特定の鉄道や列車の写真集も発行されています。例えば前回も紹介したモントルーオーバーベルヌア鉄道およびレーティッシェ鉄道、それぞれの看板列車を主役にした光景が紙面を飾っています。
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| Panoramic express Glacier express Bernina express(Schweers+Wall) |
“PNORAMIC EXPRESS”(出版:Schweers+Wall) GLACIER EXPRESS(同左) Bernina Express(同左)「パノラミックエクスプレス」「グレッシャー(氷河)エクスプレス」「ベルニナエクスプレス」は同じ出版社なので内容の構成はほぼ同じで、まず路線の概要やダイヤおよび見どころの説明、さらにそれぞれの列車が世界的に有名になるまでの前身の紹介など、モノクロ写真を交えた活字のページが続きます。そしてカラーページでは雄大な背景の中を優雅に走りはたまた力強く勾配を登って行く姿が次々と続きます。当時はいずれも今のように専用の固定編成列車がなかったのでバラエティに富んだ動力車と客車の組み合わせが興味を惹きます。特に氷河急行はフルカオーバーアルプ鉄道の車両が併結されていたり普通列車用のグリーン塗装車が混ざっていたりします。最後の1/3は歴代車両の図面付き解説でまとめてあります。この図面がいわゆる設計図ではなくてどちらかと言うとイラストっぽいタッチになっており、この後他の書籍の説明でもそのことについて触れます。 |
Die elektrischen und Diesel-Triebefahrzeug schweizerisher Eisenbahnen(Verlag Eisenbahn) |
“Die elektrischen und Diesel-Triebefahrzeug schweizerisher Eisenbahnen Die Raetische bahn”「スイスの鉄道の電動車およびディーゼル動車 レーティッシェ鉄道編」という長たらしい名前の本です。たまたまレーティッシェ鉄道編だけ入手しましたが、シリーズ本のようです。この本は19世紀末期に製造されたロッド式2軸電気機関車に始まり、グレッシャーエクスプレスに代表される近代的な機関車、電車、客車(1973年現在)までを網羅した車両中心の解説書です。タイトルと違って貨車や事業用車を含む全車両が取り上げられているようです。かつて私が京急の旧600型と形容した湘南顔の電車(制御車)が表紙を飾っています。車両群ごとに詳しい塗色の変遷にも触れられていますが、全編モノクロ写真で占められているのは少なからず残念です。この鉄道は山岳線でありながら、ラック区間がない代わりにループ橋やトンネルで険しい地形を克服し、長大な急行列車が窓外の景色を楽しませて観光客を魅了してきました。車両グループに分けて特徴や技術的解説があり、外観写真に加えて主要寸法の記入された形式図が挿入されています。興味を惹くのはフルカオーバーアルプ鉄道と同仕様でありながらラックレールと噛み合う歯車駆動機構がない動力車があることで、中でも電気式ディーゼル機関車はフルカオーバーアルプ鉄道では架線工事用として使用された一方、レーティッシェ鉄道ではパンタグラフを装備して架線電圧の異なる線区へ乗り入れる運用に使用されたようです。この鉄道に限らず、スイスには何両もの客車や制御車を従えて勾配を登って行く機関車並みのパワーを持ったスーパー電車があってページを埋めています。
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| Ge4/6 Nr.351 |
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| BCe4/4 |
“Die Fahrzeug der Furka-Oberalp-Bahn”(出版:Schweers+Wall)「フルカオーバーアルプ鉄道の車両」も車両を主にした前書より少し新しい解説書です。上にも書いたようにレーティッシェ鉄道と氷河急行を共同運行していることもあり、同系の動力車や客車が使用されています。この本ではSL時代から当時の最新パノラマ客車までをイラスト風図面を交えて写真と図面で詳しく紹介しています。純粋な図面ではなく陰影の付いた細密イラストはこの本に限った話ではありませんが、特に巻頭と末尾には主要な車両を彩色したものが掲載されているので、絵本を楽しむような気分になります。余談ですが、かつて(半世紀以上昔)「鉄道模型趣味」誌で故片野正巳さんによる独特のタッチのペン画「陸蒸気からこだままで」が連載されていたのを思い出しました。列車の側面が図面のように正確でありながら、描き手の思いが加わることで立体感が醸し出されるのでしょうか、魔術のようですね。
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| Die Fahrzeug der Furka-Oberalp-Bahn(Schweers+Wall) |
“Tradition & Fortschritt der Appenzeller Bahnen AB/SGA”(出版:Appenzeller Bahnen)「アペンツェルの鉄道の伝統と進歩」は旧アペンツェル鉄道(AB)と旧ザンクトガレン - ガイス - アペンツェル - アルトシュテッテン鉄道(SGA)の合併(1988年)に際してそれらの歴史と合併後の発展計画をまとめた、少し特殊な記念広報書籍と思われます。
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| Tradition & Fortschritt der Appenzeller Bahnen AB/SGA”(Appenzeller Bahnen) |
