鹿部に移住してくる前に線路をどう敷くか色々と考えましたが、この時点では鹿部電鉄全体計画の概要は下図のようになっていました。その後も駅舎・工場の建築や引き込み線のアイデアが妄想のように出て来ては消え、また信号機や架線柱の設置を具体的に考えたこともありました。しかし鹿部電鉄の基本的なレイアウトはこの図から大きくは変わっていません。以下最初の犬釘を打つまでの記述は、母屋、ウッドデッキの前(図の下側)に敷いた線路の話です。
ウッドデッキの土台部分が朽ちている話をしましたが、DIY机作りの次には家族からその修復を急ぐよう要請されていました。確かに危険な状態で、放置すると誰かがケガをしそうにも思え、線路敷設の前に手を施す必要に迫られました。とりあえずは電動丸鋸を使って一気に解体してしまいました。ウッドデッキが使えなくなって不便ではあるけれど危険要因が消えてひと安心です。次に新しいウッドデッキを設置するにあたり、整地と束石を置くための穴掘り作業が待っていました。当地は活火山である北海道駒ケ岳の東側山麓に位置し、地面は数mの厚さの火山灰層に覆われています。火山灰とは名ばかりで、実際は火山礫と言ったほうが正しく、直径が数cmから数十cmある無数の軽石を含む赤茶けた土を掘り起こさなければなりません。スコップはほとんど地中に入らないのでまずツルハシでほぐし、大石を取り除いてからスコップを使うという骨の折れる作業になります。ウッドデッキに接して線路用地があるので一緒に整地することにしました。
ウッドデッキの解体 解体後の整地結果 |
地面の水平を出すために連通管式の水準器を作って使用しました。長さ10m、φ6透明チューブの両端を、目盛りの付いた長さ1m程で逆T字型の柱に固定して水を注入し、同一面上で両水面が一致することを確認しておけば、離れた場所でも水面が元の目盛り通りにもどるようにすることで水平が取れるはずです。ヒトの頭くらいある石ころやら吹き溜まった枯れ葉に埋もれていた用地は、丸二日の作業の結果真っ平らで見違えるばかりキレイになりました。それを見るとウッドデッキはさておき一刻も早く線路を敷きたいという欲求が込み上げて来ました。ウッドデッキの束石も新たに設計図通りに埋めなおして整列したので、誰が見ても計画通りにことが進んでいるという印象を持つと思います。少しぐらい道草を食わせてもらってもいいか、と決断しました。
整地した線路用地と連通管式水準器 |
枕木間隔の計算 |
その頃風呂と寝床で考えたことが他にもありました。枕木に打ち込む犬釘の下穴のことです。犬釘の断面は1辺9mmの正方形で結構な太さがあり、枕木の材質も比較的硬いので、適切な下穴でないと釘が入らないとか木が割れるとか釘が簡単に抜けてしまうという問題が発生する恐れがあります。結局これはいくら考えても答えが出るわけではなく、実際に打ち込んでみて、また抜く必要が生じた時に人力で抜くことができるかどうかを確かめてみるしかありません。その前にハンマーとクギヌキをホームセンターで買ってきました。もちろん犬釘用の専用工具の通販もあるようですが、6kgレールという特殊な用途に適しているか不安要因があったので、作業をイメージしながら手に取って使えそうな物を選びました。ハンマーは店頭にあった一番大きなもの(1.3kg)で、結果OKでした。クギヌキも一番大きいL型平バール(90cm)で、購入後釘の頭を引っかける溝をグラインダーで9mmに拡大してちょうど犬の首が嵌るように加工しました。さて、木工用ドリル径を変えて何種類かの穴をあけ、最終的にφ10なら無理なく打ち込めて件のバールを使えば一人で抜くことができることを確認しました。何年か経って釘が錆びた時も同じような力加減で抜くことができるかは確かめる術がないのでいささかの不安は残ります。
L型平バール(90cm) 犬釘が嵌るように加工 |
二種類のゲージ |
