2021/02/22

待避線(余談・雑談) モーターの話

  電気エネルギーを動力に変換するのがモーター(電動機)ですが、その種類は多岐にわたります。電源、原理、構造、目的など分類の方法がそもそもいっぱいあって一口で言いきれません。それは専門書に任せるとして、従来から鉄道車両の駆動に使用されてきたのは直流直巻モーターで、近年VVVF方式になって主流は交流誘導モーターに取って代わられました。いずれにも共通の特徴は低速(起動)時のトルク(回転力)が大きいことです。世の中にモーターで動かしている機械はたくさんありますが、その多くはほぼ一定の回転数で使われています(例:送風機、ポンプ等)。そういう目的に適しているのが交流誘導モーターで、構造が簡単で頑丈なうえに電源の周波数に見合った回転数で効率よく動きます。一方で低速から大きな負荷を抱えながら最高速まで自由に速度を変えることができるのが直流モーターの特徴です。特に界磁(固定子)と電機子(回転子)を直列接続した直巻モーターは起動時に最大トルクを発生するので鉄道で重宝されて来ました。

 直流直巻モーターのトルク(引張力)特性を図(左)に示します。速度とトルクは反比例の関係にあって、速度が0の時に最高のトルクが得られます。その代り消費電流も最大になるので、実際には過電流にならない程度に抵抗器をつないで抑制します。ある程度速度が上がると電流が減る(トルクも減る)ので一部の抵抗を短絡するとまた電流とトルクが増えます。これを繰り返すことで徐々に加速することができるわけです。この抵抗器を順に短絡して行く過程は、運転台の大きな直接制御器を回すことで接点を切り替えるか、主幹制御器(マスコン)で床下の接点を遠隔操作することで達成できます。VVVF時代への過渡期には抵抗値を変える代わりに大容量半導体を用いたチョッパ制御が用いられました。

直流直巻モーターと交流誘導モーターの特性
 一方で交流誘導モーターの出力特性を図(右)に示します。直流モーターとは全然違う特性で、電源周波数で決まる最大速度より少し低いところで最大トルクが発生します。ここで使用するのが効率的なので一定速度の場合は安定した出力になりますがその用途は限定されていました。1970年代になって大容量半導体の開発やコンピューター制御技術の発達に伴って電源電圧と周波数が容易に変えられる(VVVF)ようになったことから、交流誘導モーターの速度制御方式が導入されて現在に至っています。モーターそのものも特化改良されています(誘導モーター→同期モーター)が、本来の交流モーターの特性というより、複雑なプログラムによる電源制御法と融合したシステムが鉄道車両に適した駆動技術として確立されたと言えます。減速も同じ理屈で最高速から停車までほとんどブレーキシューに頼ることなくエネルギーを回収することが可能になっています。ところでVVVF特有の「プワーン、プワーン、プワーン」という唸り音は、低速域で大トルクを発生させるために界磁極数を多くしていたのが加速に伴って減極することで変調するように聞こえるものです。マニュアルミッションの自動車やバイクが変速ギアを切り替えるたびにエンジン音が低くなるのと同じ理屈です。

 近年15インチゲージや5インチゲージの電車でもVVVF方式を採用していて、特有の音を楽しみながら運転されている様子がネットで見られます。適当な出力のインバーターやモーターの汎用品も市販されているので、少しばかり電気の知識があれば工夫して趣味の幅を広げることができるでしょう。

 鹿部電鉄では昭和の始めの電車を走らせるので「プワーン、プワーン」は似合いません。やはり直流直巻モーターを釣掛式に架装した加速音を楽しみたいものです。ところが直流直巻モーターは、電気工学の教科書に「鉄道車両用に適している」と書いてあるように、世の中では鉄道やクレーン以外の用途には使用されていないらしく、ネットで探しても市販の汎用品を見つけることはできませんでした。数kW程度までのモーターでは高性能の小型マグネットを界磁に使用した永久磁石界磁型が主流のようです。Nゲージや16番で一般的に使われているあのタイプですが、電源を切るとすぐに止まってしまうイメージがぬぐい切れません。卓上模型に比べると車両の重量がけた違いに大きいのでそんなことはないと想像できなくもないのですが、ノッチオフでギアが遊ぶ音(「グワワ~ン」)を発しながら惰行する雰囲気を楽しむには、巻線界磁型しかないと思うのです。懐古趣味の爺さんの頑固なこだわりです。