元をたどれば19世紀に遡り、この後も周辺の鉄道との合併を繰り返して今ではスイスで4番目に大きなメーターゲージネットワークになっているようです。長ったらしい名前のSGAは、2022/2/25投稿の「スイスの鉄道」でロッド式片ボギー車の復元について喜びを書いたあの鉄道です。この本も列車のイラスト風図面が掲載されており、模型鉄にはうれしい寸法まで記入されています。さらに駅や車庫の線路配置もイラスト図面化されています。3つの路線が集まるガイス駅では、ザンクトガレンからの線路が半径20から30mぐらいの急曲線でアペンツェル方面へ180°曲がって行く様子が窺えます。現在の衛星写真と比べると分岐器の配置が少し変わっているようですが、急カーブはそのままです。
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| MTユニット車のイラストとガイス駅線路配置 |
またまた余談ですが、我が鹿部町の人口は約3500人で年間平均100人近く減少し続けているのに対してガイス村の人口は約3100人で年々増加しているとのこと(Wikipedia)、昼間7時間列車が来ない町と30分間隔で6車体連接車が往来する村の活気の違いを見せつけられます。「過疎が進んだから鉄道の運営が維持できない」という論法と「鉄道の近代化を図って来たから過疎化を防げた」という現実、どちらが正しいか考えてほしいと思います。
“Gleisplaene der Raetischen Bahn (Stammnetz)”(出版:BEMO)「レーティッシェ鉄道(本線)の線路配置」という一風変わった本です。出版元のBEMOはドイツにあるHOm(メーターゲージのHOスケールで軌間が12㎜)模型メーカーです。模型を買ってレイアウトを作る時の参考書として出版販売されているようです。他のメーターゲージの鉄道版もあるようです。前のアペンツェル鉄道本にも駅の線路配置図が掲載されていることからして、スイスの作り鉄は駅に強い興味を持つ人が多いのかもしれません。精密機械加工技術が発達したヨーロッパには他のゲージの模型メーカーがあり、一方で日本の積水金属もKATO EUのブランドでスイス型メーターゲージ車両を販売していることから、車両を買ってレイアウトは自分で作るのがトレンドになっているのではないかと思います(個人の想像です)。
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| Gleisplaene der Raetischen Bahn (Stammnetz)”(BEMO) |
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| La Punt-Chamues-ch / Madulain |
線路配置だけではなく、建造物や周囲の地形もわかるような表現がしてあり、駅舎の写真やイラスト図面が添えられている駅もあります。
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| Bahnhoefe der Schweiz”(GeraMond) |
“Bahnhoefe der Schweiz”(出版:GeraMond)「スイスの駅」副題として「模型鉄道のための最も美しい駅と線路配置」と付記されています。本編はスイス全土にわたってゲージに関係なく多くの駅の写真と線路配置図、さらにかなり詳しい解説がつけられています。どの駅も大きく立派な建物で、単に列車が停まるというだけではなく鉄道運行に関わる業務、つまり郵便バスや貨物の集積、住民の生活を支える営みが行われていたことを窺わせます。ひょっとしてホテルだったら楽しいだろうになと妄想が膨らみます。第2部は美しい駅特集として線路配置図がない代わりにカラーで駅舎の紹介がされています。その多く(ほとんど)が山小屋風の建物で窓辺には花が飾られていているのがスイスらしさを感じさせます。第3部は多様な停留所として単線一面の駅舎(待合室)の写真が集められています。無人の秘境駅を思わせる木造小屋、トイレかと間違いそうな石積みの待合所、廃車になった貨車の再利用から超モダンな真っ赤なキャビンまで小型レイアウトには持って来いのストラクチャー素材が満載です。
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| 表紙のユングフラウ鉄道クライネシャイデック駅の線路配置図(左)_______ ________と 小さな駅の待合所の写真(右) |
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TTmスケールで作ったBOBとJBの電車
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これらの駅本を書店で見た時はスイス型メーターゲージの車両を1/120スケール(軌間9㎜)で作っていた頃でした。ベルナーオーバーラント鉄道やユングフラウ鉄道の車両を走らせるレイアウトを製作中だったのでなんのためらいもなく手に取ったのを覚えています。その後レイアウトはホコリを被って廃却しましたが、作りかけの車両は実家の整理時に箱に詰められた状態で発掘しました。
紹介した書籍以外に他の私鉄、路面電車やSBBの車両ハンドブックなどがあり、最初は全部ここに書こうと意気込んでいたものの、どれも同じような説明になってしまいそうなので今回はこの辺りで止めておきます。
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