2024/08/30

妻板ユニットの製作 第3編

  幕板と腰板の間にヒノキ工作材をはめ込んで窓枠を作ります。できるだけ実物に近い造作に拘り、正面中央向かって右側の運転席窓だけ上下段とも固定で凹ませます。これ以外は上段固定、下段上昇式で、スペーサーを入れて段差のある構造を表現します。上昇式とは言っても実物の窓の話で、鹿部仕様は全部固定して開閉できません。運転席横の両側窓は落とし込み下降式を模しています。乗務員扉がある車両の窓のように車掌や運転手が上半身を乗り出せるよう全開できる構造ですが、もちろん鹿部では閉位置で固定です。ついでに説明しておくと側面の戸袋窓は上下段とも固定で凹んでいません。こんなバリエーションの表現も大型模型ならではで、16番では2段窓も上下面一で作っていました。それはもちろん工作が楽だからということから選択した方法ではありますが、上下の窓枠に段差を設けるとなると0.2mm以下のひ弱なペーパー材料を使用しなければならず、厚い材料では軽量車体のイメージが損なわれてしまうという縛りがあるからなのです。

 妻面の窓枠を取り付ける前に位置決め用として3本の縦桟を仮に取り付けます。そのために幕板と腰板に縦桟の厚みと同じ凹みを加工して、面一で取り付けられるようにしておきます。この加工にはトリマーを使用します。トリマーは、時々家具工房から借用していた便利な電動工具ですが、以前から欲しくてホームセンターに行く度に指をくわえていたものです。通販でお得な価格を見つけたのでとうとう買ってしまいました。加工を初めてすぐに手元に異変を感じて止めたところ、ステンレスの木ネジとビット(切削刃)が接触して刃先が変色変形していることに気付きました。ダイヤモンドヤスリで刃を修正しましたが、切れ味はあまり回復せず、それまで静かに削れていたのに刃先から異音がするようになってしまいました。とりあえず削るという機能は残っているので折を見て交換用ビットを購入することにしました。不注意が招いたいきなりの痛い出費です。

上左:購入したトリマー 上右:縦桟の入る凹みを加工
下:縦桟を取り付けた状態

所定寸法切断済窓枠材料
 窓枠は最初に書いた通り工作用ヒノキ角材で作ります。予め図面を描いて各部材の厚さ、幅、長さを決め、30種類の角材を用意します。それぞれ1両分で2個から12個必要となるので、チップソーに寸法決めの治具をセットしたらスパスパと切っていきます。よく似た形状のものがあり、使用箇所は設計した本人でも頭を傾げるほど複雑、鉛筆で番号を打って図面と突き合わせながら妻板の上に仮置きします。組み合わせが決まったら妻板にはめ込んで寸法を修正し、直角を確認しながら窓枠を接着組立てします。
ジグソーパズルのような窓枠組立て

 四角い窓枠を曲面の妻板にスキマなく組み込むわけですからカンナを使って端部を斜めに削る作業が必要になるわけですが、これは設計の段階では想定していなかったので現合加工が避けられません。片方の妻板の窓枠を組立てるのに1週間以上かかってしまいました。ただし拘った窓枠の段差はきれいに表現できたので達成感は得られました。細かいところでの失敗はもう片方の妻板製作時にフィードバックし、要領もわかったので時短も可能かと思います。それにしてももう一個作るのかと思うとチョッとうんざりですが、妻板は車両の顔のような重要な部位ですから手抜きはできません。

「ウーン、なかなかエエ感じ」です
車内側もそれらしく仕上がっています

2024/08/25

待避線(余談雑談) ある日車型軽量気動車の話

              神戸電鉄クハ131          自身撮影

   右の写真は、私が昭和40年頃に神戸電鉄鈴蘭台駅のはずれで撮影したクハ131です。近くにいた駅員か乗務員にひと言声をかけてから線路に降りて撮ったはずですが、今では考えられないような時代でした。

 まぁそんなことは本題ではなくて、この車両クハと称しているものの、元は神中鉄道(現相模鉄道)の気動車キハ30型、1935-1936年(昭和10-11年)製造、戦時中に2両が神戸有馬電鉄に譲渡されて(電車の)制御車になった変わり種です。そう思って見るといかにも日車製気動車で、車体幅は狭く、窓まわりが薄っぺらで、乗務員扉がありません。運転台は左片隅にあり、その右側は妻板まで客席が迫っています。台車は元の帯鋼製菱枠型を電車型(おそらく改造を手掛けた川崎車両製D-16)に履き替えているようです。全長はキハ40000とほぼ同じ12mです。

            クハ151                自身撮影
 神戸電鉄は母方の実家が沿線にあったので幼い頃からよく乗っていました。先頭の席に座った時は窓を開き、身を乗り出して線路が足元に流れる様子を目の当たりにしたものです。側窓と違って手や頭を出しても特に危険があるわけではないので真横にいる運転手から注意されることはありませんでした。クハ151もやはり元神中鉄道の気動車で、こちらは少し大型のびわこ型流線形車体でした。先頭に展望席があるのは同じで、私は子供ながらにこれらが他の電車と違うことを認識していたので、乗り込んだら真っ先に前へ走っていました。もう少し大きくなってからのことですが、コンビを組んでいるもう一両(電動車)と車幅や車高が違うことが気になり、なんとはなしに異端車に見えたのはすでに鉄ごころが芽生えていたためだったからかもしれません。もしこの車両が凸凹ユニットの制御車ではなく、気動車のままであったり単行の電車であったりしたなら、スマートでキュートな存在に見えたことだろうと思います。そんなわけで、当時この日車型軽量気動車は展望席以外あまり興味をそそられることはありませんでした。

