好きな電車は何ですか?」と聞かれたら、「昭和40年(1965年)頃の電車」と答えます。それから「路面電車と戦前の旧型気動車(機械式気動車)も好き」で、もう一つ「スイスの電車がお気に入り」だったことは何度かここで書いています。
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| スイス版鉄道ファン創刊号 |
過日神戸の実家に置いていた大量の鉄道雑誌、書籍を処分した際にショッキングなことがありました。後生大事に取り置いていた1960年代からの「鉄道模型趣味」「鉄道ピクトリアル」「鉄道ファン」などの雑誌は古書として引き取れない、と言われたのです。さらにスイス版鉄道ファン「Schweizer Eisenbahn Revue」の初版を含む200冊余を洋書系古書店に見積依頼したところ、英語の古書なら買い手があるがドイツ語は売れないので、と断られました。結局雑誌類は資源(古紙)として廃棄するしかなく、「Schweizer・・・」だけは大阪市にある交通文化振興財団に資料として寄贈を申し出たところ快諾いただけたのでそちらに送りました。雑誌類はそうやって処分しましたが、苦労して買い集めたスイスの鉄道書籍類は風景写真集、車両図面付き形式解説書、駅舎と線路配置図、模型参考書などがあり、重くて嵩ばるけれど捨てるに忍びないので鹿部に送ることにしました。せっかくなので再び身近に戻って来た本の紹介をしたいと思います。断っておきますが、半世紀近くあるいはそれ以上前に出版された本ですので、写っている車両はそのほとんどがもう活躍していなくて(私の大嫌いな)近代的デザインに更新されていると思います。建物や街の風情もかなり変わっているかもしれませんが、鉄道の背景にある大自然や人々の生活に垣間見える穏やかさは普遍であると信じています。なお、本投稿はあくまでも書籍の紹介というスタンスで、引用した写真の転載を本意とするものではありません。 まずは鉄道風景写真集ですが、スイス各地の絶景に鉄道が映りこんだものと特定の鉄道の光景をまとめたものがあります。新婚旅行で初めて訪れたスイスの景色は「どこを切り取っても絵葉書になる」というのが第一印象でした。観光地として有名な場所に限らず、そこに向かう途中の田園地帯や住宅地、市街地の公園や路地裏でさえ見るものすべてが新鮮で美しい、と感じました。目を見張るような大地に架けられた石造りの橋梁や鮮やかな色の列車が上って行く草原の勾配、古城を背にぶどう畑を横切る単行の電車、石畳の道路を我が物顔でゆっくり進む列車からはゴロゴロという音が聞こえてくるようです。
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| Trains en Balade (Ott Thoune) |
1冊目は”Trains en balade”(出版:Ott Thoune)、フランス語で「のんびり列車旅」といったタイトルでしょうか。表紙はイタリア国境を越えて相互乗り入れをしているセントバリ鉄道の連接車が教会の塔や白銀の山脈をバックにアーチ橋を渡っています。セントバリは百の谷と言う意味で名前通りの絶景の谷を縫うように走っています、と言いながら訪ねたことはありません。以下実際には見たことがない景色をあたかもそこに行ったかのように説明しますのでご了解ください。
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| Furka Oberalp Bahn |
次はこの本に収められた一枚、フルカオーバーアルプ鉄道の列車が巨大な岩壁の素掘り穴から出たかと思うと荒々しい斜面に架けられた石橋を突き進む光景です。自然の脅威とそれを克服するかのような人の業に圧倒されます。どうやって撮影したのだろうかと思うような写真がページをめくるたびに次から次へと現れます。この写真にも言えることですが、多くが鉄道中心の構図ではなく壮大な景観の中のどこかに線路や列車が垣間見えるような構成になっています。全部見てほしいところですが別の本の説明に移ります。
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SCHWEIZER BAHNEN IN FARBE (Editions du Cabli)
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”SCHWEIZER BAHNEN IN FARBE”(出版:EDITIONS DU CABRI)「天然色スイスの鉄道」です。独仏両語併記で、1950-1980とあるように少し古い車両の写真が含まれています。この本の写真はどちらかと言うと車両メインの構図で占められており、鉄道黎明期を思わせるクラシックトレインの復元運転から最新型電車まで、さらに路面電車、登山電車、SL、TEEと多種にわたっています。しかし車両の詳しい説明だけではなく、路線概要や歴史について解説されています。
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Trans Europe Express "Gotthard"
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イタリアまで足を延ばしたかつてのTEEがゴッタルト峠の急こう配を上っていたと説明されていて、背景にはいかにも険しそうな山肌が見えます。TEEはヨーロッパ各国が一定の条件下で独自に作り上げた国際特急列車(全車一等席)で、当初は気動車でした。2代目は電車化され、国際列車らしく交直4電源に対応するという技術的にも厳しい条件を乗り越えて実現されています。この本にはこれ以外にイタリア、フランスのTEEの写真が取り上げられています。2000年頃だったと思いますが、引退したTEE列車を旅行社がチャーターしてツアーが行われた、という記事がSchweizer Eisenbahn Revueに掲載されていたことを記憶しています。
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| Montreux–Oberland Bernois |