2021/02/16

豪雪と闘う鉄道員

 2016年は119日に積雪があり、庭に置いたバケツが凍結しました。12月に入ると早くも家の前の道路でスキーが楽しめるようになり、寒い冬の予感がしました。このシーズンは何度か爆弾低気圧が接近・通過し、雪の置き土産を残して行きました。日夜降り続いて雪掻きができなかったり、せっかく掻いても数時間後にはまた埋まってしまったりというようなことがあり、一晩のうちにドカ雪が積ってガレージ前、庭の通路、線路と全部の雪掻きを終えるまで半日以上かかることもありました。これを雪国の住人に課せられた無益の労働と考えると辛いだけですが、気は持ちようで鉄っちゃんならではの除雪を楽しむこともできます。

キマロキ Wikipediaより

 豪雪地帯の鉄路を力強く守る「キマロキ」をご存知でしょうか?機関車()+マックレー車()+ロータリー車()+機関車()が協調して線路脇の雪壁を崩しながら遠方に排雪する鉄機甲軍団です。右の写真の先頭が牽引機関車です。その炭水車の後に控えるのがマックレー車、赤く見える翼を逆八の字に広げて線路脇の雪を掻き集めます。それを次のロータリー車が遠方に吹き飛ばし、また機関車(補機)があと押しして隊列を締めくくります。鹿部電鉄には強力機関車がないので人間の手でキマロキを演じます。除雪が終わったら線路の両側に新たな雪の壁を築き、黒部ならぬ鹿部アルペンルートを作って楽しみます。


雪明りの夕暮れ
 当然ですが、ただ静かに冷え込む日もあります。そんな時、氷のランプシェードを線路脇に並べて冬の夕暮れを光で飾ります。せっかくの演出も北国では日が暮れると出歩く人はおらず、誰の目にも留まることなくローソクの火ははかなく消えていきます。

2021/02/14

駆動部の試作と実験

  鉄研のメンバーには曲りなりにでも動力で走る姿を見せたかった、と少し残念でした。実は手元にあるモーターを使ってまずはなんとか動かすことができないかと真剣に考えていたのです。電車の動力になりそうな何種類かのモーターのストックの中から最大出力40Wの可変速モーターに目を付けていました。電源はAC100Vなのでそのまま使うには電力の供給方法を考えなければなりませんが、とりあえず40W程度のモーターで電車を動かすことができるかを判断する実験には使えそうでした。このスクラップモーターにはギアボックスが付いていなかったので、出力軸と車軸の間で減速する必要があります。電車は人が歩く程度の速度(4km/Hr)になればよいとすると、車軸の回転数とモーターの最大回転数から減速比が計算できます。その結果減速比は1/16にすればよいという予測のもとで計算を進めました。実際には中間軸を設けて1/4×1/42段減速になります。

 さて車両を動かすための動力としてモーターを使用する場合には、車両の走行特性とモーターの出力特性を比較する必要があります。ここでいう走行特性とは速度と走行抵抗の関係のことで、一定の速度を維持するために必要な力をグラフにしたものです。モーターの出力特性は、速度(回転数)に対して(歯車などを介して)どれだけの引張力(回転力)を伝えることができるかを示すグラフです。モーターの出力である引張力は想定される速度の範囲で常に走行抵抗を上回っている必要があります。目を付ける点は、速度が0の時の抵抗力(静摩擦力)がモーターの起動力以下であることと、想定している速度での走行抵抗が引張力より低いことの二つです。

