSPF材を使用した仮設で、この上に棟木を渡して防水(防雪)カバーを掛けます。試作した駆動部はこの後取り外して電車は翌(2017年)
まで冬眠します。

2021/02/07

鉄研御一行様訪問

前夜祭はイカ料理で盛り上がり

 最初の投稿「事の始まり」で書いた、大学入学後に立ち上げた鉄道研究会、卒業後OB会合宿と称して毎年全国のどこか鉄道のある場所に集まっては鉄談議に興じ、すき好きに鉄の姿を追いかけます。2016年は3月に新幹線が開通した函館が会場に選ばれました。時期は紅葉が期待される1015日の土曜日、季節外れの暖かさ(暑さ)の中、私を含めて8名が夕刻函館駅に集合し、駅前のイカ料理専門店で一年ぶりの近況報告、持参品の自慢や交換であっという間に時間が過ぎて行きました。

 翌日も好天に恵まれ、仕事の関係(電鉄系勤務=趣味の一環)で抜けた1人を除く7名が鹿部電鉄を訪問してくれました(抜けた1人も後日あらためて来訪)。無蓋車に乗る人、それを押す人、電車台枠の乗り心地を試す人、しきりに写真撮影する人など、思い思いに楽しんでもらいました。やっぱり鉄っちゃん、トロッコ遊びでは完全に童心に帰っていました。そこで私から、数日前に手作りブレーキハンドルを取り付けた台枠に乗って停車位置コンテストをしようと、提案したのですがこれは誰も興味を示さず、あえなく没。我が鉄研はフツーの人達とは一風違った鉄の集団ですが、その中でも電車の運転に執着する私は更に異質の人間なのかと複雑な心境になりました。最後は線路わきのテーブルで、家内特製鹿部名産ホタテ入りカレーライスを大好評のうちに召し上がっていただき、午後は大沼周辺で函館本線列車の撮影をした後、帰途に就いたり札幌方面へ遠征したりと自由散会しました。

鉄研御一行様のスナップ

 鉄研のメンバーに自家用鉄道を見てもらうのは、数年前のOB会で鉄道建設宣言をして以来の目標で、他の誰に見せるよりも誇らしく、本当に楽しいイベントになりました。

2021/02/02

ブレーキの試作

  バネの効いた台枠はゴトゴト転がる無蓋車とは違って静かに優雅に走ります。またまたトロッコ遊びに興じる日が続きました。遊びやすくするためにベニヤ板を切って仮の床板にするとともに、運転席、車掌席(運転席の反対側)にも足が置ける一段低い(200)床を張りました。運転席の床板最前部分はブレーキ装置の取り付け部を兼ねています。

   床板を取り付けた台枠           ブレーキハンドル

 本当は、ブレーキは実物に倣って空気圧で作動する直通空気ブレーキにしたいところです。鉄道の運転で何が難しいかと言えば、ブレーキ操作に尽きると運転経験者は答えます。ブレーキハンドルを左に向けると「ユルメ」、中央が「カサナリ」、右が「コメ」です。「ユルメ」はブレーキ解除、つまりブレーキシリンダーの空気を抜く操作です。「カサナリ」はシリンダーを締め切ってブレーキ力を保持すること。「コメ」位置では圧縮空気をシリンダーに籠めることでシリンダーの圧力を上げることができます。シリンダー圧力はそれぞれの位置の保持時間で決まりますので、同じハンドルの位置でもブレーキング(圧力)状態は変わります。また同じシリンダーの圧力でも速度によってブレーキの効き方(減速度)が変わるので、スピードが下がってくるにつれてユルメてやらなければ乗客が将棋倒しになることはご存知の通りです。以前に運転させてもらったことがある庭箱鉄道のSL風機関車は直通空気ブレーキシステムになっており、大変実感的で玄人好み、マニアックです。

直通空気ブレーキ

 直通空気ブレーキは将来像として諦めたわけではありませんが、これから作る電車はブレーキハンドルから伝わる力でブレーキがかかるメカニカルリンク方式にします。つまりハンドルを回す力(右方向に押し付ける力)がブレーキシューに伝わって制動力になるので、自転車のブレーキハンドル、自動車のブレーキペダルと同じ感覚です。

 モデルの電車は当然両運転台型ですが、鹿部電鉄では一方にのみ運転台を設けることにします。理由は構造が簡単になることが一番ですが、こんな小さい電車で運転方向が変わるたびに乗り降する面倒くささを避けたいことのほうが大きいかもしれません。つまりコントローラーもブレーキハンドルも片側に1個ずつの装備です。

共用水栓と犬釘から作ったハンドル
 運転台のブレーキハンドルは、ブレーキ弁を模した上部軸受と床に取り付けられた下部軸受で支えられたφ10の軸を回転させるようになっています。軸の端部は対辺7mmの正方形に加工されており、それにちょうどかぶさるように正方形の穴が開いたハンドルをはめ込みます。というか、取り外し可能な共同水栓用で蝶型ツマミのついたハンドルをホームセンターで買って来て、それに合わせて軸径と軸端の形状を決めたのが実態です。蝶型ツマミの部分を切り落とし、犬釘の頭部を加工して木製の握りと結合し、実感的なブレーキハンドルが出来上がりました。それに引き換えブレーキ弁を模した部分は手抜きで、それらしく木の角材から削り出したブロックをパテで整形し、飾りのナットやプラグを接着してあります。

 ブレーキハンドルでφ10の軸を反時計方向(右方向)に回すと床下のレバーとリンク機構でバネを介してブレーキシューが車輪の踏面に押し付けられ、ブレーキがかかります。シューだけが木製(クリ材)で、それ以外は平鋼と山形鋼製です。これらの部品は全部金鋸とヤスリで自作加工しました。フライス盤を使った機械加工のようなミクロン単位の高精度切削ではありませんが、小さな模型作りで培った手仕上げ職人の技の見せ所です。ブレーキ軸の下側先端はレバーにあけた四角穴にキッチリ嵌め込み、ハンマーで叩いて力技でカシメました。溶接機があれば肉盛りして万全を期したいところですが、仕上がりはしっかりしています。

ブレーキ機構

 ハンドルの可動範囲は約90°で左側約30°は「ユルメ」、中央約30°は角度に応じてバネが撓んで制動力が大きくなり、残りの右側30°はハンドルの力がそのまま加わりながらリンク系全体の撓みでシューを押し付けます。通常の運転では中央辺りまで持って来れば穏やかに制動がかかり、実物の「ユルメ」操作のように少し左へ戻せば最後は自然に停車します。

 この時点では台枠にブレーキだけが付いた状態で、駆動系がないのでコントローラーはありません。足で蹴りながら台枠に飛び乗り、ブレーキ操作で思い通りの位置に停車させるのは普通のトロッコ遊びとは違って実に愉快で、また電車の運転に一歩近づいた感がしました。