電車や列車に乗り降りする場所のことを一般的には駅と呼びますが、停車場とか停留場(停留所)とも言います。石川啄木の「ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聞きにゆく」はあまりに有名な歌です。ここで「ていしゃば」と詠んだのは上野駅だと言われていますが、今どき新幹線も発着する一大ターミナルと停車場はなんとなく別物のような気がします。駅のことを何と呼ぼうと勝手ですが、ことこれが法律で定義されるとちょっと面倒になってきます。
1919年(大正8年)制定の地方鉄道建設規定では、「旅客又ハ荷物ヲ取扱フ為列車ヲ停止スル箇所ニシテ転轍器ノ設備アルモノヲ停車場ト謂ヒ其ノ設備ナキモノヲ停留場ト謂フ」としています。平ったく解釈すると、大きな駅=停車場、プラットフォームだけの駅=停留場ということになります。下の青写真は国立公文書館に保存されていた大沼電鉄鹿部停留場の平面図です。鹿部駅は終点で、多数の転轍機が設置されているので、上記の規程によれば「停留場」ではなく「停車場」と記されるべきです。また他の文書で「鹿部停車場」と書かれている書類に対して鉄道省の係官が「停車場ト記載アルヲ鹿部停留場ト改ムルコト」とクレームをつけていたことがわかりました。鹿部駅はなぜ停留場なのかと疑問を抱いていました。
鹿部駅平面図 |
実は、大沼電鉄は1921年(大正10年)制定の軌道法という、いわゆる路面電車に適用される法律に基いて建設・営業されていたのです。当時の鉄道は、法律によって軌道(市電・路面電車)、地方鉄道(私鉄)、国有鉄道に分類されていました(正式な鉄道の他に軽便鉄道、簡易軌道というのもありました)。大沼電鉄は大沼付近に道路上の併用軌道があったことや山間部の曲線半径を小さくする必要があったため、地方鉄道ではなく軌道として特許(免許)申請したものと思われます。軌道法には停車場の規定はなく、すべて停留場として扱われます。そのため軌道法に基づいた大沼電鉄の駅は、設備の大小にかかわらず終端駅も含めてどれも停留場とすることが正しい解釈になります。
駒見駅側線敷設申請書 |
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