 そう思わせたもう一つの理由は、はるかに強く心揺さぶる新型車両が目の前に現れたことでした。それはデ301で、フカフカのクロスシート、アルミサッシや美しい内装、ゆったりとした車体の揺れ方、カルダン駆動のヒューンという加速音、ツートンカラーの外装と湘南型の2枚窓正面など、すべてがそれまでの田舎電車神有(神戸有馬電鉄)のイメージを一新する装備でした。何年か前の遠足で山陽の2000型に乗って受けた衝撃を思い出させる出来事でありながら、より身近な場所での新型電車との遭遇は、今思うと自分の家の庭に好きな電車が走るような幸福感にも匹敵する喜びでした。

              デ301              自身撮影

2024/08/12

妻板ユニットの製作 第2編

  隅柱は図に示すように少し複雑な形状です。4枚の妻板・腰板補強板がはめ込まれる溝が成形されており、本箱の棚板のような構造です。ただし本格的なほぞ組みであれば打ち込んだだけで直立するはずですが、溝は位置決め程度の深さしか取っていませんので、箱状で自立するように仮組みする必要があります。直角を確認しながら余っていた節だらけの板を裏側に当てがって隅柱と補強板を木ネジで本箱状に仮固定します。この段階は接着剤を使わず、これに貼り付ける幕板や腰板の寸法確認と加工を行うための準備作業です。

車体隅柱の図面(上)
加工中の様子(下左)と完成品(下右)
雇いの裏板を取り付けて組上げた本箱状態の妻板枠

4枚の幕板をピタリと取付け
 補強板が固定されたらその上に4枚の幕板と11枚の腰板を貼り付けます。補強板の加工時に残されたケガキ線と幕板および腰板が正確に合致するよう1枚ずつ原物合わせで幅を確定します。この時、隣り合う板の面がスキマなく密着するように側面の角度もカンナで修正し、形状が決まったら木ネジで補強板に取り付けます。デ1の腰板は凹凸をはめこんで繋いでいく板継ぎ構造だったのでスキマはあまり気にしなくてよかったのですが、キハ40000は木製車体の表面を鋼板に見せる必要があるので部材の継目のスキマが残るのは禁物です。最終的には接着してからパテを塗ってツルツルに仕上げる計画ですが。


 幕板、腰板の取付けが終わったら、R900の曲面を手のひらで感触を確かめながらカンナとサンダーで仕上げていきます。カヌーの曲面を成形した時の手法の応用です。これも柔らかいヒノキ材ならではのテクニックと言えます。ただし素材が柾目ではないので場所によってはクセの強い板目(不規則な年輪模様)が現れることがあり、カンナをかけたときに逆目でささくれ立った面も出てきます。こういう部分はサンダーをかけても凹凸が消えないことがありますが、最後はパテが隠してくれるので、あまり気にせずそこそこにしておきます。

 幕板と腰板の寸法合わせと仕上げが終わったら一旦木ネジを緩めて部品を取り外し、一ヶ所ずつ木工ボンドを塗布してから再度ネジで固定し、位置ズレや歪みがないことを確かめたうえで接着剤が固まるのを待ちます。同じ要領で11枚の腰板を取り付け、翌日以降に接着剤が乾燥してから木ネジは全部抜き取ります。ウィンドウシル・ヘッダーで隠れないネジ穴は後ほどパテで埋めます。

 淡々と組立て手順を書いていますが、最初からこの筋書き通りに作業できたわけではなく、実は雇いの裏板を木ネジで固定して箱状に自立させることも試行錯誤の末に寝床で考えた方法です。「よし、明日はこのやり方を試してみよう」と楽しみにしながら眠りに就くと、夢見も目覚めもいいようです。

2024/08/01

キハ妻板ユニットの製作 第1編

  やっとキハ木製車体製作の途中経過報告ができるところまで漕ぎつけました。と言ってもまだ部品加工の段階です。材料調達や道具の調整に時間を費やしていたことに加えて、組立ての核になる隅柱の加工が家具工房の順番待ちなどで遅くなってしまいました。

 車体製作の工程(計画)は以下の通りです。

1.鋼製構体 (完了)

2.妻板ユニット(製作中)

3.扉ユニット

4.側板(扉間)

5.屋根

6.ディテール(ベンチレーター、灯火類、連結器)

妻板ユニット
 鋼体に各ユニットを取り付けて行くという段取りで、完成後も改造や修理の際にはユニットごとに取り外すことが可能となるよう設計してあります。ここまで今年の雪が降り始める頃に完成できれば、と考えていますが計画通りに終わった試しがありません。

妻板寸法





 まずは妻板ユニットの部材加工から着手しました。すでに設計は終わっていましたが、あらためてサインコサインピタゴラスで詳細寸法を計算して部品図に記入し、よく切れる道具でできるだけ正確に加工しました。デ1の材料であるクリ材に比べて柔らかいヒノキ材はカンナの食いつきもよく、ノギスを使って寸法を確認すれば0.2mm程度の精度が出せるようです。購入した板の幅は75mmなので、例えば120mmの幕板は75mmと45mm幅の板に接着剤(木工用ボンド)を塗布し、クランプで挟んで一昼夜待ってから加工します。そうやって準備した素材は部品図および組立図に従って外寸を仕上げた後、正面の幕板および腰板表面がR900になるよう仕上げ代1mm程度を残して大雑把にカンナで削っておきます。

幕板補強板の詳細加工寸法

片側の妻面幕板は素材4枚を補強板に取付けて曲面を構成
 さてそうこうしている内に家具工房に依頼していた隅柱の加工が始まりましたので、機械に貼り付いて図面の説明をしました。次編に続く。