2022/11/05

待避線(余談雑談) ガスタービンエンジンの話

  ディーゼルエンジンで話が脱線したついでに、いや脱線したわけではなく側線に入っただけですが、ガスタービン列車の話をします。私が川崎重工に就職して配属された先はジェットエンジン事業部設計部でした。当時純国産の産業用ガスタービンの生産を始める一方で、アメリカのメーカーのライセンス下で製造していた航空用ガスタービンを鉄道に転用するプロジェクトがありました。

 ガスタービンはディーゼルエンジンなどと同じ内燃機関の一種で、吸入した空気を高速回転するコンプレッサーで圧縮し、高圧燃料を噴霧して燃焼したガスをノズルで膨張させ、タービンで回転力として取り出します。つまり吸入、圧縮、燃焼(膨張)、排気というレシプロエンジン(ガソリン、ディーゼル)と同じ行程があるわけですが、シリンダーの中で順番に繰り返されるのではなく、高速回転軸に沿った専用の部位で連続的、持続的に実行されるのが特徴です。メリットとして、出力に比して軽量小型、往復運動部位がなく振動が小さい、冷却水が不要、急激な負荷変動に強いなどがあります。一方で燃費が良くない、特に低負荷での燃料消費が多い、エンジン回転数が高いため減速機が必要、航空転用型は高コスト、などのデメリットがあります。

 1967(昭和42)頃国鉄では非電化亜幹線の高速化を計画しており、軽量で大出力が得られるガスタービンに着目していました。欧米ではすでに試験されたり実用化されたりしていて、国鉄のキハ07を改造した試験車では実用化の足掛かりとなるデータが得られていました。

16番のキハ07901
      自身製作
 この試験には石川島播磨重工製と川崎重工製の2種類のエンジンが試用され、その後試作されたキハ391の高速試験でもそれぞれの比較が行われる予定でしたが、電化が進んだことに加えてオイルショックの追い打ちがあって1973年には試験計画が打ち切られてしまいました。私が就職したのはその2年後で、プロジェクトは実質的にはほとんど休止状態でした。それでも調べものをするふりをして資料室に入れば、そこに至るまでの企画書や計算書、図面、試験データ、海外の実例文献などがファイルされており、食い入るようにしてページをめくりました。ガスタービンで車両を動かすには直接駆動、トルクコンバーター駆動、発電機を介した電気式等色々な方式が考えられ、それぞれに一長一短があって比較検討した資料には図面が挟んでありました。川崎重工には車両事業部があってガスタービンを搭載した車両の計画図を添えて国鉄に提案したのでしょう。非電化区間で電車に増結する両運型自走ガスタービン電源車、ボンネットに高速小型発電ユニット(小型減速機で高周波発電機を駆動)を搭載した特急型電車、床下に発電ユニットを装備した急行型電車など、結果的には日の目を見なかったけれどどれをとっても魅力的な車両の数々でした。もし実現していたら、どこの線区を何という列車がどんな塗色で走っていただろう、と資料室でひとり妄想に耽るのでした。
ガスタービン列車が実現したらこんなスタイルに
側面の吸気口と屋根上の大きな消音器が特徴です

 あれから半世紀を経てガスタービンの弱点であった燃費は排熱の有効回収や最適負荷制御で改善され、製造・メンテナンスコストは簡略構造の量産効果で大幅に低減されています。VVVF方式に象徴される半導体技術が飛躍的に発達して超高速発電機も実用化されました。今はディーゼル発電機とバッテリーを搭載したハイブリッド電車が非電化区間を走行する時代、その先は水素をエネルギー源とする超小型のガスタービン発電機と高性能バッテリーのユニットが電車に搭載されればガスタービン動車復活の日も夢ではなくなるかもしれません。

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