ジュネーブの東モントルーから今はゴールデンパスルートをフリーゲージトレインの観光列車が運行されていますが、これはそれ以前から地元住民の足として運行していたローカル単行電車、レマン湖をバックにオメガループトンネルの勾配を上って来たところです。元はイタリア国境近くのルガノの路面電車だったようで、異端車ながら誇らしげにワッペンを飾っています。
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Sernftal Bahn
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チューリッヒの南東にあるゼルンフタルという美しい谷沿いに全長10㎞あまりの鉄道があったそうです。観光客が道端を歩くその脇を電車が通り過ぎるという、ジブリのアニメに出てきそうな光景はもう見られません。
最近になってWikipediaで見つけた情報によると、この写真に写っている車両が数奇な運命をたどって再びこの谷に戻って来て鉄道博物館になっているとのことです。ゼルンフタル鉄道の廃止後、レマン湖畔私鉄撮り歩き(2022/12/7投稿)で紹介したエグルオロンモンティシャムペリ鉄道に譲渡され、さらに僚車とともにオーストリアに移って働いた後、帰郷プロジェクトによって塗装や形態が復元されたそうです。
“BAHNEN DER ALPEN”(出版:Orell Fuessli Verlag)「アルプスの鉄道」の表紙はご存知ユングフラウ鉄道です。山岳路線の写真を主に多くがモノクロでまとめてあります。その中からポスターみたいな美しいカラー写真を選んでみました。
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| BAHNEN DER ALPEN (Orell Fuessli Verlag) |
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| Wengernalp Bahn |
アイガー北壁を背にしたウェンゲルンアルプ鉄道の250‰急勾配を線路にしがみつきながら歯車を嚙み合わせて登って行きます。終点で接続している表紙のユングフラウ鉄道とともに線路に沿ってトレッキングコースがあるので、電車を見ながらの散策はスイス鉄にとっては至上の喜びになることでしょう。線路際のログハウスに住んでみたいと夢見たこともありました。
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| Brienz Rothorn Bahn |
これもスイスの山岳鉄道を代表するSL列車です。勾配路線でもボイラーを水平に保てるよう前のめりに傾けてあることはよく紹介されています。足元にブリエンツ湖を見下ろしながらジグザグの線路を登るわけですが、山肌には低木しか生えていないので前も後ろもさぞ見通しがいいだろうと想像します。SLファンではない私でもチャンスがあれば是非訪ねてみたい鉄道の一つです。
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Schmalspurparadies Schweiz (Schweers+Wall)
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“Schmalspurparadies Schweiz”(出版:Schweers+Wall)「スイスナローゲージパラダイス」とは言っても森林鉄道や軽便鉄道ではありません。前にも触れたようにスイスではメーターゲージはSchmalspur(ナローゲージ)と呼ばれます。この本ではメーターゲージを主に、例外的に存する800㎜と750㎜も取り上げられています。何度も言いますがJR在来線とほぼ同じ大きさの車両で親近感があります。地域ごとに2分冊になっていて写真だけではなく、鉄道ごとの路線の特徴や歴史等についてかなり詳細な説明が書かれています。前の本の紹介と重ならないように、ここでは別の鉄道の写真を取り上げます。
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| Luzern Stans Engelberg Bahn |
ルツェルンスタンスエンゲルベルク鉄道は、レーティッシェ鉄道、モントルーオーバーベルヌア鉄道と並んでスイスを代表するメーターゲージです。強力な電動車と制御車で付随客車を挟んで固定編成列車を組成し、古都ルツェルンから平坦線を高速で、ラックレール区間は強力に登坂して、山岳リゾートのエンゲルベルクまでを結んでいます。とこの本が出版された時点(1988年)では記述されていますが、2005年からSBB(国鉄)のブリューニッヒ線を統合してツェントラル鉄道となり、さらに2010年には新トンネルの開通で最大246‰だった勾配を105‰に緩和して輸送量が大幅に拡大されているそうです。
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| Waldenburger Bahn |
ヴァルデンブルガー鉄道は本当のナローゲージ750㎜軌間です。かつての越後交通栃尾線や下津井電鉄みたいにボギー車を複数両連結した列車が比較的頻繁に走っていました。この写真は道路の片側に敷かれた線路が背景を含めて花巻電鉄を彷彿とさせる構図ですが、道路が広くて舗装されているだけではなく、鉄道も同様に軌道強化され車両や施設の近代化が弛まず行われているところが我が国と根本的に異なっています。その結果2022年にはメーターゲージに改軌されて7車体連接車が重連で運行されるまでになっています。鉄道衰退を時代の流れと決めつけて自動車偏重を進めてきた交通行政からは信じられない現実です。ちなみに起点のバーゼル市の人口は17万人で花巻市と同じレベル(北上市と併せた都市圏人口は20万人)ですから過疎が鉄道を衰退させたのではなく、その逆の結果と言えるのではないでしょうか。
続く
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