話を元に戻すと、直線部で軌間が基準の381mmになるように、また多少(数mm程度)の調整ができるようにレール底部の幅より少しばかり広い位置に下穴のガイドをあけました。下穴は枕木中心の一直線上にあけず、上から見て「ハの字」状の位置に、レールを挟んで少しずらした位置になるようにします。その理由は別の項で説明します。もう一つの治具もちょうど381mmに切って、直線部で両側のレールが接触するようにしました。下穴ガイドを使えば効率よく穴あけができ、あっという間に予備を含めた20本あまりの作業が終わりました。
枕木穴あけ治具 ゲージ |
防腐処理後の枕木 |
これで準備が整ったのでいよいよ線路の敷設が始まります。整地した地面の上に約1m幅で厚さ10cmの砂利を敷き、ここでまた連通管式水準器を使って1mおき位に高さを確認しながら均していきます。そこに枕木を30cm間隔で並べ、2本のレールを置きます。この時、それぞれの枕木とレールの間にスキマがないか、つまり特定の枕木だけがレールに接触しているようなことがないか確認します。左右2本のレールの上面が同じ高さになっていることは必須条件です。枕木を押し付けながら揺すったり、持ち上げながら下に砂利を詰め込んだリすることで高さ調整ができます。実物の鉄道では動力を使って砂利を振動させながらこの調整をするのですが、すべてを人力で済ませるのが15インチゲージ鉄道の宿命です。
個々の枕木の水平と長手方向の水平を確認しながら枕木を並べる |
犬釘を打つ時に枕木が砂利に沈み込むのを避けるために枕木の下に10mm厚位の大きめの板を仮に敷いて衝撃を分散できるようにしておきます。そして予めあけておいた下穴に犬釘の先端部をあてがってハンマーで軽く打ち込み、手を放しても自立するようになったら徐々にハンマーを強く振り下ろし、釘の頭とレールの底部が接触する5mm程手前で止めておきます。枕木1本について4本の犬釘がこの状態になったら前記のゲージ治具をレールの間に挟んで位置決めし、ゲージが固くも緩くもない状態にあることと、レールと枕木が直角になっていること、を確認しながら最終的に固定します。数本分の釘を打てば、最後はハンマーの音が変わることがわかってきます。
枕木は実物の1/3の寸法にしてあり、6kgレールの断面寸法も50kgのほぼ1/3ですが、6kgレール用犬釘はオーバースケールになっていて、実は枕木の底から少し突出しています。衝撃分散板を使うもう一つの理由はここにあって、釘の真下を避けて2枚の板を敷く必要があります。砂利の道床に敷設する限りはこの突出は実用上全然問題になりませんが、コンクリートやアスファルト上でお座敷運転(?)する場合は、枕木の厚さを100mmにするか短めのスクリューとレールクリップ(角座金)を使用することになります。
最初の犬釘を打ち込む |
道床の上で犬釘を打っていく方法を説明しましたが、水平を確認した道床の上に別の平らな場所で釘を打って完成させた軌框(レールと枕木の組立品)を載せる方法もあります。この場合は左右の継ぎ目のギャップを等しくするために正確な組み立て精度が要求されますが、工期短縮のメリットなどがあるので作業方法はその場の状況に応じて選択すればよいと思います。
まだ線路は完成していません。枕木の間や周囲に砂利を入れる必要があります。実物の鉄道でこんな状態のまま列車を運転すると徐々に線路が移動してしまうのであり得ない話ですが、もし何か不都合があって作業をやり直すことになった場合砂利を除去するのが大変なので、これはしばらく先延ばしにしました。
曲がりなりにも(直線ですが)念願の線路が庭に出現しました。レールや犬釘が自宅に届いた時も大感激でしたが、やはりそれを上回る喜び、いや夢のような話です。実際これは夢ではないかと何度も顔をつねってみました。世の中探しても奇妙の類に数えられるこの道楽を、本人のみならず家族も一緒になって喜んでくれるのですから感謝しなければなりません。次はこの線路の上を走る車両を早く作って期待に応えようと決意しました。
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