日本国内において軌間16.5㎜縮尺1/80をHOゲージと呼ぶことの是非について、私は「どうでもよい」派であると前回の投稿で書きました。その立ち位置についての深掘りはしないつもりですが、なぜ日本でこの16番ゲージがガラパゴス化したのか私なりの推測をしたいと思います。その理由を考えるための切り口は色々あると思うので、ここに書くのはその一断面であるとお考え下さい。
1872年(明治5年)に初めて鉄道が開通した際のゲージは3’6”( 1067mm)であったことは周知の通りで、その後官営鉄道は全国的にすべてこの軌間で建設されました。これを指示したのはイギリス人技師であるとされていますが、当時のイギリスの鉄道は概ね標準軌(4’8”1/2=1435㎜)であり、3’6”を選択したのにはなんらかの意図があったと思われます。その根拠には諸説あるようですが、当時の国力や地勢が考慮された結果であるとすれば尤もである、と私は考えます。少し時を経て標準軌の私鉄が開業していますが、その車体の大きさは従前とさほど変わりはなく、路面電車として誕生した都市圏の電車の車両限界はむしろ小さいくらいでした。つまり軌間としては2種類(4”6’=1375mmを含めると3種類)あっても車体の大きさはみんな大体同じだったということになります。このお話、新幹線と軽便鉄道は除きます。
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左:ドイツ103型電気機関車 右:阪神の881型 いずれも自身撮影 軌間は4’8”1/2(1435㎜)で同じだが車両の大きさがハンパなく異なる |
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レーティッシェ鉄道Ge6/6II Wikipediaより |
一方海外に目を向ければ、標準軌と言われるだけあって欧米の幹線鉄道の多くは4’8”1/2であり、しかも一般的にプラットホームが低いこともあって車両は見上げるばかりに大きく車内は広々としています。それでも地方に行くと3”6’やメーターゲージ、3”などの鉄道が見られますし、東南アジアでは幹線としてこのような鉄道が敷設されています。これらは軌間に合わせて、標準軌の車両に比べるとひと回り小柄の車体になっています。私の好きな(好きだった)スイスの代表的な私鉄レーティッシェ鉄道(RhB)はメーターゲージで、山岳部を高速走行するためにED級の重連やEF級の電気機関車が使われていました。こんな機関車が何両もの客車を従え、雄大な景観を背にグングン急こう配を上って行くわけですが、時刻表などでは「ナローゲージ(Schmal Spur)」と表記されています。 つまり日本では軌間にかかわらず車両はほぼ同じ大きさであるのに対して、世界的に見れば軌間に応じて車両サイズが変わるのが一般的であると言えます。そういう視点では、日本の国鉄(JR)はやはりナローゲージに属するのが妥当ではないかと思うのです。ところが、「阪急や近鉄や京急もナローゲージに入れてしまうのか」、「せっかく16.5㎜という便利なレールがあるのに」・・・その他いろんな意見が入り乱れた結果、16番ゲージと言う妥協の産物が出来上がったと思われます。
その背景には、日本の鉄っちゃんの多くが海外の鉄道に興味を示さないことがあります。あまり接する機会がない、身近な鉄道への愛着が強いが故に他に目が向かない、あるいは恣意的に興味を持たないことなんかもあるようです。悪く言えば島国根性のせいかもしれません。日本型と外国型の模型が同じ線路の上に置かれることは稀で、さらに事情通でなければそれぞれのスケールに違和感を覚えることさえほとんどないでしょう。
「実物の鉄道の線路幅は異なっていても走っている車両の大きさはみんな同じ、模型の線路は(狭軌と標準軌の)どちらにも通用する中間的な幅にしてある、だから仮に外国型の車両を持ってきても同じ線路を走らせることができる。」と多くの日本の模型鉄が思っている(た)ことが、16番ゲージのガラパゴス化を助長した理由ではないかと考えています。私自身が作っていた模型がHOではなく16番というカテゴリーに入るのだということを知ったのは成人してからでしたし、海外の列車に初めて乗車して異次元の鉄道旅に驚きを覚えたのはもっと後のことでした。偉そうに他人のことは言えません。今後は外国の鉄道と接点を持つ人の割合が増えるので、模型の軌間と縮尺の関係に対する考えもますます多様化していくと思います。