車両の走行特性とモーターの出力特性

実験に供したモーターの
出力特性図

 走行抵抗は実際に車両を押してバネばかりで測ること
ができ、モーターの出力はカタログの特性図から計算で求めることができます。ただ走行抵抗は線路の状態(錆や潤滑等の表面状態、継目等の凹凸、勾配、曲率)で変動するようで、場合によってはかなり大きくなることが想像されるのでモーター出力には充分な余裕を持たせる必要があることがわかりました。走行抵抗の実測値とモーターのカタログ値を突き合わせると、このモーターで電車の台枠をなんとか動かすくらいの実験はできそうな感覚がつかめたので、モーターと減速機構を組み込んで実証実験をすることにしました。仮駆動部の機構設計を行い、発注した部品が揃ったところで鉄研御一行様の訪問があったというわけです。

実証実験のために試作した駆動部





 お祭りが終わって一週間ほどで組み立てが完了しました。さて動くでしょうか?電源はAC100Vのコンセントから供給するヒモ付きです。コントローラーをガムテープで台枠の足元に固定し、スイッチON。回転数制御ツマミを回すと唸りを上げながらゆっくりと動きはじめ、ツマミを戻すとそのまま惰性で走るではありませんか。ただ、停止している場所によっては唸るだけで発車しないことがあり、足で地面を少し蹴ってやらないといけない場合もありました。電源供給方法、起動トルク、最高速度、解決すべき問題が色々ありますが、まずは40Wでなんとか動くことが確認できたのは大きな成果でした。


 その後、ヒモ付き電源は12V中古バッテリーと自動車用インバーターを接続して車載AC100V電源に置き換え、移動範囲の制限なく長距離(?)試運転ができるようになりました。動画撮影時に映っている車体枠はSPF材を使用した仮設で、この上に棟木を渡して防水(防雪)カバーを掛けます。試作した駆動部はこの後取り外して電車は翌(2017年)
まで冬眠します。

2021/02/07

鉄研御一行様訪問

前夜祭はイカ料理で盛り上がり

 最初の投稿「事の始まり」で書いた、大学入学後に立ち上げた鉄道研究会、卒業後OB会合宿と称して毎年全国のどこか鉄道のある場所に集まっては鉄談議に興じ、すき好きに鉄の姿を追いかけます。2016年は3月に新幹線が開通した函館が会場に選ばれました。時期は紅葉が期待される1015日の土曜日、季節外れの暖かさ(暑さ)の中、私を含めて8名が夕刻函館駅に集合し、駅前のイカ料理専門店で一年ぶりの近況報告、持参品の自慢や交換であっという間に時間が過ぎて行きました。

 翌日も好天に恵まれ、仕事の関係(電鉄系勤務=趣味の一環)で抜けた1人を除く7名が鹿部電鉄を訪問してくれました(抜けた1人も後日あらためて来訪)。無蓋車に乗る人、それを押す人、電車台枠の乗り心地を試す人、しきりに写真撮影する人など、思い思いに楽しんでもらいました。やっぱり鉄っちゃん、トロッコ遊びでは完全に童心に帰っていました。そこで私から、数日前に手作りブレーキハンドルを取り付けた台枠に乗って停車位置コンテストをしようと、提案したのですがこれは誰も興味を示さず、あえなく没。我が鉄研はフツーの人達とは一風違った鉄の集団ですが、その中でも電車の運転に執着する私は更に異質の人間なのかと複雑な心境になりました。最後は線路わきのテーブルで、家内特製鹿部名産ホタテ入りカレーライスを大好評のうちに召し上がっていただき、午後は大沼周辺で函館本線列車の撮影をした後、帰途に就いたり札幌方面へ遠征したりと自由散会しました。

鉄研御一行様のスナップ

 鉄研のメンバーに自家用鉄道を見てもらうのは、数年前のOB会で鉄道建設宣言をして以来の目標で、他の誰に見せるよりも誇らしく、本当に楽しいイベントになりました。

2021/02/02

ブレーキの試作

  バネの効いた台枠はゴトゴト転がる無蓋車とは違って静かに優雅に走ります。またまたトロッコ遊びに興じる日が続きました。遊びやすくするためにベニヤ板を切って仮の床板にするとともに、運転席、車掌席(運転席の反対側)にも足が置ける一段低い(200)床を張りました。運転席の床板最前部分はブレーキ装置の取り付け部を兼ねています。

   床板を取り付けた台枠           ブレーキハンドル

 本当は、ブレーキは実物に倣って空気圧で作動する直通空気ブレーキにしたいところです。鉄道の運転で何が難しいかと言えば、ブレーキ操作に尽きると運転経験者は答えます。ブレーキハンドルを左に向けると「ユルメ」、中央が「カサナリ」、右が「コメ」です。「ユルメ」はブレーキ解除、つまりブレーキシリンダーの空気を抜く操作です。「カサナリ」はシリンダーを締め切ってブレーキ力を保持すること。「コメ」位置では圧縮空気をシリンダーに籠めることでシリンダーの圧力を上げることができます。シリンダー圧力はそれぞれの位置の保持時間で決まりますので、同じハンドルの位置でもブレーキング(圧力)状態は変わります。また同じシリンダーの圧力でも速度によってブレーキの効き方(減速度)が変わるので、スピードが下がってくるにつれてユルメてやらなければ乗客が将棋倒しになることはご存知の通りです。以前に運転させてもらったことがある庭箱鉄道のSL風機関車は直通空気ブレーキシステムになっており、大変実感的で玄人好み、マニアックです。

直通空気ブレーキ

 直通空気ブレーキは将来像として諦めたわけではありませんが、これから作る電車はブレーキハンドルから伝わる力でブレーキがかかるメカニカルリンク方式にします。つまりハンドルを回す力(右方向に押し付ける力)がブレーキシューに伝わって制動力になるので、自転車のブレーキハンドル、自動車のブレーキペダルと同じ感覚です。

 モデルの電車は当然両運転台型ですが、鹿部電鉄では一方にのみ運転台を設けることにします。理由は構造が簡単になることが一番ですが、こんな小さい電車で運転方向が変わるたびに乗り降する面倒くささを避けたいことのほうが大きいかもしれません。つまりコントローラーもブレーキハンドルも片側に1個ずつの装備です。

共用水栓と犬釘から作ったハンドル
 運転台のブレーキハンドルは、ブレーキ弁を模した上部軸受と床に取り付けられた下部軸受で支えられたφ10の軸を回転させるようになっています。軸の端部は対辺7mmの正方形に加工されており、それにちょうどかぶさるように正方形の穴が開いたハンドルをはめ込みます。というか、取り外し可能な共同水栓用で蝶型ツマミのついたハンドルをホームセンターで買って来て、それに合わせて軸径と軸端の形状を決めたのが実態です。蝶型ツマミの部分を切り落とし、犬釘の頭部を加工して木製の握りと結合し、実感的なブレーキハンドルが出来上がりました。それに引き換えブレーキ弁を模した部分は手抜きで、それらしく木の角材から削り出したブロックをパテで整形し、飾りのナットやプラグを接着してあります。

 ブレーキハンドルでφ10の軸を反時計方向(右方向)に回すと床下のレバーとリンク機構でバネを介してブレーキシューが車輪の踏面に押し付けられ、ブレーキがかかります。シューだけが木製(クリ材)で、それ以外は平鋼と山形鋼製です。これらの部品は全部金鋸とヤスリで自作加工しました。フライス盤を使った機械加工のようなミクロン単位の高精度切削ではありませんが、小さな模型作りで培った手仕上げ職人の技の見せ所です。ブレーキ軸の下側先端はレバーにあけた四角穴にキッチリ嵌め込み、ハンマーで叩いて力技でカシメました。溶接機があれば肉盛りして万全を期したいところですが、仕上がりはしっかりしています。

ブレーキ機構

 ハンドルの可動範囲は約90°で左側約30°は「ユルメ」、中央約30°は角度に応じてバネが撓んで制動力が大きくなり、残りの右側30°はハンドルの力がそのまま加わりながらリンク系全体の撓みでシューを押し付けます。通常の運転では中央辺りまで持って来れば穏やかに制動がかかり、実物の「ユルメ」操作のように少し左へ戻せば最後は自然に停車します。

 この時点では台枠にブレーキだけが付いた状態で、駆動系がないのでコントローラーはありません。足で蹴りながら台枠に飛び乗り、ブレーキ操作で思い通りの位置に停車させるのは普通のトロッコ遊びとは違って実に愉快で、また電車の運転に一歩近づいた感がしました。